孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“忘れられた”クリミア半島のタタール人の対ロシア抵抗運動

2015-12-02 22:33:23 | 欧州情勢

(ウクライナからクリミアへの食糧搬入を阻止するタタール人 【11月25日 ロシアNOW】 タタール人はクリミア半島に起源もつテュルク系民族ですが、現在のクリミア・タタール人の容貌はほぼコーカソイドで、外見でロシア人やウクライナ人との見分けをつけることは外国人には難しいとのこと。クリミア・タタール語を母語とし、スンニ派ムスリムが大半を占めています。【ウィキペディアより】)

ウクライナからクリミアへの送電施設爆発 タタール人の復旧妨害で長引くクリミア半島の停電
先週、タイを旅行中に気になったニュース。

****クリミア全域停電、ウクライナの送電施設爆破か****
ロシアが昨年春にウクライナから一方的に併合したクリミア半島で22日、ほぼ全域が停電となり、地元政府は同半島の非常事態を宣言した。

一方、タス通信によると、ウクライナ内務省は同日、クリミアに電力を供給する同国南部の送電施設で21日に2度の爆発があったと発表した。この爆発が大規模停電の原因とみられている。ウクライナ内務省は、「何者かが故意に施設を破壊した」とみて、捜査を開始したことも明らかにした。ロシア側では、テロの可能性が取り沙汰されている。

ロシア政府は、22日朝の時点で約190万人が停電の影響を受けたとしている。

クリミア半島の電力は、ロシアによる併合後も、大半がウクライナ本土から供給されている。ロシア側の行政機関によると、クリミアでは緊急用の発電設備を稼働させて電力を確保し、空港での航空機発着などは通常通りだという。【11月23日 読売】
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爆破された送電塔は、クリミアに隣接するウクライナ側にあります。

犯行声明は出ておらず、反ロシア派によるテロ云々については定かではありません。
“クリミアの経済封鎖を訴えてきたウクライナの反ロ派は、インターネット上に爆発で損傷した鉄塔の写真を掲載したが、自らの関与は否定した。”【11月23日 時事】

“気になった”というのは、正直に言えば、「ウクライナ東部がせっかく落ち着いているのに、クリミアでゴタゴタするとまた何かともめそう・・・」という思いであり、もっと言えば、「クリミアについてはこれ以上どうやってもロシア支配の現状を変更することはできないだろう」という思いがあってのことです。

この思いは、国際的な状況からすればおそらく間違っていないでしょう。

ロシアにとって、クリミアとウクライナ東部の位置づけは異なります。
ロシアからすれば、クリミアは本来はロシアに帰属すべきものであり、それを取り戻しただけです。
ロシアと本格的な戦争でもする気がなければ現状は覆らないでしょう。どんなに経済制裁を続けても無理でしょう。

そうした考えは現状認識として間違ってはいないでしょうが、当然にウクライナの考えとは異なります(力による国境変更を批判する日本を含めた欧米側の公式見解とも)。

それはともかく、忘れてしまっているのは、クリミアに取り残された非ロシア系少数派のタタール人の差別に苦しむ境遇を無視したものであるということです。

クリミアの停電は未だに復旧していませんが、その原因は、少数派タタール人が現場付近にピケをはって復旧活動を妨害しているためのようです。

****クリミア半島で1週間続く大停電のわけ…送電線爆破、“報復”のサボタージュ? ロシアの無策****
ロシアが昨年3月、一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で、大規模な停電が約1週間にわたり続いている。同半島に電力を供給する、ウクライナ本土の送電施設が何者かに爆破され、修復作業が行われずにいるためだ。

クリミアは電力の3分の2を本土に依存しており、その脆弱(ぜいじゃく)さが露呈した。ロシアは、ウクライナが意図的に送電を再開しないと非難しており、両国関係の緊張が再び高まっている。

発端は今月22日にかけての夜間、クリミアに近接するウクライナ・ヘルソン州の2カ所で4基の送電塔が爆破されたこと。

クリミアの地元政府は非常用のガスタービン発電装置を作動させたが、半島の主要都市では1日数時間しか電力をまかなえず、都市機能がまひ状態に陥った。照明や携帯電話、交通機関など広範な分野に影響が出ている。

送電塔爆破の実行犯は不明だが、現場付近ではクリミアの先住少数民族、タタール系(クリミア・タタール人)やウクライナ民族派の活動家がピケを張っている。彼らはウクライナへのクリミア返還を要求する立場で、「ロシアがウクライナ人の政治犯を釈放するまで送電塔の修復は認めない」などと主張している。

クリミアは電力や淡水、食品などでウクライナ本土への依存度が高かったにもかかわらず、ロシアが人工的な「国境線」を引いた。ウクライナ政府は送電問題に関する公式説明を避けており、ピケ隊を黙認しているとの見方もある。

「対テロ協調」の国際的機運が出ている中、ウクライナには米欧が対露制裁を緩和することへの警戒感がある。

ロシアは送電停止を「政治的行動だ」と非難し、ウクライナへの石炭供給を制限する“報復措置”を発動。

ロシアはクリミアへの海底電力ケーブル敷設を進めているものの、1本目は12月中旬以降、2本目は来年半ばの稼働予定で、電力不足は長期化する可能性がある。

クリミアでは親露的なロシア系住民が多数派だが、一部にはロシアや地元政府の「無策」を批判する声が出始めている。【11月29日 産経ニュース】
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妨害活動の目的は、タタール人に対する差別的な処遇に世間の注目を集めること
国際社会から「忘れられた存在」となりつつあるタタール人としては、差別的な処遇に世間の注目を集めることがその目的だそうです。テロなどは考えていないとも。

****忘れられたクリミア半島で迫害され、抵抗するタタール人****
ウクライナ南部のクリミア半島では11月下旬から停電が続いており、ウクライナ本土と半島とをつなぐ道路ではタタール人の活動家らがバリケードを築いている。その活動家の1人がこう息巻く。「次は海だ」

タタール人はクリミア半島の先住少数民族だが、半島は2014年3月、ロシアに一方的に併合された。イスラム教徒のタタール人はただでさえ差別されているのに、ロシアが来て以来ますます抑圧がひとくなったと、抵抗を続けてきた。道路の封鎖は9月から続けている。

活動家のリーダー格の1人、レヌール・イスリヤモフによれば、彼らは近いうちにクリミアの海上ルートの妨害工作に着手するという。

彼はロシアの野党勢力オープン・ロシアに語った。「最初は物流を止めた。次はエネルギーを止めた」

イスリヤモフの言う「エネルギー停止」とは、クリミア半島の停電を指す。先月下旬、ウクライナ領内の送電施設が何者かに爆破され、半島のほぼ全域への電力供給が止まったままになっている。タタール人活動家らは現場付近にピケを張り、その修復を妨害しているのだ。

「次は海上だ」と、イスリヤモフは言う。オープン・ロシアによれば、ロシアとクリミア半島とをつなぐケルチ湾フェリーの妨害を指しているようだ。2018年までにはロシアとクリミア半島に橋を架ける計画もある。

宗教的文学が突然、過激思想に
一連の妨害活動の目的は、タタール人に対する差別的な処遇に世間の注目を集めることでだとイスリヤモフは言う。一部で言われるような、ウクライナやロシアに対するテロなど考えたこともないという。

タタール人はクリミア半島の人口の約13%を占め、その文化は半島固有のものとして何世紀にもわたる歴史を持つ。人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは共に、ロシアの実質的な支配下にあるクリミア半島で、タタール人への迫害が増していると警告してきた。

タタール人の家庭や礼拝所が急襲されたり、以前は「問題ない」とされていた宗教的文学作品が「過激思想だ」として禁止されたりしている。

タタール系のメディアにも影響は及んでいる。ロシア当局は今年3月、1社を除くすべてのタタール系テレビ局の認可を取り消した。【12月2日 Newsweek】
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ロシア・クリミア側の対応が今後進んだとき、タタール人の抵抗は?】
今回の停電の問題に限らず、クリミアをめぐっては、ウクライナ・タタール時勢力とロシアの間で緊張が続いてきました。
今回問題を受けて、ウクライナ側には更にクリミアへの圧力を強めようとする動きもあるようです。

****クリミア・ウクライナ間に残った物****
ウクライナ側からクリミア半島への送電線の支柱が破壊された後、クリミアでは非常事態が宣言された。

昨年の住民投票でロシアへの編入に賛成票を投じた住民に対して、ウクライナの水、食料の供給の停止や、クリミア-ウクライナの公共交通機関の接続の妨害が試みられた。

ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は23日、ウクライナとクリミアの間の貨物輸送を禁止し、クリミアとの商業取引を停止する問題を審議するよう、ウクライナ政府に提案した。

クリミア半島は22日日曜日の夜、闇に沈んだ。不明な者によって、クリミアに隣接するウクライナ・ヘルソン州の送電線の支柱が爆破された。だがクリミアの住人へのエネルギー遮断は、ここ半年で住人が直面した初めての問題ではない。


ウクライナ政府は昨年4月、北クリミア運河を通じたクリミアへの水の供給を遮断した。ウクライナはそれまで、半島の水の需要85%を、この運河を通じてドニエプルからクリミアへ供給しながら満たしていた。

クリミアは給水問題の一部を、クリミアのビユク・カラス川から運河に放水することで解決。同時に掘り抜き井戸を掘り、運河に水を供給するためのパイプラインを建設し始めた。北クリミア運河および住宅への試験給水は、ケルチ、フェオドシヤ、スダクなどのクリミアの都市に、今年4月に行われた。

北クリミア運河の水は主に、農地の灌漑に使用されていた。ウクライナから遮断された後、農家は多くの水分を必要とする稲作を止め、他の作物の栽培に集中した。

交通
ウクライナは昨年12月、クリミアとの鉄道とバスの連絡を停止すると発表。クリミアはバス関連の状況を何とか打開しようと試みた。

マスメディアによると、クリミアの交通会社は、国境まで行けるバスの乗車券を販売し始めた。国境手前で降車し、歩いて越境する。ウクライナ側でも同様のバスに乗ることができるが、それはウクライナ・ナンバーのついたバスになる。同じ乗車券でウクライナの都市のいずれかに向かう。

送電線の支柱の破壊騒動を背景に、ポロシェンコ大統領は23日、クリミアとの貨物輸送も停止する問題を検討するよう要請した書簡を、ウクライナのアルセニー・ヤツェニュク首相に送った。

ウクライナ内閣は同日、大統領の要求に対応し、クリミアとの貨物輸送を停止する決定を行った。このようにして、ウクライナとクリミアの境界を、歩いて通過するか、個人の自動車で通過するかしかなくなる。

これ以外に、ウクライナは6月、クリミアに行く外国人向けの新しい規則を導入した。キエフがこれまでと同様に行政と考えている境界を超えるのに、ウクライナ人は身分証明書を提示するだけで良いが、外国人は身元を証明する書類だけでなく、ウクライナ入国管理局によって発給される特別許可証も提示しなければならない。

食料
過激な民族主義グループ「右派セクター」(ロシアで禁止されている組織)のメンバーと、親ウクライナ派のクリミア・タタール組織「マジュリス」は9月末、クリミアに対する無期食料遮断の開始を発表した。

国境にチェックポイントを開設し、食物を積載したトラックをクリミアに通さないようにしている。

クリミア行政府は、封鎖後まもなく、ウクライナの過激な行動がなくとも、クリミアの店におけるウクライナ食品のシェアは最近激減し、約5%ほどになっていたことを明らかにした。行政府によると、半島内の生産品とロシア本土からの食品で十分まかなわれているという。

封鎖から1ヶ月が経過した後、ウクライナの食品をクリミアの店でも見つけることができると、ウクライナのマスメディアは伝えていた。

クリミア税関のウラジミール・アヴラメンコ税関長によると、食品を含むウクライナ品は、ウクライナとクリミアを結ぶ地峡以外に、ロシア・ウクライナ国境の他の領域を通じて、クリミアに入り続けているという。【11月25日 ロシアNOW】
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「ロシアNOW」はロシア政府系メディアだということもあってか、総じて言えば、ウクライナからの圧力にモかかわらず、クリミア・ロシア側が何とか対応しているようにも見えます。

なお、「ロシアNOW」は必ずしもロシア政府のプロパガンダではないとも主張しています。実際、政府施策を批判するような記事も掲載されているようです。読売と提携しているというのも面白いところですが。

経済制裁・原油安に苦しむロシアにとってクリミアは重荷になっているのは間違いないでしょうが、1~3年先の中期的に見れば、海底電力ケーブル敷設や橋の建設などもあって、ロシア側からすれば、クリミアの水・電力・食糧などの脆弱性も相当程度に克服されることが予想されます。

それは、ウクライナやタタール人勢力にとっては、抵抗手段を失っていくことにもなります。
有効な抵抗手段を失ったとき、テロなどの過激行為に暴発することがないか・・・懸念もされます。

クリミアにおけるタタール人への差別、不当な扱いは、当然に改善されるべき問題です。
ただ、クリミアのロシア支配を認めない立場をとる限り、ロシアに処遇改善を求めるというのも、表立っての話としてはしづらいところがあるのでは。

タタール人の抵抗運動の今後、境遇改善の道筋については、難しいものがあります。
“忘れられた”ままにしておくこともできませんし・・・・。
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