電脳筆写『 心超臨界 』

明日への最大の準備はきょう最善を尽くすこと
( H・ジャクソン・ブラウン・Jr. )

生きるための杖ことば 《 雪・月・花——松原泰道 》

2024-09-12 | 03-自己・信念・努力
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  春に百花あり秋に月あり
  夏に涼風あり冬に雪あり
  若(も)し閑時の心頭に挂(か)くる無くんば
  便(すなわ)ち是(こ)れ人間の好時節
 (禅書『無門関』第十九則「平常是道」)


◆雪・月・花(せつげっか)――和漢朗詠集(わかんろうえいしゅう)

『生きるための杖ことば』
( 松原泰道、全国青少年教化協議会 (2001/04)、p138 )

雪・月・花と、四季それぞれに趣のあるこの世に何の不足がある。自分の境遇中心の見方を脱することができたら、雪も月も花も、私に何かを教え、語りかけていてくれる声を、聞くことができよう。

それは風流ごとではない。私たちの人生にも順逆や、悲喜哀楽の季節がある。暮らしよい住みやすい日ばかりがつづくわけはない。といって、しのぎにくいやりきれない日だけが重なるものでもない。朝の来ない夜もないし、夜の来ない朝とてない。

雪と月と花と、春夏秋冬それぞれに楽しめる私たちはさいわいである。11世紀のはじめごろに成立したという『和漢朗詠集』に見る「琴詩酒(きんししゅ)の友皆我を抛(なげう)つ 雪月花の時に最も君を憶(おも)う」の句は人のよく知るところ。自然のたたずまいを通じて、はじめて人のめぐり合いはいよいよ濃(こま)やかになる。

江戸前期の俳人、宝井基角(たからいきかく)に「ほとけとはさくらの花の月夜かな」の名吟(めいぎん)がある。私も戦前のことだが、信州松本の公園で咲きはじめた八重ざくらに、うっすらと雪が積もっているのを見たことがある。夜桜に案内されたのだが、おあつらえむきに空にはお月さまがかかっていた。私には、今も忘れられない思い出の眺めであった。

禅書『無門関』の第十九則「平常是道(びょうじょうこれどう)」に

  春に百花あり秋に月あり
  夏に涼風あり冬に雪あり
  若(も)し閑時の心頭に挂(か)くる無くんば
  便(すなわ)ち是(こ)れ人間の好時節

とうたう。「春夏秋冬、それぞれ自然のよい眺望がある。このよい好風景に、いろいろとむだな心を使わなかったら、四季の風光がそのままほとけのこころに通じる」と。

人間の計らいのないとき、雪も月も花もそのままにほとけのこころと拝めよう。
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