goo

新聞を読む(1):Fear of eating

旧暦、4月6日、。「耳鳴り」は、朝と夜にひどいが、自分なりに3つのアプローチを編み出した。これで、この一ヶ月、対応してみようと考えている。



中国から輸入食品が消費者(およびペット)の生命リスク問題になっている。米国の経済学者、ポール・クルーマンが、この問題について、International Herald Tribuneに、「Fear of eating(食の脅威)」と題して寄稿している。この問題の責任はどこにあるのか、をめぐって3つの考え方を紹介し、最後に自分の考えを述べている。その3つの考え方とはつぎのとおりである。

1. グローバリゼーションに問題がある

・米国政府は、相手国の許可がなければ、海外の食品工場に立ち入り検査はできない。その上、食品医薬品局(FDA)には予算も人手もないから、輸入品を検査するにも限界がある。米国の消費者は、中国のように、食品安全意識の低い外国の食品安全法に依存せざるを得ない。

2. 食品製造企業に問題がある

・この考え方を説明するにあたって、クルーグマンは、ConAgra社の事例をあげている。2005年、FDAは、ConAgra社が製造したピーナッツバターがサルモネラ菌に汚染されているとにらんだ。FDAはプラントに立ち入り検査をしたのだが、ConAgra社はすでに製品を廃棄していたのにシラを切り、裁判所の許可証がなければ、記録の閲覧は許さないと突っぱねた。FDAは中途半端なまま検査を中断した。

3. ブッシュ政権に問題がある

・この6年、米国の食品安全システムは後退した。FDAは、議会命令を除くと、新規の食品安全規制を施行していない。こうなったのは、産業界の圧力が原因という単純な話しではなく、産業界が望んでいても、規制の導入に踏み切っていないのである。なぜ、当局は規制を嫌がるのか。他の業界に対する先例を作りたくないからである。当局は、ビジネスはどんなものであれ、規制をかけるべきではない、というイデオロギーに縛られているのだ。消費者には、口に入れる食品が汚染されているかどうか、知る術がない。わけのわからないうちに、病気になったり、死んだりする可能性もある。当局が、こうしたことを認めないのは、イデオロギー的に不都合だからだ。

・ここから、クルーグマンは、食品安全問題の本質的な責任に、ミルトン・フリードマンをあげる。フリードマンは、FDAの食品チームも医薬品チームも廃止してしまえと言っている。では、市民を危険な医薬品からどうやって守るのか。「そういう事態を避けるのは医薬品会社の自己利益に叶う」1999年のインタビューでフリードマンはこう答えている。食品業界に対しても、同じ論理を適用している。状況に関わりなく、民間セクターは信頼に値するというわけだ。
・フリードマンは、「E.コリの保守主義」を担いで、いかなる場合も政府規制を認めない。食品安全危機の原因は、米国政府の病んだイデオロギーのせいである。

(International Herald Tribune May22, 2007から抄訳)

■以上が、クルーグマンの主張であるが、紙幅の関係か、3つの考え方の批判的な検討がない。クルーグマンの議論は、この問題以外にもいくつか読んだことがあるが、ぼくの印象では、ヴェーバー的な発想をする人だと思う。そのため、イデオロギー批判的な議論を展開することが多い。食品安全問題の本質も、政府のフリードマン流の市場万能イデオロギーを批判している。これはこれで、有効な議論だろう。日本の場合も、小泉純一郎から、この同じイデオロギーで、政策を進めているので、クルーグマンの批判は日本政府批判ともなる。

ところで、食品安全は、医薬品、運輸(列車・航空機・バス)、医療などと並んで、命への直接的なリスクを孕む領域である。この「生命リスク」概念をキーにして、市場開放・規制緩和政策を再構築すべきではないだろうか。フリードマンの言うような民間セクター信仰は、今では、どこのだれも信じていない。軒並み大手の民間セクターの幹部が、毎日のようにテレビ画面で頭を下げるモラルハザードが常態化しているからだ。企業のモラルの再構築という方向でとかく議論されがちだが、それよりも、「生命リスク」という観点から、新たに規制を強化する方が有効ではないか。この「生命リスク」概念が、自国の消費者の命を守るというだけではなく、生産している国・地域の生産者・消費者の命をも守るという想像力と結びついたとき、クルーグマンの言う、グローバリゼーションの問題と食品製造企業(多国籍)の問題が浮上してくるのだと思う。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 死と健康 龍太の言葉 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。