「街とその不確かな壁」読後感想文(のようなもの)

 4月17日と26日に、村上春樹氏の新刊「街とその不確かな壁」について書きましたが26日に書いた通り、ゆっくりゆっくり読んでおりましたがさすがに4月中には読み終わってしまっておりました。

 本を読んだら読書感想文。と云うか小学校・中学校の時に、読書感想文を書かなければならずイヤイヤ読んだ方もおられるかもしれませんね。私は自由意志で読みましたが、なんとなく感想を書いてみようかなと云う気分になりましたので以下、感想文(のようなもの)。

 小説には珍しく「街と壁」には「あとがき」がついております。そのあとがきに村上氏がこう書いておりました。
 「ホルヘ・ルイス・ボルヘス(注)が言ったように、一人の作家が一生にうちに真摯に語ることができる物語は、基本的に数が限られている。我々はその限られた数のモチーフを、手を変え品を変え、様々な形に書き換えていくだけなのだ。ーと言ってしまっていいかもしれない」。
注:ホルヘ・フランシスコ・イシドロ・ルイス・ボルヘス・アセベード(Jorge Francisco Isidoro Luis Borges Acevedo(1899年8月24日 - 1986年6月14日)はアルゼンチン出身の作家。

 村上氏の「街と壁」はまさにその通りの作品。氏自身も良くお分かりのようなのだが、ならば何故「街と壁」を書いたのか。氏は「歳を取ってくると、あといくつ長編が書けるかと思う。決着をつけたかった」と語っているようだが、私に云わせれば、「街と壁」は手を変え品を変え捏ねくり回しただけの、まさに蛇足的作品なのである。コロナ禍で他にすることがなかったからなのか、あるいは作家の性でただただ書かないではいられなかったと云うことなのだろうか。

 4月26日に書いた通り第一部は1985年の「世界の終わり」そのものであり、第三部はその要約的変奏。長い第二部は新しく書かれたものですが、これはいつもの「村上ワールド」でファンの皆様の期待を裏切りません。好きなものはいつでも何度でも食べたいですよね。お楽しみいただけることとは思いますが、読み終わっても後には何も残らない、氏のいつものエンターテインメント(娯楽的作品)です。

 第二部に登場する図書館がある町のモデルが、福島県南会津町であるように読めることから、「ハルキスト」の聖地巡礼で会津が賑わうのではないかと福島県内では盛り上がっているようです。
参考:福島民報の記事 https://www.minpo.jp/news/moredetail/20230414106367

 第二部は「私」が図書館長につく場面から始まるのですが、「私」がその面接のため「東京から図書館に向かう際に、東北新幹線を郡山で降り、在来線で会津若松まで行き、ローカル線に乗り換え、山と山との間を縫うように抜けて着いた駅の前には(タクシーが一台もいない)タクシー乗り場と(バス待客が一人もいない)バス乗り場があり、図書館までは歩いて十分ほど」と書かれているのです。会津若松からのローカル線が会津鉄道だとすれば、「私」が降りた駅は(人口一万五千人の)南会津町にある会津田島駅となり、その駅から十分ほどのところにある図書館が第二部の舞台(モデル)なのではいかと云う訳なのですね。

 しかし、ここに問題が一つ。東京から南会津町にいくのに、どうして新幹線に乗って郡山に行き、在来線に乗り換えて会津若松まで行かなければならないのか、と云う問題です。

 新幹線で郡山、郡山から磐越西線で会津若松、若松から会津鉄道で会津田島まで行くと4時間35分程度、10,740円かかりますが、東京から北千住に行き、そこで東武鉄道の「リバティ会津」に乗車すれば野岩鉄道、会津鉄道を経由し3時間24分、5,683円で会津田島に到着です。どうしても東北新幹線に乗りたい、郡山と会津若松を経由したいと云うならば別ですが、そう云うこだわりがないのであればどう考えても「リバティ会津」利用がお得です。一時間早く着き、電車代はほぼ半額なのですから。

 小説ですので必ずしも事実に沿う必要はない訳ですが村上氏が、「私」が館長になる図書館が南会津町にあることを想定(前提に)して書いたのだとすれば新幹線に乗りたい、会津若松を経由したいと云う強い希望があったのか、単に「リバティ会津」を知らなかっただけなのか。図書館のある町までの経路と車窓風景を詳細に描写していますが、それはフツー使うであろう経路ではないだろうと云う突っ込みを入れたくなってしまう訳ですね(若松で途中下車し歴史の街を探訪したいと云うのであれば話は別ですが)。

 と云うわけで、読書感想文ではなく「読後いちゃもん文」になってしまいましたが、書いてみました。これから読む、読みたいと云う方もおられるかも知れませんのでネタバレにはならないように一応、気をつけたつもりです。私は、村上作品は少数のあえて読んでいないものを除いてほとんど全て読んでおりますが、ハルキストではありませんので熱烈な信奉者にはお叱りを受けそうなことを書いたかも知れませんが、あくまでも「独り言」ですので気になさらないでいただけましたら嬉しく思う次第です。

【参考】最近書いた「街とその不確かな壁」に関する記事
「街とその不確かな壁」 2023/04/26
https://blog.goo.ne.jp/gauche7/e/c20b46a76ab004e886dc3246f0afc80b
「村上春樹氏の新作? 地図が必要ですね」 2023/04/17
https://blog.goo.ne.jp/gauche7/e/e06ab10b12b51d86a4fef661f097a133

【参考】もう20年近く前のことになりますが村上氏の読むべき作品とその順序について書いておりますので、興味を持たれた方はぜひご覧ください。
「物事には順序ってものがある」 2005/12/12
https://blog.goo.ne.jp/gauche7/e/143cacac50d7e630ec2312972c714ef8

 横浜の住宅地の中に残された小さな里山の四季移ろいを毎週撮影しているblog「恩田の森Now」に、ただいまは5月6日に撮影した写真を6点掲載しております。初夏を迎えた森の様子をご覧いただけたら嬉しいです。
https://blog.goo.ne.jp/ondanomori/e/cd31de5ed4eeb9ae1c7cfab9535a8048

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