昨年の11月12日にアアルトの万博フィンランド館を「オーロラのような壁」として紹介し、その「うねる壁」は、単なる「造形のための造形」ではなく、すべて意味がある、つまりフィンランド館を訪れる人々の感性に響き、自然な動きを導くための形である、と説明した。
フィンランド館は、既存のビルの中の、いわゆる「インテリア」の設計だったが、ここに紹介するのは、建物そのものがうねっている事例である。
アアルトの設計には、曲面や整形でない形の建物が多い。そのうち、曲面の多用については、フィンランドの自然、特にフィヨルドの形態が大きく影響している、とよく説かれるが、それだけで建物がつくれるわけがない。
今回紹介する学生宿舎の敷地は、MITのキャンパスのいわばはずれ、チャールズ川に平行して走る自動車道に添った細長い土地である(鳥瞰写真参照)。
上掲の左下の3枚の図面のコピーは、この敷地で考えられる諸案を比較検討した図面である(「建設委員会」に資料として提出したもの)。
その結果選択されたのが建物を湾曲させる案。
1963年に初版が刊行された設計集“ALVAR AALTO”の第一巻には、この独特の形体は、宿舎の各室から、敷地に沿って走る交通量の多い自動車道を、直角にではなく、斜めに振った角度で見るように考えた結果である、なぜなら、目の前を右から左へ、左から右へと車が横切るのではなく、ちょうど走る列車の窓から外の風景を見るような形、斜めに見る形で外の風景が眺められるようにすると、室内にいる人は、より落ち着いて過ごせるようになるから、との説明がある。言われてみると、確かにそうで、車窓からは斜め前方(あるいは後方)に風景を見る方が自然である。
室内の写真を二つ載せたが、いずれも湾曲部に位置する一人部屋と二人部屋の窓側を見た写真である。そんなに大きな窓ではなく、高さも幅も気持ちよさそうだ。そして、この窓が、外観をつくりだしているわけである。
このあたりに、アアルトの設計に対する考え方が現れている。
彼は、あるとき、窓をどのように設計したらよいか、と学生に問われ、君の恋人が向うから近づいてくるの見るとき、どんな窓がよいか、考えればよい、と答えたと言う。
建物がつくりだす空間は、そこにいる人びとのもの、これは半世紀前の建築界ではあたりまえであり、そして、今ではすっかり忘れ去られた考え方だ。
アアルトは、その中でも、最も素直、率直に人の「日常の感性」に訴える形をつくりだすことのできた人物の一人である、と私は考えている。
最近、紗のカーテンをかけたり、カーテンをたなびかしたような建物が流行のようだ。どなたか、その形の意味を解説していただければ、幸いである。私には、《建築家の建築家のための造形》にしか見えないからである。そのようなことを、建築家に託しているのだろうか?