孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  政治・経済の混迷スパイラル

2015-12-29 22:50:36 | ラテンアメリカ

(大統領弾劾を求めて、ルセフ大統領のバルーンと共にデモ行進する人々=13日(AP)【12月14日 産経ニュース】)

経済は過去20年で最悪
ブラジル・ルセフ大統領の政治的・経済的苦境については、これまでも何回か取り上げてきました。
(11月21日ブログ「中南米 勢いを失いつつある左派政権 アルゼンチン・ブラジル・キューバなどの話題から」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151121 など)

その後も状況は改善せず、12月2〜4日に予定されていたルセフ大統領の日本訪問も、連邦議会下院で1日に行われる補正予算案の採決に出席するために急きょキャンセルされました。
黒字目標だった今年の国家予算を赤字に下方修正する必要があり、連邦議会での対応が必要になったためとされています。

ルセフ大統領は、レビ財務相を起用して増税や歳出削減で財政健全化を進める緊縮財政を継続してきましたが、経済状況が悪化、高失業率・物価上昇で苦しむ国民の不満が高まり、8月には「経済状況の深刻さに気づくのが遅れた。早く政策を転換すべきだった」と責任を認め、12月18日にはレビ財務相辞職に追い込まれています。

その経済状況ですが、ひところの新興国代表の面影はなく、かなり深刻です。
中国経済の減速やアメリカの利上げに伴う通貨安で動揺が広がる新興国のなかでも、ブラジル経済は特に厳しい状況にあります。

輸出の主力である鉄鉱石など資源や穀物など一次産品価格は国際的に低迷し、更に、最大の貿易相手国・中国の景気減速で重要も低迷しています。

****ブラジルGDP4.5%減 7~9月、過去20年で最悪****
ブラジル地理統計院が1日発表した7~9月期の同国の実質国内総生産(GDP)は前年同期比で4.5%減った。現行統計が始まった1996年以降の継続性のある四半期データでは最悪の落ち込み幅になった。

鉄鉱石など資源や穀物の価格低迷で先行きに不透明感が広がり、投資や家計消費がいずれも減退している。与党の有力者を巻き込んだ汚職疑惑とともにルセフ政権の足元を大きく揺るがしている。

ブラジルの四半期ベースでの前年同期比マイナス成長は7~9月期で6四半期連続となった。前の期に比べると1.7%減で、3四半期連続のマイナス。景気後退局面が一段と深刻になった。

ブラジル中央銀行がまとめる有力エコノミストによる実質成長率予測は2015年の通年が直近でマイナス3.2%。通年でマイナス成長になれば、リーマン・ショックの影響を受けた09年以来、6年ぶりとなる。

ブラジルの政策金利は現在、年14.25%で、好況だった06年と同じ高水準にある。景気浮揚のためには財政出動の拡大や金利引き下げが有力な手段になる。

ところが、ブラジルの政府、中銀は財政規律回復を目指す歳出抑制や、インフレ抑制のための高金利を当面維持する方針を示している。金融市場の信用力を取り戻し、資金逃避を防ぐことを優先する考えだ
こうした現状も景気テコ入れのための有効な方策が打てない一因だ。

ブラジルでは国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職疑惑で与党・労働党の実力者が逮捕されるなど内政が混乱している。ルセフ大統領にとっては経済不振とともに大きな打撃となり、支持率は大きく落ち込んでいる。

12月上旬に日本訪問を予定していたが、予算関連法案の審議で議会が紛糾していることなどを背景に急きょ、取りやめた。(中略)

消費不振の主因は雇用悪化とインフレだ。10月の失業率は7.9%で、09年8月(8.1%)以来の高い水準となった。ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)によると、10月時点の自動車メーカーの従業員数は計13万2700人と、前年同月より10%減った。

消費者物価指数は10月に前年同月比で9.93%上昇した。1月から中央銀行の物価目標の上限(6.5%)を上回る状態が続く。

電気など公共料金の引き上げや通貨レアル安が響き、沈静化の兆しがみえない。物価高で実質賃金の減少を実感する消費者が増えている。【12月1日 日経】
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来年オリンピックが開催されるリオデジャネイロは石油産業が集まる地域でもあり、税収落ち込みによる財政悪化が深刻で、公営病院には十分な医療機器や薬を買う予算がなく病院休業が相次ぐ状況です。

****リオの財政悪化、病院休業相次ぐ…五輪に懸念も****
南米初の五輪・パラリンピックを来年8〜9月に控えるブラジル・リオデジャネイロ州のペゾン知事は23日夜、財政状況の悪化で州立病院の休業が相次いでいるとして、保健分野に関する非常事態を宣言した。

連邦政府に支援も要請した。
地元メディアによると、同州の州立病院では、職員の給与未払いや医薬品購入費などの不足が深刻化。ここ数日で25を超す医療機関が休業状態となり、重篤な救急患者だけを受け入れる措置を取っている。

資源価格の下落などでブラジル経済は不振が続いており、国内総生産(GDP)は今年、2009年以来のマイナス成長となる公算が大きい。石油・天然ガス関連の税収に依存する同州も、財政危機に陥っている。万全の態勢で五輪を迎えられるか懸念が広がりそうだ。【12月26日 読売】
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国際オリンピック委員会(IOC)のリーディー副会長は9日、スイスでのIOC理事会で、「政治的、経済的困難が五輪に与える影響は避けられないと、混乱が続くブラジルへいら立ちをあらわにしています。【12月29日 時事より】

おそらく競技施設建設などはなんとかするのでしょうが、昨年6月のサッカーW杯開催時にも、大会に巨額の資金を投入することに対する国民の不満が噴出したように、来年のオリンピックに関してもトラブルが懸念されます。

大統領弾劾審議へ
一方、経済危機に対処すべきルセフ大統領の手足を縛っているのが、これまでも何回か取り上げてきた国営石油会社ペトロブラスを巡る大規模汚職問題に絡む政治危機です。

12月3日には大統領弾劾審議が始まっています。

****大統領弾劾審議へ=政府会計の不正操作疑惑―ブラジル****
ブラジルの下院議長は2日、政府会計を不正に操作した疑いがあるとして、ルセフ大統領の弾劾を審議する方針を明らかにした。深刻な経済危機を招いた政治混乱は、さらに先行き不透明な状況となった。

大統領弾劾投票が行われれば、1992年に不正蓄財疑惑に問われ辞任したコロル大統領(当時)以来となる。
ルセフ氏は2日の記者会見で「憤慨を持って受け止めている」と述べ、潔白を主張した。

野党はルセフ氏が大統領選で再選を決めた2014年以降、政府会計の不正操作が続いていると訴え、弾劾手続きを求めていた。連邦会計検査院は10月、14年の政府会計に疑義があるとして、承認を拒否するよう議会に勧告した。

議会が近く設置する特別委員会が支持すれば、弾劾手続きが本格化。上下院のそれぞれ3分の2の賛成で、ルセフ氏は失職する。【12月3日 時事】 
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上下院のそれぞれ3分の2を必要とする弾劾自体は、議会で多数を占める与党の反対でなんとかしのげると思われますが、与党内をまとめるために、与党からも不満の出ていた財務相をすげかえるといった混迷を余儀なくされています。

また、国民の間での不満も相変わらずです。

****ブラジルで反政権デモ 大統領弾劾求める****
ブラジル各地で13日、与党関係者を巻き込んだ大規模汚職事件や経済の低迷に抗議し、ルセフ大統領の弾劾を求めるデモが行われた。地元メディアによると、警察当局の推計では全国で計約8万3千人が参加。ことし3回行われた同様のデモに比べ、小規模にとどまった。

各地で一斉に反政権デモが行われるのは、クニャ下院議長が2日にルセフ氏に対する弾劾請求を承認して以降では初めて。来年五輪が開かれるリオデジャネイロでは約5千人がデモに参加した。

国会は連立与党が多数を占め、弾劾が成立する可能性は現在のところ低いとみられているが、リオの観光地コパカバーナ海岸沿いでは、人々がプラカードを掲げたり、国旗を振ったりしながら「ジルマ(ルセフ氏)は出て行け」とシュプレヒコールを上げた。(共同)【12月14日 産経ニュ―ス】
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国営石油会社ペトロブラスの苦境
こうしたブラジルの経済・政治の混迷を象徴しているのが、ブラジル経済を牽引してきた国営石油会社ペトロブラスの苦境です。

****新興国経済は「二番底」の深みへ****
・・・・ブラジル経済悪化の背景には、経済政策の問題の他、輸出の主力である鉄鉱石など資源や穀物なそ一次産品価格が国際的に下落していること、最大の貿易相手国である中国の景気減速によって需要が低迷していることなどが挙げられています。

象徴的なのは、石油大手「ペトロブラス」の運命だ。同社の石油資源の主力は、ブラジル沖大西洋の海底深く眠る「プレソルト(岩塩層下)」の石油。

原油価格が高騰していた二〇〇〇年代後半には、「未来の鉱脈」と注目されたが、1バレル四十ドルを下回る価格では到底採算が合わない。

ところが、原油高時代に社債を乱発し、一五年末までに一千二百八十億ドルもの借金の山を築いてしまった。ブラジルGDPの五%を超える大金で、しかもその八〇%が外貨建て。通貨レアルは対ドルで、丑年前に比べて五五%も下落しており、向こう二年間で二百四十億ドルを償還しなければならない。

それなのに、ブラジル経済全体は一五年第3四半期に、前年同期比で四・五%もの縮小を記録した。借金を返すあてなじないのだ。

「資産をたたき売るか、中国の銀行に泣きつくか、どちらかしか選択肢がないと言われています。会社の幹部は借金で作ったあぶく銭を政治家にばらまいて、贈賄罪で次々と逮捕されている」と、前出特派員。昔話の愚人譚のような贈収賄事件で、大統領、下院議長ら政治指導者は動きがとれない状態に陥った。【2016年1月号 選択】
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政治・経済の混迷のスパイラルのなかで、各種機関の来年予測でも、ブラジル経済はマイナス成長が続くとの予測が多いようです。
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