ディーゼル車の未来は

 第74回ル・マン24時間レースで、ディーゼル・エンジンを搭載したアウディR10が優勝した。何故にレーシング・マシンにディーゼル・エンジンなのかと言えば、日本とは違いヨーロッパでは低燃費車の切り札としてディーゼル・エンジンが注目され、現に販売される乗用車の50%にはディーゼル・エンジンが搭載されている。レースでの勝利で弾みをつけて販売台数を更に積み上げようという作戦なのである。

 アウディR10に搭載されたディーゼル・エンジンは、オール・アルミニウム製、排気量5.5L、ツインターボを装着したV型12気筒TDI直噴ディーゼル。その最大出力は650ps、トルクは112.2kg-mである。

 今年のF1を走るHonda RA106 が搭載するRA806E型エンジンは自然吸気の2.4Lから700ps、29kg-mを稼ぎ出す。Hondaが1Lあたり300馬力を搾り出すのに比べ、Audiディーゼルは過給機付きエンジンでありながら1Lあたりわずかに118馬力。勿論4時間もてば良いエンジンと24時間回り続けることを要求されるエンジンとを直接比べるわけにはいかないのだが、その差は大きい。しかし、Audiディーゼルの最大トルクは112.2kg-mと強烈である。しかも、このトルクを3,000~5,000rpm.で発生させている。

 F1用エンジンの常用回転域は勿論10,000回転以上だが、Audiディーゼルはこの半分以下の回転数で強大なトルクを発生する。ということは、まず耐久性に優れることが伺われる。更には広い回転領域で分厚いトルクを発生させているから、ギアチェンジの回数が相当少なくて良いであろうことが想像される。これは長時間走行する耐久レースではドライバーの疲労を大幅に軽減するだろう。燃費は良さそうだから給油回数が少なくて済む。これも耐久レースでは有利な条件となる。

 これだけのトルクがあればパワーバンドの狭いF1のように7速ものギアは必要ないだろう。4速で十分か(正体は不明)。とすればギアボックスは軽量コンパクトに作れそうだけれど、大トルクに耐えるためには丈夫に作る必要があるから余り軽くはなっていないのかも知れない。

 エンジンはオール・アルミニウム製とは言え、高圧縮に耐えるためには相当重たいものになっているのではないだろうか。つまり、昨年型のR-8にそのまま搭載したのでは前後の重量バランスが悪くなるからシャーシはまったくの新設計か。前出のギアボックスも新設計だろう。

 ディーゼル・エンジンはと言えば、燃費はいいけれど、音がうるさくてパワーがないというのがこれまでの常識だったが、このAudiディーゼルは相当に静かなのだという。もっともガソリンを使う従来型のレース用エンジンは20,000回転近い高回転域まで回すために飛び切りうるさいだけで、これは比較が難しいかもしれない。

 騒音、パワーの点では従来から指摘されていた問題は既に解決されつつある。残る問題はコストと排出ガス性能である。特にNOx(窒素酸化物。毒性が強く、温室効果が高く地球温暖化の原因の一つとされている)、PM(粒子状物質。気道や肺胞に沈着しやすく、呼吸器疾患の原因になるとされている)の排出量がガソリンエンジンよりも多いことが問題となろう。ただし、この点についてどこまで技術的な解決が図られてきているのか、一般のユーザーにはその情報が伝わってこないことの問題は大きい。

 また、特に日本においては、複数のメーカーから優れたハイブリッドカー(ガソリンエンジンとモーターによる)が開発されていることも、近年ディーゼル・エンジンを搭載した乗用車が普及しない原因ともなっているようである。つまり、ヨーロッパではディーゼル・エンジンが担っている低燃費、低公害の切り札として役割を、日本ではハイブリッド・パワートレインが担っているのではないだろうか。

 果たして日本でディーゼル・エンジン搭載乗用車が受け入れられるようになるのか、あるいはヨーロッパとは一線を画し、ハイブリッドカーが更なる普及を遂げるのか。世界規模ではどちらが覇権を取るのか、あるいは共存するのか、実に興味深いところであるが、今年のル・マンでディーゼル・エンジン搭載車が優勝したことをきっかけに、より多くの方がこの分野に興味を持ってくれることを期待したいものである。

今日の1枚は、度々登場の季節の花、紫陽花。
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