崔吉城との対話

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人権の武器化、「ヘイトスピーチ」(東洋経済日報掲載.4月18日)

2014年04月22日 04時52分27秒 | エッセイ
以前サハリンで調査の時、戦前からの在住朝鮮人がしばしば日本相手に賠償裁判について話をするのを聞いた。それは高木弁護士を通して30数回の裁判を行っても全部敗訴したので作戦を変えるべきだと、アメリカ在住の女弁護士からの提案であった。つまり戦争そのものを裁判としては勝訴は無理であるという。戦争や植民地を問題にするのではなく、「人権」であれば裁判で勝訴の可能性は高いといったのである。戦争では多くの人が死んでも戦死のようなものであり、戦後に裁判することは例外的なナチスや極東裁判など以外にはない。しかし虐殺や強姦など人権的なことであれば戦後にも長く残る問題であり、被害者が裁判で勝てるという。
 私はサハリンでの事例が今の問題を理解する上で非常に役に立つと思う。つまり人権問題であれば時効はなく、裁判で訴えることができるという。したがって強制連行、強制労働、拉致、慰安婦などなどほぼ人権問題が出現強調されるようになったのである。
 人権思想とは特に西洋社会での民主化の源動力ともいえる。それは韓国の民主化においても同様である。軍事独裁政権時代下に個人や集団の人権を守ってきた人権弁護士たちも多かった。感謝である。しかし、いつの間にか「人権」そのものが武器とされ、人を攻撃し、政治的に道具化されたのである。このような状況をみて私は大いに失望している。今東アジアの状況を見ながら人権思想への発展か、個人、国民、人民自らの人権思想を悟るというように考え難い。人権を武器化、道具化している感がしてしょうがない。日本が先進国と言う意識があれば率先して本当の人権思想をもって対アジア政策のパラダイムを変えるべきである。また韓国側からも性の問題をこの以上問題としないことが望ましい。


ヘイトスピーチのニュースを聞いて心が痛い。国際化、グローバリズムを叫んでいる現代日本社会では非常に異様な現象であるといえる。主に在日朝鮮・韓国人に対する嫌悪感情の表れである。それは健全な韓国、朝鮮批判とは異なる。悪意ではなく、根拠のある批判であれば嫌韓とはいえない。また韓民族の自慢や賛美のような話も控えるべきであり、批判したらすぐ嫌韓だと決めつけるのも良くないという人もいる。
 ヘイトスピーチは民族、人種、性別、弱者などを差別し、悪意、偏見などで嫌悪感情を持ち、それを表現することであり、世界的にも法律的にも禁止されている。しかし法律などで規制しても抑えることはできないだろう。考えてみるとそれは中国や韓国がいう歴史認識よりも「歴史」そのものであるといえる。それは近い歴史「植民地史」に遡る。日韓は古代から文化的な交流が部分的にはあったが、長い間、鎖国的な状況であった。不幸な歴史は植民地によって両国民・民族が統治者、被統治者という状況の生活レベルで付き合ったことが始まりであった。その時代は植民地が国際化、近代化の時代でもあった。そして戦後それぞれの国家は民族主義、国家主義を高め、国境という壁を高くし、植民地は終わっても様々な体制、人の意識構造にはいわば「歴史 認識」として残って、現在の状況にも強く影響している。それらを超えて本当の国家間の真の「国際化」になり得るのか、疑問がある。
 植民地の歴史は引き続いている。日本は靖国、韓国は慰安婦像、安重根記念館等々で憎しみを増幅してきた。ヘイトスピーチもその表れであろう。韓流・日流の日韓関係好調とヘイト、両国間の愛憎が対照的に表面化しており、悲しいとしか言いようがない。私は大学時代に恩師『韓国人』(高麗書林)の著者の尹泰林先生から紹介していただいたアメリカの精神科医カール・メニンガーの『愛憎(애증)』を思い出す。愛と憎の感情は別個のものではなく密着していて、相互関係にある、二つが混合すればアンビーバランスにもなる。しかしもっとも重要なことは愛と憎は反比例関係、つまり愛が重くなると憎は軽くなるということである。その逆も同様である。つまり、愛する人を憎み殺すまでに至ることがある。もっとも私に希望を持たせたことは憎むことから愛への変換が可能だということである。最悪の「嫌韓から親韓」への変化を強く期待する。
 アイルランドのヒギンズ大統領がロンドンの無名戦士の墓を訪問したことを聞いて、私は日韓関係に替えて考えてみた。イギリスは隣国のアイルランドを800余年間支配、侵略、植民地としたのでアイルランドの「反英」民族主義は強い。私は数年前アイルランドでその国の「悲しさ」を体感してきた。「親英」と「反英感情」により独立以来、ギクシャクしてきたのは日韓関係と非常に似ている。今度の大統領の訪問は最悪の両国関係を「和解」してくれるように歓迎したい。

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