崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

『静かな朝の国』

2014年09月02日 05時02分29秒 | 旅行
先日韓国で唯一購入したる本『静かな朝の国』(Norbert Weber, Im Lande der Morgenstille、1912)を読んでいる。原著者のノベルトヴェーバーは90分のドキュメンタリーを残しており、私はその映像を分析したことがある。ドイツ語の原著を日本語で訳を薦めていたが、今度、韓国の知人の宗教学者の朴英日氏らによって韓国語訳された。この本より10年ほど後に作られた映像では日本植民地のことはほぼ表れない。しかしこの本では日韓合併頃の日本植民地についてしばしば言及されている。彼の観察は細かく思考は深い。私は数年前、彼の出身地のドイツミュンヘンオティーリエンを訪問して教会と博物館で資料を見てきた。
 ヴェーバーは下関、神戸、大阪を経由して韓国へ向かう。下関の工場の煙突を見ながら「数十年の間に日本はこんなに工業国になっている」。その技術者はドイツ人、繊維と陶芸は絶頂のレベル、空気汚染や放射線の憂いに触れる。しかし西洋文化が定着しているとは言えない。それは時間がかかるだろう。食堂でミカンの皮をそのまま捨てる日本人、松を苦しめるように剪定する盆栽、日本の民族主義、信仰の神道など日記帳に記し、スケッチをした。
 私は人類学者だが彼にははるかに及ばず、頭が上がらない感がする。今日本人の人類学者は世界中フィルード調査を行っているがこの方のように調査する人はまれであろう。多くの人は観光客のレベルに過ぎない。昼食に入ったレストランの名前や場所も記憶しない。ただ行ってきた、何々を見た、何々があった程度の思い出を残しているようなものである。反省すべきであろう。しかし渋沢敬三グループなどはノート、録音、撮影など総合的に調査をして膨大な資料を残している。広島大学に韓国から来た留学生が日本の先生には学ぶことがないと書き残し、話題になっていたことを思いだす。この本を読みながら反省してる次第である。