孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本とインド 原子力協定締結で原則合意

2015-12-12 21:57:56 | 南アジア(インド)

(首脳会談に際し、手を振る安倍晋三首相(左)とインドのモディ首相=12日、ニューデリー(EPA=時事)【12月12日 時事】)

【「インドが責任ある行動を取り、ともに核兵器のない世界を目指していくことを期待する」】
何事につけ、すっきりすない話、ねじれた議論というものはつきまとうものです。

日本は、唯一の被爆国として核兵器のない世界を目指すという立場にあるものの、実際はアメリカの核の傘のもとに身をゆだねていること、また、世界の核兵器管理体制がすでに空洞化している実態があることから、日本にとって核兵器をめぐる議論はどうしてもすっきりしない話にもなります。

原発輸出の大きな市場となることが見込めるインドですが、核拡散防止条約(NPT)、包括的核実験禁止条約を締結しておらず、国際的核管理体制の枠外にあります。

国際的核管理体制の枠外の第6の核保有国として独自の核開発を続けてきたインド対して、国際社会は国連安全保障理事会決議、国際原子力機関、原子力供給国グループにより、原子力に関する貿易制限(禁止措置)を課してきました。このため、原子力発電の燃料となる天然ウランの生産量が少ないインドでは、原子力発電の発電量は、低迷していました。

そのインドとの原子力協定をどうするのか・・・という問題は“すっきりしない話”のひとつですが、訪印している安倍首相とインド・モディ首相の間で締結に向けて原則合意しました。

****日印首脳 “新幹線技術導入”“原子力協定”で合意****
インドを訪れている安倍総理大臣は日本時間の12日午後、モディ首相と会談し、インド西部の高速鉄道計画に日本の新幹線技術を導入することで合意するとともに、日本の原子力関連技術の輸出が可能となる原子力協定の締結で原則合意しました。(中略)

経済分野ではインド西部の高速鉄道計画に日本の新幹線技術を導入することで合意したほか、日本の原子力関連技術の輸出が可能となる原子力協定の締結で原則合意しました。

また、日本の技術の軍事転用への歯止めについては、会談の中で安倍総理大臣がモディ首相に対し、インドが核実験を実施した場合協力を停止する方針を直接伝えたということです。

このほかインドの北東部や南部の道路整備や、北部の農業支援などに年間で合わせて4000億円の円借款を行うなどとしています。

一方、安全保障分野では、南シナ海などで中国が海洋進出を強めていることを念頭に防衛装備品の技術協力や共同開発を促進するため、情報の保護や第三国への移転を規制することなどを定めた協定の締結で合意したほか、インドとアメリカが行っている海軍の共同訓練に日本の海上自衛隊が恒常的に参加することを改めて確認したということです。

さらにインドから日本への観光客や研修生を増加させるために、ビザの発給要件を緩和し滞在期間も最長15日から30日に延長するとしています。

会談のあと両首脳はそろって記者発表し、安倍総理大臣は「両国の新時代の幕開けとなる歴史的な会談になったと考えている。原子力の平和的目的の利用については、インドが責任ある行動を取り、ともに核兵器のない世界を目指していくことを期待する。また、新幹線システムがインドのほかの高速路線にも導入されていくことを強く期待する」と述べました。

モディ首相は「日本ほど、インドの経済発展に貢献しているパートナーはいない。新幹線はインドの経済発展のエンジンとなるだろう。また、原子力協定は両国の新たな戦略的関係や相互信頼のシンボルとなるものだ」と述べました。

“NPT非加盟国との締結に道筋” 初めて
原子力協定は、核物質や原子力関連技術の輸出入の際に軍事転用を防ぐため、利用を平和目的に限ると定めるものです。

日本は現在14の国や地域と原子力協定を締結しており、インドとの交渉は、5年前の平成22年から始まりました。

この中で、インド側は経済成長に伴う電力不足を解消するため、新たな原発の建設に日本の高い技術を導入することに積極的な姿勢を見せていました。

これに対し、日本側は世界第2位の12億の人口を抱え、経済成長が続くインドでは今後も原発の需要が見込めるとして、ほかの国に先行するかたちで原発の輸出にこぎつけたいとしていました。

ただ、インドが過去に核実験を行ったことや、NPT=核拡散防止条約に加盟していないことから、広島市と長崎市の市長が連名で「核兵器開発への転用の懸念を生じさせかねない」として協定の締結交渉そのものの中止を要請するなど、慎重な対応を求める声も少なくありません。

また、国内では東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ「原発を輸出すべきではない」という声も根強くあります。

このため、政府は唯一の被爆国として、インドから日本の技術や使用済みの核燃料を核兵器に転用しないという確約が得られないかぎり、協定は結べないとして、首脳会談の直前まで調整を続けていました。

協定の締結には国会の承認が必要になりますが、今回の原則合意でNPTに加盟していない国との締結に道筋がついたのは初めてとなります。

インド側の思惑は
インドには現在、7つの原子力発電所に21基の原子炉があります。インドでは電力需要に供給が追いつかず停電が頻発していますが、今後は経済成長や人口増加に伴い、電力需要が2030年までに現在の3倍に拡大すると見込まれています。

一方、インドは中国、アメリカに次いで世界で3番目の温室効果ガスの排出国で、排出量の抑制にも取り組むとしています。インド政府は電力の確保と排出量の抑制を両立させるため原子力エネルギーの利用を重視していて、原子力エネルギーによる発電容量を2024年までに3倍に拡大する計画を掲げています。

インド政府は原子力発電所の建設にあたり、外国からの最先端の技術の導入を積極的に進める方針で、すでにアメリカやフランスなどと原子力関連技術を輸入するための協定を結んでいます。

日本企業についても、インド政府は、ほかの国の企業にはない原子炉製造の高い技術を保有しているとして、日本との原子力協定の早期締結を目指していました。

しかし、インドは過去に核実験も行った核保有国で、NPT=核拡散防止条約には加盟していません。
このため、交渉では、インドが引き続き核実験を停止することや、日本から輸出された原子力関連技術が軍事転用に結びつかないことをどう保証するかが焦点となっていました。(後略)【12月12日 NHK】
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インドとの原子力協定については、すでに2007年段階で、国際的核管理体制の元締めでもあるアメリカ自身が原子力協定を締結、その後、フランス、ロシア、カザフスタン、イギリス、カナダなどの国々も協定を締結しています。

アメリカがインドとの原子力協定に至った背景としては、台頭する中国を牽制するためにインドとの関係を強化したい思惑、原子力市場への参入などインドとの経済関係をしたい思いなどがありますが、すでに空洞化しつつあるNPTにこだわるよりは、実質的なレベルでインドの核開発を制約した方が核不拡散においてもメリットがあるとの主張もあります。

日本は先述のように、唯一の被爆国として核兵器のない世界を目指すという立場から慎重な対応をとってきたところですが、今回の協定締結での原則合意という運びとなっています。

核不拡散よりビジネスを優先・・・との批判も
当然ながら、他に変わるべき枠組みが存在しない現状で、NPT体制空洞化を更に進めるものとしての異論もあります。

****日印原子力協定 NPTを空洞化させるな****
・・・・新幹線採用が決まれば、明るいニュースとなろう。しかし、もう一方の原子力協定締結には、異議を唱えざるをえない。

原子力協定とは、核物質や原子力機材などを輸出入する際、平和利用に限定するよう政府間で結ぶ約束である。この協定が日本とインドの間で締結されれば、日本からインドへの原子力発電所のプラント輸出が可能になる。新幹線や原発などインフラ輸出は、安倍政権の成長戦略の柱だ。

しかし、インドが核拡散防止条約(NPT)に未加盟のまま、核兵器を保有していることを見過ごすわけにはいかない。

NPT体制は、核兵器の保有を国連安全保障理事会の常任理事国5カ国に限定し、その他の国には核兵器の開発や保有を禁じている。その一方で、加盟国に核の平和利用を認めている。

つまりNPTに加盟していなければ、原発など核の平和利用も国際社会から認められず、核物資の確保や技術移転で不利益を被る。これが各国をNPTにつなぎ留める動機付けとなっている。

日本がインドと原子力協定を結べば「NPT未加盟で核兵器保有」という状態を容認することになる。NPT体制の空洞化に日本が加担するようなものだ。

インドは核実験の凍結を宣言している。しかし、インド政府が原発使用の名目で核燃料を輸入するようになれば、国内産ウランを核兵器増産に充てられるという指摘もある。被爆地の長崎、広島両市はこれまでの平和宣言などで、インドとの原子力協定締結に懸念を表明している。

安倍政権の外交からは、核廃絶や核不拡散に対する熱意がうかがえない。核不拡散よりビジネスを優先するようでは、被爆国の政府としての責任を果たせない。【12月11日 西日本】
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南アジアで進む核開発競争
今回合意にあたり、インドが今後も核実験を行わないことや、日本の技術や使用済みの核燃料を核兵器に転用しないことなどを条件としてはいますが、モディ首相が何と言おうがインドが今後も核兵器増産を進めるであろう背景には、インドを宿敵とする隣国パキスタンがインドを意識して核兵器増産に励んでいる事実があります。

****核兵器保有国パキスタンの脅威****
11月7日付の米ニューヨーク・タイムズ紙の社説は、パキスタンはこのままでは10年後には中国を抜いて世界第3位の核兵器保有国になるかもしれず、インドを攻撃できる戦術核兵器の急増と相まって、脅威となっている、と警告しています。

すなわち、世界はパキスタンに核兵器計画を制限するよう説得すべきである。

オバマ政権は、この切迫した問題に対処し始めている。オバマ政権は、米国、パキスタン双方が何かを得られるような取引を考えている。西側が望むのは、パキスタンの自制と、パキスタンが核技術の拡散防止のための国際規制をより遵守することであり、パキスタンは何らかの形で核保有国入りをすることと、技術へのアクセスを望んでいる。

パキスタンは1998年の核実験以来、核の分野で中国を除けば世界でのけ者扱いを受けている。パキスタンはインドが受けているような取扱いを西側から受けることを求めている。米国は2008年インドと原子力協力協定を結び、インドは米国から核エネルギー技術を買えるようになった。

米国は、48カ国の原子力供給国グループへのパキスタンの参加を支持するための条件を議論している。米政府当局者によれば、第一歩として、パキスタンは戦術核兵器の推進を止めるべきである。戦術核兵器はインドとの紛争に使われる可能性があり、またテロリストの手に陥りやすい。パキスタンには多くの過激派グループが存在し危険である。

米政府はさらに、パキスタンが長距離ミサイルの開発を中止し、核実験禁止条約に参加することを求めている。

このような動きはパキスタンの長期的利益にかなうものである。パキスタンは国家予算の25%を国防に充てており、国民に十分なサービスを提供できていない。

核能力を増強しているインドを相手に勝ち目はない。パキスタンの同盟国の中国などは、パキスタンに米国が提案しているようなことを受け入れるよう迫るべきである。

しかしインドのモディ首相はパキスタンと安全保障問題を討議しようとしておらず、現在の緊張の責任の一端はモディ首相にもある。南アジアの核競争は一層激しくなっており、世界はもっと関心を示すべきである、と警告しています。【12月10日 WEDGE】
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パキスタンをなだめるためには、インドに続いてパキスタンとも何らかの協定を結んで・・・ということになると、殆ど現状追認にしかならないということにもなってきます。

オバマ大統領もパキスタンに対して“クギを刺す”ことは行っています。

****<米大統領>パキスタン首相と会談 小型戦術核の使用にクギ****
オバマ米大統領は22日、パキスタンのシャリフ首相とホワイトハウスで会談した。米側が発表した共同声明などによると、パキスタンが隣国インドに対抗するため戦術核兵器を増産しているとされる問題に関して、オバマ氏が「核兵器計画の安全性や戦略的安定性」の重要さを呼びかけた。小型戦術核の使用やテロリストによる入手を避けるよう、クギを刺したことになる。

両首脳は、治安の不安定化を受けて駐留米軍の撤退が延期されたアフガニスタン情勢では、政府と旧支配勢力タリバンが直接和平交渉を行うよう呼びかけた。

また、パキスタンの核兵器については「全ての陣営が最大限の自制をもって行動を続ける」よう確認。米国が主導する「核安全保障サミット」でも協力することで一致した。

オバマ政権はアフガニスタン駐留を早く終わらせたいと考えている。そのためには、タリバンが拠点を持つ隣国パキスタンの協力が欠かせない。共同声明によると、オバマ大統領は、パキスタンが7月にアフガン政府とタリバンの会談を仲介したことを評価した。【10月23日 毎日】
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タリバンに対して大きな影響力を有するパキスタンは、アフガニスタンから抜け出したいアメリカに対して非常に有効なカードを持っている形でもあり、核兵器に関するアメリカの“クギ”がどこまで効き目があるのかは定かではありません。

かくして、南アジアの核開発競争、世界の核開発は・・・どうなるのでしょうか?
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