孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス 国内外で続くテロとの戦い 社会に広まる不寛容の空気

2015-12-03 22:58:17 | 欧州情勢

(パリ同時テロのバタクラン劇場前で祈りを捧げるイスラム教徒の女性 【11月17日 木村正人氏 YAHOOニュース】)

【「自由はある程度制限されるが、われわれは戦時にある」】
パリ同時テロ後のフランスは、世界の首脳が集まる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)のパリ開催もあって、テロ直後に発令した非常事態宣言を11月20日には3カ月延長、治安維持をめぐり政府の権限を強化する関連法も併せて成立させています。

治安維持関連法によって、過激思想に関連するネット上の危険なサイトについて、政府が管理者の承認手続きを経ずに閉鎖でき、また、テロ容疑者らに対する自宅軟禁命令を出しやすくする法改正も行われています。
バルス首相は「自由はある程度制限されるが、われわれは戦時にある」と理解を求めています。

****パリ同時多発テロ】「標的はフランスの理念、自由だ」試練の“戦時大統領”オランド氏*****
パリ同時多発テロで、フランスは非常事態を3カ月間延長する方針を打ち出した。クリスマスの時期も含む大幅延長は、主犯格の死亡後もテロとの戦いを徹底的に進めるとのオランド大統領の強い決意の表れだ。

多くの国民が延長に理解を示しているが、不満や不安を抱える人々の求心力を維持しながら、次なるテロの抑止が実現できるか。その手腕が問われている。

「テロが標的にしたのはフランスの理念、自由だ。だが、フランスは『自由の国』であり続ける。恐れに屈しない」。オランド氏は18日、全国の市長が集まる会合で強調した。

オランド政権は市民が無差別に狙われたテロを、シリア空爆参加の報復ではなく、「自由」「平等」「博愛」との国の根幹をなす価値観への挑戦とみる。そのため国民生活に一定の制約を課すことになっても、「戦い」に打ち勝たねばならないとの判断がある。

非常事態の下では令状なしの家宅捜索、劇場や飲食店などの閉鎖、集会の禁止などが可能だ。今後はウェブサイトの閲覧制限も加え、過激思想を流布するモスク(イスラム教礼拝所)の閉鎖、二重国籍を持つ危険人物からの仏国籍剥奪なども導入する方針だ。

オランド氏は危機時の大統領権限の強化を念頭に憲法改正も目指す。左派の社会党は治安対策が右派よりも甘いとされたが、今回の対応ではオランド氏が「右派になった」(専門家)との指摘も出ている。

景気回復で十分な成果を出せず、支持率が歴代大統領で最低にまで落ち込んでいるオランド氏には、強い治安対策で求心力を高める狙いもありそうだ。世論調査では9割近くが非常事態延長を支持した。しかし、オランド氏を信用しないとの回答は54%に上り、国民の不信感の払拭には至っていない。

最大野党の右派、共和党の党首、サルコジ前大統領は「時間が無駄にされた」とテロ阻止に失敗したオランド氏を批判。2017年の次期大統領選の前哨戦となる地方選も12月に控える。仏政界も対テロ戦で協調を保てるかは不透明だ。【11月20日 産経】
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今のところ、「右派になった」“戦時大統領”としてのオランド大統領は国民の支持を広げたようです。

****仏大統領、人気急上昇=支持50%、テロ対応評価か****
フランスのオランド大統領の支持率が急上昇している。仏誌パリマッチ(電子版)が1日発表した12月の調査結果では前月比22ポイント増の50%となり、大統領就任直後の2012年7月以来の高水準。

パリ同時テロを受けた治安対策や、過激派組織「イスラム国」に対する強い姿勢が評価されているようだ。

調査は11月27、28両日に実施。個別項目では「海外での国益をよく守っている」が同8ポイント増の62%、「国民に真実を話している」が同9ポイント増の38%となった。同時テロから数日後に行われた別の機関の調査では、支持率は10ポイント程度の上昇にとどまっていた。【12月2日 時事】
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地方選挙での躍進を狙う極右「国民戦線」】
大統領は支持を拡大したようですが、気になるのは、社会に広まる不寛容の空気です。

****仏「イスラム嫌悪」拡大・・・暴力・嫌がらせ増加****
イスラム過激派によるパリ同時テロが起きたフランスで、イスラム教徒への暴力や嫌がらせが増えている。
実行犯の多くが仏国籍だったことなどを踏まえ、風当たりが強まっているのだ。

オランド政権は、国民の分断や、欧州とイスラムの「文明の対立」が深まらないよう警戒している。

南部マルセイユの地下鉄駅の出口で17日、頭を覆うスカーフ「ヘジャブ」を着たイスラム教徒の女性が、若い男に殴られ、軽傷を負う事件があった。イスラム団体「イスラム教フランス会議」によると、13日のテロ発生から19日までに、イスラム教徒への暴力や嫌がらせは、これを含めて24件発生した。

パリ北部で暮らすイスラム教徒のサワ・ブバクさん(38)は「イスラム教徒が嫌いなフランス人もいる。なるべく外に出ないようにしている」と打ち明けた。被害を避けるため、「ヘジャブ」を身に着けないよう娘に言いつける親も増えているという。【11月23日 読売】
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ファストファッション大手「ザラ」のフランス店舗で、ムスリム(イスラム教徒)のスカーフをかぶった女性客が入店を拒否されている動画がインターネット上で拡散し、騒ぎとなる事態も。
「『ザラ』は多様性の尊重を設立以来の基本理念としています」とする「ザラ」は、従業員2人を解雇したと先月中旬、明らかにしました。【12月1日 産経WESTより】

こうした社会に雰囲気のなかで、移民や難民の排斥を訴える極右勢力が支持を拡大しています。

****仏 テロ後初の地方選挙へ極右政党が支持拡大****
先月、同時テロ事件が起きたフランスで、事件後初めてとなる全国規模の地方選挙が今月行われ、移民や難民の排斥を訴え大きな支持を集めている極右政党が、初めて州のトップの座を奪うことができるか注目を集めています。(中略)

最新の世論調査では、移民や難民の排斥を訴えるルペン党首率いる極右政党の「国民戦線」が北部と南部の2つの州で、与党「社会党」を中心とする左派連合と最大野党「共和党」を中心とする右派連合を10ポイント以上上回る支持を集めています。

フランスのメディアは「国民戦線への支持率はこの2つの州だけでなく、ほかのいくつかの州でも同時テロ事件のあと、急速に伸びている」と指摘し、国内に流入する移民による犯罪やテロを懸念する声が高まっているため、国民戦線への支持が拡大していると分析しています。

今回の選挙で勝利した党は、州のトップに当たる議長を選出することができ、2年後の大統領選挙の前哨戦とも位置づけられていることから、国民戦線が初めて州のトップの座を奪うことができるか注目を集めています。【12月2日 NHK】
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いよいよマリーヌ・ルペン党首の大統領への道も開けてきたということでしょうか。

国外でもテロの標的に
パリ同時多発テロから1週間後の11月20日には、西アフリカ・マリの首都バマコの高級ホテルに武装した集団が銃を乱射しながら押し入り、約170人の宿泊客や従業員が人質にとられる事件が発生。人質にはフランス航空「エールフランス」の従業員12人も含まれていました。

治安部隊の救出作戦がおこなわれましたが、ロイター通信によれば、マリのケイタ大統領は19人が死亡、7人が負傷したと発表しています。

犯行声明を出したイスラム過激派「ムラビトゥン」は、襲撃は国際テロ組織アルカイダの分派組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)との共同作戦だったと明らかにしています。

「ムラビトゥン」の創設者で、米軍の空爆で死亡したとも言われているベルモフタール司令官は元々AQIMの幹部で、2013年1月に日本人10人を含む多数の外国人を殺害したアルジェリア人質事件の首謀者でもあります。

マリでは、2012年に政府軍の一部がクーデターを起こしたことに乗じて、トゥアレグ族の反政府勢力が北部を制圧して独立を一方的に宣言。北部が無政府化する中で、アルカイダ系など複数のイスラム武装勢力が伸長。反政府勢力に取って代わりました。

これに対し、フランスが2013年1月から軍事介入。空爆に加えて地上部隊も派遣して、掃討作戦を行い、大きな成果をあげたとされています。

しかし、“フランスなどの軍事介入で2013年にイスラム過激派からマリ政府が奪還した北部は、依然として情勢が安定しない。都市部の治安は回復したものの、郊外や幹線道路周辺ではイスラム過激派や犯罪組織が出没し襲撃が繰り返されている”【12月24日 毎日】というのが現状のようです。

旧宗主国として北・西アフリカとの関係がフランスは、オランド大統領のもとでアフリカでの活動を拡大し、1千人超の部隊を配置するマリを拠点に計5カ国で過激派掃討作戦を展開中ですが、その分、国外でもテロの標的にさらされる恐れが強まっています。

****フランスがマリで直面するもう1つの対テロ戦争****
パリ同時多発テロ直後のフランスに再び衝撃を与えた、西アフリカ・マリの首都バマコで起こった高級ホテル襲撃事件。

早朝のラディソン・ブル・ホテルの宿泊客らを襲ったこの事件は、イスラム過激派組織がマリ国内で深刻な脅威となっていることをあらためて示した。

同時に明らかになったのは、遠く離れた旧宗主国──フランスに対する攻撃でもあるということだ。(中略)

マリにおけるイスラム過激派との戦いは、数年前に「終結した」とされていた。12年にバマコでクーデターが発生し、過激派が台頭したのを受け、オランド仏大統領は13年に軍事介入を決定。アルカイダ系組織の掃討を開始し、北部の都市部を奪還した。昨年、仏軍当局者は「過激派をほぼ全滅させた」と発言している。だが明らかに、彼らは生き残っていたようだ。

フランスは今も、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)によるパリのテロの衝撃から立ち直れずにいる。その1週間後のマリ襲撃で、対テロ戦争で主導的役割を果たすフランスは、重過ぎる犠牲を払っていることを思い知らされた。

「今やフランスは、十字軍の中心的存在だと受け止められている。つまり、テロ攻撃のターゲットにされるということだ」と、英王立統合軍事研究所(RUSI)上級研究員のラファエロ・パンツッチは言う。(中略)

マリでは今年に入り、同様の襲撃事件が頻発していた。今回の首謀者とされるのが、13年1月のアルジェリア人質事件の主犯で、米軍の空爆で死亡したともささやかれるモフタール・ベルモフタール。彼が13年に結成した武装組織アルムラビトゥンが、犯行声明を出している。

頼りにならないマリ軍
今回の襲撃を生んだ原因は何か。フランスの油断や過激派の驚異的な回復力のほかに、政府の統治能力が脆弱な貧困国のマリで治安部隊育成に手間取り、過激派に猶予を与えたことが挙げられる。

現実には、フランスは軍事介入後も一度としてマリ北部に平和をもたらせていない。帝国主義と批判されるのを恐れるフランスは、治安悪化にもかかわらず仏軍駐留を縮小し続けてきた。

マリ軍も頼りにならない。数年にわたり米軍の訓練を受けたものの、12年には過激派との戦闘で即座に崩壊。あるマリの閣僚が言うには、マリ軍は「社会のくず。問題児に落ちこぼれに怠け者に犯罪者の集団」だ。

だが何よりの過ちは、首謀者ベルモフタールを殺害したとする確たる証拠がないことだろう。ベルモフタールのDNA証拠は発見されていない、と過激派は米軍の主張に反論する。

襲撃事件は、マリが最悪の事態に陥っていることを示した。安定化に貢献したと喧伝されていた仏軍介入が、何ら意味をなさなかった可能性すらあるのだ。

オランドはマリに「必要な支援」を行うと表明しているが、フランスはただでさえ対ISIS戦の強化を迫られる身だ。

その上、今や本当の意味で決着のついたことなど一度もなかった相手との戦いに再び足を踏み入れるという、受け入れ難い事実にも直面している。【12月3日 Newsweek】
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テロの直接的犠牲者の数よりは、国内外のテロとの戦いが続くなかで、守り続けてきた自由の制限も余儀なくされ、社会には不寛容の空気が広がるという政治・社会の変質の方がフランスにとっては深刻な問題と思われます。

異なる文化の人々と共存できる社会をつくるうえでは、移民・難民が集中する地区をつくらず、社会全体に取り込んでいく方向が重要に思われます。そのためには、異質な人々を迎え入れる側の寛容な意識が前提となります。

****タコ壺化を防げ****
確実に言えることはいったん過激化し始めたイスラム教徒の若者は、ベルギーの中でもイスラム過激派の人口密度が異様に高いモレンベークのような地域に出入りするようになると、過激化は一気に加速して、最終段階に到達する。

モレンベークは、191人の死者を出した2004年のマドリード列車爆破テロやこのほか、昨年にブリュッセルで起きたユダヤ博物館襲撃との関わりも取り沙汰されてきた。

ベルギーのジハーディズムを研究しているPieter Van Ostaeyen氏はブログの中で「ベルギーのムスリム人口は(モロッコ系やトルコ系が中心で)約64万人。シリアやイラクの過激派組織にベルギーから参加した人数は516人に達している。実に1260人に1人のムスリムが外国人戦士になっている計算だ」と指摘している。

首謀者アバウドと、行方が分からなくなっているサラ・アブデスラムは2010年の強盗事件でともにベルギーの刑務所に服役している。刑務所も過激化の温床となっている。

過激化の環境を改善していく必要がある。教育や就業の機会を均等にするのはもちろんだが、イスラム系移民の人口密度が突出して高くなる地域を作らないことや、モスクやイマームと連絡を取り、密室化を防ぐことが重要だ

イスラム系移民の過激化プロセスについても、もっとオープンな議論が求められる。【11月17日 木村正人氏 YAHOOニュース】
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