呉は長らくまだ見ぬ憧れの地であった。
小さい頃、神戸・中山手通りにあった
かつて母の実家だった叔父の家に
毎月連れられて行った。帰りの
不二家でのホットケーキ目当てだった。
当時高校生だった従兄弟がいた。
その兄ちゃんは船がとても好きで
神戸港に寄港した豪華客船の話を
写真を見せてくれながらよくしてくれた。
当時のロッテルダム号の船姿。
子供心にとても美しいと思った。
そんな従兄弟の影響を受けてか
いつしか自分も船乗りに憧れた。
その延長上にあった呉なのだ。
四月の或る晴れた日。
地元の酒造会社を訪ねた折
酒蔵の煙突の上に拡がる空…。
「やっと呉に来たんだなあ。」
その従兄弟は長じて鉄道員になった。