芙蓉の花。
木槿のようであって木槿にあらず。
しかしアオイ科の同じ仲間である。
中学時代にものすごくピアノの上手な
女生徒がいた。普段は大人しい子だったが
ピアノは力強い弾き方だった。
ある日の国語の時間。短歌の授業。
皆で短歌を創った。私はその時法師蝉で詠んだが
そのピアノの上手な子は芙蓉を詠んだ。
初めて聞く名の花だった。それで私は
芙蓉という花の名を知ったのだった。
彼女とは偶然同じ高校に進んだが
クラスもずっと違ったこともあって
あまり話をすることもなく過ぎていった。
時折、バス停で会ったが、はにかみながら
挨拶をする程度だったように思う。
あれから長い歳月が流れた。
人づてに彼女は大学の講師をしている
と聞いたことがある。
それももうずいぶんと前のことだ。
それ以降の消息は聞かない。
芙蓉の花を見るたびに思うことである。
花芙蓉奏でることもなきピアノ