因幡晃アコースティックコンサート。
処は広島県民文化センター。
昨年、観に行けなかったので
今年はチケットを早々と押さえた。
ちょうど私と年代を共有する
シンガーソングライターである。
あの大ヒット曲“わかって下さい”
そして“別涙”も1976年のヒット曲だ。
学生時代、合宿で行った信州は
蓼科の貸し別荘で、これらの曲を
カセットでどれだけ聞いたことだろう。
席は前から三列目だった。
紙屋町のヤマハで買ったチケット。
三列目の通路側から三つ目の席が
一つだけ空いていた。それはきっと
二人連れの狭間のスペースが
緩衝地帯で一席だけぽつんと
空いていたんだろうなと思っていた。
仕事は早々に引き上げて会場へ。
この夜の聴衆のほとんどは
私と同年代前後の女性たちであった。
所謂、おばさんである。
きっと私と同じように、彼の歌を
青春時代に共有した人たちだ。
両隣はカップルだと思い込んでいたが
予想に反して
そのどちらの席も女性ひとりだった。
そしてその隣もまた
ひとりで聴きに来た中年女性であった。
今宵集まった大半の女性たちは
それなりの人生を過ごしてきた方たちだ。
ひとり静かにあの頃の自分を重ねながら
聴き入っている人が多かったように思う。
ときどき客席から舞台に声を掛ける
和気あいあいの女性たちも居たが
全体的に穏やかな女性たちであった。
男性は30人にひとりの割合だろうか。
ひとりで観に来た男といえば
私を含めてわずか数人のようだ。
この日は、伴奏のピアノと
因幡晃が奏でるギターだけという
アコースティックコンサートである。
懐かしい曲。
美しくも哀愁をそそる旋律。そして
叙情的で詩情豊かな言葉の数々…。
心の機微を唄い季節を奏でる因幡晃の声。
歌もそうだが、何より彼の
合間のトークが人気のようである。
ございますで結ぶ言葉の丁寧さと
わさびがぴりっと利いたジョーク。
中年期以降の女性たちが
何を求め、何を満たしたくて
ここに聴きに来ているかを
心憎いまで彼は知っているのである。
話す言葉もシンプルかつスローだ。
最近の若者の早口で滑舌の悪い言葉が
聞き取り難くてしようがないと感じる
年代者たちにとっては
因幡晃の歌の世界とその場は
心を惜しみなく開放できる
安心の空間なのである。
個人的には
“わかって下さい”や“別涙”はもちろん
時々カラオケで唄う
“夕映えを待ちながら”もお気に入りだが
“篠懸けの続く道”に
“人生終わりのない旅”が心に深く響いた。
帰りに会場でCD販売もやっていた。
買って帰ろうと思ったが
バーゲンのワゴンセールよろしく
おばさまたちが群がっていたので
恐れ多くも近づけず。
CDを買った方は因幡晃と握手ができる。
ということで
向かいの机で本人が待機していた。
この辺もアットホームであるが
CD販売コーナーの混雑振りと比べて
こちらは本人も手持ち無沙汰のようであった。
ここらあたりが同じおばさまファンでも
ヨン様ファンとは違うところだなあと
なんだか可笑しくもあったが得心。
今夜の因幡晃は、スタッフたちと
どうやら流川あたりで飲むらしい。
そっちの方も行きたいなあ
と思ってしまった私。
全国コンサートが始まるらしい。
これから秋の夜長。
因幡晃の世界にほろっとくるのも
なかなか一興であろうぞなもし…。