電脳筆写『 心超臨界 』

人は歳をとったからといって遊ぶことを止めない
人は遊ぶことを止めるから齢をとるのだ
( バーナード・ショー )

かけがえのない家族 《 母は京都へ帰りたいのだ!――高村紫苑 》

2024-05-13 | 06-愛・家族・幸福
電脳筆写『心超臨界』へようこそ!
日本の歴史、伝統、文化を正しく学び次世代へつなぎたいと願っています。
20年間で約9千の記事を収めたブログは私の「人生ノート」になりました。
そのノートから少しずつ反芻学習することを日課にしています。
生涯学習にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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東京裁判史観の虚妄を打ち砕き誇りある日本を取り戻そう!
そう願う心が臨界質量を超えるとき、思いは実現する
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■超拡散『世界政治の崩壊過程に蘇れ日本政治の根幹とは』
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■超拡散『南京問題終結宣言がYouTubeより削除されました』
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  世の中でいちばん大切なものは家族と愛
  ( ジョン・ウッドン )
  The most important thing in the world is family and love.
  ( John Wooden )


◆母は京都へ帰りたいのだ!

かおり風景 第23回「香・大賞」入賞作品――香老舗 松栄堂
[松栄堂賞]「異郷の地で」 高村紫苑 67歳(朗読家)北海道
( 09.12.15 日経新聞(夕刊))

札幌の市街を見はるかす丘陵地に長期療養型のその病院がある。母を乗せた寝台タクシーがゆっくり坂を登ってゆく。木漏れ日が降りかかる母の寝顔を見ながら、自分の決断は正解だったかと心は未だゆれていた。その日の早朝、京都の病院を出発し伊丹から空路札幌へ母を運んだ。このとき母は90歳。札幌はひとり娘の私が京都から嫁いだ地である。

母は明治生まれの京女。父亡きあと京都で独り暮らしをしていたが体力の衰えとともに入院生活を余儀なくされた。時折、私が帰郷し、面倒を見てきたが、家人の病などがあって、札幌の病院へ母の転院を決断した。

住み慣れた故郷を捨て、北の果ての見知らぬ地へ引きはがされてゆく母の無念を思うと、身を切られる思いであったが母は黙って従ってくれた。札幌での6年間、母は最期まで京都へ帰りたいと言わなかった。それを言えば、娘を困らせると思い胸に封印していたのか。

母が亡くなる数ヶ月前、その頃母は、栄養剤の点滴だけで命をつないでいた。或る日

「ひのなづけが食べたい……」

と、突然母が言った。緋の菜漬は母がよく食膳にのせていた独特の辛みと香りがする京漬物である。食べ物は一切禁止されている母に酷かとも思ったがせめて香りだけでもと、京都から緋の菜の糖漬けを取り寄せ、母へ持っていった。

タッパーのフタを開けると、うす紫の見るからに雅な緋の菜漬の香りがぷーんと漂った。母は鼻を近づけ

「あゝ、なつかしい匂いや……コレに白いご飯があったら、あとはなんもいらん……」

と、口をすぼめ緋の菜漬の匂いを嗅いだ。
そして「アリガトウ」と、私に手を差し伸べた。私はその手を両掌で包み〈ごめんね……ごめんね……〉と、心のなかで詫びた。

〈母は京都へ帰りたいのだ!〉

抑えようもなく溢れる母への愛しさに、涙があとからあとから流れ落ちた。
札幌の街にナナカマドの実が色づきはじめる頃、母は逝った。

現在、母は京都の大谷廟に眠っている。
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