孤帆の遠影碧空に尽き

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中国  「一人っ子政策」廃止を受け、同政策の生んだ弊害「無戸籍者」への戸籍付与を決定

2015-12-10 23:11:50 | 中国

(中国各地に貼られてきた、「一人っ子政策」政策の厳守を求める看板やポスター 【10月5日 WSJ】)

一人っ子政策が「二人っ子政策」に 中国政府は引き続き家族計画に介入し続ける
中国が長く続けてきた「一人っ子政策」が10月末の共産党の重要会議・第18期中央委員会第5回総会(5中総会)で決定されたことについては、すでに多くの記事が報じられています。

男性と高齢者が多く、若者が少なくなっているといういびつな人口構成のもとで労働人口減少・少子高齢化社会を迎えることへの対応策です。

****一人っ子政策ついに廃止でも変われない中国*****
形骸化している政策を今さら転換しても、少子高齢化の流れは止まらない

中国が30年以上にわたって続けてきた一人っ子政策をついに廃止する。共産党が党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で決定したもので、これからはすべての夫婦が2人目の子供を持てるようになる。国営の新華社通信によれば、目的は「人口推移のバランスを取り、高齢化問題に取り組むため」だという。

この方針転換の政治的メッセージは大きい。国内外の専門家が人口動態に関する危機を予測していたにもかかわらず、中国政府は一人っ子政策の廃止に乗り気でなかった。この政策がカネのなる木でもあったからだ。

政府は関連手数料という名の違反者からの罰金を年間で30億ドル以上徴収してきた。だが、この数字は控えめなものかもしれない。ある中国人弁護士の分析によると、13年には31行政区中23の行政区だけで31億ドルもの罰金が徴収されているからだ。

この驚くべき数字は、一方で別の現実をも物語っている。これほど大勢の人たちが一人っ子政策を無視しているということだ。2人(あるいは3人や4人)の子供を持つことは罰金を払う余裕がある家庭や、罰金を回避できると確信している家庭には常に選択肢としてあった。

実際のところ、一人っ子政策は今や例外と抜け穴だらけ。既に多くの夫婦には2人目の子供を持つことが認められている。例えば、少数民族や農村在住者、どちらかの親が一人っ子である場合などだ。長子が障害児だったり、一部の省では長子が女児だった場合も2人目を持つことができる。

さらに罰金が歯止めとなるはずのこの政策は富裕層には通用しなかった。しかも2億7000万人以上いる国内移民は転居を繰り返すことが多く、当局の管理から逃れてきた。

要するに、中国で2人目の子供を希望した家庭には、既に2人目がいる可能性が高いということだ。一人っ子政策が緩和された13年、人口統計学者らは2人目を持つ資格が新たに認められる夫婦は1000万~2000万組いるだろうと予測した。しかし、今年の5月時点で許可を申請した夫婦は150万組以下にとどまっている。

「二人っ子」にスライドしただけ
一人っ子政策を完全廃止しても、中国でベビーブームが起こる可能性は低いだろう。根本的な問題は、家族計画に関する中国政府の姿勢ではなく、社会の変化にある。

世界中の政府と同じように、中国政府も気付いている。都会的な生活を送り、教育レベルが高い市民は概して、大家族を作りたいと思わないということに。

中国の合計特殊出生率は13年で1.67人とかなり低く、一人っ子政策を完全撤廃しても解消されることはないだろう。

同政策についての著書もあるジャーナリストのメイ・フォンが指摘するように、多くの中国人女性は、出産すれば必死で手にしたキャリアを棒に振ることになると考えているからだ。

人口統計学的に見れば、今回の変更は大きな影響をもたらしそうもない。だが重要な点は、中国政府が引き続き家族計画に介入し続けるということだ。一人っ子政策が「二人っ子政策」にスライドしただけのこと。

今回の方針転換は、人口統計上の現実によって引き起こされたのであって、国民に家族計画の自由を与えたわけではない。

中国政府は、独身女性の卵子凍結を禁止するなどして一人親を抑制している。そうした出産に関する個人の決定を厳しく締め付ける姿勢は、今後も変わらないだろう。【11月6日 Newsweek】
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上記記事にあるように、「一人っ子政策」はすでに多くの抜け穴があったと言うか、すでにこれまでも緩和されてきていたこと、違反者への罰金が地方政府の重要な財源とみなされていたこと、「一人っ子政策」が廃止されても、二人目を持とうと考える夫婦はそれほど多くはないこと、何より、家族計画に対する国家管理は今後も継続することなどがポイントになります。

【「一人っ子政策」の撤廃によって人口が急激に増えるとは考えにくい状況
国家衛生計画出産委員会は、同政策廃止によって今後5年間で毎年300万人の新生児が増え、2050年までに労働力が新たに3000万人増加、現在13億6800万人の人口はピーク時の2029年に14億5000万人に達すると予想しています。

ただ、その効果を疑問視する見方の方も多くあります。

****一人っ子政策」なくなっても、2人目生みたい夫婦は「わずか3割」=中国****
7日付の中国メディア「毎日経済新聞」によると、旅行商品販売サイト「携日旅行網」の梁建章最高経営責任者(CEO)は5日、出席したフォーラムで、夫婦1組に対して2人目の子の出産が認められるようになったのに、「本当に2人目を生もうと考える人は30%程度」として、社会の高齢化を防止する「補助金政策」が必要などと主張した。

梁CEOは北京大学教授(専門は経済学)も兼任。2012年には同僚の李建新教授との共著「中国人は多すぎるのか?」を発表し、中国の人口構造の変化の経済に及ぼす影響を指摘した。

中国政府が一人っ子政策の緩和に踏み切ったのは2013年だが、梁CEOはそれ以前から同政策と撤廃を主張していたことで知られる。(中略)

梁CEOが示した「本当に生もうと考える人は3割」について中国人民大学「人口と発展研究センター」の任杜鵬副主任は、「人々の収入が増えると、出生率は低下する傾向が出る」と指摘。

任副主任によると、北京、上海、浙江省などの経済先進地域では2人目の子の出産が認められるようになても、出生率が低いままという。

任副主任がこれまでに行った調査でも、都市部住民の70%−80%の人が「2人目の子をほしい」と回答するが、「本当に2人目を望む人は30%程度しかない」感触だという。

上記記事を転載した新浪網は7日朝、「政府が補助金を出すとしたら、あなたは2人目の子をほしいですか?」とのアンケート実施した。

同日午前10時10分(日本時間)現在、「ほしくない」と回答した人は54.1%で半数を超えた。「ほしくなるかもしれない」は26.2%、「なんとも言えない」は19.6%だった。【12月9日 Searchina】
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****一人っ子政策」撤廃で人口は増えるか=中国メディア****
・・・・中国メディアの21世紀経済報道によれば、北京市や上海市などの都市部では「子どもの養育に費用がかかりすぎる」ことを理由に、第2子を望まない家庭が非常に多いことを紹介している。

中国では今回の「一人っ子政策」の撤廃前より、一定の条件を満たしている夫婦は2人目の子どもを設けることができた。だが、21世紀経済報道によると、その条件を満たしていた夫婦1100万組のうち、2人目の出産を申請していた夫婦は169万組にとどまっていた。

中国ではもともと「持ち家がないと結婚できない」と言われるほどで、不動産ローンを抱えている家庭は少なくない。また、子どもたちの学業面における競争も激しく、親としては2人目の子どもは欲しいが、経済的な余裕がないという中国人も少なくないようで、「一人っ子政策」の撤廃によって人口が急激に増えるとは考えにくい状況だ。【11月10日 Searchina】
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生活水準向上とともに少子化が進行するのは、日本を含む東アジア共通の社会現象となっています。
背景には、女性の教育水準向上に伴う社会進出が顕著で、さらに子育てや住宅費用が高騰していることが挙げられています。

“合計特殊出生率(女性1人が生涯に出産する子供の数)を見るとよく分かる。日本は2013年、1.43だったが、中国は(2010年)は、1.18、韓国も1.18、シンガポールが1.19、香港が1.12で、タイでも1.39となっている。各国とも現在の人口を維持するのに不可欠な2.1を大きく下回っているのが現状だ。”【11月9日 JB Press 末永 恵氏「一人っ子政策やめても焼け石に水、衰退に打つ手なし」】

【「一人っ子政策」違反で生まれた無戸籍者 その解消へ
「一人っ子政策」の功罪のうち、“功”については、人口爆発を抑制することで貧困からの脱却を可能にしたことがあげられるのでしょうが、それを検証したものはあまり目にしていません。

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―― 中国は6億人の国民を貧困から救い出しました。一人っ子政策は、こうした急激な経済成長の起爆剤となったのではないですか。

(元ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者で、2007年のピュリツァー賞を受賞したことでも知られるメイ・フォン氏)
 ジャーナリストがよく持ち出す説ですね。ただ、中国政府は6億人を貧困から救い出したというより、国民が自らの力で貧困を抜け出したととらえるべきだと私は考えています。確かに、有効な政策もありましたが、それは一人っ子政策よりも、外国投資を促したり、民間起業に対する障壁を撤廃したりといった政策のほうでしょう。

 経済成長を促したもう一つの要因に、人口の増加があります。中国は60年代から70年代にかけて人口が爆発的に増加しました。その世代が成長して、80年代から90年代にかけての製造業ブームでは労働力として活躍したのです。その彼らも今や高齢者となり、政府は彼らを支えなくてはならなくなりました。このことが、将来的な成長の足かせとなっているのです。【11月5日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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“罪”については、強制的な中絶・避妊手術という基本的人権を無視した行為が横行してきたことが多数報じられています。

そのこと以外にも、多数の「無戸籍者」を生んできたことが挙げられます。その数は1300万人とも、数千万人ともいわれていますが、中国政府はこの「無戸籍者」に戸籍を与える方針を決定しています。

****中国政府、ブラックチルドレン1300万人に「戸籍」付与へ****
中国中央テレビ(CCTV)によると、中国政府は10日までに全土で約1300万人に上る「黒孩子(ブラックチルドレン)」と呼ばれる無戸籍者に対し戸籍を与える方針を決めた。従来は学校教育を受けることも、医療保険に加入することなどもできなかった。

習近平指導部が「一人っ子政策」廃止を10月に決めたのを受け、放置されてきた社会矛盾を解消する。ただ、「一人っ子政策」違反で生まれた無戸籍者が内陸部にはなお多数残されているとの見方もあり、最終的に数千万人に上る恐れがある。【12月10日 産経】
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多数の「無戸籍者」が生まれた背景には、規則に違反して出産した場合には、「罰金を払わないと戸籍登録を認めない」という行政対応がとられたことが挙げられています。

今回の「無戸籍者」への戸籍付与の決定については、戸籍がないことで教育・行政サービスが受けられないという問題の解消よりは、テロ防止のための国民管理強化の視点からの決定とも指摘されています。

****カネ支払わねば出生届を受け付けず」などで、「無戸籍者」が1300万人=中国****
中国政府・公安部(解説参照)は21日に開催した同部指導陣の会議で、「無戸籍者」に戸籍を取得させる方針を確認した。中国メディアの第一財経日報によると、中国の無戸籍者は1300万人以上とされている。

無戸籍者が増えた大きな理由はいわゆる「一人っ子政策」で、規則に違反して出産した場合には、「罰金を払わないと戸籍登録を認めない」などのケースがあったという。

第一財経日報によると、2014年に行った調査では、無戸籍者の6割以上は、一人っ子政策に違反する出産で生まれてきた人だった。その他、捨て子や母親が未婚であり戸籍登録をしなかった例、さらに行政側の怠慢で戸籍が取得できなかった例もあったという。

「中華人民共和国戸籍登記条例」によると、出生があった場合、戸主などが1カ月内に戸籍登録をすると定められており、登録についての付帯条件は一切ない。

ところが、1979年に産児制限が導入されると、行政側が「政策に違反して出産した場合、罰金を支払わないと戸籍登録を認めない」という状況が発生した。「戸籍登記条例」を無視したやり方だ。

中国では産児制限を推進するために、中央政府の一部門として計劃生育委員会(計画出産委員会)を置き、同委の下部に省、市、県、さらに細かい行政区ごと、そして職場ごとに計画出産委員会を設けた。

各委員会は担当範囲全体における「出生数の上限」を厳守することが求められた。第一財経日報は直接言及しなかったが、罰金未払いを理由に新生児の戸籍登録をしないことは、各委員会の“ノルマ達成”にとって有利だったことになる。

中国では「一人っ子政策」により少子高齢化が極めて急速に進行した。そのため中央政府は2013年に「産児制限そのものは継続するが、1組の夫婦について2人目の子の出産を認める」と、政策を緩和した。

第一財経日報によると、福建省統計局人口普査(日本の国勢調査に相当)センターの姚美雄副主任は、1300万人も戸籍のないひとがいたのでは、加速する少子高齢化の悪影響がさらに深刻になるとの見方を示した。

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◆解説◆
中国政府・公安部は日本の警察庁に相当する政府機関だが、戸籍管理も担当している。治安維持や犯罪防止と国民の管理は密接に関連しているとの考えが背景にあると言ってよい。

21日の会議ではテロ防止が第1の議題で、無戸籍者対策が2番目の議題だった。テロ防止の一環として、国民の管理強化がこれまで以上に意識されるようになった可能性がある。【11月26日 Searchina】
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テロ防止の観点が重視されたとしても、「無戸籍者」が解消するのであれば、評価すべきことでしょう。
というか、1300万人、あるいは数千万人もの「無戸籍者」が存在して、行政の枠外に放置されてきた現状が、とんでもないことと言うべきでしょう。
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