陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

どしゃ降りの飛田百番

2006年07月21日 | slow gourmet

大阪は飛田新地にある“鯛よし百番”へ。
今宵は某メディアとの懇親会。思い切って
この飛田百番こと“鯛よし百番”を選定。
東京の人が多いので印象残る飲み会をと
考えたのだが狙いは当たったようである。
皆、今月今夜のこの日をいろいろ想像しながら
わくわく楽しみに待っていたらしい。

グルメ情報にはこう紹介されていた。
“大正時代初期に遊廓として建築された建物を
当時のまま今に伝える料理店です。
緋もうせんの敷かれた廊下や緻密な襖絵、
精巧な飾り付けなど
大正建築美術の粋を集めたお部屋の数々が
皆様を大正ロマンの世界へ誘います。”

「なるほど…。」

元遊郭は今風に言えば
さながらテーマパークだったのだろう。
いろいろな名跡が随所に配置されている。
この隔離された御殿でお酒と料理のおもてなし
そして女たちと戯れる…。
今も昔も楽しいことは変わらない。
きっと竜宮城の気分だったのだろうな。

ここ、全室個室の予約制となっている。
予算一人5000円までとの厳命を
上司より賜っていたので、一人3500円の
おまかせ料理を注文しておいた。この夜は
子持ち昆布の前付、刺身と続き
一口ステーキの陶板焼き野菜添え。
そして土佐風皿鉢料理のような大皿料理盛。
後付に蛸の酢の物、そして〆は茶蕎麦となった。
ここは鍋物が名物らしいが、
百番らしいこういう料理も手頃でよい。
生ビールに冷酒と皆かくかく楽しむ。

宴は仕事の話も取り混ぜながら
和気藹々と続いた。

しかし…。
気のせいと言ってしまえばそうだのだが
なにやらこの建物の随所から
何かがしんしんと伝わってくるような
そんな妖しい気を感じるのだ。
こう思ったのは自分だけではなかった。
楽しいながらもどこかに漂う雰囲気…。
飛田百番の圧倒的な存在感に気おされる。

夜も深まり宴も終えて鯛よし百番を出れば
外はどしゃ降りの雨だった。

顔見世の店が並ぶ通りをタクシーを求めて
私たちは小走りに抜ける。横目には
各店の玄関奥の座敷に、煌々と照らされた
ライトに浮かぶ若い女たちが留まった。
いづれの娘も濃い化粧で無表情に座っている。
土間には、この雨で今夜は商売上がったりだ
と言いたげに、退屈そうに煙草をふかす
やり手ばあさんたちの姿。

欲望に群がる影にどこか悲哀を感じてしまう。
馬鹿な中年だけが、そんな幻想に
取り付かれているだけなのだろうけれど。

“中年や遠くみのれる夜の桃”西東三鬼





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