孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ政府・欧米とロシアの対立の構図は継続の様相 ウクライナ政治の混乱も

2015-12-19 23:19:09 | 欧州情勢

(内相を「泥棒」と批判したサーカシビリ氏(画像右端)と、同氏に水の入ったコップを投げつけたアバコフ内相(黒っぽいセーターの男性)【12月17日 NHK】)

30億ドル相当の対ロシア債務を巡る攻防
ウクライナ東部におけるウクライナ政府軍と親ロシア派・ロシアの抗争はこのところは目立った衝突もなく、小康状態となっています。

****死者9000人超に=ウクライナ東部****
国連人権高等弁務官事務所は9日、政府側と親ロシア派が昨年4月から交戦してきたウクライナ東部での死者が9000人を超えたと明らかにした。

同事務所はここ数カ月「敵対行為の大幅な減少」が見られ、民間人の犠牲者も減っていると指摘。ただ、市民が地雷などの爆発装置の被害に遭うケースが目立っており、地雷除去を進めるよう訴えた。【12月9日 時事】 
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現在の小康状態が恒久的な和平につながるかどうかという問題はありますが、激しい衝突が回避されていること自体は喜ばしいことです。

ただ、ウクライナ政府にとっては、世界の関心がシリアやISに完全に移るなかで、ウクライナが忘れられてしまう・・・という懸念もあるようです。

そうした不安を鎮めるべく、ウクライナを訪問してアメリカはウクライナを忘れていないことをアピールしたのが、アメリカのバイデン副大統領でした。

*****バイデン米副大統領  ロシアを批判 ウクライナ訪問*****
米国のバイデン副大統領は7日、訪問先のウクライナの首都キエフでポロシェンコ大統領と会談した。この際、親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍が対立する東部の情勢に関し「ロシアの侵略が続いている」と明言、プーチン大統領を名指しして停戦合意を履行するよう改めて要求した。またロシアが昨年一方的に編入した南部クリミアにも「ウクライナの領土だ」と明言し、返還を求めた。

ポロシェンコ氏と共に、記者団に語った。バイデン氏は、オバマ米大統領が11月にトルコで会談したプーチン氏にウクライナ停戦の順守を直接求めたと説明。停戦は、ウクライナ東部で「自由、公正で安全な選挙」が実施できるようにする条件だと強調した。【12月8日 毎日】
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ウクライナ政府にとっては、東部における親ロシア派との抗争のほかに、もう一つ問題が。破綻状態にもある財政状況です。

この問題でもカギを握るのが、ロシアが有するヤヌコビッチ前政権時代に融資した30億ドル(約3660億円)相当の債権です。

当然ながら、現在の対立関係を反映して、ロシアは「きちんと払え!」と返済を迫っていますが、ウクライナ政府には払う資金がありません。

****ウクライナとロシア、30億ドル債務巡り対立****
ウクライナが抱える30億ドル(約3660億円)相当の対ロシア債務を巡り、両国の対立が深まっている。

ウクライナは債務の一部削減などを求めるが、ロシアは応じない方針だ。プーチン露大統領は9日、20日の期限までに返済されなければ、国際的な仲裁機関に提訴する構えを見せている。

この債務は、ウクライナのヤヌコビッチ前政権が2013年12月、ユーロ建て債をロシアに購入してもらう形で借り入れたものだ。

当時のヤヌコビッチ政権は対露関係を重視していた。ロシア側にも、ウクライナを勢力圏につなぎ留めるための政治的な融資という意味合いがあった。

だが、ロシアが14年3月にウクライナ南部クリミアを併合したことで、両国関係は決定的に悪化した。14年6月に発足したウクライナのポロシェンコ現政権は明確に欧米寄りだ。

こうした経緯から、ウクライナ政府は、債務の一部削減や返済期限の繰り延べなどを求めている。【12月11日 読売】
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受け入れられなかったロシアの思惑
ロシアは単に返済を迫るだけでなく、“柔軟”とも評される提案も行ってきました。

****プーチン氏、突然柔軟に・・・ウクライナ債務見直し****
ロシアのプーチン大統領は16日、主要20か国・地域(G20)首脳会議閉幕後の記者会見で、ウクライナが抱える30億ドル(約3600億円)の対ロシア債務について、12月に迎える返済期限の見直しに応じる用意があると表明した。

ウクライナは2014年3月に南部クリミアを併合したロシアと対立しているが、13年12月に30億ドルの財政支援をロシアから受けており、その返済を求められている。ウクライナ問題をめぐるロシアと米欧の関係悪化が続く中、プーチン氏は経済状況が厳しく返済が困難なウクライナに突然、柔軟な姿勢を示し、国際社会の意表をついた。

大統領は30億ドルについて年内の一括返済は求めず、米国か欧州連合(EU)、国際金融機関が返済を保証することを条件として、16年から18年までの3年間に10億ドルずつ返済する案を示した。【11月17日 読売】
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“柔軟”と言えば柔軟かもしれませんが、ロシアからすれば、返済義務を欧米諸国に負わせたうえで、欧米との協調体制を築き、ひいては対ロシア制裁解除へ・・・という目論見とも思えます。

この提案は欧米側は拒否したように聞いています。プーチン大統領はロシアの閣議のような場で「こんなに配慮してあげたのに、断るなんて不思議なことだ。仕方ない、全額返してもらおう。返済できないなら提訴しなさい。」みたいな発言をしていました。

ただ、欧米側もウクライナの債務を引き受ける気はないものの、ロシアと対峙している今、ウクライナに破綻されても困りますので、IMFを通じて異例の支援に乗り出しています。

****IMF、債務支払い延滞国への融資継続を可能に-ウクライナを念頭に方針変更、ロシアは反発****
IMFは12月10日、債務支払いの延滞国に対する融資方針の変更を発表した。

これまでの「公的債務の返済に遅延が生じている国に対する追加の金融支援は実施しない」という方針を変更し、今後は支払いに遅延が生じていても、一定の条件の下に金融支援を継続できることとした。

新方針が最初に適用されるのはウクライナの見込みだが、ロシアはこの方針変更に強く反発している。【12月16日 JETRO】
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ウクライナが対ロシア債務を踏み倒してもIMFはウクライナ支援を続ける・・・ということです。

ロシアとウクライナ・欧米の対立の構図は当面続く
ロシアは、欧米側のウクライナ支援及び対ロシア制裁体制の継続に落胆し、また、怒っています。

****ウクライナの対ロシア債務の行方****
国際公共政策研究センター理事長・田中直毅
シリア難民の大量発生と、その背後にある過激派組織「イスラム国」(IS)の暴虐に対する危機感の高まりのなか、ウクライナ政府内では、課題解決の優先順位が西側全体の中で引き下げられるのではないか、という疑念が高まりつつある。

ISへの空爆において、ロシアは米、仏、英と横一線になった。

ウクライナ東部においては、依然としてロシアの影響下にある反政府勢力の軍事活動が止まらないことから、いわゆる西側からの対ロシア経済制裁が続く。

プーチン政府は今回、間違いなく反ロシアの潮目の変化を望んでいたし、逆にウクライナ政府は西側で対ロシア融和策が採用されるのではと懸念していた。

しかし、バイデン米副大統領の首都キエフ訪問によって、ウクライナ政府は一息つくことができた。対ロシア経済制裁の解除は、ロシアに支援された分離主義者による侵略が続く限り、あり得ないと彼が明言したからだ。

そしてこの時期に合わせるように、国際通貨基金(IMF)はウクライナ財政の救済を急ぐため、「IMF加盟国に対する債務支払いを停止した国に対しては、資金援助を行わない」という長年の基本姿勢を変更した。

これは、12月20日に支払期限が到来する同国のロシア向けの負債30億ドル(3660億円)を想定した決定といえよう。

怒ったのはロシアだ。国際的な訴訟を提起する方針だという。そして、ロシアの支援体制にもかかわらず2年前に退陣の憂き目にあった旧ヤヌコビッチ政権よりも今日の政府の腐敗はひどい、とウクライナに対する批判を強める。

この点はバイデン副大統領も容赦せず、自浄作用が必要だと指摘した。公共料金の引き上げなどの緊縮策の行方を含めて、ウクライナの着地点はいまだ定かではない。【12月15日 毎日】
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こうした流れで、ロシアとウクライナ・欧米の対立の構図は当面続くところとなっています。

****ロシア ウクライナとの自由貿易制度停止へ****
ロシアのプーチン大統領は、来月からウクライナがEU=ヨーロッパ連合との貿易自由化に踏み切ることを受けて、これまでのウクライナとの自由貿易制度を停止することを決め、経済分野でもウクライナのロシア離れが進むことになります。

ウクライナとEUは去年、貿易自由化で合意しましたが、自国の経済に影響が出るとしてこれに強く反対するロシアと、自由貿易への移行を巡って三者協議を続けてきました。

しかし、三者協議は平行線のまま結論が出ず、ウクライナとEUは、来月1日から予定どおり貿易自由化に踏み切ると確認しました。

これを受けて、プーチン大統領は16日、これまで旧ソビエト諸国の枠内で続けてきたウクライナとの自由貿易制度を停止する大統領令に署名しました。

ウクライナとの自由貿易制度を停止する理由について、ロシア政府は、ウクライナとEUの貿易自由化が進めば、EUの製品がウクライナを経由して、関税をかけられないまま安い価格で流入するとして、ロシア経済が打撃を受けることを防ぐためだと説明しています。

ウクライナのポロシェンコ政権は、外交や安全保障で欧米寄りの政策をとっており、今回のロシア側の措置によって、経済分野でもウクライナのロシア離れが進むことになります。【12月17日 NHK】
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EUの対ロシア制裁も延長されます。

****<EU>対露制裁延長 1月から半年間 18日にも合意****
欧州連合(EU)はロシアに対する経済制裁を来年1月から半年間延長する。イタリアが難色を示していたが、18日にも合意する見通しになった。

今年2月のウクライナを巡る停戦合意が完全履行されなかったためでロシアのウクライナ軍事介入を巡る露EUの対立は来年も続くことが決定的となった。(中略)

経済制裁が延長されることで、ロシアとEUの関係改善は大幅に遠のいた。
欧州諸国は先月のパリ同時多発テロ以降、過激派組織「イスラム国」(IS)対策でロシアと共同歩調を取ることを模索しているが、対IS空爆の調整などに影響が出る可能性もある。【12月18日 毎日】
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NATOも「ロシアがウクライナ東部から撤兵していない」と、改めてロシア側の停戦合意不履行を批判しています。

****<NATO>露を批判 ウクライナ停戦合意不履行****
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は17日、プーチン露大統領がウクライナ東部にロシアの軍関係者がいることを事実上認めたことについて、「ロシアがウクライナ東部から撤兵していない」と停戦合意の不履行を批判した。

ブリュッセルのNATO本部にウクライナのポロシェンコ大統領を迎えた際の記者会見で述べた。事務総長は「私たちは何度もウクライナ東部にロシアの軍関係者がいると指摘してきた」と指摘。大統領が一貫してロシアの軍関係者の存在を否定してきた姿勢に不満を表明した。

プーチン氏は17日の記者会見で、ロシア軍部隊ではないと主張しつつ「軍事分野の問題にあたる人々が現地(ウクライナ東部)にいないと言ったことはない」と発言した。

ストルテンベルグ氏は、「軍事分野の問題にあたる人」は「通常は兵士と呼ぶ」と指摘。外国人部隊の撤退を定めた今年2月の停戦合意(ミンスク合意)の「完全な実施」をロシアに要求した。【12月18日 毎日】
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「軍事分野の問題にあたる人」・・・面白い表現です。「通常の兵力ではない」としながらも、“「ロシア軍人はウクライナ東部にいない」という従来の主張を事実上軌道修正したとみられる。”【12月18日 朝日】とも。

なお、17日のプーチン大統領記者会見では、“欧米が対ロシア制裁緩和の条件とするウクライナ東部での停戦合意の完全履行についても言及。ウクライナ政府と親ロシア派の対話は停滞し、年内の履行期限は守れないことが確実だが、「(親ロ派を)説得する」と約束した。”【12月17日 時事】とも。

ウクライナの対ロシア債務30億ドルについては、ウクライナ政府は返済停止を表明しましたので、今後、この問題が先鋭化することも考えられます。

****ウクライナ情勢】対露債務返済を停止****
ウクライナのヤツェニュク首相は18日、ロシアに対する30億ドル(約3600億円)の債務返済を一時的に停止する考えを明らかにした。ロシアが債務再編に応じないためとしている。ロシアはウクライナに対し、法的措置を取る方針。

国際通貨基金(IMF)はウクライナの債務返済が滞っても支援を継続する方針を決定しているほか、米ファンドなど他の主要債権者は再編に同意しており、国際金融市場に大きな影響はないとみられる。

ロシア側は「返済停止はデフォルト(債務不履行)と同意だ」(ウリュカエフ経済発展相)と主張し、ウクライナへの批判を強めている。【12月19日 産経】
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素人目からすれば、「東部の問題はあるにせよ、借りた金はやはり返さないとデフォルトだろう・・・」という感がありますが・・・。
アメリカの裁判所は昨年、アルゼンチンと債務編成に応じないアメリカの“ハゲタカ”投資ファンドの争いで、ファンド側の主張を認め、アルゼンチンは事実上のデフォルトに追い込まれています。

ウクライナ政権の汚職・腐敗体質も続く?】
また、ロシアが“ロシアの支援体制にもかかわらず2年前に退陣の憂き目にあった旧ヤヌコビッチ政権よりも今日の政府の腐敗はひどい”【前出 毎日】と批判するウクライナ政権のゴタゴタも報じられています。

****ウクライナ 政権内部の対立が深刻化*****
ウクライナでは、警察のトップを務める内相がみずからを「泥棒だ」と批判した州知事に水の入ったコップを投げつけるなど、政権内部の対立が深刻化しています。

ウクライナのアバコフ内相は16日、大統領や閣僚らが参加して2日前に行われた政治改革についての会議の様子をインターネット上で公開しました。

この中で、汚職対策のため大統領に要請され南部の州知事に就任したサーカシビリ氏が、「アバコフ内相は泥棒だ。ウクライナの全員が知っていることだ」などと述べ、汚職まみれだと批判しました。

これに対し、アバコフ内相は水の入ったコップをサーカシビリ氏に向かって投げつけ、突然立ち上がり、会議は中断しました。ポロシェンコ大統領は、今回の件について「恥ずべきことだ」とコメントしています。

サーカシビリ氏は、かつてグルジアと呼ばれた旧ソビエトのジョージアで政変を主導し、その後大統領に就任、反ロシアの急先ぽうとして知られ、ロシアに対抗する人材として大統領みずからが知事に任命しました。

クリミアの併合をきっかけにロシアと対立するウクライナでは、汚職が深刻な社会問題となっていて、政権内部での対立も深刻化しています。【12月17日 NHK】
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グルジア前大統領からウクライナの州知事へというサーカシビリ氏の転身は面白いですが、汚職撲滅のため“奮闘”しているようです。

同氏はジョージアでは職権乱用罪などで訴追されており、事実上の国外亡命中。今年2月からポロシェンコ大統領の顧問を務めていましたが、5月に親ロシア派の勢力が強い南部オデッサ州の知事に任命されています。
グルジア時代にロシアへ開戦した対ロシア強硬姿勢が買われ、親ロシア派封じ込めが期待されているとも。
ウクライナ語は話せるのでしょうか?

サーカシビリ氏の話はともかく、バイデン副大統領も自浄作用を求めるウクライナ政権の体質改善がなるか・・・改善しないなら支援を打ち切るといった強い姿勢で欧米側が臨まない限り難しいでしょう。

なお、IMFはウクライナ支援継続の条件として、財政改革を含んだ予算を議会が承認することを強く求めています。議会では11日、演説していた首相が、反対派議員に担がれて運び出されそうになる混乱もありました。
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