崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

『在日九十年ある在日女のつぶやき』

2013年11月06日 04時36分22秒 | エッセイ
萩から金優社長が90歳の母上が書かれたエッセー集『在日九十年ある在日女のつぶやき』の出版前の校正文を持ってきた。彼の家族企業の盛業に関心を持っているが、今度は彼の親孝行に感動した。母親の申福心氏が直接書いたものを息子の金氏が編集して、2014年2月28日の母のお誕生日に捧げたいと準備中のものである。最終段階で私のコメントを願っている。喜んで受け取った。韓国全羅南道麗水で生まれ日本へ、創始改名と帝国日本人として育てれて、主に看護婦として働き、戦後には本名の在日として生きてきた在日の人生を語っている。「警察署に勤務」というところに視線がいった。それは警察署に設置されていた特別高等警察課の協和会の「鮮人係」として朝鮮人同化のための仕事をしたという。つまり警察署は彼女を日本人的な朝鮮人としてその職務をさせたのである。戦前の「在日日本人」から戦後の「在日朝鮮人」の変身の物語りである。
 そのような韓国では親日と嫌がられるような話を語るのはなぜだろうか。90歳の彼女にとっては「もう過去のこと、過ぎたもの」である。歳を取るにつれて高齢者になると長い物語りが出来上がる。以前に語れなかった記憶が削られて残った話を正直に語れる。その多くは恥ずかしさや怖さから解放されているからであろう。
 彼は遠くから来られてたった30分話をしてその校正文を私に渡して帰って行った。私は帰宅の途中、寄り道で権藤氏宅で映画の字幕入れの仕事を手伝い、完成と宣言した。これから写真集とDVDの合冊の本作りに向き合うことになる。できれば多くの生きた痕跡を残したい。私は死んでも生きるという信仰に生きようとしているのである。