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主に映画、ゲーム、同人誌の感想などをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここはいいトシしたおっさんのブログ。

塚口サンサン劇場「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」見てきました!

2024-01-13 23:54:29 | 映画感想
 塚口サンサン劇場。そこは話題作うっかり見逃しの民の集う約束の地。
 というわけで、今日は昨年末に話題となってから年が明けてもその勢いが衰えないこの作品を見てきました。
 
 
 塚口が「上映終了日未定」としている時点で本作の人気がうかがい知れるというものでしょう。事実、今日の夕方からの回は満席、夜の回もほぼ満席という埋まり具合。
 そして、そうなると恒例の待合室も……
 
 
 塚口のファッションリーダーこと秋山殿も鬼太郎仕様。
 「ゲゲゲの鬼太郎」に関してはわたくし人形使いも幼少の砌に触れ、第6期のねこ娘のキャラデザに驚愕してきました。そんな鬼太郎ですが、本作はタイトルの通り鬼太郎の誕生、ひいては目玉の親父の出自に踏み込む作品、ということは知った上で今回見ることにしました。
 鬼太郎の誕生と目玉の親父の出自に踏み込むということは、必然的に「墓場の鬼太郎」の内容にも踏み込むということ。わたくしの知る限りゲゲゲの方ではそっちの方向に踏み込んだ作品はなかったと思うのでそこらへんも楽しみにしてました。
 さて感想なんですが、いきなり核心に踏み込みますが前述の鬼太郎の誕生と目玉の親父の出自に関して明示的に示すパートをスタッフロールとCパートに配置しているのが非常に意外でした。
 さらに、Cパートはともかくスタッフロールではゲゲ郎がいかにして目玉の親父になったかということも明言されません、というか完全に「墓場の鬼太郎」の内容を知っていることを前提とした見せ方になってました。6期から鬼太郎を知ったキッズはわかったんだろうかとか思ったらこれPG-12でしたね。
 本編はあくまで鬼太郎の父ことゲゲ郎と東京から哭倉村を訪れた会社員・水木との物語となっており、鬼太郎の誕生と目玉の親父の出自に関してはその結果といった構成になってました。
 そして本編の方はもう戦後の混濁! 格差社会! 因習! 不審な鳥居! 日本の財界を裏で牛耳る名家! 遺言! 跡取り戦争! 影のある美少女! 嵐! 崖崩れで橋が落ちる!といった感じで笑いが出るくらい完全に横溝正史の世界です。これで連続猟奇殺人が起きなかったらそっちのほうが怖いわ。
 哭倉村は水木のいたごみごみした都会である東京とは打って変わって緑豊かな自然が美しい、絵面だけ見ればジブリ作品のような理想的で平和な田舎といった感じなんですが、なんかもう別に怖くない美しい山々のシーンでも画面の端々から漏れ出てるんですよね瘴気が。
 また、本作の舞台は昭和31年となってるんですが、こうして令和6年の現在から見ると昭和31年の世界はもう異常そのものと感じました。電車では喫煙が当たり前、吸い殻はその辺にポイ捨てが当たり前というのでも改めて見るとけっこう衝撃ですが、それに加えてさらっと出てくる「血液銀行」という言葉や病院の階段に列をなして並んでいる低所得者層の姿には、ある意味本編での怪異以上の恐怖があります。売血なんて行為が実際に行われてた時代なんだよな……。
 加えて、これまた終盤の話になりますが、本作のラスボスとなる龍賀一族の当主こと龍賀時貞が、水木を懐柔しようとして提示する条件が不老不死でも巨万の富でもなく、「会社を2つ3つ」というのが非常に大きな衝撃でした。そういう時代なんだなあ……と衝撃を受けましたね。
 といったように、わたくし人形使いにとっては本作はゲゲ郎&水木vs妖怪のバトルや因習に満ち満ちた哭倉村の狂気よりも、この「昭和31年という時代の異常性」が印象に残る作品でした。
 また、本作は前述の通りPG-12ということでかなり直接的なグロシーンや残酷描写があるんですが、なんというか本作、視覚的なグロさよりも演出がエグい。例えば冒頭のタバコの煙で充満している電車内で咳き込んでる女の子がいるのに誰も見向きもしない→後半で骸にされている村人の中に咳をしてる小さな骸がいるとかな……いちいちエグいんだよ見せ方が……。
 そんな中で、鬼太郎シリーズの看板とも言えるねずみ男……らしき少年の存在が冗談抜きで清涼剤になってました。本当においしいキャラだよなねずみ男。
 そしてぜひとも言及しておきたいのが声優陣、というか関俊彦氏。わたくし人形使いもオタクの端くれとして色んな作品で関さんのお声を聞いてきましたが、なんというか本作の関さんの声は円熟の域に達しているというか、「艶のある声」ってまさにこんな声だよなと思わせるなんとも色気のある声になってると感じました。御年61歳、すごいなあ。
 そしてすごいと言えば長田幻治を演じる石田彰氏。CV:石田彰の糸目キャラ! CV:石田彰の糸目キャラですよ!? あからさまに石田彰なのだ!! こんなにあからさまなCV:石田彰キャラ初めて見た! もはやわざとらしいくらいCV:石田彰だこれ!! CV:石田彰から逆算してキャラ作っただろこれ!!
 あとラストバトルが完全にエヴァンゲリオンです本当にありがとうございました。だって下は赤い液体で鬼っぽいシルエットのでかい怪物が暴れ回ってて最終的にラスボスがそいつに食われるという展開でエヴァを連想するなってほうが無理がある。さらにCV:石田彰! 本作は実質エヴァであると言い切っても過言でも華厳でもない。これは絶対言っておきたかった。正直本作のラストバトルは見てて笑いそうになってしまった。
 まあそれはともかく、本作は「因習の物語」だと感じました。哭倉村にとどまらず、日本の発展の象徴であるはずの東京、ひいてはこの社会そのものもさまざまな因習に囚われている。都会に憧れ村から出ることを夢見る少女・沙代に水木が語る通り、そしてまた冒頭でも示されている通り東京は理想郷でそこに暮らす人々が皆裕福で自由なわけではありません。幼い時弥少年が夢見る未来に生きる私たちにとって、この現代はすべての病と苦しみがなくなった理想郷とは言えないでしょう。そうした意味で、本作は非常に残酷な現実を否応なく突きつけられる作品であると言えます。
 あとなあ、ラストで大量の狂骨が開放されたとき、水木は明らかに「こんな世界まるごと滅んじまえ」って思ってるよな……。それだけのものを見てしまったんだよな……。
 しかし、この社会や世界は完全に希望を失ったわけではなく、すべての価値を失ったわけでもありません。
 最終的に哭倉村をからくも脱出するも記憶を失った水木が、「墓場の鬼太郎」での展開そのままに母親の墓から生まれた鬼太郎を水木が抱き上げるあのシーン、あそこには明らかに「いったん死んだがゆえに生まれ変われた、記憶を失ったがゆえに出会えた」とも言うべき救いと希望を感じました。
 そして、現代で廃村となった哭倉村を取材に訪れた記者・山田によって哭倉村の悲劇は忘れ去られること無く語り継がれ、文字通りの「見届けるための目」となった目玉の親父によって、これまでの、そしてこれからの人間社会は見届けられる。
 ゲゲゲの鬼太郎、特に6期は怪異だけでなく現代社会の抱えるさまざまな問題を取り上げてきました。そして本作は、陰惨な過去を描きつつも、その上に成り立つ未来を肯定する作品になっていると言えるでしょう。
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