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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン総選挙  ポルトガルに続き、緊縮財政の与党が過半数割れ 難航が予想される連立交渉

2015-12-21 21:58:51 | 欧州情勢

(反緊縮を掲げて総選挙で躍進し、支援者に応えるポデモス党首パブロ・イグレシアス氏(写真:ロイター/アフロ)【12月21日 東洋経済online】)

二大政党制の終わりを印象付ける新興政党の台頭
EUが主導する緊縮財政による財政再建を続けてきたスペイン・ラホイ政権が存続できるか注目されていたスペイン総選挙は、ラホイ首相の率いる中道右派・国民党が第1党は維持したものの、選挙前から予想されていたように大きく議席を減らし、国民党と共に二大政党のひとつである最大野党、左派・社会労働党も減少、一方で、新興勢力である、緊縮財政を強く批判する急進左派、ポデモス、及び、カタルーニャ独立に反対する地域政党から全国展開した中道右派・シウダダノスが躍進する結果となりました。

****<スペイン総選挙>与党、過半数割れ 左右新党が躍進****
スペイン総選挙は20日投開票され、開票率99%の段階で中道右派与党の国民党は、下院(定数350)の議席数が改選前の186から123に減り、第1党を維持したものの過半数を大きく割り込んだ。穏健左派の最大野党、社会労働党も110から90と議席を減らした。

一方、新興政党の急進左派、ポデモスは69、中道右派のシウダダノスも40と躍進。1980年代から続く国民党と社会労働党による2大政党制の終わりを印象付けた。焦点は連立協議に移るが、主張の違いなどから難航も予想される。

スペインは国民党政権が進めた緊縮政策の下で、欧州債務危機後の回復基調が続いている。しかし、依然として20%超の高失業率が続き、若者らの間には経済回復の恩恵が一部にしか届いていないという不満が根強い。

ポデモスは、若者らが2014年に結成し、反緊縮財政を掲げる。シウダダノスは、06年にカタルーニャの独立反対派が結成して13年から全国展開。失業者の就業支援などを強く訴えてきた。

新興政党が既成政党を嫌う有権者の受け皿となった形で、ポデモスのイグレシアス党首は演説で「きょう新しいスペインが誕生した。2大政党制は終わった」と語った。

大きく議席を減らした国民党や社会労働党が過半数を得るためには複数の政党と連立を組む必要があり、協議は難航しそうだ。【12月21日 毎日】
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急進左派、ポデモスは緊縮財政を批判しつつも、EU内にとどまるという点で、ギリシャのチプラス首相率いるシリザ(Syriza)と共通するところがあり、昨年末には国民党を上回る支持率を有していました。
今年に入ってからは支持率はやや低下傾向にあり、50議席ほどが予想されていましたが、69議席獲得と健闘したようです。

カタルーニャ独立に反対するシウダダノスは、二大政党批判の受け皿として全国で急速に支持を広げ、選挙前は60~70議席ほどが予測されていましたが、ポデモスとは逆に40議席にとどまっています。ただ、初めて中央政界へ進出することになり、政策決定への影響力を確保しました。

カタルーニャ独立に関しては、主要政党はいずれも反対の立場ですが、特に中央集権化を志向する国民党やシウダダノスの政権が実現すればカタルーニャとの対立が先鋭化することも予想されます。
社会労働党は自治拡大を認める方向にあり、ポデモスは独立反対ながらも、独立の是非を問う住民投票には容認する姿勢です。【みすほ総合研究所 山本康男氏 「混戦模様のスペイン総選挙」http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/eu151203.pdf より】

今回選挙結果は、回復基調にあると言いながらも緊縮財政のもとで続く高失業率への批判に加え、前政権を担った社会労働党、前政権の国民党ともに汚職事件にかかわっていたことから既成政党への批判が高まったこと、更に、スペイン独自の問題であるカタルーニャ独立問題などが加わったものです。

****緊縮策、汚職に不満爆発=新興2党が躍進―スペイン議会選****
20日投票のスペイン議会選は、初めて国政選挙に挑戦した急進左派ポデモスと中道シウダダノスの新興2党が合計で下院(定数350)議席の30%超を獲得して躍進した。

長年の緊縮財政や度重なる汚職疑惑で高まった有権者の不満が、新党への期待として噴出した形だ。新政権樹立に向けた連立協議の行方次第では、両党の意向が国政に大きく影響する可能性もある。

「スペインは歴史的な大変革に投票した」。ポデモスのイグレシアス党首は選挙結果を受けて、こう宣言した。同党はラホイ政権の緊縮財政を批判し、東部カタルーニャ自治州の独立を目指す地域政党との連携も模索。

労働市場改革を通じた非正規雇用者の待遇改善を訴えるシウダダノスのリベラ党首も「われわれが改革の中心だ」と政権入りに意欲を示す。

スペインでは、中道右派の国民党と穏健左派の社会労働党が交代で政権を担う二大政党制が長く続いた。2011年末に社会労働党に代わって政権に就いた国民党のラホイ首相は、欧州債務危機で崩壊寸前となった経済を立て直すため、増税や各種手当の減額など痛みを伴う改革を実施。その一方で、首相自身を含めた政権幹部に対する不正献金などのスキャンダルもしばしば報じられた。

政治不信が強まる中、4年前に債務危機を克服できなかった社会労働党も国民の支持を集めることはできず、新興勢力の伸長につながった。

欧州のスペイン史専門家は選挙結果について「政治を身近な人々に委ね、民主主義を徹底したいという有権者の意志の表れだ」と分析する。【12月21日 時事】 
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左右拮抗で難航が予想される連立交渉
国民党の過半数割れに伴い、今後の連立交渉が注目されますが、今回選挙結果は左右両勢力にとって共に連立工作が難しい微妙な数字となっています。
連立交渉が不調に終われば再選挙も想定されます。

****スペインは政権発足遅れ2カ月後再選挙も 国民党の議席大幅減、連立協議は難航****
20日に行われたスペインの総選挙(下院の定数が350、99.1%開票時の速報結果)は、中道右派の現与党 「国民党(PP)」が122議席(票率28.7%)で第1党の座を死守したものの、2011年の前回総選挙(186議席、同44.6%)から大幅に議席を失った。

国民党と91議席(同22.0%)で第2党となった中道左派の前与党「社会労働党(PSOE)」との大連立はスペインの政治史上で前例がないばかりか、世論を無視して守旧派勢力が手を結んだと受け止められ、 今回の選挙で大躍進した新興2政党へのさらなる支持拡大につながる恐れがあり、実現の可能性は低い。

従来、国民党の有力な連立相手と目されてきた改革派のリベラル政党「市民(C’sまたはCiudadanos)」の獲得議席が事前の世論調査と比べて伸び悩み(60議席程度の獲得予想に対して実績は40議席)、国民党と「市民」の合計では過半数(176議席以上)に届かない。

左派が躍進、右派左派が拮抗
国民党が政権を発足するためには、ラホイ首相の退陣や構造改革の強化を求める「市民」の協力に加えて、独立の動きを強めるカタルーニャの右派系地域政党「民主主義と自由(DL)」(議席数8)の協力が必要で、自治拡大や独立の是非を問う住民投票の実施を求められる可能性がある。

国民党が単独もしくは「市民」と協力して、非多数派政権の樹立を目指す可能性もあるが、その場合は左派勢力との議席かが拮抗しており(右派系は177、左派系が173)、議会運営は早晩行きづまる恐れが出てくる。

他方、左派勢力が政権を発足するのも容易でない。反緊縮色の強い新興の左派政党「ポデモス(Podemos)」が事前の世論調査を上回る支持を集めたが(50議席程度の獲得予想に対して実績は69議席、率にして20.7%)、 「社会労働党とポデモスの合計では160議席で、過半数に満たない。旧共産党系の「統一左翼(IU)」や左派系地域政党が加わり、左派が総結集しても173議席で過半数には届かない。

左派勢が政権を発足するためには、 国民党政権の打倒を目指して中道派の「市民」が左派勢力に加わるか、カタルーニャの自治拡大や独立要求の受け入れを条件に同州の右派政党が左派支持に回る必要がある。新議会は総選挙から25日以内、すなわち来年1月14日までに召集される(憲法68条6項)。

総選挙の結果を踏まえ、国王は議会の議長などと相談のうえ首相候補を指名する(同99条1項)。(中略)指名された首相候補は、発足を目指す政権の政策指針を示し、議会の信任をなければならない(同99条2項)。

(中略)信任されない場合、同じプロセスを繰り返す(同99条4項)。初回の信任投票から2カ月以内に信任されない場合、国王は議会を解散し、再選挙が行なわれる(同99条5項)。

今回の選挙結果を受け、総選挙後の連立協議の難航は避けられない。地域独立の動きも相俟って、どのような政権が誕生するかは不透明な情勢だ。

右派・左派勢力の議席数が極めて拮抗しており、政権発足ができないまま2カ月が経過し、再選挙となるシナリオの確率が増している。【12月21日 東洋経済online】
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ポルトガル 過半数割れの与党が少数政権を目指すも、ひと月持たずに総辞職
一方、スペイン同様に緊縮財政を続け、財政再建に関しては一定の成果を出している隣国ポルトガルでも、一足早く11月に総選挙が行われましたが、与党が最大勢力は維持したものの過半数を割り込むというスペインと似たような結果がでました。

****ポルトガル総選挙、緊縮進める連立政権が最大勢力を維持****
財政再建を進めるポルトガルで4日、国会(一院制、定数230)の総選挙の投開票があり、地元メディアによると、緊縮財政を進めてきたコエリョ首相率いる社会民主党(中道右派)中心の連立政権側が約100議席を確保し、最大勢力を維持した。

ただ、選挙前の132を大きく下回り、安定的な政権運営を担える過半数には届かなかった。

中道左派の最大野党の社会党は80議席を超え、第2党を維持する見込み。

4日夜、記者会見したコエリョ首相は「選挙に勝った勢力が政権を担わないのはおかしい」と述べ、今後の政権運営に意欲を示した。

財政危機に陥ったポルトガルは2011年、欧州連合(EU)などに計780億ユーロ(約10兆5千億円)の金融支援を求め、その条件として厳しい緊縮政策を課せられた。

選挙戦では連立政権側は、経済危機を乗り切ったことをアピール。一方の社会党は緊縮政策とは距離を置き、政策の刷新を訴えていた。【10月5日 朝日】
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過半数割れした与党・コエリョ首相は少数与党政権を選択して10月末に首相に再任はされましたが、左派勢力結集によりひと月ともたず、11月には総辞職に追い込まれています。

****コエリョ内閣が総辞職=議会で信任否決―ポルトガル****
ポルトガル議会(一院制、定数230)は10日、コエリョ内閣の2期目に対する事実上の信任投票を行い、野党などの反対多数で否決した。

憲法の規定により内閣は総辞職し、カバコシルバ大統領が次の首相を指名する。新首相の決定には各党の意見を聞く必要があり、数週間かかるとの見方もある。欧州メディアが伝えた。

コエリョ首相率いる中道右派の与党は10月4日の総選挙で107議席を獲得して最大勢力となり、過半数に満たない少数政権として10月末に発足した。

しかし、最大野党の中道左派・社会党のコスタ党首は、政権が1期目に進めた緊縮財政への反対を旗印に路線の異なる野党をまとめ上げ、首相を就任早々の退陣に追い込んだ。

コスタ党首は10日の審議で「政府方針は変化を求める世論を反映していない」と政権交代を主張した。大統領がコスタ党首を首相に指名し、社会党、共産党、左翼ブロックなどによる左派系連立政権が発足する可能性もある。

しかし、左派連合には「寄り合い所帯」との批判もあり、安定した政権運営につながるかは不安視されている。【11月11日 時事】
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その後、社会党のコスタ党首を首相とする左派連立政権が成立しましたが、その結果はこれからの話です。

****左派連立政権が誕生へ=緊縮財政めぐり温度差も―ポルトガル****
AFP通信によると、ポルトガルのカバコシルバ大統領は24日、社会党のコスタ党首を首相に任命した。これにより、社会党と共産党、左翼ブロックなどによる左派連立政権が発足する。

連立与党内には欧州連合(EU)が課す緊縮財政をめぐり意見の隔たりがあり、結束して国のかじ取りに当たれるか不安視されている。【11月24日 時事】
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ギリシャのチプラス政権に続いてポルトガルでも緊縮策反対の左派政権が誕生し、スペインでも緊縮策維持が揺れる状況となっています。
一方、イギリス・キャメロン首相は2017年末までにEU離脱を問う国民投票を実施する予定です。

緊縮財政を主導して域内の経済危機を回避しながら統合深化を進めてきたEUにとっては、今後も試練が続きます。
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カンボジア 最近の話題から(タイとの関係強化 野党党首への逮捕状 カネがすべての社会)

2015-12-20 23:28:48 | 東南アジア

(経済成長著しいカンボジア、最近はプノンペンにこういう高層建築も出現しているようです “flickr”より By Nam Keng https://www.flickr.com/photos/65877070@N05/19946007021/in/photolist-dnSRFj-gj7XdG-pgEw74-auXEWA-dnX4MV-dRpdMd-e615LV-woyuYM-p8qvSu-rjQfEb-q9D3yM-qP1hVM-qNYJuP-fCyuPM-avB9nk-fCyv1a-qyr4s3-vjvPUt-zgZxqH-porW3C-dRpdnw-zfWgSY-e611Tr

フン・セン首相、12年ぶりにタイを公式訪問
タイとカンボジア・・・・隣国であり、文化・言語的にも非常に近く(タイのTV放送をカンボジアの人はおおよそ理解できるようです)、歴史的にも深いつながりがあり(主には侵略したり、されたりという歴史ですが)、現在も経済的に強い結びつきがある両国ですが、そういう“近い”関係にあるだけに、優越感とかコンプレックスといった感情も含めて、微妙な国民感情があるようです。

もっとはっきり言えば、近親憎悪的な敵対感情でしょうか。まあ、日本と韓国・中国など、隣接する国家・民族間にはごく普通に見られるものと言えば、そうでしょう。

タイから見れば、経済的には圧倒的に優位な立場にあり、政治的にも洗練された民主主義国家として自負もあると思われます。(最近のタイ軍事政権のもとでは、タイの民主主義も怪しいところが多々ありますが)
カンボジアからすれば、そうした“上から目線”のタイがなにかと神経に触るところもあるのでは。

当ブログでも何回か取り上げたように両国は領土問題も抱えており、世界遺産に登録されたヒンズー教寺院遺跡「プレアビヒア」周辺地域の帰属を巡って衝突していましたが、2013年11月に国際司法裁判所(ICJ)は、寺院と周辺の限られた土地について、1962年判決に引き続き、改めてカンボジア領と認定しました。

ただ、寺院の北西側にある丘陵地の頂の部分は、62年判決で「係争地になっていない」とし、今回も明確な線引きを示さず、「両国が協力し遺産を保護しなければならない」とし、紛争の政治的な解決を促しています。

その後、国境問題についての両国の動きは聞いていませんが、タイの方は軍事クーデターでそれどころではない事情もあるのでは・・・。

****貿易拡大、鉄道運行で合意=12年ぶりタイ公式訪問―カンボジア首相****
カンボジアのフン・セン首相は18、19の両日、タイを訪問し、プラユット暫定首相らと会談した。

共同声明によると、両国政府は2国間貿易の拡大や、両国の首都を結ぶ鉄道の運行開始で合意した。フン・セン首相がタイを公式訪問するのは12年ぶり。

声明などによれば、双方は現在年50億ドル(約6000億円)規模の2国間貿易額を2020年までに3倍に拡大することを目指す方針で一致。16年末までに、バンコク―プノンペン間の鉄道運行を開始することでも合意した。

タイのメディアによると、両国国境にあるタイのアランヤプラテートとカンボジアのポイペトを結ぶ鉄道は、カンボジアでポル・ポト派が実権を掌握した1970年代以降、運行を停止したままになっている。【12月19日 時事】 
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“フン・セン首相がタイを公式訪問するのは12年ぶり”という事実が、上述のような両国関係を示していますが、とにもかくにも関係改善に向かうことは結構な話です。

そのうち列車でバンコクからプノンペンへ旅行してみましょう。

カンボジアが近年経済的には急成長しており、日本企業も生産拠点として注目していること、ただ、労働問題がネックとなっていることなどは、2014年4月9日ブログ「カンボジア 高成長の制約要因となっている労働問題 ストライキ 工場労働者の集団失神」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140409や2014年1月9日「カンボジア 賃上げ要求デモへ治安部隊発砲  グローバル化の途上国・先進国への影響」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140109などでも取り上げてきました。

労働問題というよりは、強権的とも言われるフン・セン首相のもとでの内政問題というべきでしょうか。

安倍首相は11月21日にフン・セン首相と会談して、支援を明らかにしていますが、経済的な関係強化に加え、中国との関係が強いカンボジアを取り込みたい思惑もあるのでしょう。

****メコン整備に170億円支援 日カンボジア会談で首相表明****
安倍晋三首相は二十一日午前(日本時間同)、カンボジアのフン・セン首相とクアラルンプールで会談し、カンボジアを含むメコン川流域のインフラ整備の一環で、国道整備のための円借款約百七十億円の供与を決定したことを伝えた。フン・セン首相は「日本の支援に感謝する」と謝意を示した。

安倍首相は、中国が南シナ海で進める人工島造成について深刻な懸念を示し、平和的解決に向け、カンボジアにも協力を求めた。

また十月に野党・救国党の国会議員に対する暴力事件が発生するなど、カンボジア国内の政治情勢が緊張していることに関し憂慮を表明。次回国民会議選挙に向け、与野党の対話による解決を促した。【11月21日 東京】
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最大野党党首に逮捕状
長く政権を独占してきたフン・セン首相ですが、2013年8月22日ブログ「カンボジア フン・セン首相・与党が辛勝するも、野党躍進 “内戦後”の終焉」でも取り上げたように、国内批判も高まり、2013年7月の総選挙では与党が議席数を大きく減らしたものの、過半数は維持するという結果になっています。(野党側は“与党辛勝”という結果を認めず、混乱もありました)

いずれにしても、首都プノンペンや人口の多い州では、野党が与党を上回り、有権者の不満が都市部ほど強いことを示しました。

選挙後も政権と野党の緊張関係は続き、野党党首のサム・レンシー氏に逮捕状が出される事態となっています。(同氏は現在出国中)

****野党党首、議員資格を喪失=帰国なら逮捕―カンボジア****
カンボジア下院は16日の声明で、最大野党・カンボジア救国党のサム・レンシー党首が議員資格を喪失したと発表した。

7年前の名誉毀損(きそん)事件でプノンペンの裁判所が13日に同党首の逮捕状を出したのに伴う措置。

サム・レンシー党首は韓国に滞在中。警察当局は帰国次第逮捕する方針だが、同党首はフェイスブックを通じ「数日中にカンボジアに戻る」と表明した。

地元メディアによると、サム・レンシー党首は2008年に行った演説で、ホー・ナムホン外相が1970年代後半にポル・ポト政権の収容所を運営していたと発言。名誉毀損で訴えられ、11年に欠席裁判で禁錮2年の有罪判決を受けていた。【11月16日 時事】 
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アメリカ・オバマ大統領が仲介に動いているといった話も聞きますが、定かなところは知りません。

“サム・レンシー氏はフン・セン首相と対立し、09年にフランスに出国。その間に公共財産破壊の罪などで実刑判決を受けた。しかし、13年7月の総選挙前に国王の恩赦を受け帰国。救国党は総選挙で躍進し、サム・レンシー氏は18年に予定される次期総選挙での政権交代を目指していた。”【11月13日 毎日】

最大野党・カンボジア救国党のサム・レンシー党首については、リベラル派ということで、フン・セン首相の力による政治、そのもとでの腐敗・汚職の蔓延というカンボジアの問題を改善してくれることが期待もされています。

ただ、個人的には、これまでも政治危機のたびにフランスへ逃れ、フランスとカンボジアを行ったり来たりしてきた経歴、あのポル・ポト、クメール・ルージュによる悲劇・狂気の大虐殺のときも国内にいなかったこと(いたら生きていませんが)に、政治家として強靭さに欠けると言うか、やや物足りないものも感じます。

フン・セン首相に問題があるのは事実ですが、「フン・センは自分たちと一緒に、厳しいポル・ポト時代を生き抜いてきた。サム・レンシーはその時、フランスでエアコンのきいた部屋にいた。ベトナムの力を借りたかもしれないが、実際にポルポト政権を倒したのは人民党だ」という国民の声には(ポル・ポトを倒したのがベトナムか人民党かという判断は別にして)重いものもあります。

カネがすべて・・・
カンボジア社会の世相を示すリポートを目にしましたので、紹介します。

****轢き逃げ大国カンボジアの“壮絶すぎる闇”をジャーナリストが語る! 現地で暮らす日本人も笑いながら・・・****

【金がすべて。悲しすぎる価値観がはびこるカンボジアの闇】
「カンボジアの富裕層が爆発的に増えている」という報道を最近よく見かける。確かに富裕層は多い。しかし、それ以上に貧困にあえぐ者たちが多いのが実情だ。そして、その彼らの暮らしぶりはおそらく読者の想像をはるかに超えているだろう。

首相であるフン・センの30年にも及ぶ独裁政治中に、汚職がはびこり、警察は腐敗、街の治安は最低レベルだ。今も昔も富裕層の多数は政府関係者で、貧困層は1日3ドル以下の生活が続いており、"貧困層の人間は金持ちのペットの命よりも軽い"とさえいわれる。

そういった勝ち負けの区別がはっきりしている文化が長く続いたことで、この国は「金さえあればなんでもできる国」になってしまった。

私がカンボジアに住んだ上で感じた、本当の姿を伝えていきたいと思う。

■交通事故にあったらサヨウナラ

つい最近、街を歩いていると背後から大きな音がした。振り向いたところ、そこには大量の血を流す人が地面に倒れ、その近くにはボンネットがへこみ、明らかにぶつかったとみられる車があった。人身事故だ。そして、その車はゆっくりとUターンをし、停車。私は、ただただ呆然としているだけだったのだが、次の瞬間...、

 ブンッ!!! と、車が横になっている被害者の上を通過し、逃走した。

後から知ったことだが、これは後々トラブルにならないように、被害者を殺害し証拠隠滅を図っているのだという。車を運転するカンボジア人の約半数がこのような行動をとるそうだ。

その後現場に救急車は、来た。しかし、被害者の身元や金を持っているかいないかなどがわからない場合は、放置してどこかへと消えてしまう。

ちなみに交通事故の死亡率は日本が0.5%に対して、カンボジアは50%を超えるという。スマートフォンで事故の現場を撮影していた目撃者はいた。だが、"いた"だけだった。

■治安の悪さは観光客にまで影響を
治安のよくないカンボジアのプノンペンでは、旅行客への恐喝が流行っている。たとえば、これは当地ではメジャーな乗り物である三輪タクシー・トゥクトゥクでの出来事だ。

カンボジアを訪れればトゥクトゥクに乗ることもあるだろう。
ドライバーたちは、みな陽気だ。彼らと接しているとあまり言葉が通じなくとも、思わず笑いがこぼれる。私たちを歓待してくれている、そう思ってしまってもおかしくはない。

そして、目的地付近へと近づくと、ドライバーはおもむろになにかしらの葉っぱが入った袋を渡し、金銭を要求してくることがある。袋の中身はマリファナだ。知ってかしらでか、はたまた外国にいるため高揚しているためだろうか、興味本位で買ってしまう人も中にはいる。

ここで買わなければどうということはないが、もし買ってしまうとどうなるか。ドライバー、もしくは目的地周辺に居た共犯者から、「マリファナを所持していることを警察に話すぞ」と、脅されるのだ。薬物はこの国では禁止されている。ほとんどの旅行客は恐喝者たちの脅しに屈し、口止め料を払ってしまう。

では、このようなトラブルが発生した場合どうすればいいのか。簡単な方法がひとつだけある。脅迫者たちに啖呵を切ればいい。

「確かに問題だ。だけど俺は金を持っている。お前がなにかしようとしたら全力で潰してやるからな。警察はどちらの味方をするのかな? そもそも警察は君の話を聞くのか?」

 脅迫者たちはスゴスゴと引き下がるだろう。この国では金を持つものが正義だ。貧困層よりも金を持つとみられる観光客の方が優遇される。旅行の際はくれぐれも気をつけていただきたい。

■金は命より価値を持つ...!
私は、カンボジアで金の力を使って生きる日本人と接することが多かった。この地に長く住む日本人たちの中には、培ってきた価値観がガラッと変わるものもいる。

「人を轢いたことがある」と笑いながら話す男性もそのひとりだ。

「混沌とした所では、人身事故はもうしょうがないことだよ。むしろ、あまりにちんたら走ったら普通にぶつけちゃいますし。ま、何かあればお金で解決できますからね」と明るく話す彼の車は傷跡だらけだ。

また彼はカンボジアでは殺人までもが日常的に行われているという。

「だいたい、金を持っている政府系の奴らだって、ちょっと気にくわないことがあればすぐ人を殺しているじゃない。最近だって、万引き犯が集団で暴行されて殺されるのを見たよ。窃盗を犯すやつは殺してもいいというのがカンボジア人のしきたりだしね。こんなのは日常ですよ。それなりの金を渡せば、人を銃で殺すこともできるし、戦車に乗ることもできる」

彼は、もしなにかしらトラブルが発生した場合も冷静になり、金を使いどう解決するかを考える事が大切だと、この地ならではの生き方を説く。

■希望と腐敗が表裏一体
カンボジアには、日本の北九州市下水道局が整備したため、水道水が飲めるエリアもある。また、食糧自給率は120%を越えている。カンボジアに必要なのは食糧や物資でもない、現金なのだ。

しかし、あらゆる国が援助をしていても、この腐敗しきった国では官僚のポケットマネーにされてしまう。また、カンボジア支援事業を行うNPOの一部では、募金活動の資金を一切渡さず、私腹を肥やす団体もあるという。

飯が食えないほどの貧乏ではないが、最悪の環境。それを、改善するためのすべての機能は腐敗している。

この絶望的な状況から希望を模索していくために、我々ができることはなんだろうか? 私は長くこの地に留まっているが、その手段を未だ見つけることができていない。願うならば、笑いながら人の生死を話す人間になる前に、何かしらの手段を講じたい。【12月1日 東海林裕士氏 TOCANA】
*******************

上記リポートがカンボジア社会のすべてを表している訳ではなく、いいこと、悪いことを含めて、実際にはもっともっといろんな側面があると思います。

そのことを踏まえたうえで、ひとつの参考になるリポートかとは思います。
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ウクライナ政府・欧米とロシアの対立の構図は継続の様相 ウクライナ政治の混乱も

2015-12-19 23:19:09 | 欧州情勢

(内相を「泥棒」と批判したサーカシビリ氏(画像右端)と、同氏に水の入ったコップを投げつけたアバコフ内相(黒っぽいセーターの男性)【12月17日 NHK】)

30億ドル相当の対ロシア債務を巡る攻防
ウクライナ東部におけるウクライナ政府軍と親ロシア派・ロシアの抗争はこのところは目立った衝突もなく、小康状態となっています。

****死者9000人超に=ウクライナ東部****
国連人権高等弁務官事務所は9日、政府側と親ロシア派が昨年4月から交戦してきたウクライナ東部での死者が9000人を超えたと明らかにした。

同事務所はここ数カ月「敵対行為の大幅な減少」が見られ、民間人の犠牲者も減っていると指摘。ただ、市民が地雷などの爆発装置の被害に遭うケースが目立っており、地雷除去を進めるよう訴えた。【12月9日 時事】 
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現在の小康状態が恒久的な和平につながるかどうかという問題はありますが、激しい衝突が回避されていること自体は喜ばしいことです。

ただ、ウクライナ政府にとっては、世界の関心がシリアやISに完全に移るなかで、ウクライナが忘れられてしまう・・・という懸念もあるようです。

そうした不安を鎮めるべく、ウクライナを訪問してアメリカはウクライナを忘れていないことをアピールしたのが、アメリカのバイデン副大統領でした。

*****バイデン米副大統領  ロシアを批判 ウクライナ訪問*****
米国のバイデン副大統領は7日、訪問先のウクライナの首都キエフでポロシェンコ大統領と会談した。この際、親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍が対立する東部の情勢に関し「ロシアの侵略が続いている」と明言、プーチン大統領を名指しして停戦合意を履行するよう改めて要求した。またロシアが昨年一方的に編入した南部クリミアにも「ウクライナの領土だ」と明言し、返還を求めた。

ポロシェンコ氏と共に、記者団に語った。バイデン氏は、オバマ米大統領が11月にトルコで会談したプーチン氏にウクライナ停戦の順守を直接求めたと説明。停戦は、ウクライナ東部で「自由、公正で安全な選挙」が実施できるようにする条件だと強調した。【12月8日 毎日】
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ウクライナ政府にとっては、東部における親ロシア派との抗争のほかに、もう一つ問題が。破綻状態にもある財政状況です。

この問題でもカギを握るのが、ロシアが有するヤヌコビッチ前政権時代に融資した30億ドル(約3660億円)相当の債権です。

当然ながら、現在の対立関係を反映して、ロシアは「きちんと払え!」と返済を迫っていますが、ウクライナ政府には払う資金がありません。

****ウクライナとロシア、30億ドル債務巡り対立****
ウクライナが抱える30億ドル(約3660億円)相当の対ロシア債務を巡り、両国の対立が深まっている。

ウクライナは債務の一部削減などを求めるが、ロシアは応じない方針だ。プーチン露大統領は9日、20日の期限までに返済されなければ、国際的な仲裁機関に提訴する構えを見せている。

この債務は、ウクライナのヤヌコビッチ前政権が2013年12月、ユーロ建て債をロシアに購入してもらう形で借り入れたものだ。

当時のヤヌコビッチ政権は対露関係を重視していた。ロシア側にも、ウクライナを勢力圏につなぎ留めるための政治的な融資という意味合いがあった。

だが、ロシアが14年3月にウクライナ南部クリミアを併合したことで、両国関係は決定的に悪化した。14年6月に発足したウクライナのポロシェンコ現政権は明確に欧米寄りだ。

こうした経緯から、ウクライナ政府は、債務の一部削減や返済期限の繰り延べなどを求めている。【12月11日 読売】
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受け入れられなかったロシアの思惑
ロシアは単に返済を迫るだけでなく、“柔軟”とも評される提案も行ってきました。

****プーチン氏、突然柔軟に・・・ウクライナ債務見直し****
ロシアのプーチン大統領は16日、主要20か国・地域(G20)首脳会議閉幕後の記者会見で、ウクライナが抱える30億ドル(約3600億円)の対ロシア債務について、12月に迎える返済期限の見直しに応じる用意があると表明した。

ウクライナは2014年3月に南部クリミアを併合したロシアと対立しているが、13年12月に30億ドルの財政支援をロシアから受けており、その返済を求められている。ウクライナ問題をめぐるロシアと米欧の関係悪化が続く中、プーチン氏は経済状況が厳しく返済が困難なウクライナに突然、柔軟な姿勢を示し、国際社会の意表をついた。

大統領は30億ドルについて年内の一括返済は求めず、米国か欧州連合(EU)、国際金融機関が返済を保証することを条件として、16年から18年までの3年間に10億ドルずつ返済する案を示した。【11月17日 読売】
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“柔軟”と言えば柔軟かもしれませんが、ロシアからすれば、返済義務を欧米諸国に負わせたうえで、欧米との協調体制を築き、ひいては対ロシア制裁解除へ・・・という目論見とも思えます。

この提案は欧米側は拒否したように聞いています。プーチン大統領はロシアの閣議のような場で「こんなに配慮してあげたのに、断るなんて不思議なことだ。仕方ない、全額返してもらおう。返済できないなら提訴しなさい。」みたいな発言をしていました。

ただ、欧米側もウクライナの債務を引き受ける気はないものの、ロシアと対峙している今、ウクライナに破綻されても困りますので、IMFを通じて異例の支援に乗り出しています。

****IMF、債務支払い延滞国への融資継続を可能に-ウクライナを念頭に方針変更、ロシアは反発****
IMFは12月10日、債務支払いの延滞国に対する融資方針の変更を発表した。

これまでの「公的債務の返済に遅延が生じている国に対する追加の金融支援は実施しない」という方針を変更し、今後は支払いに遅延が生じていても、一定の条件の下に金融支援を継続できることとした。

新方針が最初に適用されるのはウクライナの見込みだが、ロシアはこの方針変更に強く反発している。【12月16日 JETRO】
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ウクライナが対ロシア債務を踏み倒してもIMFはウクライナ支援を続ける・・・ということです。

ロシアとウクライナ・欧米の対立の構図は当面続く
ロシアは、欧米側のウクライナ支援及び対ロシア制裁体制の継続に落胆し、また、怒っています。

****ウクライナの対ロシア債務の行方****
国際公共政策研究センター理事長・田中直毅
シリア難民の大量発生と、その背後にある過激派組織「イスラム国」(IS)の暴虐に対する危機感の高まりのなか、ウクライナ政府内では、課題解決の優先順位が西側全体の中で引き下げられるのではないか、という疑念が高まりつつある。

ISへの空爆において、ロシアは米、仏、英と横一線になった。

ウクライナ東部においては、依然としてロシアの影響下にある反政府勢力の軍事活動が止まらないことから、いわゆる西側からの対ロシア経済制裁が続く。

プーチン政府は今回、間違いなく反ロシアの潮目の変化を望んでいたし、逆にウクライナ政府は西側で対ロシア融和策が採用されるのではと懸念していた。

しかし、バイデン米副大統領の首都キエフ訪問によって、ウクライナ政府は一息つくことができた。対ロシア経済制裁の解除は、ロシアに支援された分離主義者による侵略が続く限り、あり得ないと彼が明言したからだ。

そしてこの時期に合わせるように、国際通貨基金(IMF)はウクライナ財政の救済を急ぐため、「IMF加盟国に対する債務支払いを停止した国に対しては、資金援助を行わない」という長年の基本姿勢を変更した。

これは、12月20日に支払期限が到来する同国のロシア向けの負債30億ドル(3660億円)を想定した決定といえよう。

怒ったのはロシアだ。国際的な訴訟を提起する方針だという。そして、ロシアの支援体制にもかかわらず2年前に退陣の憂き目にあった旧ヤヌコビッチ政権よりも今日の政府の腐敗はひどい、とウクライナに対する批判を強める。

この点はバイデン副大統領も容赦せず、自浄作用が必要だと指摘した。公共料金の引き上げなどの緊縮策の行方を含めて、ウクライナの着地点はいまだ定かではない。【12月15日 毎日】
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こうした流れで、ロシアとウクライナ・欧米の対立の構図は当面続くところとなっています。

****ロシア ウクライナとの自由貿易制度停止へ****
ロシアのプーチン大統領は、来月からウクライナがEU=ヨーロッパ連合との貿易自由化に踏み切ることを受けて、これまでのウクライナとの自由貿易制度を停止することを決め、経済分野でもウクライナのロシア離れが進むことになります。

ウクライナとEUは去年、貿易自由化で合意しましたが、自国の経済に影響が出るとしてこれに強く反対するロシアと、自由貿易への移行を巡って三者協議を続けてきました。

しかし、三者協議は平行線のまま結論が出ず、ウクライナとEUは、来月1日から予定どおり貿易自由化に踏み切ると確認しました。

これを受けて、プーチン大統領は16日、これまで旧ソビエト諸国の枠内で続けてきたウクライナとの自由貿易制度を停止する大統領令に署名しました。

ウクライナとの自由貿易制度を停止する理由について、ロシア政府は、ウクライナとEUの貿易自由化が進めば、EUの製品がウクライナを経由して、関税をかけられないまま安い価格で流入するとして、ロシア経済が打撃を受けることを防ぐためだと説明しています。

ウクライナのポロシェンコ政権は、外交や安全保障で欧米寄りの政策をとっており、今回のロシア側の措置によって、経済分野でもウクライナのロシア離れが進むことになります。【12月17日 NHK】
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EUの対ロシア制裁も延長されます。

****<EU>対露制裁延長 1月から半年間 18日にも合意****
欧州連合(EU)はロシアに対する経済制裁を来年1月から半年間延長する。イタリアが難色を示していたが、18日にも合意する見通しになった。

今年2月のウクライナを巡る停戦合意が完全履行されなかったためでロシアのウクライナ軍事介入を巡る露EUの対立は来年も続くことが決定的となった。(中略)

経済制裁が延長されることで、ロシアとEUの関係改善は大幅に遠のいた。
欧州諸国は先月のパリ同時多発テロ以降、過激派組織「イスラム国」(IS)対策でロシアと共同歩調を取ることを模索しているが、対IS空爆の調整などに影響が出る可能性もある。【12月18日 毎日】
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NATOも「ロシアがウクライナ東部から撤兵していない」と、改めてロシア側の停戦合意不履行を批判しています。

****<NATO>露を批判 ウクライナ停戦合意不履行****
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は17日、プーチン露大統領がウクライナ東部にロシアの軍関係者がいることを事実上認めたことについて、「ロシアがウクライナ東部から撤兵していない」と停戦合意の不履行を批判した。

ブリュッセルのNATO本部にウクライナのポロシェンコ大統領を迎えた際の記者会見で述べた。事務総長は「私たちは何度もウクライナ東部にロシアの軍関係者がいると指摘してきた」と指摘。大統領が一貫してロシアの軍関係者の存在を否定してきた姿勢に不満を表明した。

プーチン氏は17日の記者会見で、ロシア軍部隊ではないと主張しつつ「軍事分野の問題にあたる人々が現地(ウクライナ東部)にいないと言ったことはない」と発言した。

ストルテンベルグ氏は、「軍事分野の問題にあたる人」は「通常は兵士と呼ぶ」と指摘。外国人部隊の撤退を定めた今年2月の停戦合意(ミンスク合意)の「完全な実施」をロシアに要求した。【12月18日 毎日】
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「軍事分野の問題にあたる人」・・・面白い表現です。「通常の兵力ではない」としながらも、“「ロシア軍人はウクライナ東部にいない」という従来の主張を事実上軌道修正したとみられる。”【12月18日 朝日】とも。

なお、17日のプーチン大統領記者会見では、“欧米が対ロシア制裁緩和の条件とするウクライナ東部での停戦合意の完全履行についても言及。ウクライナ政府と親ロシア派の対話は停滞し、年内の履行期限は守れないことが確実だが、「(親ロ派を)説得する」と約束した。”【12月17日 時事】とも。

ウクライナの対ロシア債務30億ドルについては、ウクライナ政府は返済停止を表明しましたので、今後、この問題が先鋭化することも考えられます。

****ウクライナ情勢】対露債務返済を停止****
ウクライナのヤツェニュク首相は18日、ロシアに対する30億ドル(約3600億円)の債務返済を一時的に停止する考えを明らかにした。ロシアが債務再編に応じないためとしている。ロシアはウクライナに対し、法的措置を取る方針。

国際通貨基金(IMF)はウクライナの債務返済が滞っても支援を継続する方針を決定しているほか、米ファンドなど他の主要債権者は再編に同意しており、国際金融市場に大きな影響はないとみられる。

ロシア側は「返済停止はデフォルト(債務不履行)と同意だ」(ウリュカエフ経済発展相)と主張し、ウクライナへの批判を強めている。【12月19日 産経】
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素人目からすれば、「東部の問題はあるにせよ、借りた金はやはり返さないとデフォルトだろう・・・」という感がありますが・・・。
アメリカの裁判所は昨年、アルゼンチンと債務編成に応じないアメリカの“ハゲタカ”投資ファンドの争いで、ファンド側の主張を認め、アルゼンチンは事実上のデフォルトに追い込まれています。

ウクライナ政権の汚職・腐敗体質も続く?】
また、ロシアが“ロシアの支援体制にもかかわらず2年前に退陣の憂き目にあった旧ヤヌコビッチ政権よりも今日の政府の腐敗はひどい”【前出 毎日】と批判するウクライナ政権のゴタゴタも報じられています。

****ウクライナ 政権内部の対立が深刻化*****
ウクライナでは、警察のトップを務める内相がみずからを「泥棒だ」と批判した州知事に水の入ったコップを投げつけるなど、政権内部の対立が深刻化しています。

ウクライナのアバコフ内相は16日、大統領や閣僚らが参加して2日前に行われた政治改革についての会議の様子をインターネット上で公開しました。

この中で、汚職対策のため大統領に要請され南部の州知事に就任したサーカシビリ氏が、「アバコフ内相は泥棒だ。ウクライナの全員が知っていることだ」などと述べ、汚職まみれだと批判しました。

これに対し、アバコフ内相は水の入ったコップをサーカシビリ氏に向かって投げつけ、突然立ち上がり、会議は中断しました。ポロシェンコ大統領は、今回の件について「恥ずべきことだ」とコメントしています。

サーカシビリ氏は、かつてグルジアと呼ばれた旧ソビエトのジョージアで政変を主導し、その後大統領に就任、反ロシアの急先ぽうとして知られ、ロシアに対抗する人材として大統領みずからが知事に任命しました。

クリミアの併合をきっかけにロシアと対立するウクライナでは、汚職が深刻な社会問題となっていて、政権内部での対立も深刻化しています。【12月17日 NHK】
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グルジア前大統領からウクライナの州知事へというサーカシビリ氏の転身は面白いですが、汚職撲滅のため“奮闘”しているようです。

同氏はジョージアでは職権乱用罪などで訴追されており、事実上の国外亡命中。今年2月からポロシェンコ大統領の顧問を務めていましたが、5月に親ロシア派の勢力が強い南部オデッサ州の知事に任命されています。
グルジア時代にロシアへ開戦した対ロシア強硬姿勢が買われ、親ロシア派封じ込めが期待されているとも。
ウクライナ語は話せるのでしょうか?

サーカシビリ氏の話はともかく、バイデン副大統領も自浄作用を求めるウクライナ政権の体質改善がなるか・・・改善しないなら支援を打ち切るといった強い姿勢で欧米側が臨まない限り難しいでしょう。

なお、IMFはウクライナ支援継続の条件として、財政改革を含んだ予算を議会が承認することを強く求めています。議会では11日、演説していた首相が、反対派議員に担がれて運び出されそうになる混乱もありました。
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混迷を続ける中部アフリカ諸国・・・・中央アフリカ、コンゴ、ブルンジ

2015-12-18 22:21:18 | アフリカ

(11月30日、中央アフリカ・バンギのイスラム教徒の住む地区を訪れ、人々に手を振るローマ法王フランシスコ(AP)【11月30日 産経フォト】)

中央アフリカ:忘れ去られた人道危機
フランス・パリやアメリカで十数人が殺害されれば大ニュースとなって連日取り上げられ、国際的な関心が寄せられますが、ベイルートのテロやシリアの戦乱で数十人が死亡しても、たいしたニュースともなりません。

ましてや、アフリカの奥地で内戦が起きようが、数百・数千人が殺害、あるいは飢えで死のうが、世界からは殆ど関心を払われることもない・・・というのが日本や欧米世界の現実です。

そんなアフリカ奥地の話題。

文字通りアフリカ大陸中部に位置する中央アフリカでは、一昨年来、イスラム武装武装勢力と政府軍の戦闘、キリスト教系大統領の追放、旧宗主国フランス軍の介入、キリスト教系女性大統領の誕生、キリスト教民兵による報復・・・といった内戦による混乱が続いていますが、一応、昨年7月に戦闘を続けていたイスラム教徒とキリスト教徒の武装勢力が停戦に合意した形にはなっています。

少年兵の解放などについても、2015年5月7日ブログ「中央アフリカ 忘れ去られた人道危機 ようやく少年兵解放の動き」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150507で取り上げました。

しかし、混乱は未だ収まっていないようです。

****<中央アフリカ>イスラム系の武装勢力が自治政府樹立宣言****
キリスト教徒とイスラム教徒の対立が続くアフリカ中部・中央アフリカ共和国で、イスラム教徒主体の武装勢力が15日までに、北部カガ・バンドロを拠点とする自治政府樹立を一方的に宣言、分離独立を目指す意向を明らかにした。

中央の暫定政府は宣言に猛反発して国際社会の介入による独立阻止を訴えており、混乱が広がる恐れもある。

ロイター通信によると、武装勢力幹部は「まず望むのは自治だ。その後、独立を検討する。イスラム教徒は無視され、北部は中央政府から見捨てられてきた」と述べた。

中央アフリカはキリスト教徒が全体の約5割で多数派を形成し、イスラム教徒は北部を中心に約15%を占める。

イスラム教徒主体の武装勢力セレカが2013年3月に首都バンギを攻略し、当時のボジゼ大統領が国外に脱出。その後、セレカが支配を強めたが、ボジゼ政権を支えたキリスト教徒側も武装して抗戦。

両教徒の宗教対立に発展し、衝突が全土に拡大した。この結果、人口の約2割が難民・避難民となり、深刻な人道危機が起きた。

今回独立の意向を表明したのは、セレカ系の組織。暫定政府は今月27日に大統領選などを実施して、政情安定化の道筋をつけたい意向だが、セレカ側がこれに反旗を翻した形だ。

暫定政府だけでなく、同国に展開する国連PKOも国家分断の動きを強く非難しており、緊張が高まりそうだ。【12月16日 毎日】
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イスラム教徒とキリスト教徒の武装勢力の対立・抗争については、宗教ではなくもっと何か深いものに根差しているとの指摘も。

****中央アフリカの戦闘は宗教紛争か、深層に民族対立 悪政 嫉妬****
今回の紛争は2013年3月、主にイスラム教徒からなる武装勢力連合「セレカ」が首都バンギを制圧し、フランソワ・ボジゼ大統領(当時)を失脚させたことが始まりだ。

これに対し、キリスト教徒を中心としたボジゼ氏支持派の「反バラカ」と呼ばれる民兵組織が台頭し、イスラム教徒に復讐。以降、双方が虐殺、レイプ、略奪と血みどろの報復合戦を繰り広げた。

セレカはおおむね中央アフリカの北部と東部の出身者と、隣国のスーダンとチャドからやって来た主にイスラム教徒の戦闘員から構成されている。

一方の反バラカは、主にボジゼ氏の出身部族で、中央アフリカの中部と南部出身のムバヤ人から構成されている。

しかしセレカ、反バラカのいずれも、お守りや魔除けを使うなど精霊信仰が強く、専門家たちはお互いの憎悪は宗教ではなくもっと何か深いものに根差していると考えている。(後略)【2014年7月29日 AFP】
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“お互いの憎悪は宗教ではなくもっと何か深いものに根差している”・・・・それが何かはさだかではありませんが、汚職・腐敗が蔓延する政治、民主主義・人権に関する理解が未だ定着していない社会・政治、経済成長の果実が一部の者に独占され、多くの人々が貧困と失業に苦しんでいる経済格差・・・そうした状況での人々の不満がはけ口としての憎しみの対象を求め、ストレートな暴力となってぶつけられているように思われます。

中央アフリカについてメディアで取り上げられる機会は少なく、前回5月7日ブログ以降では、6月に和平維持にあたるフランス軍の現地子供への性的暴力(食料を与える見返りに性行為を強要)が報じられていました。

そして10月には、イスラム教徒からなる武装勢力連合「セレカ」とキリスト教徒を中心とした「反バラカ」と呼ばれる民兵組織の抗争が報じられています。

****<中央アフリカ>宗教間対立激化 衝突で42人死亡****
キリスト、イスラム両教徒の対立が小康状態となっていたアフリカ中部・中央アフリカ共和国で再び衝突が起こり、AP通信によると9月下旬からの死者数が少なくとも42人に上った。混乱を受け、10月18日に予定されていた選挙は延期となった。

9月26日に首都バンギで、殺害されたとみられるイスラム教徒の男性1人の遺体が発見された。これをきっかけに、両教徒の武装グループが互いに相手を襲撃する報復合戦になった模様だ。

治安が悪化する中、28日にはバンギ市内の刑務所から500人以上の受刑囚が脱走する事件も起きた。AP通信によると、脱走者には両教徒の民兵組織の幹部約60人が含まれており、さらなる事態悪化につながりかねない。

ロイター通信によると、29日には同国に展開する国連平和維持部隊とキリスト教徒の民兵組織との間で戦闘があった。(後略)【10月4日 毎日】
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こうした状況を懸念したローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は11月29日に中央アフリカを訪問し、宗教間衝突の当事者らに対し武器を置くよう求めました。

****武器を捨てよ」 ローマ法王、宗教対立続く中央アフリカで訴え****
アフリカ3か国を歴訪中のローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は29日、最後の訪問国である中央アフリカを訪れ、同国で続く宗教間衝突の当事者らに対し武器を置くよう求める平和のメッセージを発信した。

ウガンダから到着した法王は、首都バンギの大統領府までの短距離を専用車「パパモビル」で移動。子どもや若者など大勢の群集から熱狂的な歓迎を受けた。

大統領府では、カトリーヌ・サンバパンザ暫定大統領と会見。同暫定大統領は、同国を破壊した宗教間抗争という「悪」に対する許しを求めた。

法王はその後、バンギ大聖堂で執り行ったミサで、許しと和解に捧げられる「いつくしみの特別聖年」の始まりを象徴する「聖なる扉」を開いた。

特別聖年は12月8日に正式に開始されるが、「聖なる扉」の開放は象徴的な始まりを意味する。「聖なる扉」の開放は従来、バチカンもしくはイタリア・ローマの教会本部でのみ行われてきた。

ミサで法王はさらに、「現世の武器を不正に使う全ての者に訴える。こうした死の道具を捨てよ」と呼びかけた。

同国の人口の3分の1を超える170万人のカトリック教徒が暮らす中央アフリカは2年以上前、長期にわたり政権を担ってきたキリスト教徒のフランソワ・ボジゼ大統領が、イスラム教徒を主体とする反政府勢力「セレカ」に追放されたことがきっかけとなり、1960年の独立以来最悪の危機に突入した。

それ以来、旧フランス植民地の同国では、元セレカ構成員とキリスト教系民兵組織「反バラカ」との衝突が続いている。【11月30日 AFP】
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冒頭の「イスラム系の武装勢力が自治政府樹立宣言」というニュースからすると、法王の願いはしばらくは実現しないようです。

コンゴ:地域社会を破壊する『兵器』としてレイプ
中央アフリカ共和国の南に位置するのがコンゴ民主共和国(旧ザイール)。

コンゴも、特に東部では民族対立や地下資源をめぐる武装勢力の衝突で、多くの武装組織が跋扈する極めて不安定な状況が続いていおり、「失敗国家」「破綻国家」の代表例として挙げられることも多い国です。
地域社会を破壊する『兵器』としてレイプ・性暴力が横行していることで取り上げられることも。

****無差別性暴力、内戦の闇 コンゴ民主共和国、救済進まず****
内戦状態が続くアフリカ中部のコンゴ民主共和国(旧ザイール)。紛争下で、多くの女性たちが無差別的なレイプを受け続けている。救済に取り組む現場の医師たちは、国際社会がもっと被害に目を向けるべきだと訴えている。

 ■連れ去られ、幼児までも
午前7時、東部ブカブ近郊のパンジ病院。鉄製の柵で守られた病院の中庭に、民族衣装の女性たちが集まってきた。太鼓のリズムに合わせて、スワヒリ語の聖歌を歌う。ほぼ全員がレイプの被害者だ。

病院では内戦が始まった1998年から、兵士らに性暴力を受けた女性たちを受け入れてきた。その数は計約3万人に上る。

被害女性の多くは、けがをしているだけでなく、家族の面前でレイプされ、精神的な傷を負っている。
そのため、病院では運び込まれてもすぐに手術をせず、まずは何が起きたのかを理解させる。多くは自暴自棄になっており、手術をしても、食事を取らなかったり、薬を飲まなかったりするからだ。産婦人科医は「元通りの暮らしに戻れるまでには、少なくとも1年かかる」と話す。

院内のケア施設では約200人の女性が暮らす。30代の女性が「事実を知ってほしい」と取材に応じた。

99年、教会で礼拝中に武装集団に囲まれ、2人の女性とともに森に連れ去られてレイプされた。翌日、女性2人は逃げようとしたが見つかり、灯油の入ったバケツを頭に担がされ、火をつけられて亡くなった。

その後、自身は武装集団の部隊長の「妻」にさせられ、森で暮らした。レイプは続き、3人の子どもを産んだ。4年たったある日、部隊長に「なぜ言うことを聞かないんだ」と銃剣でのどを刺された。数週間後、兵士らが出かけた隙に子ども3人を連れて逃げた。
 
「今の不安は子どもたちのこと。父親が戦場のレイプ魔だったと知ったら、どんなに悲しむか」
 
子どもの被害も少なくない。ブカブ北方の村で母親(33)の足にまとわりついていた少女(3歳10カ月)も、その一人だという。
 
母親によると、2014年9月上旬、少女を置いて外出している間に武装集団が侵入し、少女を襲った。村ではその日、18歳までの計20人がレイプされたという。母親は「毎日おびえている。逃げたいが、避難場所が見つからない」。
 
病院の運営担当者は「病院でケアを受けている200人のうち、25人は10歳未満の子どもだ」と話した。

 ■「影響、何世代も続く」治療するムクウェゲ医師
パンジ病院の設立者、ドニ・ムクウェゲ医師(60)は・・・・「この国の内戦は、資源の支配権をめぐる経済戦争だ」とも指摘する。

市民を殺し、レイプする武装勢力の支配地域は、世界中でつくる精密機器に欠かせないレアメタルの産地でもある。「経済的な利益の裏には、人生を破壊されている多くの女性がいることを知り、少しでも救済に手を貸してほしい」

 ■「年40万人以上」報告も 2006~07年
同国では13年末、政府軍と反政府勢力「M23」が和平協定を結んだが、東部を中心に内戦状態が続く。

昨年9月の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告書によると、東部では昨年初めの時点で54の武装集団が活動。武装集団だけでなく、政府側の治安部隊の隊員らも女性をレイプしており、「薪集めやトイレの使用ですら安全に行えない状況」だ。

レイプの被害者については、内戦状態で調査が難しく、大多数の被害者が名乗り出ないため、数を特定するのは難しい。

AFP通信によると、米国の公衆衛生専門家が11年に米学術誌に発表した報告では、06~07年の1年間でレイプされた15~49歳の女性は40万人以上。パンジ病院の関係者は「実際の数はだれにもわからない」と話す。【11月19日 朝日】
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ブルンジ:内戦の瀬戸際
荒れるコンゴ民主共和国東部に接する小国ブルンジもまた、今年7月に憲法規定の独自解釈で3選を決めたヌクルンジザ大統領の去就を巡り、当局と反大統領派の市民が衝突を繰り返し、不穏な情勢となっています。

そうした危機に、アメリカ・オバマ大統領が「深い懸念」を表明、国連安保理も国連事務総長に対応策を早急に求める決議を行ったことは、11月13日ブログ「アフリカ中部ブルンジ 隣国ルワンダで起きた大虐殺を想起させる表現で反対派弾圧を示唆」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151113でも取り上げました。

****首都の軍事施設襲撃で87人死亡、ブルンジ****
アフリカ中部ブルンジの軍当局は12日、同国首都ブジュンブラで11日に発生した武装集団と治安部隊の衝突により、79人の「敵」と8人の兵士が死亡したと発表した。

過去数か月にわたり政情不安が続く中、最多の死者が出たことが明らかになった。同市の路上には遺体が散らばり、その多くは銃で撃たれているという。

衝突は、身元不明の武装集団が同国の軍事施設3か所を襲撃したことから始まり、治安部隊が反撃。

目撃者数人の証言によると、警察と軍はブジュンブラ市内の反体制派の拠点をしらみつぶしに捜索し、複数の若者を屋外に引きずり出して殺害したという。

同国軍の報道官は、「11日の襲撃で79人の敵が殺害され、45人が拘束され、武器97個が押収された。政府側では、8人の兵士が死亡し、21人が負傷した」と述べた。【12月13日 AFP】
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****ブルンジは内戦の危機=国連弁務官****
ザイド・フセイン国連人権高等弁務官は17日、国連人権理事会で演説し、大統領派と反大統領派の衝突が激化しているアフリカ中部ブルンジ情勢について「内戦の瀬戸際にある」と危機感を表明した。【12月18日 時事】
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ブルンジは、隣国ルワンダ同様にツチ・フツの抗争による虐殺を経験しているだけに、内戦の混乱が再びそうしたジェノサイドに至る危険もあります。

いつも言うように、アフリカをこうした内戦や混乱、貧困と飢餓などの側面からのみ見ることは誤りで、アフリカは世界でも最も急速に経済成長している地域でもあります。

しかしながら、中央アフリカ、コンゴ、ルワンダ、あるいはソマリア、ナイジェリアのイスラム過激派などに見られるような「むきだしの暴力」が横行する地域が多いのも事実です。

旧植民地支配による社会の歪み、独立後の政権に蔓延する腐敗・汚職・人権軽視、豊富な資源を巡る利権争い、成長の恩恵を受けることなく貧困に捨て置かれた人々・・・そうした状況に民族・宗教の対立なども加わっての混乱と言えます。

ただ祈るだけでは「いつくしみの特別聖年」は訪れません。「忘れ去られた人道危機」とならないように国際社会が関心を向けて、対策を講じていく必要があります。
国際的な介入では根本的な問題は解決しないのも事実でしょうが、混乱を座視することもできません。
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マリーヌ・ルペンと気候変動 ナショナリズム(国家主義)とインターナショナリズム(国際主義)

2015-12-17 22:19:27 | 国際情勢

(フランスのルペン国民戦線党首=AP 【12月11日 日経】)

アメリカ:勢いが止まらないトランプ氏
アメリカの共和党大統領選挙候補者トランプ氏の「イスラム教徒入国禁止」発言に関して、15日発表世論調査では賛成36%、反対60%とのことですが、共和党支持者に限ってみれば賛成が59%と多数派を占めているそうです。【12月17日 朝日】

そうしたことから、トランプ氏の支持率も14日発表の世論調査によると前回10月の調査時より13ポイント増えて41%に達しています。【12月16日 毎日】

共和党主流派には、過激な発言を繰り返すトランプ氏では本選で民主党クリントン氏には勝てないのはもちろん、マイノリティー支持を失い共和党全体にとってもダメージになるとの認識もあって、“指名候補を最終決定する来年7月の党全国大会でトランプ氏を引きずり降ろすシナリオもささやかれている。”【12月16日 産経】とか。

ただ、“同氏が全国委員会との誓約書をほごにして第3党で出馬されれば保守票が食われ、民主党を利することになりかねない。主流派はそんなジレンマを抱えている”【同上】とも。

共和党内でトランプ発言賛成が過半を占める状況で、他候補者のトランプ批判も及び腰になっています。

****分断大国 2016米大統領選)トランプ氏発言に賛否 共和党9候補TV討論会****
来年の米大統領選に向けた共和党テレビ討論会で、ドナルド・トランプ氏の「イスラム教徒入国禁止」発言に同党候補の評価が割れた。

一方、国内外でテロ事件が相次いだ後とあって、世論の風をつかもうと、首位をうかがうテッド・クルーズ、マルコ・ルビオ両上院議員が競うように対テロ強硬姿勢を強調した。

 ■「イスラム教徒入国禁止」クルーズ氏は擁護
米CNNなどが主催した討論会には世論調査で支持率上位の9人が登場した。
 
トランプ氏は7日、パリでのテロ事件やカリフォルニア州での銃乱射事件を受けて、イスラム教徒の米国入国禁止の声明を発表。この日も「イスラム過激派は過去よりはるかに活発化してきた。(だから)人々は私を尊敬している」と強調し、声明発表後も党内で支持率首位を維持していることを自賛した。

これを正面から批判したのが、支持率の落ち込みが著しいジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事だ。過激派組織「イスラム国」(IS)と戦うイスラム教徒の協力を得られなくなると指摘し、「トランプ氏の提言はまともではない」と断じた。

これに対し、最近の調査で支持率2位に浮上した保守強硬派のクルーズ氏は「なぜトランプ氏があの提案をしたのか理解できる」と擁護した。

ルビオ氏も、トランプ氏の声明を一定割合の国民が好感していることに「オバマ大統領が我々の安全を守っていないからだ」と政権を批判したが、直接の評価は避けた。

米紙ワシントン・ポストなどが実施し、15日発表した世論調査では、トランプ氏の提案に6割の人が「間違っている」と答えたが、共和党支持層では「支持」が59%と多数派に。国内外で物議をかもした「トランプ声明」の評価が、候補者間でも支持層でも割れている。

 ■対テロ、強硬姿勢競い合い
IS関連の事件が相次いだことで、共和党支持層では、大統領選で重視する政策は「テロ対策」が最多の38%を占めるようになった。

こうした世論の風向きをつかもうと、各候補が安全保障や治安対策での強い姿勢を印象づけるため、互いに競い合う場面も目立った。(中略)

 ■マララさん「憎悪に満ちた発言」
昨年のノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(18)が15日、トランプ氏について「憎悪と差別的なイデオロギーに満ちた発言を聞かされるのは本当に悲劇的だ」と批判した。(後略)【12月17日 朝日】
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フランス:かろうじて右翼・国民戦線(FN)の台頭を抑える
フランスでは12月6日に行われた地方選第1回投票で、右翼・国民戦線(FN)が仏本土13州(コルシカ島含む)のうち6州の得票率で首位となる躍進を見せました。

全国得票率でも27.96%を獲得して第1位となり、サルコジ前大統領が率いる最大野党、共和党など右派連合の26.89%。オランド大統領の与党で左派の社会党の23.33%を凌ぎました。

躍進の背景には、「移民受け入れをただちに中止せよ」と大量の移民を「脅威」と訴える主張が、テロに震える多くの国民に届いたことの他、エリートによる政治を批判し、「主権」や「愛国」という言葉を操り、弱者に寄り添う姿勢をアピールしたことが奏功したと指摘されています。

****主権の回復」声高に訴え****
エリートによる政治を批判し、民衆とともにあるという意味で「私はポピュリストだ」と語るルペン。地域圏議会選の遊説でも「主権」や「愛国」という言葉を操り、弱者に寄り添う姿勢を際立たせた。

欧州連合(EU)の加盟国をはじめ外国との競争に苦しむ中小規模の農家への配慮を怠らない。流通業者の値引き圧力や激しい競争で、肉や乳製品の値段は下がった。この夏、パリの街角に農家がトラクターを乗り入れ、抗議の声を上げた。(中略)

国民の生活を苦しくしただけの共通通貨ユーロはやめる。国境は独自に管理する。農業をはじめとする政策はフランスが決める――。仏紙リベラシオンの政治記者、ドミニク・アルベルティニ(28)は「もたつく経済への対応も、治安の確保も、FNが国民に示す解決策の底流に『主権の回復』がある」と指摘する。

愛国の向こうに見据えて攻撃するのは、EUに屈したと映るフランスの既存政党と、EUだ。「女王」とも呼ばれるドイツ首相メルケル(61)も例外ではない。【12月8日 朝日】
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一見したところ、もっともな主張にも見えますが、「主権」や「愛国」の強調は、国内少数派の権利や他国との協調を無視し、やがては国内の個人の権利に挑むものともなる危険を孕むところが“右翼”“極右”と呼ばれる所以です。

第1回投票では過半数を制する政党がなく、上位政党で争われる13日の第2回投票が注目されていました。

****仏右翼政党、地方選全敗で首長届かず 既成政党巻き返す****
フランスの地方選(第2回投票)が13日投開票された。右翼・国民戦線(FN)が日本の関東や近畿などにあたる「地域圏」で初の首長の座を狙ったが、届かなかった。

11月の同時テロを背景に、「反移民」を唱えるFNが第1回投票では躍進したが、その後政権与党・社会党が対FNの包囲網づくりに動き、既成政党が巻き返した。
 
内務省の集計(開票率98%)によると、FNの得票率は全国で27%。これに対し、サルコジ前大統領が率いる中道右派・共和党などの右派勢力が41%、社会党などが29%だった。投票率は58%と第1回投票より9ポイント上がった。
 
今回の地方選は、13ある地域圏の議員選。その議長は地域の行政も担う首長の座にあたる。FNはテロ後に、「移民や難民に紛れてテロリストが入り込んでいる」と反移民のトーンを強め、6地域で首位に立って第2回投票に臨んだ。【12月14日 朝日】
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右翼・国民戦線(FN)が勢いを失ったのは、“第1回投票より9ポイント上がった”ことに示される、国民戦線躍進への危機感が高まったこと、及び、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(47)や姪のマリオン・マレシャルルペン氏(26)が出馬して4割を超える得票を得ていた両地区で与党・社会党が第2回投票への不出馬を表明、ライバル共和党への投票を呼びかけるなどの対FNの包囲網づくりを行ったことなどによるものと説明されています。

かろうじて国民戦線を抑えた形ではありますが、国民戦線は“悲願である初の地域圏獲得こそ逃したものの、決選投票の得票数で2012年大統領選からの上積みを達成。ルペン党首は「われわれを止めることは誰にもできない」とさらなる支持拡大に意欲を見せる。”【12月14日 時事】とも。

****本当の危険はトランプ氏ではなくルペン氏*****
(2015年12月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
・・・・高い失業率、生活水準の停滞、移民流入の増加が続いた末に、グローバル化は攻撃的な愛国主義の発生につながった。

ルペン氏は人々の不安と偏見を手玉に取っている。敵は「アウトサイダー」で、この場合はイスラム教徒と国際資本主義だ。

その問題に対するルペン氏の答えは、国境の封鎖と国家の経済統制の復活だ。政治は「ナショナリストとグローバリスト」の戦いになったのだという。このメッセージは、右派の排外主義者だけでなく幻滅した左派の有権者にも同等の訴求力をもっている。(中略)

国民戦線を率いるルペン氏はただの不快なポピュリストの一人ではない。欧州が永遠に捨て去ったはずの過去への回帰を約束しているのだ。(中略)

ルペン氏のような現代の国家社会主義者も、(ヒトラーのように)それと同じ人々の理屈抜きの感情を揺り動かしている。すなわち、内と外の敵に対して国を「復興」させなければならないという感情だ。これは本当に危険だ。【12月11日 日経】
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国際主義が結果を出したCOP21
一方、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)は12日夜、史上初めて、温室効果ガスの排出削減の取り組みに途上国も含む全ての国・地域が参加する枠組み「パリ協定」を採択したことは、12月15日ブログ“温暖化対策  すべての国・地域が削減に参加する初めての枠組み「パリ協定」で合意”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151215で取り上げたところです。

下記記事は、フランスやアメリカの政治動向、COP21の「パリ協定」合意を、ナショナリズム(国家主義)とインターナショナリズム(国際主義)の視点から捉えたものです。

****マリーヌ・ルペンと気候変動とナショナリズムの敗北****
世界中で繰り広げられる国家主義者と国際主義者の戦い
(2015年12月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

この週末、フランスでナショナリズム(国家主義)とインターナショナリズム(国際主義)の相対的な強さが試された。そして今回はインターナショナリストたちに軍配が上がった。

パリでは、フランスのローラン・ファビウス外相が明るい緑色の小づちを振り下ろし、200カ国近い国々が気候変動対策で合意したと宣言することができた。

その翌日には、ナショナリストの反移民政党・国民戦線(FN)がフランスの地域圏議会選挙に臨み、いずれの地域でも第1党になれずに終わった。

FNのマリーヌ・ルペン党首は、政治はますますナショナリストとグローバリスト(世界主義者)との戦いになっていると語った。

次第に縮まる勝敗の差
この週末の会議と選挙は、グローバリストがまだ政治を何とか支配していることを示している。だが、勝敗の差は縮小している。

2002年にジャンマリ・ルペン氏がFNの候補者として大統領選挙の決選投票に進んだときの得票率は17%だった。今回の地方選挙では同氏の娘と孫娘(フランスでは、極右政治は家族の仕事だ)が40%を優に超える票を得た。全国レベルでは、FNは現在、30%弱の票を手にしている。

気候変動にかかわる協定が採択されたことは、FNが罵るグローバリストにとって重要な成功だった。

マリーヌ・ルペン氏が、世界において重要な国であることをやめたフランスという将来像を描き、国境の封鎖や国際条約からの脱退などを求めていたまさにそのときに、フランスは国際的な視野を持ち、グローバルな役割を完全に果たすことができる自信に満ちた国であることを立証してみせたからだ。

つい数週間前にテロ攻撃を受けたパリでこの会議が開かれたという事実も、フランスの打たれ強さを示す重要なシンボルになった。

気候変動に取り組む協定の採択が素晴らしい国際協力の1つに数えられることは間違いないが、これを発効させるには数々のハードルを乗り越えなければならない。

この協定に批判的な多くの人々が指摘しているように、パリ協定の条文は、たとえ順守されたとしても、気候変動のペースを緩やかにするという目標にとって十分でない恐れがある。

協定が抱えるこうした弱点は問題だ。なぜなら、ナショナリストとインターナショナリストとの戦いは世界中で繰り広げられているからだ。

気候変動は、ナショナリストにとっては特に苛立たしい問題だ。世界規模で行動を起こして対処するしかないことが明白だからだ。これは、多くのナショナリストが地球温暖化など起きていないととぼける理由の1つだ。

米国では、ドナルド・トランプ氏やテッド・クルーズ氏のような共和党のナショナリストたちが列を成して今回の協定をこき下ろしにかかるだろう。

トランプ氏は、富める国々が発展途上国に排出量を削減してもらうためにお金を払うという事実をまず非難し、恐らくは、自分の交渉力を使えば(国境に作る壁の費用をメキシコに払わせるのとまさに同じように)中国やインドにも資金を出させることができると大声でまくし立てることだろう。

バラク・オバマ大統領は、気候変動対策での合意は米国の指導力の勝利だとすぐに発言したが、これは上記のような批判を早めに封じるための試みだった。

「弱腰オバマ」論の真実
会議に先立って米国と中国が合意していたことがパリ協定の下地を作ることになったことは間違いない。それでもオバマ大統領のこの発言は、米国人以外の人々には自己中心的で不愉快だと思われてしまうだろう。

しかし、オバマ氏の発言は米国内の文脈で解釈しなければならない。米国の現職大統領は自分の味方からも、国際交渉の舞台では弱腰だと批判されるのが常なのだ。

「弱腰オバマ」論が特に説得力に満ちているように聞こえるのは、指導力の強さを落とした爆弾の数で測る場合だ。実際のところ、今回の気候変動に関する協定は、オバマ政権による外交の画期的な躍進の1年の締めくくりになっている。

今年はこの気候変動についての合意に加え、イランの核開発プログラムについても外交で話をまとめ、環太平洋経済連携協定(TPP)という大型の通商協定を結び、キューバとの国交も回復させた。この4つはすべて、何年も実現してこなかったものだ。

これらの取り決めに至るまでの計り知れない忍耐、譲歩の精神、細部への目配り、そして退屈さの容認は、米国の右派に見受けられる暴力的な、あるいは安易な解決策を好む傾向とはまさに対称的だ。

トランプ氏は、イスラム教徒を全員米国から追い出すと公約しているし、クルーズ氏も、中東に爆弾を大量に落として砂漠の砂が燃えて光を放つようにしてやると話している。

国内のナショナリストを倒す必要があったのは、米国人とフランス人だけではなかった。
インドと中国の政府は、西側諸国によって課された自国の経済成長に対する制約を受け入れているとの非難を受けやすい。

だが、折しも北京が息の詰まるようなスモッグに覆われ、インドが依存する氷河が後退するにつれて、中国人とインド人は、気候変動に取り組む共通の国際的利益が、気候変動は西側が生んだ問題であり、西側が単独で取り組まねばならないと主張したくなる願望に勝たなければならないことを理解した。

勝利はまだ当然視できない
気候変動に関する合意とFNの敗北は、グローバリストにとって良い週末を意味した。だが、ナショナリストに対するインターナショナリストの勝利を当然視することはできない。

それどころか、ナショナリスト勢力はまだ、欧州、ロシア、米国、東アジアで力を増している。ナショナリストの物語の糧となる作用――経済の停滞、テロリズム、移民に対する恐怖心――は消え去らない。

しかし、究極的には、ナショナリズムはルペン氏やトランプ氏のような政治家が提起する本当の問題に対して、説得力のある答えを出すことができない。

気候変動協定が認めたように、どれほど不満があろうとも、世界中の国家は共通の利益のために協力せざるを得ないのだ。【12月16日 JB Press】
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保守系400議席で日本が根底から変わる
日本での展望は暗いものが。

週刊現代の最近号の見出し。
「衝撃!!最新衆参選挙予測で自民党が衆議院で単独323議席、おおさか維新も合わせて保守系400議席以上に 民主党は消滅。保守系400議席で日本が根底から変わる」

当然、憲法改正も現実のものとなるでしょう。

もちろん“暗い”というのは私個人の見方にすぎず、国民多数が選択した“明るい将来”と個人の考えがますます乖離しているに過ぎない訳ですが、なんだか気が滅入ります。「いやな渡世だな・・・」



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中国  深刻な大気汚染で「きれいな空気」に商品価値 中国よりもひどいインドの汚染

2015-12-16 22:29:54 | 環境

(〔PHOTO〕gettyimages 【12月15日 現代ビジネス “中国「大気汚染」の本当の話〜募る苛立ち、肺がん死亡率も急上昇”】

屋内でも 国外にも
中国の“PM2.5”濃度に代表される大気汚染の深刻さ、市民生活への影響が連日報じられています。

****北京 大気汚染「赤色警報」 市民生活に影響****
中国の北京は、大気汚染に関する警報の中で最も深刻な「赤色警報」が初めて出されたことを受け、8日から小中学校などが休校になるなど、市民生活に影響が広がっています。

北京市政府は7日夜、重度の大気汚染が72時間を超えて続くことが予想されるとして、大気汚染に関連した4段階の警報のうち、最も深刻な「赤色警報」を初めて出しました。

北京市内は8日も、各地で大気汚染物質PM2.5の濃度が1立方メートル当たり200マイクログラムを超えています。

「赤色警報」が出されたことを受け、北京市政府は市内の小中学校や幼稚園に対して休校とするよう指示を出し、児童・生徒合わせて406人が通う日本人学校も休校となりました。日本人学校が大気汚染を理由に休校となったのは、今回が初めてだということです。

また、北京市内では8日朝から、ナンバープレートの末尾の数字が偶数か奇数かによって市内での走行を制限し、車の数を半分程度まで減らす措置も始まっています。

マスクを着用して通勤していた27歳の会社員の女性は、「北京の住環境や大気汚染は本当にひどい状況だと思う。健康を守るための有効な手段は限られているので内心不安を抱えている」と話していました。

北京市政府は10日まで、車の走行の制限や、大気汚染物質を排出する工場の操業停止などの措置を続けることにしていて、市民生活に影響が広がっています。【12月8日 NHK】
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汚染は屋外だけでなく、屋内にも及んでいます。

****北京の大気汚染濃度、屋内でも「汚染」レベル・・・清華大が発表****
先日、深刻なレベルの大気汚染が発生して最高レベルの「赤色」警報が初めて発令された北京市。外出を控えた市民も多かったようだが、屋内でもPM2.5の吸入量が多くなることが清華大学の研究で明らかになった。中国中央ラジオ局が13日報じた。

記事は、同大学の電子工学部、建築環境検測センターなどが共同で2014年11月から今年1月に実施した調査研究の結果を紹介。407人の参加者による11万時間分の室内データを収集した結果、同市の屋外における平均PM2.5濃度が1立方メートルあたり91.5マイクログラムだったのに対して屋内の平均も同82.6マイクログラムの「軽度汚染レベル」に達していることが判明したと伝えた。(後略)【12月16日 Searchina】
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更に、海を越えて、日本を含む周辺国へも影響が及んでいます。

****中国の大気汚染、海を越えて台湾へ 「北側の窓開けるな」、「非常に汚い」など当局が注意喚起****
台湾では15日午後、大気中のPM2.5の濃度が高まった。中国大陸の上海付近から汚染された大気が海を越えて到達したため。中華民国行政院(台湾政府)環境保護署空気保護処は外出をできるだけ控えたり、北側の窓を閉めるように注意を促した。

16日になっても大気の世ぼれた状態は続いている。汚染がひどいのは台湾北部から西部沿海地区で、基隆では同日午前8時(日本時間同日午前9時)現在のPM2.5の濃度が空気1立方メートル当たり72マイクログラムだ。

台湾の環境保護署はPM2.5による大気汚染を10段階に色分けして表示している。「汚染が最もひどい」とされる空気1立方メートル当たり10マイクログラム以上は「紫色」の表示であるため、「紫爆」という言い方も定着した。【12月16日 Searchina】
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当局「『浄化された空気』を販売することはできない」】
こうした状況で、「きれいな空気」に対価を要求することの是非が問題になったとも。

****きれいな空気には商品価値  大気汚染の中国で飲食店が客に料金請求、当局「認められない****
新華社系のネットメディア「新華網」によると、浙江省張家港市で、飲食店が客に「空費浄化費」を請求していたことが分かった。当局は同請求は認められないとして、7日以内に取りやめるよう命じた。

張家港市物価局価格通報センターに市民からの通報があり、調べたという。店側は空気清浄器を設置したとして、1テーブル当たり1元(約18.5円)の空気浄化費を請求していた。

同市物価局の関係者は「空気は人類が生存するために必要な自然資源だ。消費者が飲食店に来て食事をする際に、呼吸をせねばならないのは必然だ。飲食店は良好な飲食環境を提供する義務がある。消費者が『浄化された空気』を注文していない以上、『浄化された空気』を販売することはできない」と説明。

物価局は同飲食店に対して、7日以内に改善するよう指示。再び同じ問題を出した場合には、改めて厳しく処罰すると通告したとおいう。

物価局関係者によると、同問題を調べた際に、飲食店側の価格政策に対する理解が乏しく「サービスを提供したのだから、費用を請求してもよいだろう」程度の認識しかなかったと判明したという。【12月15日 Searchina】
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当局の「空気は人類が生存するために必要な自然資源だ。消費者が飲食店に来て食事をする際に、呼吸をせねばならないのは必然だ。飲食店は良好な飲食環境を提供する義務がある。・・・」は一応もっともです。
(メンツにかけて「空気販売」を阻止したい当局の立場が感じられ、面白いところですが)

ただ、それを言うなら「政府・当局は良好な大気環境を提供する義務がある」とも言えるでしょう。

「空費浄化費」について言えば、東南アジアの国々で「冷房」が効いたお店は一般に高い料金設定をしていますので、「きれいな空気」を提供するコストが上乗せされた価格になることは自然なことでしょう。
問題は、本来は「人類が生存するために必要な自然資源」である「きれいな空気」が商品価値を持つような環境になってしまったことです。

大気汚染の原因となっている石炭依存構造
工場や自動車に加え、冬場の大気汚染を加速させているのが、旧式石炭ボイラーで運営されている「暖気」と呼ばれる集中暖房システムだとも指摘されています。

****PM2.5の元凶に「集中暖房」 社会主義の理念で早期に完備、旧式ボイラー祟る=中国メディア****
中国北部の都市部では「暖気(ノワンチー)」と呼ばれる集中暖房システムが導入されている。しかし旧式の石炭ボイラーを用いた暖房システムは大気汚染の大きな原因になり、現在はガス燃焼ボイラーなどへの転換が進められている。

世界で初めて、全国の都市部における集中暖房を導入したのはソ連だった。1930年代には本格着手。ボイラーで熱水を作りパイプを通じて各部屋に置かれた熱交換器に通し、冷えた水を再びボイラーに戻す方法だ。(中略)

現在の中国では「暖気」の運営組織も企業化されているが、地元紙の瀋陽晩報によると、検査した市内108社の熱供給企業のうち14社に排気放出について違反行為があったという。

市側としては、「排出基準を満たさない旧態然としたケースがあれば処罰し、資料の改竄などがあれば、さらに厳しく法的責任を追究する」考えだ。

一方、北京市ではすでに、「暖気」用施設の更新が進んでいる。市中心の6つの区については、すべてガス火力ボイラーにしたという。郊外の新興地区でも施設の更新は進められている。

そのため、同市における二酸化硫黄の累計濃度は「供暖」が実施される中国北部では最も低く、「供暖」による大気汚染がない南部都市並みの水準という。【11月11日 Searchina】
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産業構造においても、「暖気」のような市民生活においても、中国は石炭に大きく依存しており、このことが大気の汚染、多量の温室効果ガス排出につながっています。

*****地球滅亡級」汚染でも変われない国****
・・・・石炭は、主要なエネルギー源の中で最も環境を汚す。中国の「エアポカリプス」(大気を示す“エア”と、世界の意終末を意味する“アポカリプス”を組み合わせた新語)も、強大な政治的影響力を擁する巨大な石炭産業と密接な関係にある。

この40年間の中国の目覚ましい経済発展は、豊富で安価なエネルギーに大きく依存してきた。今日もエネルギー消
費の66%は、石炭が占めている。

しかも中国政府は今年、20年までに少なくとも155基の石炭火力発電所を新設することを承認している。・・・・【12月22日号 Newsweek日本版】
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先のCOP21では、アメリカとともにCO2排出削減にむけて積極姿勢を示した中国ですが、こうした石炭依存体質をどこまで改革する気があるのかは疑問もあります。

“アメリカ政府はCOP21を前に、公の場では中国の排出削減目標を称賛し始めた。しかし、内心では強い疑念を拭えずにいる。”【同上】

対策は進めてきた中国政府、しかし抵抗勢力も強固
もっとも、中国が手をこまねいているとか、無策だとかいう訳でもありません。

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・・・だが実際には、中国はこれまでに相当量の排出削減を実現してきた。 

中国には数多くの水力発電用のダム(全国で約4万7000ヵ所)がある。原子力発電にも積極的で、建設中もしくは建設の認可が下りたものだけで29基もある。20年までに原発による発電能力は現在の2倍以上になる見込みだ。

自動車からの二酸化炭素(CO2)排出についても、欧米の自動車燃費基準で定められた減少分の10倍を超える削減を実現した。

「中国がどれほど積極的に(エネルギー源の)多様化を進めてきたか、世界は理解できていないと思う」とルフトは言う。「そうした政策がなかったら、状況がどれほど深刻になっていたかという点もだ」【同上】
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しかし、石炭、石油、電気といったエネルギー部門は巨大な既得権益を有する国有企業の牙城であり、特定の政治勢力を支える基盤ともなっています。

習近平主席は、こうした勢力に対し、石油産業を基盤とする周永康・前共産党中央政治局常務委員の逮捕に見られるように、汚職撲滅の粛清運動の側面から切り込んでいます。

電力を牛耳る李鵬元首相ら李一族とつながる石炭業界に対しても、汚職摘発で揺さぶりをかけながら、環境保護対策を迫っています。

今後の環境対策がどこまで進むかは、エネルギー部門を支配する抵抗勢力との権力闘争的な側面もあって、不透明でもあります。

ただ、共産党政権は日本が考える以上に、国民の不満には敏感なところがありますので、政権基盤を維持するために、それなりの対応は今後行っていくのではないでしょうか。

世界で最も大気汚染がひどい20都市のうち、13都市をインドが
ところで、日本では、隣国、それも“厄介な隣国”ということで中国が常に話題になりますが、客観的に世界を見渡せば中国以上に大気汚染がひどい都市はたくさんあります。

しかも、中国ほどの対策も取られていない・・・というのが実情です。

WHOが昨年、世界の約1600の都市を対象に大気汚染を調査した結果、最も汚染がひどかったのがインドのニューデリーでした。
また、世界で最も大気汚染がひどい20都市のうち、13都市をインドが占めています。

****大気汚染は北京よりニューデリーの方がひどい 中国メディア、上から目線で「勝利宣言****
・・・・中国メディアの環球網は8日、「ニューデリーの大気汚染は北京に追いつき追い越した。しかも緊急対策措置はない」と題する記事を掲載した。内容はまるで、大気汚染についての対インド“勝利宣言”だ。

記事は冒頭部分で、世界の多くのメディアが7日になり、北京の大気汚染を大きく取り上げたとした上で「しかし、その他の新興国の大都市の大気汚染も同様に深刻だ。インドの首都、ニューデリーも“遅れを取ってはいられない”」と、皮肉めかして紹介した。

さらに、北京では住民が、大気の質についての意識を高め、政府も対策措置を取っているが、「ニューデリーはやっと、問題の深刻さに意識を向けはじめた」と、自国の優越さを強調。

さらに、「インドは呼吸器疾患について信頼できる統計もなく、インドの医者がはっきりと確認できるのは、自分が担当する患者数の増加程度であり、患者の症状が以前より深刻になっていることぐらいだ」と、インドの状況の劣悪さを強調した。

さらに、中国では大気の質が一定以上劣化すると学校の授業停止、工場の操業停止、政府部門の車両の運転禁止などの措置がとられるが「インドにはまだ、緊急対応措置がない」と指摘。汚染防止の法律も重視されないか、有効に執行されていないと論じた。

文章はニューデリーの大気汚染について、過去1週間の間に空気1立方メートル中のPM2.5の量が何度も300マイクログラムを超えたと紹介した。

なお、北京市内にある米国の駐中国大使館によると、北京市内の空気1立方メートル中のPM2.5の量は、8日午前5時から約2時間にわたって300マイクログラムを超えた。最大で365マイクログラムだったという。写真は8日の北京市内の様子。通りを歩く人の多くはマスクを着用した。【12月9日 Searchina】
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中国ら揶揄されているインドも、ようやく来年から自家用車の通行制限に乗り出すようです。

****インド、車の通行制限を実施へ 高濃度PM2・5対策****
微小粒子状物質PM2・5などによる大気汚染が深刻で、昨年発表された世界保健機関(WHO)の調査で「世界最悪」となったインドの首都ニューデリーでも、来年1月1日から自家用車の通行制限が行われることになった。ナンバーが偶数か奇数かで1日ごとに通行できる。行政当局が8日までに決めた。

ニューデリーでは秋から冬にかけて大気汚染が特に悪化し、視界が遮られて空港で飛行機の発着が遅れることも珍しくない。

環境当局の測定では9日午前7時10分(日本時間午前10時40分)現在、市内の複数の地点でPM2・5濃度が1立方メートルあたり300マイクログラムを超えた。日本の基準値の8倍以上だ。在インド日本大使館は在住邦人に、空気清浄機やマスクを使うことなどを呼びかけている。

汚染の大きな原因は、約850万台といわれる自動車の排ガスだ。整備が行き届かず黒煙を出して走る古い車も珍しくない。

ただ、通行制限の発表に地元メディアからは「公共交通機関が乏しいから自家用車を使っているのに」といった批判も相次いでいる。【12月9日 朝日】
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もちろん中国はインドを見て喜んでいる場合ではありません。
自国民の健康のためにも、また世界の温暖化対策に資するうえでも、「大国」を自任するのであればその責務を果たしていく必要があります。

タバコの煙を周囲に吐き散らしている私も、大きなことは言えませんが。
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温暖化対策  すべての国・地域が削減に参加する初めての枠組み「パリ協定」で合意

2015-12-15 22:07:36 | 環境

(COP21開幕時に握手を交わす米中両首脳(2015年 ロイター/Kevin Lamarque)【12月25日 Newsweek】)

今世紀後半に温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指す
パリで開かれていた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)は12日夜、2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」を採択しました。

日本国内ではあまり温暖化の問題が議論されることはなく、国際的にも温暖化問題での日本の存在感が薄れるなかで、史上初めて、温室効果ガスの排出削減の取り組みに途上国も含む全ての国・地域が参加する枠組みが誕生することになりました。

温暖化対策の国際的な枠組みがまとまるのは、先進国だけに削減を義務付けた京都議定書以来18年ぶりです。

****<COP21>全ての国が温暖化対策に取り組む初ルール成立****
・・・・パリ協定は、世界全体の排出量をできるだけ早く頭打ちにし、今世紀後半に温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指すことを初めて盛り込んだ。条約に加盟する全196カ国・地域が自主的に削減目標を作成し、国連に提出、対策をとり、5年ごとに見直すことを義務付けている。目標達成の義務化は見送られた。(中略)

交渉では、先進国と途上国の対立が続いたが、最大の焦点だった途上国への資金支援は、先進国が拠出する具体的な目標額を協定には盛り込まず、法的拘束力のない別の文書に「年1000億ドル(約12兆3000億円)を下限として新しい数値目標を25年までに設定する」と明記することで決着した。

一方、「産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える」という目標に加え、温暖化の被害を受けやすい島しょ国などに配慮して「1.5度未満」も努力目標に掲げた。

京都議定書で削減義務を負わなかった世界最大の排出国、中国も新枠組みの下、共通のルールで削減対策に取り組む。解振華・中国気候変動特別代表は「中国は国内の状況や能力に応じて、国際的な責任を果たしていく」と述べ、20年以降早期に温室効果ガス排出量を減少に転じさせるため努力する考えを示した。

協定は、批准国が55カ国以上に達し、それらの国の排出量が世界全体の55%以上を占めることを条件に発効する。

日本は、国会の承認を経て批准することになる。丸川珠代環境相は採択後、記者団に「高く評価できる。(パリ協定の仕組みを)日本の目標を引き上げるためにも活用しなければならない」と話した。

 ◇パリ協定骨子
 ・産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える。1.5度未満になるよう努力する
 ・できるだけ早く世界の温室効果ガス排出量を頭打ちにし、今世紀後半に実質ゼロにする
 ・2023年から5年ごとに世界全体の削減状況を検証する
 ・全ての国に削減目標の作成と提出、5年ごとの見直しを義務付ける
 ・温暖化被害軽減のための世界全体の目標を設定する
 ・先進国に途上国支援の資金拠出を義務付けるが、他の国も自発的に拠出することを勧める
 ・先進国は現在の約束よりも多い額を途上国に拠出する(目標額は盛り込まず)(後略)【12月14日 毎日】
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【「shallと「should」の違い
肝心の削減目標の達成が義務化されていないことから、実効性に疑問もありますが、透明性のある報告や検証、5年ごとの目標の見直しなどが義務付けられており、“世界が見ているなかで5年ごとに点検する。さぼることは難しいだろう。”【12月15日 朝日】ということで、国際的評価を重視する日本などにとっては無視できないものになるでしょう。

目標達成を義務化しないことにこだわったのは、温暖化問題を国際的にリードするポジションにつきたいアメリカの意向があります。

アメリカ・オバマ大統領は、温暖化対策に懐疑的な野党・共和党議員が多数を占める議会上院の同意が必要とならないように合意の法的拘束力をできるだけ少なくするよう腐心、議会を通さず大統領権限で協定を締結する道を探りました。

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閣僚らで埋まった会議場が、4年間の交渉で練り上げてきた協定の採択を待っていたとき、議長のファビウス仏外相と米国のケリー国務長官が最後の仕上げに入っていた。

「この表現が変わらなければ、オバマ大統領と米国はこの協定を支持することはできない」。ケリー氏は協定の最終合意案の条文の修正を迫っていた。

2007年に中国に抜かれるまで最大排出国だった米国は、1997年採択の京都議定書に加わろうとした政府が、議会上院に批准を阻まれた歴史がある。

最終案では、先進国が温室効果ガスを総量で削減することを「shall(しなければならない)」と義務づける表現になっていた。これを「should(すべきだ)」と義務を負わない単語への切り替えを求めた。途上国は反発したが、当初案では「should」になっていたとして「単純なミス」(ファビウス氏)だと修正を認めた。

たった1語の違いだが、削減義務など新たな負担が加われば、野党・共和党が多数を占める議会上院の同意が必要になる。新枠組みから再び米国が離脱へ向かう道が、ぎりぎりで回避された。【12月15日 朝日】
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ただ、オバマ大統領の目論見どおりに進むかは不透明です。
“ただ、早くも共和党から反発があがっている。上院トップのマコネル院内総務は声明で「シャンパンを開ける前に達成不可能な協定であることを思い出すべきだ」と批判。オバマ氏が締結に踏み切った場合、関連予算を認めないなど妨害も辞さない構えをみせる。”【12月15日 朝日】

アメリカ・中国が交渉を主導
今回合意には、アメリカとともに中国も積極的に関与する姿勢を示しました。

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交渉を主導したのは米中の2大排出国だった。

中国・外務省の交渉官は取材に「あらゆる国が発展したい。政府がそれを望むのを止めることはできない」と話し、協定が発展の足かせになることを強くけん制。

米国も、連邦議会上下両院で温暖化対策に消極的な野党・共和党が多数を占め、議会に諮らず批准できる緩い内容を探った。各国は「米中が入らなければ協定が成り立たない」(国連関係者)と配慮することになった。【12月14日 毎日】
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中国が温暖化対策に前向き姿勢を示したのは、中国国内における石炭を多量使用する現在の産業構造の転換が迫られていることや、PM2.5に象徴される環境問題が深刻化していることなどの国内事情と温暖化対策のベクトルの向きが一致したことがありますが、従来の、欧米に対抗する途上国リーダーとして影響力拡大だけに腐心していた対応から、一応“責任ある大国”としての姿勢に転換したものとして評価できるでしょう。

****オバマ大統領が習主席に謝意、COP21「パリ協定」採択への貢献評価****
対中関係もオバマ流のつかず離れずの手法で

オバマ米大統領は13日夜に中国の習近平国家主席と電話会談し、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)での「パリ協定」採択で中国が重要な役割を果たしたことに謝意を表明した。米ホワイトハウスが14日、声明を発表した。

両首脳は米中の交渉担当チームを緊密に連携させたことが歴史的な合意につながったとの認識を示した、としている。

その上で「オバマ大統領は気候変動問題への対応で、米中が引き続き協力していくことの重要性を強調した」とした。【12月15日 Newsweek】
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もちろん、米中は南シナ海の問題では対立を続けていますし、今日も、台湾へのフリゲート艦売却をめぐる問題での中国のアメリカ批判なども報じられています。
経済をめぐる綱引きもありますし、サイバー攻撃に関する問題もあります。

そうした問題が多い中では、温暖化対策は米中が歩調を揃えられる数少ない問題でもあって、緊張関係が過熱しなように、ことさらに温暖化問題での協力関係をアピールしている・・・という感もあります。

議長国フランス・議長ファビウス外相の手腕も
今回合意が成立した背景として、議長国フランス・ファビウス外相の役割が高く評価されています。
“政治的”駆け引きには定評のあるフランス外交の面目躍如といったところでしょうか。

****議長国の仏、さえた手腕 水面下の会合、論点共有 COP21****
「パリ協定」を採択した国連気候変動会議(COP21)では、激しい外交が展開された。米国の後ろ盾を得た議長国フランスの巧みな舞台回しが功を奏し、先進国と途上国との対立の溝が埋まった。日本は合意に向けた最終局面でも存在感を示せなかった。

「ローラン、すごい仕事をやったな。君のリーダーシップにみんな感謝している」。パリ協定の採択を受けケリー米国務長官は、議長を務めたファビウス仏外相の手腕をたたえた。

フランスにとって世界の関心が集まるCOP21は、欧州連合(EU)の大国としての力量を内外に示す勝負の場だった。非公式の閣僚級会合を重ね、論点をまとめた会合メモを共有した。実務者でつくる作業部会とは別に、政治合意の機運を高めるためでもあった。

COP21の本番では、首脳が最終局面でぶつかったCOP15の反省から、首脳級会合を初日に設定。パリ同時多発テロでフランスへ連帯感が高まっていたことも手伝い、150カ国の首脳級が顔をそろえ交渉を前進させる推進力となった。

また、閣僚級の分科会のとりまとめ役を、交渉を阻む立場を取ってきたボリビアなどに担わせ、全員参加の雰囲気を醸成した。ある閣僚は「フランスは忍耐強く各国の主張を聞きつつ、議長国として譲れない線もはっきり示した」と話す。

そして、12日昼の最終局面でオランド仏大統領がファビウス外相と並んで登壇し、「最後の決断の時が来た」と鼓舞。どの国にもパリ協定の最終文書案を提示しないまま、合意へとなだれ込む機運を盛り上げた。【12月15日 朝日】
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【「先進国」対「途上国」の対立を超えて
また、今回の会議では、従来の「先進国」対「途上国」の対立を超えて、深刻な被害が目前に迫る太平洋の島国のアピールも目立ちました。

****1.5度」記載⇔「補償」弱める****
12日、パリ協定の採択を控えた会議場に欧州連合(EU)や米国、マーシャル諸島などの閣僚らが腕を組んで姿を現すと、会場から拍手がわき起こった。有志国からなる「野心連合」のメンバーたち。採択への流れを作った「主役」だ。

協定をより積極的な内容にしようと、マーシャル諸島のデブルム外相が発起人となって集まった。加盟国は100カ国以上に増えたという。

デブルム氏によると、結成の動きは約2年前。海面上昇の被害に直面する島国は、排出が急増する中国やインドにも、先進国と同等の取り組みを求めたいのが本音だ。ただ、交渉では同じ途上国グループに属し、自説を通しにくかった。

そこで従来の対立構図を崩そうと、まずEUに接近した。気温上昇を1.5度未満に抑える目標設定などで連携を確認。さらに、強硬な姿勢を続けるインドなどに圧力をかけたい米国が、交渉が煮詰まった9日に電撃的に参加を表明した。

1.5度目標の記載をのむ代わりに、一部の島国が強く求めた温暖化被害の救済策で米議会が嫌う「責任」「補償」の表現を弱めるよう折り合いを付け、合意への流れを確実にした。

デブルム氏は、朝日新聞の取材に「小国で影響力がなくても、声を届けたいと思った。国民の命を守るために野心的な枠組みが必要だ」と話した。【12月15日 朝日】
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存在感が薄い日本
こうした動きに日本はついていけなかったようです。

“日本は、COP21交渉の最終局面でも蚊帳の外だった。島国やEUが主導した野心連合に米国が参加を決定。日本の交渉官は「そんな話は知らない。誘われてもいない」と寝耳に水の様子。日本が連合に加わったのは、協定採択の直前だった。”【12月15日 朝日】

日本の場合は、目標達成のためには原発再稼働を前提としており、先行きは不透明です。
そうした国内事情から、国際的にイシアティブを撮れるような状況にもありません。

****日本、実効性に課題 目標は原発再稼働前提****
日本は、2030年度の温室効果ガス排出量を「13年度比26%減」とする削減目標を掲げ、「50年には80%減らす」という長期目標も閣議決定している。

パリ協定採択を受け、政府は温暖化対策の実行計画づくりを本格化させる。来年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に間に合わせたい考えだが実効性のあるものができるか課題も多い。

「26%」の削減目標は、総電力量の2割超を原発でまかなう電源構成が前提だ。だが、法律で原則40年とされる運転期間の延長をかなりの数の原発で実現できないと難しく、再稼働すら不透明な現状ではハードルはかなり高い。

政府は、再生可能エネルギーと省エネの推進も掲げ、「エネルギー・環境イノベーション戦略」を来春にまとめる方針だ。

一方、目標の達成は企業や電力会社の自主性に委ねている。二酸化炭素の排出量の多い石炭火力計画が持ち上がり、環境相が「是認できない」と注文をつけ続ける事態となっている。

世界では、企業に二酸化炭素の排出上限を定め過不足分を売買させる排出量取引の導入や、炭素税を強化する動きがある。日本政府はこれまで「企業の負担になる」と消極的な姿勢だ。【12月15日 朝日】
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世界的に見ると、温暖化対策はエネルギー関連投資を拡大させるものとしてとらえられています。

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・・・1997年のCOP3で採択された京都議定書は、世界が科学の声を聞き入れ、温暖化を招いた先進国が率先し、欲望を抑える「痛みを分かち合う」制度と受け止められていた。経済活動で増える排出量を抑えるのが、政府の役割と考えられていた。

今回のパリ協定は、違う文脈でとらえられている。米ホワイトハウスは、ただちに「合意は、ここ数年のエネルギー関連の投資を相当拡大することになるだろう」との声明を発表。欧米の経済界からは歓迎のツイートが相次いだ。

風力発電は18年前の50倍に、太陽光発電は原発の設備容量の半分までに成長した。爆発的な普及に伴ってコストは急激に下がり、途上国でも火力発電を下回るようになってきた。

低炭素経済への移行は、温暖化対策に後ろ向きとみられた新興国でも進む。中国は世界一の自然エネルギー大国であり、インドも22年までに風力を6千万キロワット、太陽光を1億キロワットにする計画を掲げる。

多くの国で経済成長と二酸化炭素(CO2)排出は連動しなくなり始めた。昨年、世界経済は3%成長したのに、CO2排出量は横ばいだった。今年の排出量は下がると見られている。【12月15日 朝日】
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不安定な自然エネルギーに頼りすぎることの危険性やコスト問題はいつも言われる話ではありますが、「できない理由」を並べるよりは、「どうしたら可能になるか」という方向での議論を進めるべきでしょう。

採択はスタートラインに過ぎない
なお、今回合意が本当に生かされるかは今後の各国の努力次第です。

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・・・・一方、深刻な被害が目前に迫る太平洋の島国や、最貧国からは批判の声も出ている。最貧国の環境NGOのメンバーは「削減に向けた義務が担保されていない。悪い合意で、悲しい日だ」と痛烈に批判した。

今世紀後半に世界全体の排出量を「実質ゼロ」にするという踏み込んだ目標が盛り込まれた意味は大きいが、全ての国が深刻な温暖化の影響を防ぐ自覚を持って具体的に行動しなければ、協定は「骨抜き」となってしまうだろう。

採択はスタートラインに過ぎず、全てはこれからの各国の取り組みにかかっている。【12月15日 朝日】
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サウジアラビア  初の女性参政権行使 20人ほどが当選 しかし、未だ少ない女性の有権者登録

2015-12-14 21:38:07 | 中東情勢

(サウジアラビアの首都リヤドのショッピングモール前で、女性の運転が禁じられているために、自分が乗る車の運転手を待つ女性たち(2011年9月26日撮影)。【12月12日 AFP】)

イスラム教の戒律が厳しく求められるサウジアラビアは、世界で唯一、女性による車の運転が認められていないなど、女性に権利が著しく制限されている国です。
(女性の権利どころか、人間の生きる権利が保証されていないシリアや一部アフリカ諸国のような国もありますので、女性の権利だけを持ってその国の状況を云々することもできませんが)

ただ、そんなサウジアラビアにあっても、前国王の意向などもあって、若干の改善が認められること、具体的には、女性参政権が認められたことなどは、2011年9月27日ブログ「サウジアラビア 女性の参政権を認めることで「アラブの春」に対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110927)でも取り上げました。

それから随分と時間が経過しましたが、ようやくその改革の成果が現実のものとなりました。
(なお、当選者数については、報道時刻や引用情報の違いもあって、各社報道によってバラつきがあります)

****女性が初の立候補と投票、サウジで20人が当選 それでも議席は1%に満たず****
サウジアラビアで初めて女性の立候補と投票が認められた12日の自治評議会選は13日、開票が行われ、AP通信によると20人の女性候補が当選した。

サウジで徐々に進む女性の社会進出を促すものと期待されるが、女性の当選は公選議席の1%未満にとどまっており、社会の保守性を改めて浮き彫りにする結果ともなった。

自治評議会(任期4年)は各州知事の助言機関。権限が非常に限定的ながら、サウジでは唯一、メンバーの大半が公選される機関で、選挙が行われたのは2005年以降、今回で3回目。今回は、国王の承認による任命枠を除く全国約2100議席に男性5千人以上、女性約1千人が立候補した。

サウジでは、今年1月に死去したアブドラ前国王が将来の産業構造の変化などを見据えて女性の就業を促す政策をとるなど、徐々にではあるが女性の社会参加を容認する傾向が出ている。女性への地方参政権付与もその一環だ。

ただサウジは、イスラム教でも特に保守的なワッハーブ派を奉じており、女性の家庭外での活動には宗教界を中心に反発がある。あらゆる場面で男性の保護下にあるべきだとの観念も強く、今回の選挙では女性の有権者登録は全体の10%未満にとどまった。

女性が初参加した今回の評議会選がサウジ社会にとって画期的であることには違いないが、定着するまでにはなお時間がかかりそうだ。【12月14日 産経】
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自治評議会は地方政府の助言機関で、立法権はなく、活動分野はインフラ整備などに限られています。
今回は、全国に284ある評議会の約3000議席のうち、任命枠を除く約2000議席が争われました。

国王の助言機関である諮問評議会(定員150人、任命制)では、アブドラ前国王が2013年1月に女性30人を任命しています。

選管当局によると、今回の自治評議会選挙に立候補した女性は979人、有権者登録をした女性は13万637人。これに対して男性は5938人が立候補し、登録有権者は130万人強でした。

サウジアラビアのような国あっては、なかなか女性の選挙運動は大変です。

“女性候補者は選挙戦中、男性有権者に対面で訴えかけることは禁じられ、仕切り越しに主張を訴えたり、代理人に代弁してもらったりした。ソーシャルメディアの活用も目立った。”【12月14日 毎日】

なお、顔をパンフレットなどに出せないのは男女とも同じのようです。

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サウジアラビアで女性は、公共の場でアバヤと呼ばれる黒い衣装などで全身を隠す必要がありますが、最近では顔を隠さずに行動する女性が増えてきています。

今回の選挙戦では、有権者が容姿などで判断しないよう、男女とも、パンフレットやビラのほか、ソーシャルメディアなどで顔写真を掲載することが禁じられています。

また、選挙運動の集会については、ホテルのホールや臨時のテントなどで男女分かれて行う必要があり、女性の候補は男性に顔を見せることはできません。【12月13日 NHK】
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女性候補のひとり、西部ジッダで立候補した開発コンサルタントのラシャ・ハフジーさん(38)は電話取材に「女性や若者の声が政治に反映される社会にしたい」と語っていました。

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立候補受け付けや有権者登録は今年8月に始まった。ハフジーさんは、以前から災害支援策の助言などを通じて自治評議会の活動に参画していた。友人の勧めもあり、「公共政策により深く貢献したい」との思いから立候補を決めた。

ソーシャルメディアでは、女性候補たちに否定的な声もあるが、ハフジーさんは「応援してくれる女性や若者の声の方が圧倒的に強い」と感じている。内陸部に比べて開放的な紅海沿岸のジッダの土地柄も「私にとっては追い風になった」と語る。

選挙運動は11月下旬に始まった。ハフジーさんはジッダ市内にテントを設け、女性や評議会の役割などをテーマに演説会を開くなどしている。「男女の区別なく、地方自治という考え方を広めたい」と語る。

今回の選挙で、有権者登録の手続きを済ませた女性は約13万人で、女性人口の1%程度。男性は約135万人が有権者登録しており、投票者の多くは男性が占めることになる。ハフジーさんは「結果は分からないが、今回の選挙で踏み出した道を今後も歩み続けたい」と話した。【12月3日 毎日】
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結果は、“女性の当選は公選議席の1%未満にとどまっており、社会の保守性を改めて浮き彫りにする結果ともなった”【前出 産経】とのことですが、「女性候補が当選するのは難しいのでは・・・」といった見方もあった選挙前の予測からすれば、むしろ“20人もの当選者が出た”という感もあります。

いずれにしても、第1歩ですから、これから段々と・・・といったところです。

当選者の数より気になるのは、女性有権者の登録数が未だ少ないということです。「女性候補が当選するのは難しいのでは・・・」という見方も、この女性有権者登録が少ないことから言われていたことです。

有権者登録の手続きを済ませた女性は約13万人で、女性人口の1%程度でした。
女性の登録有権者数は全体の登録者約150万人の10%未満にとどまっています。

この背景には、“制度が周知されていなかったことに加え、保護者の男性親族や夫の理解を得られない人が多かったとみられること”【12月12日 産経】“女性の選挙参加のプロセスや重要性に関する認識が不十分だったり、女性は自分で運転できないために有権者登録に行けなかったりなどし、役所での手続きレベルで女性の有権者登録が妨げられたという声も上がっている。”【12月12日 AFP】といったことが挙げられています。

女性自身の認識の問題と、男性親族や夫など男性側の理解の問題というところです。

今後、今回選ばれた女性評議員の活動を通じて、社会全体の理解が進むことが期待されますが、どうでしょうか・・・。
男性からの反発も強まりでしょうから。

なお、サウジアラビアの女性の置かれている状況については、以下のようにも。

****サウジ女性が今も禁じられている9つの事柄****
12日、公職選挙に女性が初めて参加したサウジアラビア。世界で最も女性の権利が制限されているサウジアラビアでは今も、女性たちには次のようなことが禁じられている。

・運転──世界で唯一、女性の運転が禁じられている国。
・旅行──後見人となっている男性家族の同意なしに旅行はできない。
・結婚──後見人の同意が必要。
・仕事──後見人の同意が必要。
・衣服──頭からつま先までを覆う「アバヤ」と呼ばれる黒い布の衣装を着用しなければ、公の場に出てはならない。
・相続──男性と同額の遺産は受け取れない。
・職種──一定の職種には就けない。
・社交──レストランのような公の場で、親族でない男性と交流してはならない。
・離婚──男性のように簡単に離婚できない。
【12月12日 AFP】
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中国  「日本人は嫌いだ」と言いつつも、日本への高評価も

2015-12-13 22:37:06 | 中国

(今年9月に旅行した中国・西安の通りでバスを待つ市民。最近は中国でもきちんと列をつくって待つようになったようです。
29年前、24年前に西安を訪れた頃は大変でした。上海・外灘付近のバス停で、まだ止まりきらないバスに押し寄せる人々に圧倒された記憶があります。
いろいろとギクシャクしがちな日本との関係ですが、時間とともに中国が急速に変わりつつあるのは事実でしょう。)

戦争体験と政治から生まれる「憎しみ」 一方で、実際に日本で経験してわかる日本の長所
南シナ海をめぐって、高速鉄道輸出をめぐって、あるいはASEANなどへの支援合戦などで、何かと対抗意識がむき出しになることが多い日中関係。

そうした政治状況の一方で、中国人観光客の「爆買い」が話題となり、日本経済にとっても大いに期待されているところですが、中国人観光客にとって日本は相当に高く評価されているようです。

****日本が「再び訪れたい観光地」1位に 中国人客の多様化する「日本観光*****
中国メディアの財新網は10日、中国人観光客が再び訪れたい観光地の1位に日本が選ばれたことを報じた。

記事はスイスの金融機関であるUBSが行った調査を紹介。同調査によると半年以内に日本を訪れた中国人の46%が1年以内に再度日本へ旅行する予定があると紹介。

続けて日本へ「再び訪れたい人」と、「訪れたことはないが行ってみたい人」を比較した結果、より日本に行きたいと思うのは「再び訪れたい人」だったという。なお韓国ではこのような結果は見当らなかったと記事は伝えている。

一方で記事は中国人の外国旅行“熱”が冷めてきたと指摘した上で、1年以内に行う海外旅行の予定回数が2.6回から2.1に低下したと紹介。その理由としては人民元安に原因があると指摘した。

中国人の日本観光といえば、以前は「ゴールデンルート」と言われる、東京と大阪の間にある観光地を巡ったり、買い物をするコースが主流であった。同ルートを利用する中国人客は今もなお多いが、スキーなどを目的に北海道を訪れたり、クルーズ船を利用して九州に「爆買い」に行ったり、観光名所を巡るために京都や奈良に来たりなど、その活動範囲は広がっている。

この広がりの背景には財新網が報じた通り、日本を再び訪れたいと思う観光客がいると考えてよいだろう。「ゴールデンルート」での観光を通じて知った日本の良さや「おもてなし」を再び味わいに来たのだ。日本にはまだまだ魅力がある。この広がりが続くことに期待したい。【12月11日 Searchina】
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「再び訪れたい」という希望が高いというのは、日本の良さが認められたということで、喜ばしいことです。

日本の評価が高い一因として、日本の「整潔(せいけつ)さ」を指摘する向きもあるとか。

****中国人が「日本人は嫌いだ」と言いつつも、日本を訪れる理由=中国****
「愛は勝つ」という言葉をよく耳にするが、これは中国と日本の関係にもあてはまるようだ。

中国メディアの今日頭条は7日、中国人が「日本人は嫌いだ」、「日本製は買わない」と言いつつも、旅行で日本を訪れ、爆買いしている理由は何か、この点についての答えを論じている。

記事は率直に中国と日本の間にある戦争体験及び二国間の政治が、日本人に対する「憎しみ」を中国人に生じさせていることを伝えている。

憎しみを抱えつつも、中国人が日本へ旅行に行くのはなぜなのか。一言でいえば日本社会の「整潔(せいけつ)さ」が中国人の愛を勝ち得ていると記事は分析している。中国語の「整潔」は日本語の整理と清潔を合わせた意味を持つ言葉だ。

記事は整潔の「整」は日本の優れた社会秩序、「潔」は日本人特有の気質である「キレイ好き」から来ているとしている。記事は日本を旅行で訪れた際、街が整然としており、ゴミ1つ落ちていないことに心が打たれた様子。「確かに中国に比べ道は狭いが、歩いていて窮屈な感じがしない。なぜなら街の整潔さが心地良さを与えてくれるからだ」と力説している。

一方、中国の「整潔さ」はどうだろうか。ある地方都市の場合、「整」については人びとが好き勝手に路上駐車するので通行に不便さを感じることがあり、「潔」については「ゴミが落ちていない場所はない」という状況も見られる。日本から帰国した中国人旅行者が「日本の整潔に感動した」と口をそろえて言うのもうなずける。

「日本の整潔さが中国人旅行客を引き寄せる」という主張は強引な分析かも知れない。日本の整潔さは中国人を日本旅行へと行動させる直接的な理由ではなく、旅行で訪れた結果、感動をもたらす要素と言えるかもしれない。

しかしアップルの創設者がソニーの工場を見学したときにその「整潔さ」に感動したという話を考えるとき、実は日本社会の「整潔さ」は中国人の憎しみに勝る愛を勝ち得る「日本のさまざまな工業製品」とも深く関係していてると言えるのではないだろうか。【12月11日 Searchina】
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日本社会の「整潔(せいけつ)さ」は、私自身も中国だけでなく、東南アジア諸国を旅行して日本に帰国したときに強く意識するところです。

「憎しみ」に「愛」が勝つかどうかはともかく、「愛」が広まれば「憎しみ」もやがてコントロール可能なものにもなるでしょう。

「爆買い」や「ゴールデンルート」だけでなく、中国人観光客のニーズ・関心は多様化していますが、どういう側面・分野であっても、「質の高さ」「整潔さ」「おもてなし」「親切さ」といった日本社会の長所が中国人に強い印象を与えているのは心強い限りです。

****日本の医療サービスは凄い!技術もサービスも「病院が中国人で溢れる時代が来る?」****
日本を訪れる中国人旅行客の派手な「爆買い」が大きな注目を集めているが、中国人旅行客が日本を訪れる目的は必ずしも買い物だけではない。健康診断や医療サービスを受けることを目的に訪日する中国人も近年増えているからだ。

医療と観光をセットとして国外から観光客を呼びこむ「医療ツーリズム」は、日本でもすでに大々的に取り組みが始まっているほか、韓国では美容整形と観光をセットにした取り組みが行われている。(中略)

記事はさらに、日本の医療技術が極めて高いレベルにあることを具体的な例や数字を示しつつ紹介。(中略)

また、医療技術やハード面のクォリティの高さに加え、サービスという「ソフト」面でも日本の医療は非常に高い評価を得ている。

中国のネット上でも、日本の医療サービスを受けた中国人が「医療スタッフは非常に親切で、細かい点にも配慮が行き届いていた」、「忘れがたい経験になった」などと日本の医療サービスの質を評価する声をしばしば見かける。

現在、銀座などの百貨店では多くの中国人が買い物をしている姿を見ることができるが、今後は日本の病院も中国人患者で溢れるような時代が来るかもしれない。【11月21日 Searchina】
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もちろん、国民性や文化の違いはあります。どちらがどうこうということではなく、両者の間にそういう差があることを認識してもらえることだけでも相互理解にとっては前進でしょう。

****日本人に嫌われる観光客にならないため・・・だけど日本のマナーは堅苦しい?=中国****
日本を訪れる外国人旅行客が増え、小売業を中心に外国人旅行客による消費の恩恵をうける一方で、マナーや文化、習慣の違いに起因するトラブルも増えつつある。

中国メディアの今日頭条は24日付の記事で、日本を観光で訪れる中国人が知っておくべき日本のマナーを紹介しているが、この記事から中国と日本の国民性の違いについてさらに知ることができる。

記事は日本のマナーの1つとして、大衆浴場を利用する際はまず体を洗ってからお湯につかる点を紹介、シャワーが入り口付近にあるのはそのためだと説明している。(中略)

さらに、日本では電車やバスの車内において大声で会話する人は少ないと述べ、ほとんどの人は乗車の際、携帯電話をマナーモードに切り替え、電話で会話することを控えると紹介。(中略)

また旅行客であれば、さまざまな場所で記念写真を撮影する機会があるだろうが、日本では「他人の顔が写り込まないよう配慮しなければならない」と紹介。(中略)

記事は他にも「嫌われる観光客にならないため」のマナーを紹介しているが、日本で気をつけるべきマナーに共通するのは、他人に対する「細やかな配慮」だ。

しかし中国人からすると「細やかすぎる」のかもしれない。

中国ではバスの車内などでも、大声で長時間電話するのは普通のことであり、それをとがめる乗客はいない。また多くのドライバーは通行の邪魔になる場所であっても、自分が用事を済ませやすい場所に車を駐車し、別の車にクラクションを鳴らされるまで周囲の人間はその駐車をとがめることもしない。

「おおらか」を美徳とする中国人には、日本人のマナーは「堅苦しい」と感じることがあるようだ。【12月1日 Searchina】
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中国人が「日本人は嫌いだ」と言いつつも、日本・日本人に対する評価は概ね好意的なものがあるようにも見えます。(そういう記事だけを集めたというだけかもしれませんが)

興味深かったのは、次の記事。

****中国人と日本人女性が殴り合い 兵庫県で、買い物の列「割り込んだ」とトラブル 中国ネット民「帰って来るな****
中国メディアの環球網などは11日、日本での報道を引用して、兵庫県警三田署が10日に、暴行容疑で中国国籍の女性と日本人女性の2人を逮捕したと報じた。原因は買い物の際の行列の先頭争いだったという。同報道に対し、中国では「帰って来るな」などの批判のコメントが寄せられはじめた。

2人は紙おむつを買おうと、開店前の商店の店先に並んでいた。どちらが先頭かで言い争いになり、持っていたバッグなどで殴り合ったとされる。警察の調べに対して、2人とも容疑を認めているが、いずれも「相手が先に手を出した」と主張しているという。

同記事のコメント欄には、「ゴミだ。帰って来るな!」、「日本兵の慰安婦になってしまえ。ふたりともクズ。中国国籍を剥奪しろ」、「恥知らず」との書き込みが寄せられている。

中国版ツイッターの微博(ウェイボー)には「人でなし」、「ちょっと前に、中国人同士が粉ミルクを奪い合って殴り合った記事を見た。今日もまた、見出しを見たとたん、中国人と思った。国家の悲劇、民族の悲劇だ。国家が市場をしっかり管理していれば中国国内で安心して国産品を変える。わざわざ国外で殴り合うこともない」などのコメントが集めりつつある。

記事を読む限り、警察は双方を逮捕したのであり、中国人側に一方的に落ち度があったとは解釈できない。にもかかわらず、読者からのコメントの大部分は、中国人側を非難している。日本人側だけを非難する書き込みは見当たらない。

中国では国外に出た自国民によるルールやマナー違反の事例が多いとして問題になっている。一方、日本人についてはルールを守り礼儀正しいとの高い評価が一般的だ。中国国内で、「自国民には問題あり。日本人は学ぶべき対象」との観念が強いため、同事件についての当事者2人に対しての「非対称」な見方が発生したと考えられる。【12月11日 Searchina】
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中国人と日本人が喧嘩になったという事件に対し、中国側から中国人への批判が高まるというのは面白い現象です。
日本人の私からしても、一方的に中国人に責任があると決めつけるのはいかがなものか・・・という感もしますが、「日本人は学ぶべき対象」との認識が広まっているということでしょうか。

少し面はゆい感も。

変えられる可能性と変わらぬ現実
国家間の関係は、相変わらずと言えば相変わらずですが、南京事件追悼式典では中国側の抑制的な対応も少し。

****南京事件で「国家哀悼」式典=最高指導部は参加せず―中国****
旧日本軍による南京事件から78年に当たる13日、中国江蘇省南京市の「南京大虐殺記念館」で「国家哀悼日」の式典が行われた。昨年は習近平国家主席が参列したが、今年は最高指導部メンバーの姿はなく、改善方向の日中関係に一定の配慮を示した形だ。

中国は昨年、13日を「国家哀悼日」と定め、大規模な追悼行事を繰り広げた。日中戦争などをテーマとした愛国ムードは今年9月3日の「抗日戦争勝利70周年記念日」でピークを迎えたが、その後、調整されている。

式典で演説した全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会の李建国副委員長は、事件に関して「30万人の同胞が塗炭の苦しみをなめた」と表現した。昨年、習主席は「30万人の同胞が殺害された」と述べていた。

李氏はまた、日中両国は「歴史をかがみに未来に向かう精神で友好協力を進めねばならない」と訴えた。【12月13日 時事】 
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日本に対する好意的な評価も少しずつでしょうが広まりつつある現在、両国政治指導者が相手の懐に飛び込む覚悟で話し合えば、硬直した両国関係が大きく向きを変えることも可能なような気もするのですが・・・。

まあ、政治指導者にそうした気持ちがなく、対抗レースにしか関心がないのであればどうしようもないです。
そうした指導者を選んだ国民の責任でもあります。

中国人も日本の良いところは認めつつあります。日本人も、いつまでも自己満足的な反中国感情をまき散らすだけでは、嫌い軽蔑している中国人以下の存在になってしまいます。

南京事件等の「歴史的事実」を議論するだけでなく、自分の目と足で広い中国を旅行するのもいいかも。
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日本とインド 原子力協定締結で原則合意

2015-12-12 21:57:56 | 南アジア(インド)

(首脳会談に際し、手を振る安倍晋三首相(左)とインドのモディ首相=12日、ニューデリー(EPA=時事)【12月12日 時事】)

【「インドが責任ある行動を取り、ともに核兵器のない世界を目指していくことを期待する」】
何事につけ、すっきりすない話、ねじれた議論というものはつきまとうものです。

日本は、唯一の被爆国として核兵器のない世界を目指すという立場にあるものの、実際はアメリカの核の傘のもとに身をゆだねていること、また、世界の核兵器管理体制がすでに空洞化している実態があることから、日本にとって核兵器をめぐる議論はどうしてもすっきりしない話にもなります。

原発輸出の大きな市場となることが見込めるインドですが、核拡散防止条約(NPT)、包括的核実験禁止条約を締結しておらず、国際的核管理体制の枠外にあります。

国際的核管理体制の枠外の第6の核保有国として独自の核開発を続けてきたインド対して、国際社会は国連安全保障理事会決議、国際原子力機関、原子力供給国グループにより、原子力に関する貿易制限(禁止措置)を課してきました。このため、原子力発電の燃料となる天然ウランの生産量が少ないインドでは、原子力発電の発電量は、低迷していました。

そのインドとの原子力協定をどうするのか・・・という問題は“すっきりしない話”のひとつですが、訪印している安倍首相とインド・モディ首相の間で締結に向けて原則合意しました。

****日印首脳 “新幹線技術導入”“原子力協定”で合意****
インドを訪れている安倍総理大臣は日本時間の12日午後、モディ首相と会談し、インド西部の高速鉄道計画に日本の新幹線技術を導入することで合意するとともに、日本の原子力関連技術の輸出が可能となる原子力協定の締結で原則合意しました。(中略)

経済分野ではインド西部の高速鉄道計画に日本の新幹線技術を導入することで合意したほか、日本の原子力関連技術の輸出が可能となる原子力協定の締結で原則合意しました。

また、日本の技術の軍事転用への歯止めについては、会談の中で安倍総理大臣がモディ首相に対し、インドが核実験を実施した場合協力を停止する方針を直接伝えたということです。

このほかインドの北東部や南部の道路整備や、北部の農業支援などに年間で合わせて4000億円の円借款を行うなどとしています。

一方、安全保障分野では、南シナ海などで中国が海洋進出を強めていることを念頭に防衛装備品の技術協力や共同開発を促進するため、情報の保護や第三国への移転を規制することなどを定めた協定の締結で合意したほか、インドとアメリカが行っている海軍の共同訓練に日本の海上自衛隊が恒常的に参加することを改めて確認したということです。

さらにインドから日本への観光客や研修生を増加させるために、ビザの発給要件を緩和し滞在期間も最長15日から30日に延長するとしています。

会談のあと両首脳はそろって記者発表し、安倍総理大臣は「両国の新時代の幕開けとなる歴史的な会談になったと考えている。原子力の平和的目的の利用については、インドが責任ある行動を取り、ともに核兵器のない世界を目指していくことを期待する。また、新幹線システムがインドのほかの高速路線にも導入されていくことを強く期待する」と述べました。

モディ首相は「日本ほど、インドの経済発展に貢献しているパートナーはいない。新幹線はインドの経済発展のエンジンとなるだろう。また、原子力協定は両国の新たな戦略的関係や相互信頼のシンボルとなるものだ」と述べました。

“NPT非加盟国との締結に道筋” 初めて
原子力協定は、核物質や原子力関連技術の輸出入の際に軍事転用を防ぐため、利用を平和目的に限ると定めるものです。

日本は現在14の国や地域と原子力協定を締結しており、インドとの交渉は、5年前の平成22年から始まりました。

この中で、インド側は経済成長に伴う電力不足を解消するため、新たな原発の建設に日本の高い技術を導入することに積極的な姿勢を見せていました。

これに対し、日本側は世界第2位の12億の人口を抱え、経済成長が続くインドでは今後も原発の需要が見込めるとして、ほかの国に先行するかたちで原発の輸出にこぎつけたいとしていました。

ただ、インドが過去に核実験を行ったことや、NPT=核拡散防止条約に加盟していないことから、広島市と長崎市の市長が連名で「核兵器開発への転用の懸念を生じさせかねない」として協定の締結交渉そのものの中止を要請するなど、慎重な対応を求める声も少なくありません。

また、国内では東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ「原発を輸出すべきではない」という声も根強くあります。

このため、政府は唯一の被爆国として、インドから日本の技術や使用済みの核燃料を核兵器に転用しないという確約が得られないかぎり、協定は結べないとして、首脳会談の直前まで調整を続けていました。

協定の締結には国会の承認が必要になりますが、今回の原則合意でNPTに加盟していない国との締結に道筋がついたのは初めてとなります。

インド側の思惑は
インドには現在、7つの原子力発電所に21基の原子炉があります。インドでは電力需要に供給が追いつかず停電が頻発していますが、今後は経済成長や人口増加に伴い、電力需要が2030年までに現在の3倍に拡大すると見込まれています。

一方、インドは中国、アメリカに次いで世界で3番目の温室効果ガスの排出国で、排出量の抑制にも取り組むとしています。インド政府は電力の確保と排出量の抑制を両立させるため原子力エネルギーの利用を重視していて、原子力エネルギーによる発電容量を2024年までに3倍に拡大する計画を掲げています。

インド政府は原子力発電所の建設にあたり、外国からの最先端の技術の導入を積極的に進める方針で、すでにアメリカやフランスなどと原子力関連技術を輸入するための協定を結んでいます。

日本企業についても、インド政府は、ほかの国の企業にはない原子炉製造の高い技術を保有しているとして、日本との原子力協定の早期締結を目指していました。

しかし、インドは過去に核実験も行った核保有国で、NPT=核拡散防止条約には加盟していません。
このため、交渉では、インドが引き続き核実験を停止することや、日本から輸出された原子力関連技術が軍事転用に結びつかないことをどう保証するかが焦点となっていました。(後略)【12月12日 NHK】
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インドとの原子力協定については、すでに2007年段階で、国際的核管理体制の元締めでもあるアメリカ自身が原子力協定を締結、その後、フランス、ロシア、カザフスタン、イギリス、カナダなどの国々も協定を締結しています。

アメリカがインドとの原子力協定に至った背景としては、台頭する中国を牽制するためにインドとの関係を強化したい思惑、原子力市場への参入などインドとの経済関係をしたい思いなどがありますが、すでに空洞化しつつあるNPTにこだわるよりは、実質的なレベルでインドの核開発を制約した方が核不拡散においてもメリットがあるとの主張もあります。

日本は先述のように、唯一の被爆国として核兵器のない世界を目指すという立場から慎重な対応をとってきたところですが、今回の協定締結での原則合意という運びとなっています。

核不拡散よりビジネスを優先・・・との批判も
当然ながら、他に変わるべき枠組みが存在しない現状で、NPT体制空洞化を更に進めるものとしての異論もあります。

****日印原子力協定 NPTを空洞化させるな****
・・・・新幹線採用が決まれば、明るいニュースとなろう。しかし、もう一方の原子力協定締結には、異議を唱えざるをえない。

原子力協定とは、核物質や原子力機材などを輸出入する際、平和利用に限定するよう政府間で結ぶ約束である。この協定が日本とインドの間で締結されれば、日本からインドへの原子力発電所のプラント輸出が可能になる。新幹線や原発などインフラ輸出は、安倍政権の成長戦略の柱だ。

しかし、インドが核拡散防止条約(NPT)に未加盟のまま、核兵器を保有していることを見過ごすわけにはいかない。

NPT体制は、核兵器の保有を国連安全保障理事会の常任理事国5カ国に限定し、その他の国には核兵器の開発や保有を禁じている。その一方で、加盟国に核の平和利用を認めている。

つまりNPTに加盟していなければ、原発など核の平和利用も国際社会から認められず、核物資の確保や技術移転で不利益を被る。これが各国をNPTにつなぎ留める動機付けとなっている。

日本がインドと原子力協定を結べば「NPT未加盟で核兵器保有」という状態を容認することになる。NPT体制の空洞化に日本が加担するようなものだ。

インドは核実験の凍結を宣言している。しかし、インド政府が原発使用の名目で核燃料を輸入するようになれば、国内産ウランを核兵器増産に充てられるという指摘もある。被爆地の長崎、広島両市はこれまでの平和宣言などで、インドとの原子力協定締結に懸念を表明している。

安倍政権の外交からは、核廃絶や核不拡散に対する熱意がうかがえない。核不拡散よりビジネスを優先するようでは、被爆国の政府としての責任を果たせない。【12月11日 西日本】
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南アジアで進む核開発競争
今回合意にあたり、インドが今後も核実験を行わないことや、日本の技術や使用済みの核燃料を核兵器に転用しないことなどを条件としてはいますが、モディ首相が何と言おうがインドが今後も核兵器増産を進めるであろう背景には、インドを宿敵とする隣国パキスタンがインドを意識して核兵器増産に励んでいる事実があります。

****核兵器保有国パキスタンの脅威****
11月7日付の米ニューヨーク・タイムズ紙の社説は、パキスタンはこのままでは10年後には中国を抜いて世界第3位の核兵器保有国になるかもしれず、インドを攻撃できる戦術核兵器の急増と相まって、脅威となっている、と警告しています。

すなわち、世界はパキスタンに核兵器計画を制限するよう説得すべきである。

オバマ政権は、この切迫した問題に対処し始めている。オバマ政権は、米国、パキスタン双方が何かを得られるような取引を考えている。西側が望むのは、パキスタンの自制と、パキスタンが核技術の拡散防止のための国際規制をより遵守することであり、パキスタンは何らかの形で核保有国入りをすることと、技術へのアクセスを望んでいる。

パキスタンは1998年の核実験以来、核の分野で中国を除けば世界でのけ者扱いを受けている。パキスタンはインドが受けているような取扱いを西側から受けることを求めている。米国は2008年インドと原子力協力協定を結び、インドは米国から核エネルギー技術を買えるようになった。

米国は、48カ国の原子力供給国グループへのパキスタンの参加を支持するための条件を議論している。米政府当局者によれば、第一歩として、パキスタンは戦術核兵器の推進を止めるべきである。戦術核兵器はインドとの紛争に使われる可能性があり、またテロリストの手に陥りやすい。パキスタンには多くの過激派グループが存在し危険である。

米政府はさらに、パキスタンが長距離ミサイルの開発を中止し、核実験禁止条約に参加することを求めている。

このような動きはパキスタンの長期的利益にかなうものである。パキスタンは国家予算の25%を国防に充てており、国民に十分なサービスを提供できていない。

核能力を増強しているインドを相手に勝ち目はない。パキスタンの同盟国の中国などは、パキスタンに米国が提案しているようなことを受け入れるよう迫るべきである。

しかしインドのモディ首相はパキスタンと安全保障問題を討議しようとしておらず、現在の緊張の責任の一端はモディ首相にもある。南アジアの核競争は一層激しくなっており、世界はもっと関心を示すべきである、と警告しています。【12月10日 WEDGE】
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パキスタンをなだめるためには、インドに続いてパキスタンとも何らかの協定を結んで・・・ということになると、殆ど現状追認にしかならないということにもなってきます。

オバマ大統領もパキスタンに対して“クギを刺す”ことは行っています。

****<米大統領>パキスタン首相と会談 小型戦術核の使用にクギ****
オバマ米大統領は22日、パキスタンのシャリフ首相とホワイトハウスで会談した。米側が発表した共同声明などによると、パキスタンが隣国インドに対抗するため戦術核兵器を増産しているとされる問題に関して、オバマ氏が「核兵器計画の安全性や戦略的安定性」の重要さを呼びかけた。小型戦術核の使用やテロリストによる入手を避けるよう、クギを刺したことになる。

両首脳は、治安の不安定化を受けて駐留米軍の撤退が延期されたアフガニスタン情勢では、政府と旧支配勢力タリバンが直接和平交渉を行うよう呼びかけた。

また、パキスタンの核兵器については「全ての陣営が最大限の自制をもって行動を続ける」よう確認。米国が主導する「核安全保障サミット」でも協力することで一致した。

オバマ政権はアフガニスタン駐留を早く終わらせたいと考えている。そのためには、タリバンが拠点を持つ隣国パキスタンの協力が欠かせない。共同声明によると、オバマ大統領は、パキスタンが7月にアフガン政府とタリバンの会談を仲介したことを評価した。【10月23日 毎日】
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タリバンに対して大きな影響力を有するパキスタンは、アフガニスタンから抜け出したいアメリカに対して非常に有効なカードを持っている形でもあり、核兵器に関するアメリカの“クギ”がどこまで効き目があるのかは定かではありません。

かくして、南アジアの核開発競争、世界の核開発は・・・どうなるのでしょうか?
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