万年筆

 郷秋<Gauche>は万年筆を四本持っている。勿論、舶来の高級品などではない。かと云って安物と云う程でもない国産の中級品である。達筆で、手紙はいつもペンで書いていると云う訳ではない。達筆でも筆まめでもないそんな郷秋<Gauche>が何故四本もの万年筆を持っているのかと云えば・・・。実は自分で買ったのは三十五年年程前に求めた、ペン先の太さがまさに中の中の一本だけで、残りの三本は二十年程前に、若い頃の上司であったHさんが自らお使いであったものを定年退職の折りに郷秋<Gauche>にくださったのだ。

 ご一緒に仕事をさせて頂いていた時から、Hさんは私がご自身と同じ銘柄のペンを使っていたのをご存じであった。Hさんは細、中、中太、極太の四本のペンをいつもデスクに並べ、書く物によって使い分け、達筆ではなかったが味のある文字で折ある毎に書類をしたためていた。そのHさんが、郷秋<Gauche>が持っている「中」以外の三本をくださったのだ。郷秋<Gauche>は固辞したのだが、「退職後は『中』一本あれば十分だからあとの三本は君が使てくれ」と託されたのであった。

 その頃には既に「キーボードで書く」のが当たりまえの時代になっており、頂いたものを含めて万年筆を使う機会は少なくなっていたが時折試し書きしては、インクの出が悪くなっていればペン先をぬるま湯に浸けて乾かして新しいインクカートリッヂに替えるなど、必要ならいつでも書くことが出来るようにメンテナンスは怠らないようにしてきた。

 五月に入ってから幾度か手紙を書く機会があったのだが、何の気なしに全て万年筆で書いた。それは便箋一枚であったり一筆箋にチョロリと書く程度ではあったけれど、たまにはペンで書くのも良いもだと思った郷秋<Gauche>。ミミズが這ったような字であることに変りはないけれど、歳をとると共に多少は味らしいものも出て来たのか単に見慣れただけなのかは判らないが、昔ほど自分の字が嫌いでは無くなってきたような気もする。しばらく四本の万年筆の出番が増えるかも知れないこの頃である。


「恩田の森Now」
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24日に撮影した写真を4点掲載いたしております。田植時の森の様子をどうぞご覧ください。

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