孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  深刻な大気汚染で「きれいな空気」に商品価値 中国よりもひどいインドの汚染

2015-12-16 22:29:54 | 環境

(〔PHOTO〕gettyimages 【12月15日 現代ビジネス “中国「大気汚染」の本当の話〜募る苛立ち、肺がん死亡率も急上昇”】

屋内でも 国外にも
中国の“PM2.5”濃度に代表される大気汚染の深刻さ、市民生活への影響が連日報じられています。

****北京 大気汚染「赤色警報」 市民生活に影響****
中国の北京は、大気汚染に関する警報の中で最も深刻な「赤色警報」が初めて出されたことを受け、8日から小中学校などが休校になるなど、市民生活に影響が広がっています。

北京市政府は7日夜、重度の大気汚染が72時間を超えて続くことが予想されるとして、大気汚染に関連した4段階の警報のうち、最も深刻な「赤色警報」を初めて出しました。

北京市内は8日も、各地で大気汚染物質PM2.5の濃度が1立方メートル当たり200マイクログラムを超えています。

「赤色警報」が出されたことを受け、北京市政府は市内の小中学校や幼稚園に対して休校とするよう指示を出し、児童・生徒合わせて406人が通う日本人学校も休校となりました。日本人学校が大気汚染を理由に休校となったのは、今回が初めてだということです。

また、北京市内では8日朝から、ナンバープレートの末尾の数字が偶数か奇数かによって市内での走行を制限し、車の数を半分程度まで減らす措置も始まっています。

マスクを着用して通勤していた27歳の会社員の女性は、「北京の住環境や大気汚染は本当にひどい状況だと思う。健康を守るための有効な手段は限られているので内心不安を抱えている」と話していました。

北京市政府は10日まで、車の走行の制限や、大気汚染物質を排出する工場の操業停止などの措置を続けることにしていて、市民生活に影響が広がっています。【12月8日 NHK】
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汚染は屋外だけでなく、屋内にも及んでいます。

****北京の大気汚染濃度、屋内でも「汚染」レベル・・・清華大が発表****
先日、深刻なレベルの大気汚染が発生して最高レベルの「赤色」警報が初めて発令された北京市。外出を控えた市民も多かったようだが、屋内でもPM2.5の吸入量が多くなることが清華大学の研究で明らかになった。中国中央ラジオ局が13日報じた。

記事は、同大学の電子工学部、建築環境検測センターなどが共同で2014年11月から今年1月に実施した調査研究の結果を紹介。407人の参加者による11万時間分の室内データを収集した結果、同市の屋外における平均PM2.5濃度が1立方メートルあたり91.5マイクログラムだったのに対して屋内の平均も同82.6マイクログラムの「軽度汚染レベル」に達していることが判明したと伝えた。(後略)【12月16日 Searchina】
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更に、海を越えて、日本を含む周辺国へも影響が及んでいます。

****中国の大気汚染、海を越えて台湾へ 「北側の窓開けるな」、「非常に汚い」など当局が注意喚起****
台湾では15日午後、大気中のPM2.5の濃度が高まった。中国大陸の上海付近から汚染された大気が海を越えて到達したため。中華民国行政院(台湾政府)環境保護署空気保護処は外出をできるだけ控えたり、北側の窓を閉めるように注意を促した。

16日になっても大気の世ぼれた状態は続いている。汚染がひどいのは台湾北部から西部沿海地区で、基隆では同日午前8時(日本時間同日午前9時)現在のPM2.5の濃度が空気1立方メートル当たり72マイクログラムだ。

台湾の環境保護署はPM2.5による大気汚染を10段階に色分けして表示している。「汚染が最もひどい」とされる空気1立方メートル当たり10マイクログラム以上は「紫色」の表示であるため、「紫爆」という言い方も定着した。【12月16日 Searchina】
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当局「『浄化された空気』を販売することはできない」】
こうした状況で、「きれいな空気」に対価を要求することの是非が問題になったとも。

****きれいな空気には商品価値  大気汚染の中国で飲食店が客に料金請求、当局「認められない****
新華社系のネットメディア「新華網」によると、浙江省張家港市で、飲食店が客に「空費浄化費」を請求していたことが分かった。当局は同請求は認められないとして、7日以内に取りやめるよう命じた。

張家港市物価局価格通報センターに市民からの通報があり、調べたという。店側は空気清浄器を設置したとして、1テーブル当たり1元(約18.5円)の空気浄化費を請求していた。

同市物価局の関係者は「空気は人類が生存するために必要な自然資源だ。消費者が飲食店に来て食事をする際に、呼吸をせねばならないのは必然だ。飲食店は良好な飲食環境を提供する義務がある。消費者が『浄化された空気』を注文していない以上、『浄化された空気』を販売することはできない」と説明。

物価局は同飲食店に対して、7日以内に改善するよう指示。再び同じ問題を出した場合には、改めて厳しく処罰すると通告したとおいう。

物価局関係者によると、同問題を調べた際に、飲食店側の価格政策に対する理解が乏しく「サービスを提供したのだから、費用を請求してもよいだろう」程度の認識しかなかったと判明したという。【12月15日 Searchina】
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当局の「空気は人類が生存するために必要な自然資源だ。消費者が飲食店に来て食事をする際に、呼吸をせねばならないのは必然だ。飲食店は良好な飲食環境を提供する義務がある。・・・」は一応もっともです。
(メンツにかけて「空気販売」を阻止したい当局の立場が感じられ、面白いところですが)

ただ、それを言うなら「政府・当局は良好な大気環境を提供する義務がある」とも言えるでしょう。

「空費浄化費」について言えば、東南アジアの国々で「冷房」が効いたお店は一般に高い料金設定をしていますので、「きれいな空気」を提供するコストが上乗せされた価格になることは自然なことでしょう。
問題は、本来は「人類が生存するために必要な自然資源」である「きれいな空気」が商品価値を持つような環境になってしまったことです。

大気汚染の原因となっている石炭依存構造
工場や自動車に加え、冬場の大気汚染を加速させているのが、旧式石炭ボイラーで運営されている「暖気」と呼ばれる集中暖房システムだとも指摘されています。

****PM2.5の元凶に「集中暖房」 社会主義の理念で早期に完備、旧式ボイラー祟る=中国メディア****
中国北部の都市部では「暖気(ノワンチー)」と呼ばれる集中暖房システムが導入されている。しかし旧式の石炭ボイラーを用いた暖房システムは大気汚染の大きな原因になり、現在はガス燃焼ボイラーなどへの転換が進められている。

世界で初めて、全国の都市部における集中暖房を導入したのはソ連だった。1930年代には本格着手。ボイラーで熱水を作りパイプを通じて各部屋に置かれた熱交換器に通し、冷えた水を再びボイラーに戻す方法だ。(中略)

現在の中国では「暖気」の運営組織も企業化されているが、地元紙の瀋陽晩報によると、検査した市内108社の熱供給企業のうち14社に排気放出について違反行為があったという。

市側としては、「排出基準を満たさない旧態然としたケースがあれば処罰し、資料の改竄などがあれば、さらに厳しく法的責任を追究する」考えだ。

一方、北京市ではすでに、「暖気」用施設の更新が進んでいる。市中心の6つの区については、すべてガス火力ボイラーにしたという。郊外の新興地区でも施設の更新は進められている。

そのため、同市における二酸化硫黄の累計濃度は「供暖」が実施される中国北部では最も低く、「供暖」による大気汚染がない南部都市並みの水準という。【11月11日 Searchina】
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産業構造においても、「暖気」のような市民生活においても、中国は石炭に大きく依存しており、このことが大気の汚染、多量の温室効果ガス排出につながっています。

*****地球滅亡級」汚染でも変われない国****
・・・・石炭は、主要なエネルギー源の中で最も環境を汚す。中国の「エアポカリプス」(大気を示す“エア”と、世界の意終末を意味する“アポカリプス”を組み合わせた新語)も、強大な政治的影響力を擁する巨大な石炭産業と密接な関係にある。

この40年間の中国の目覚ましい経済発展は、豊富で安価なエネルギーに大きく依存してきた。今日もエネルギー消
費の66%は、石炭が占めている。

しかも中国政府は今年、20年までに少なくとも155基の石炭火力発電所を新設することを承認している。・・・・【12月22日号 Newsweek日本版】
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先のCOP21では、アメリカとともにCO2排出削減にむけて積極姿勢を示した中国ですが、こうした石炭依存体質をどこまで改革する気があるのかは疑問もあります。

“アメリカ政府はCOP21を前に、公の場では中国の排出削減目標を称賛し始めた。しかし、内心では強い疑念を拭えずにいる。”【同上】

対策は進めてきた中国政府、しかし抵抗勢力も強固
もっとも、中国が手をこまねいているとか、無策だとかいう訳でもありません。

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・・・だが実際には、中国はこれまでに相当量の排出削減を実現してきた。 

中国には数多くの水力発電用のダム(全国で約4万7000ヵ所)がある。原子力発電にも積極的で、建設中もしくは建設の認可が下りたものだけで29基もある。20年までに原発による発電能力は現在の2倍以上になる見込みだ。

自動車からの二酸化炭素(CO2)排出についても、欧米の自動車燃費基準で定められた減少分の10倍を超える削減を実現した。

「中国がどれほど積極的に(エネルギー源の)多様化を進めてきたか、世界は理解できていないと思う」とルフトは言う。「そうした政策がなかったら、状況がどれほど深刻になっていたかという点もだ」【同上】
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しかし、石炭、石油、電気といったエネルギー部門は巨大な既得権益を有する国有企業の牙城であり、特定の政治勢力を支える基盤ともなっています。

習近平主席は、こうした勢力に対し、石油産業を基盤とする周永康・前共産党中央政治局常務委員の逮捕に見られるように、汚職撲滅の粛清運動の側面から切り込んでいます。

電力を牛耳る李鵬元首相ら李一族とつながる石炭業界に対しても、汚職摘発で揺さぶりをかけながら、環境保護対策を迫っています。

今後の環境対策がどこまで進むかは、エネルギー部門を支配する抵抗勢力との権力闘争的な側面もあって、不透明でもあります。

ただ、共産党政権は日本が考える以上に、国民の不満には敏感なところがありますので、政権基盤を維持するために、それなりの対応は今後行っていくのではないでしょうか。

世界で最も大気汚染がひどい20都市のうち、13都市をインドが
ところで、日本では、隣国、それも“厄介な隣国”ということで中国が常に話題になりますが、客観的に世界を見渡せば中国以上に大気汚染がひどい都市はたくさんあります。

しかも、中国ほどの対策も取られていない・・・というのが実情です。

WHOが昨年、世界の約1600の都市を対象に大気汚染を調査した結果、最も汚染がひどかったのがインドのニューデリーでした。
また、世界で最も大気汚染がひどい20都市のうち、13都市をインドが占めています。

****大気汚染は北京よりニューデリーの方がひどい 中国メディア、上から目線で「勝利宣言****
・・・・中国メディアの環球網は8日、「ニューデリーの大気汚染は北京に追いつき追い越した。しかも緊急対策措置はない」と題する記事を掲載した。内容はまるで、大気汚染についての対インド“勝利宣言”だ。

記事は冒頭部分で、世界の多くのメディアが7日になり、北京の大気汚染を大きく取り上げたとした上で「しかし、その他の新興国の大都市の大気汚染も同様に深刻だ。インドの首都、ニューデリーも“遅れを取ってはいられない”」と、皮肉めかして紹介した。

さらに、北京では住民が、大気の質についての意識を高め、政府も対策措置を取っているが、「ニューデリーはやっと、問題の深刻さに意識を向けはじめた」と、自国の優越さを強調。

さらに、「インドは呼吸器疾患について信頼できる統計もなく、インドの医者がはっきりと確認できるのは、自分が担当する患者数の増加程度であり、患者の症状が以前より深刻になっていることぐらいだ」と、インドの状況の劣悪さを強調した。

さらに、中国では大気の質が一定以上劣化すると学校の授業停止、工場の操業停止、政府部門の車両の運転禁止などの措置がとられるが「インドにはまだ、緊急対応措置がない」と指摘。汚染防止の法律も重視されないか、有効に執行されていないと論じた。

文章はニューデリーの大気汚染について、過去1週間の間に空気1立方メートル中のPM2.5の量が何度も300マイクログラムを超えたと紹介した。

なお、北京市内にある米国の駐中国大使館によると、北京市内の空気1立方メートル中のPM2.5の量は、8日午前5時から約2時間にわたって300マイクログラムを超えた。最大で365マイクログラムだったという。写真は8日の北京市内の様子。通りを歩く人の多くはマスクを着用した。【12月9日 Searchina】
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中国ら揶揄されているインドも、ようやく来年から自家用車の通行制限に乗り出すようです。

****インド、車の通行制限を実施へ 高濃度PM2・5対策****
微小粒子状物質PM2・5などによる大気汚染が深刻で、昨年発表された世界保健機関(WHO)の調査で「世界最悪」となったインドの首都ニューデリーでも、来年1月1日から自家用車の通行制限が行われることになった。ナンバーが偶数か奇数かで1日ごとに通行できる。行政当局が8日までに決めた。

ニューデリーでは秋から冬にかけて大気汚染が特に悪化し、視界が遮られて空港で飛行機の発着が遅れることも珍しくない。

環境当局の測定では9日午前7時10分(日本時間午前10時40分)現在、市内の複数の地点でPM2・5濃度が1立方メートルあたり300マイクログラムを超えた。日本の基準値の8倍以上だ。在インド日本大使館は在住邦人に、空気清浄機やマスクを使うことなどを呼びかけている。

汚染の大きな原因は、約850万台といわれる自動車の排ガスだ。整備が行き届かず黒煙を出して走る古い車も珍しくない。

ただ、通行制限の発表に地元メディアからは「公共交通機関が乏しいから自家用車を使っているのに」といった批判も相次いでいる。【12月9日 朝日】
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もちろん中国はインドを見て喜んでいる場合ではありません。
自国民の健康のためにも、また世界の温暖化対策に資するうえでも、「大国」を自任するのであればその責務を果たしていく必要があります。

タバコの煙を周囲に吐き散らしている私も、大きなことは言えませんが。
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