孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン総選挙  ポルトガルに続き、緊縮財政の与党が過半数割れ 難航が予想される連立交渉

2015-12-21 21:58:51 | 欧州情勢

(反緊縮を掲げて総選挙で躍進し、支援者に応えるポデモス党首パブロ・イグレシアス氏(写真:ロイター/アフロ)【12月21日 東洋経済online】)

二大政党制の終わりを印象付ける新興政党の台頭
EUが主導する緊縮財政による財政再建を続けてきたスペイン・ラホイ政権が存続できるか注目されていたスペイン総選挙は、ラホイ首相の率いる中道右派・国民党が第1党は維持したものの、選挙前から予想されていたように大きく議席を減らし、国民党と共に二大政党のひとつである最大野党、左派・社会労働党も減少、一方で、新興勢力である、緊縮財政を強く批判する急進左派、ポデモス、及び、カタルーニャ独立に反対する地域政党から全国展開した中道右派・シウダダノスが躍進する結果となりました。

****<スペイン総選挙>与党、過半数割れ 左右新党が躍進****
スペイン総選挙は20日投開票され、開票率99%の段階で中道右派与党の国民党は、下院(定数350)の議席数が改選前の186から123に減り、第1党を維持したものの過半数を大きく割り込んだ。穏健左派の最大野党、社会労働党も110から90と議席を減らした。

一方、新興政党の急進左派、ポデモスは69、中道右派のシウダダノスも40と躍進。1980年代から続く国民党と社会労働党による2大政党制の終わりを印象付けた。焦点は連立協議に移るが、主張の違いなどから難航も予想される。

スペインは国民党政権が進めた緊縮政策の下で、欧州債務危機後の回復基調が続いている。しかし、依然として20%超の高失業率が続き、若者らの間には経済回復の恩恵が一部にしか届いていないという不満が根強い。

ポデモスは、若者らが2014年に結成し、反緊縮財政を掲げる。シウダダノスは、06年にカタルーニャの独立反対派が結成して13年から全国展開。失業者の就業支援などを強く訴えてきた。

新興政党が既成政党を嫌う有権者の受け皿となった形で、ポデモスのイグレシアス党首は演説で「きょう新しいスペインが誕生した。2大政党制は終わった」と語った。

大きく議席を減らした国民党や社会労働党が過半数を得るためには複数の政党と連立を組む必要があり、協議は難航しそうだ。【12月21日 毎日】
********************

急進左派、ポデモスは緊縮財政を批判しつつも、EU内にとどまるという点で、ギリシャのチプラス首相率いるシリザ(Syriza)と共通するところがあり、昨年末には国民党を上回る支持率を有していました。
今年に入ってからは支持率はやや低下傾向にあり、50議席ほどが予想されていましたが、69議席獲得と健闘したようです。

カタルーニャ独立に反対するシウダダノスは、二大政党批判の受け皿として全国で急速に支持を広げ、選挙前は60~70議席ほどが予測されていましたが、ポデモスとは逆に40議席にとどまっています。ただ、初めて中央政界へ進出することになり、政策決定への影響力を確保しました。

カタルーニャ独立に関しては、主要政党はいずれも反対の立場ですが、特に中央集権化を志向する国民党やシウダダノスの政権が実現すればカタルーニャとの対立が先鋭化することも予想されます。
社会労働党は自治拡大を認める方向にあり、ポデモスは独立反対ながらも、独立の是非を問う住民投票には容認する姿勢です。【みすほ総合研究所 山本康男氏 「混戦模様のスペイン総選挙」http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/eu151203.pdf より】

今回選挙結果は、回復基調にあると言いながらも緊縮財政のもとで続く高失業率への批判に加え、前政権を担った社会労働党、前政権の国民党ともに汚職事件にかかわっていたことから既成政党への批判が高まったこと、更に、スペイン独自の問題であるカタルーニャ独立問題などが加わったものです。

****緊縮策、汚職に不満爆発=新興2党が躍進―スペイン議会選****
20日投票のスペイン議会選は、初めて国政選挙に挑戦した急進左派ポデモスと中道シウダダノスの新興2党が合計で下院(定数350)議席の30%超を獲得して躍進した。

長年の緊縮財政や度重なる汚職疑惑で高まった有権者の不満が、新党への期待として噴出した形だ。新政権樹立に向けた連立協議の行方次第では、両党の意向が国政に大きく影響する可能性もある。

「スペインは歴史的な大変革に投票した」。ポデモスのイグレシアス党首は選挙結果を受けて、こう宣言した。同党はラホイ政権の緊縮財政を批判し、東部カタルーニャ自治州の独立を目指す地域政党との連携も模索。

労働市場改革を通じた非正規雇用者の待遇改善を訴えるシウダダノスのリベラ党首も「われわれが改革の中心だ」と政権入りに意欲を示す。

スペインでは、中道右派の国民党と穏健左派の社会労働党が交代で政権を担う二大政党制が長く続いた。2011年末に社会労働党に代わって政権に就いた国民党のラホイ首相は、欧州債務危機で崩壊寸前となった経済を立て直すため、増税や各種手当の減額など痛みを伴う改革を実施。その一方で、首相自身を含めた政権幹部に対する不正献金などのスキャンダルもしばしば報じられた。

政治不信が強まる中、4年前に債務危機を克服できなかった社会労働党も国民の支持を集めることはできず、新興勢力の伸長につながった。

欧州のスペイン史専門家は選挙結果について「政治を身近な人々に委ね、民主主義を徹底したいという有権者の意志の表れだ」と分析する。【12月21日 時事】 
*****************

左右拮抗で難航が予想される連立交渉
国民党の過半数割れに伴い、今後の連立交渉が注目されますが、今回選挙結果は左右両勢力にとって共に連立工作が難しい微妙な数字となっています。
連立交渉が不調に終われば再選挙も想定されます。

****スペインは政権発足遅れ2カ月後再選挙も 国民党の議席大幅減、連立協議は難航****
20日に行われたスペインの総選挙(下院の定数が350、99.1%開票時の速報結果)は、中道右派の現与党 「国民党(PP)」が122議席(票率28.7%)で第1党の座を死守したものの、2011年の前回総選挙(186議席、同44.6%)から大幅に議席を失った。

国民党と91議席(同22.0%)で第2党となった中道左派の前与党「社会労働党(PSOE)」との大連立はスペインの政治史上で前例がないばかりか、世論を無視して守旧派勢力が手を結んだと受け止められ、 今回の選挙で大躍進した新興2政党へのさらなる支持拡大につながる恐れがあり、実現の可能性は低い。

従来、国民党の有力な連立相手と目されてきた改革派のリベラル政党「市民(C’sまたはCiudadanos)」の獲得議席が事前の世論調査と比べて伸び悩み(60議席程度の獲得予想に対して実績は40議席)、国民党と「市民」の合計では過半数(176議席以上)に届かない。

左派が躍進、右派左派が拮抗
国民党が政権を発足するためには、ラホイ首相の退陣や構造改革の強化を求める「市民」の協力に加えて、独立の動きを強めるカタルーニャの右派系地域政党「民主主義と自由(DL)」(議席数8)の協力が必要で、自治拡大や独立の是非を問う住民投票の実施を求められる可能性がある。

国民党が単独もしくは「市民」と協力して、非多数派政権の樹立を目指す可能性もあるが、その場合は左派勢力との議席かが拮抗しており(右派系は177、左派系が173)、議会運営は早晩行きづまる恐れが出てくる。

他方、左派勢力が政権を発足するのも容易でない。反緊縮色の強い新興の左派政党「ポデモス(Podemos)」が事前の世論調査を上回る支持を集めたが(50議席程度の獲得予想に対して実績は69議席、率にして20.7%)、 「社会労働党とポデモスの合計では160議席で、過半数に満たない。旧共産党系の「統一左翼(IU)」や左派系地域政党が加わり、左派が総結集しても173議席で過半数には届かない。

左派勢が政権を発足するためには、 国民党政権の打倒を目指して中道派の「市民」が左派勢力に加わるか、カタルーニャの自治拡大や独立要求の受け入れを条件に同州の右派政党が左派支持に回る必要がある。新議会は総選挙から25日以内、すなわち来年1月14日までに召集される(憲法68条6項)。

総選挙の結果を踏まえ、国王は議会の議長などと相談のうえ首相候補を指名する(同99条1項)。(中略)指名された首相候補は、発足を目指す政権の政策指針を示し、議会の信任をなければならない(同99条2項)。

(中略)信任されない場合、同じプロセスを繰り返す(同99条4項)。初回の信任投票から2カ月以内に信任されない場合、国王は議会を解散し、再選挙が行なわれる(同99条5項)。

今回の選挙結果を受け、総選挙後の連立協議の難航は避けられない。地域独立の動きも相俟って、どのような政権が誕生するかは不透明な情勢だ。

右派・左派勢力の議席数が極めて拮抗しており、政権発足ができないまま2カ月が経過し、再選挙となるシナリオの確率が増している。【12月21日 東洋経済online】
*********************

ポルトガル 過半数割れの与党が少数政権を目指すも、ひと月持たずに総辞職
一方、スペイン同様に緊縮財政を続け、財政再建に関しては一定の成果を出している隣国ポルトガルでも、一足早く11月に総選挙が行われましたが、与党が最大勢力は維持したものの過半数を割り込むというスペインと似たような結果がでました。

****ポルトガル総選挙、緊縮進める連立政権が最大勢力を維持****
財政再建を進めるポルトガルで4日、国会(一院制、定数230)の総選挙の投開票があり、地元メディアによると、緊縮財政を進めてきたコエリョ首相率いる社会民主党(中道右派)中心の連立政権側が約100議席を確保し、最大勢力を維持した。

ただ、選挙前の132を大きく下回り、安定的な政権運営を担える過半数には届かなかった。

中道左派の最大野党の社会党は80議席を超え、第2党を維持する見込み。

4日夜、記者会見したコエリョ首相は「選挙に勝った勢力が政権を担わないのはおかしい」と述べ、今後の政権運営に意欲を示した。

財政危機に陥ったポルトガルは2011年、欧州連合(EU)などに計780億ユーロ(約10兆5千億円)の金融支援を求め、その条件として厳しい緊縮政策を課せられた。

選挙戦では連立政権側は、経済危機を乗り切ったことをアピール。一方の社会党は緊縮政策とは距離を置き、政策の刷新を訴えていた。【10月5日 朝日】
*********************

過半数割れした与党・コエリョ首相は少数与党政権を選択して10月末に首相に再任はされましたが、左派勢力結集によりひと月ともたず、11月には総辞職に追い込まれています。

****コエリョ内閣が総辞職=議会で信任否決―ポルトガル****
ポルトガル議会(一院制、定数230)は10日、コエリョ内閣の2期目に対する事実上の信任投票を行い、野党などの反対多数で否決した。

憲法の規定により内閣は総辞職し、カバコシルバ大統領が次の首相を指名する。新首相の決定には各党の意見を聞く必要があり、数週間かかるとの見方もある。欧州メディアが伝えた。

コエリョ首相率いる中道右派の与党は10月4日の総選挙で107議席を獲得して最大勢力となり、過半数に満たない少数政権として10月末に発足した。

しかし、最大野党の中道左派・社会党のコスタ党首は、政権が1期目に進めた緊縮財政への反対を旗印に路線の異なる野党をまとめ上げ、首相を就任早々の退陣に追い込んだ。

コスタ党首は10日の審議で「政府方針は変化を求める世論を反映していない」と政権交代を主張した。大統領がコスタ党首を首相に指名し、社会党、共産党、左翼ブロックなどによる左派系連立政権が発足する可能性もある。

しかし、左派連合には「寄り合い所帯」との批判もあり、安定した政権運営につながるかは不安視されている。【11月11日 時事】
*****************

その後、社会党のコスタ党首を首相とする左派連立政権が成立しましたが、その結果はこれからの話です。

****左派連立政権が誕生へ=緊縮財政めぐり温度差も―ポルトガル****
AFP通信によると、ポルトガルのカバコシルバ大統領は24日、社会党のコスタ党首を首相に任命した。これにより、社会党と共産党、左翼ブロックなどによる左派連立政権が発足する。

連立与党内には欧州連合(EU)が課す緊縮財政をめぐり意見の隔たりがあり、結束して国のかじ取りに当たれるか不安視されている。【11月24日 時事】
*******************

ギリシャのチプラス政権に続いてポルトガルでも緊縮策反対の左派政権が誕生し、スペインでも緊縮策維持が揺れる状況となっています。
一方、イギリス・キャメロン首相は2017年末までにEU離脱を問う国民投票を実施する予定です。

緊縮財政を主導して域内の経済危機を回避しながら統合深化を進めてきたEUにとっては、今後も試練が続きます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする