孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  来年1月25日に政権側と反体制派の和平協議を行う方向で調整 様々な不透明要素も

2015-12-27 23:13:20 | 中東情勢

【12月24日 CNN】

【「本気度」が増したアメリカ・ロシア
内戦が続くシリアに関しては、欧米やロシア、中東諸国など関係国の17の国の外相らやEUや国連の代表らが出席した多国間外相級協議が11月14日ウィーンで開催され、来年1月1日までをめどにアサド政権と反政府勢力との対話を実現し、半年以内に移行政権を発足させたうえで1年半以内に国連の監視の下で選挙を実施することを目指すなどとした和平案に合意しました。

この合意を後押しする形で、国連安保理も12月18日、シリア内戦の政治的解決を目指す初めての決議案を初めての「全会一致」で採択しました。

もちろん、これまでも対立してきたアサド大統領の処遇が明示されていない等の不透明な内容ではありますが(主要問題で意見が一致しているなら明日にでも停戦が実現していますし、内戦が4年も5年も続くことはありません。溝を残していることは当たり前の話です)、アメリカ・ロシアなど関係国の間で一定の歩み寄りの空気が醸成されつつあることも事実でしょう。

****<安保理決議>シリア和平は不透明 アサド氏処遇の対立残る****
国連安全保障理事会の外相会合で18日、5年目に入ったシリア内戦の政治的解決を目指す初めての決議案が全会一致で採択された。

過激派組織「イスラム国」(IS)という共通の脅威に対抗するため、アサド大統領の処遇を巡って対立してきた米国とロシアが、歩み寄った。ただ、いずれ処遇問題に対処する必要はあり、和平の先行きは不透明なままだ。

「シリアでの殺りくを止める時が来たという明確なメッセージだ」。議長を務めたケリー米国務長官は、決議の意義を強調。これまで4度、対シリアの安保理決議に拒否権を行使したロシアのラブロフ外相も、米露が主導した前日の対IS資金根絶決議にも触れ「広範な対テロ戦線が形成された」と語った。

安保理決議は、先月ウィーンで開催されたシリア支援国会合で合意した和平行程を支持するものだ。来月初めを目標に、国連の仲介でアサド政権と反体制派が交渉に着手▽6カ月以内の移行統治機構の設立▽新憲法を起草し、18カ月以内に選挙を実施−−が柱だ。

また、全土での停戦実現を目指すことになっており、国連事務総長に対し、停戦監視の方法を1カ月以内に報告するよう求めた。テロ組織との戦闘は停戦の適用除外となった。

アサド政権と反体制派の直接交渉が実現すれば、2014年1〜2月のジュネーブでの会議以来、2年ぶり。当時は国連が主導したが、現在の和平プロセスを主導しているシリア支援国会合は米露が主宰しており、両国の「本気度」が増したことを示している。

背景には、パリ同時多発テロや露旅客機爆破など、ISの脅威の高まりがある。また「難民がこれ以上増えると欧州の受け入れシステムが崩壊する」(国連高官)という危機感も後押しした。

ただ、決議はアサド大統領の処遇には触れていない。また、ISなど安保理が指定するテロ組織以外に、どの勢力を「テロ組織」とするかについては関係国間で見解が分かれている。

反体制派側の交渉団構成や、停戦監視に影響する問題だけに、ヨルダン政府の主導で引き続き、リスト化が進められることになった。

ケリー氏は決議採択後、「この場にいる誰も、輝かしい道が開かれているとは思っていない」と述べ、前途の困難さを認めた。【12月19日 毎日】
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【「失敗折り込みの合意」という見方も
ISへの対抗という共通目標や、シリア安定のためのアサド政権の役割については、欧米とロシアの間では先述のように“一定の歩み寄りの空気”もできつつありますが、アサド政権打倒を存在理由としてきた反体制派にとっては“歩み寄り”は難しく、「失敗折り込みの合意」(ベイルート筋)という見方もあるようです。

そもそも、多種多様な反体制派とテロリスト集団の線引きも難しいところです。

****【シリア情勢】安保理の和平決議、「絵に描いた餅」? アサド大統領の処遇棚上げ 反体制派の思惑バラバラ****
シリア問題に関する国連安全保障理事会決議には、来年1月の早い時期にアサド政権と反体制派の対話実現を目指すなどとする“行程表”が盛り込まれた。

しかし、焦点であるアサド大統領ら政権中枢の処遇は棚上げ。政権側がアサド氏らの排除を前提とした対話に応じるとは考えにくい上、反体制派の間でも和平プロセスの進め方をめぐる対立が予想され、対話実現の見通しは立っていない。

決議は、反アサドの急先鋒(せんぽう)であるサウジアラビアが今月、首都リヤドで開催した反体制諸派の会合を「有益なもの」と評価した。アサド氏退陣を求める米欧には、同会合で設置が決まった「最高評議会」が、政権側との対話を担うことへの期待があるとみられる。

しかし、同会合には、政権側と一定の関係を持ちつつ活動する国内反体制派は招かれず、政権側との交渉の糸口をつかめるかさえ不透明だ。

また、米欧とロシアが共通の脅威とするイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)やヌスラ戦線といったイスラム過激派は、内戦が泥沼化する過程で、反体制諸派と対立や協調などの重層的な関係を持つようになっている。

軍事的に強力なISやヌスラ戦線が、政権側や敵対する反体制派との戦闘を停止することがない中では、内戦終結に向けた構想が絵に描いた餅で終わる恐れも強い。

一方、アサド政権側は、「シリアの運命はシリア人自身で決めるべきだ」と繰り返している。これは、サウジなど外国勢力の意を受けた反体制派は、交渉相手とは認めがたいとのメッセージだ。

後ろ盾であるロシアがシリア問題をめぐる多国間協議で主要な役割を担っていることも、反体制派のペースで和平プロセスを進めさせないための政権側の自信につながっている。

決議は、和平プロセスでは「政府機構の継続性」が重要だとも強調。イラク戦争(2003年)後のイラクのような無秩序状態を避けるため、アサド政権を支える官僚組織や軍は温存するとの意思を示した形だが、反体制派の中に反発が生じる可能性もある。【12月19日 産経】
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国連特使、来年1月25日開催で調整
アサド政権と反体制派の和平協議は、来年1月25日開催の方向で調整されています。

****シリア和平協議、来月25日開催で調整 国連特使****
国連のスタファン・デミストゥラシリア特使の報道官は26日、シリアのバッシャール・アサド政権と反体制派との和平協議について、来年1月25日にスイス・ジュネーブで開催する方向で調整していると発表した。

声明によると、デミストゥラ特使は目標日程での和平協議開催を目指して「強く努力」しており、「できるだけ広範にわたる」反体制派代表を含めたい意向だという。

5年近くに及ぶ同国内戦の国連特使を務めるデミストゥラ氏は、「シリア国内の全関係者からの協力に期待している」と述べ、「現在も続く内戦の進展が、(和平協議の)妨げになるべきではない」と付け加えた。(後略)【12月27日 AFP】
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ロシアの支援で軍事的にも、国際政治のうえでも態勢立て直しを実現しているアサド政権側は、交渉参加の用意があることを表明しています。

相手の出方次第で・・・といったところですが、“ロシアがイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」掃討を名目に軍事介入した9月末以降は、北部アレッポ周辺や中部ホムスなど各地で戦闘を優勢に進めていることからも、仮に直接対話が実現しても、反体制派に大幅に譲歩するとは考えにくい状況だ。”【12月26日 産経】とも。

****アサド政権、和平協議に参加へ 外相が表明****
シリアのバッシャール・アサド政権は24日、内戦終結に向けた協議に参加する用意があると表明した。ただ、実際に参加するかどうかは反体制派側の人選次第のようだ。

シリアのワリード・ムアレム外相は「外国が干渉しないシリア人同士の(スイスの)ジュネーブでの対話」に参加する用意があると述べた。(中略)

ムアレム外相の発言は、アサド政権による和平案受け入れを示唆するとみられるものの、条件面で含みを持たせた。外相は、シリアは「外国の干渉」を拒否してきたと強調するとともに、政府の交渉団は「反体制派代表団のリストを受け取れば速やかに準備を整える」としている。【12月25日 AFP】
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IS等、首都ダマスカスの反体制派3拠点からの退避計画
アサド政権はISとの限定的な停戦についても合意したとされています。

*****シリア首都南部からIS撤退へ 政権軍と異例の合意****
内戦が続くシリアで、首都ダマスカス南部のヤルムーク難民キャンプやその周辺地区を占拠していた過激派組織「イスラム国」(IS)やアルカイダ系「ヌスラ戦線」などの武装勢力が、占拠地域から撤退することでアサド政権軍と合意した。AFP通信などが25日、伝えた。

シリア内戦では、政権軍と反体制武装組織の間で地域的停戦が成立したことはあるが、ISと合意するのは珍しい。政権関係者は25日、戦闘員2千人と家族らの計4千人を移動させるバスが占拠地域に入ったとAFPに語った。ISはシリア北部のラッカへ、ヌスラ戦線は同組織が支配する別の地域へ向かうとみられる。

停戦に向けた交渉は約2カ月に及んだといい、地域を離れる際、各戦闘員はスーツケース1個と個人用の武器の携帯が認められる。政権軍は24日に反体制側の重火器を押収したという。

ヤルムークは内戦前、パレスチナ難民約18万人が暮らしていたが、2012年12月ごろから反体制武装勢力が入り込み、政権軍と激戦が続いた。今年4月にはISも侵攻した。

食料などの支援物資が届かず、住民は食料不足に苦しんでおり、パレスチナ解放機構(PLO)によると、現在約7千人が残されている。【12月26日 朝日】
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事情はよくわかりませんが、首都ダマスカス南郊のヤルムーク地区などからISやヌスラ戦線を一掃できるということは、政権側の軍事的圧力が成果を出したということでしょうか。

しかし、反体制派の有力武装組織「ジャイシュ・アル・イスラム(イスラム軍)」のザハラン・アルシュ司令官が25日、シリア政府軍もしくはロシアの空爆で死亡したことで、先行き不透明になっています。

*****シリア首都からの武装勢力退避計画中断、司令官死亡が原因か*****
シリア首都ダマスカスの反体制派3拠点から戦闘員や市民数千人が退避する計画が26日、中断された。この前日、反体制派組織のリーダーが、空爆で死亡している。

バッシャール・アサド政権が行ったとする空爆で死亡したのは、ダマスカス東部の東グータ地区を拠点とする、反体制派の有力武装組織「ジャイシュ・アル・イスラム(イスラム軍)」のザハラン・アルシュ司令官(44)。

同組織のある幹部は、戦闘機が司令官らの「秘密会合」を標的にしていたと語り、アルシュ司令官が死亡者の中に含まれると確認した。

司令官の死亡は、約5年に及ぶ内戦に大きな影響を与えるほか、脆弱な和平プロセスも複雑にするものとみられる。
また、ダマスカス南部地区からの約4000人の退避計画も中止された。

政府当局者によると、計画では26日に、ダマスカス南部のカダム、ハジャル・アスワド、ヤルムークのパレスチナ人難民キャンプからシリア北部に退避者らを移送する予定だったという。

退避者の約半数は過激派戦闘員とされ、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカイダ系のシリア武装組織「アルヌスラ戦線」のメンバーらも含まれるとみられている。

交渉団に近い治安筋はAFPに対し、計画は現在、中断されていると述べた。

一方、在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」のラミ・アブドル・ラフマン代表は、計画は「凍結されたが、中止されたのではない。安全な通行路確保などを中心とした後方支援問題がその理由」だと話している。【12月27日 AFP】
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行き場を失う難民 1日も早い停戦実現が望まれる
反体制派の有力武装組織司令官の爆殺は、武装勢力退避計画だけでなく、政権側との和平協議にも影響することが懸念されています。

“イスラム軍は、サウジアラビアの首都リヤドで今月開かれた反体制派会合に参加した組織で、来月にも始まる内戦終結に向けた政権側との交渉でも重要な役割を果たすとみられている。

反体制派の多くは、交渉はアサド大統領ら政権中枢の排除を前提として進められるべきだと主張しているが、今回の空爆で司令官が殺害されたことで、いっそう態度を硬化させることも考えられる。”【12月26日 産経】

「失敗折り込みの合意」だろうが何だろうが、少なくとも協議実現までは漕ぎつけてほしいものですが・・・。

なお、武装勢力退避計画の対象となっているパレスチナ難民キャンプのヤルムーク地区については、ここを追われたパレスチナ難民は、欧州に行く資金もなく、最後の手段として「天井のない監獄」パレスチナ・ガザ地区に移動するも、そこでも更に厳しい状況に直面しています。

****苦渋、シリアからガザへ パレスチナ難民1200人、欧州行けず「最後の手段****
内戦5年目に入ったシリアのパレスチナ難民約11万人が再び難民として国外に逃れ、うち約200家族、約1200人がパレスチナ自治区ガザで避難生活を余儀なくされていることがわかった。ガザもイスラエルとの度重なる戦闘にさらされ、行き場を失っている。(中略)

ガザ地区は、イスラエルなどに壁や検問で境界を封鎖され「天井のない監獄」と呼ばれる。

PLOのパレスチナ難民支援責任者を務めるマゼン・アブザイド氏によると、シリアのパレスチナ難民がガザに逃れ始めたのは2011年の内戦開始直後。13年には最大約370家族に達した。

その多くは、内戦開始後、反体制派の武装勢力に占拠され、今年4月に過激派組織「イスラム国」(IS)の侵攻を受けた首都ダマスカス郊外のヤルムーク難民キャンプ出身だ。

その後もガザへの流入は続くが、生活は厳しく、さらに欧州やエジプトなどに渡る人も多く、一部はシリアに戻ったという。

「欧州などに頼れる親類や渡航費用がない難民がガザに来たが、ここに新しい人を抱える余裕はない。避難先のガザでも戦争を経験し、未来に希望を見いだせないでいる」と同氏は指摘する。

ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍との昨夏の戦闘で、ガザ側では2200人超が死亡し、シリアから来たパレスチナ難民の男性(24)も犠牲になった。

イスラエルとエジプトによる境界封鎖で人や物資の移動が著しく制限され、復興は進んでいない。世界銀行の5月の報告では失業率は43%で、「世界207の国・地域の中で最悪」の状態だ。(中略)

ガザ北部の難民キャンプに住むムハンマド・アブハベルさん(76)は、48年のイスラエル建国時にガザに逃れ、エジプト、リビアを経て、ヤルムークで25年暮らした後、13年にガザに来た。3人の息子はシリアに残る。
「土地から土地へ、私の人生はいつも『難民』。ISが絶滅し、平和になればシリアに戻りたい」と語った。【12月26日 朝日】
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こうした行き場を失った難民のためにも、現実的視点にたった政治的解決が実現し、シリアでの戦闘が止むことを強く期待します。

アメリカ・ロシアは、それぞれの思惑はあるでしょうが、とにもかくにも停戦を実現する方向で当事者に影響力を行使することが望まれます。

なお、ロシア・プーチン大統領は、新政権へのロシアの影響力やシリア内の軍事基地などを確保できれば、アサド大統領にはこだわらない・・・とも見られています。
アメリカも、反体制派支援ではなく、シリア安定のためには何が必要かという観点で行動すべきときでしょう。

どうやって政権側・反体制派の両当事者を納得させるかという難題が残りますが。
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