孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

年を越す難民問題 今後更に厳しい展開も

2015-12-30 22:25:42 | 難民・移民

(ヨルダンの北部、シリアとの国境から15kmにある約8万人が住む「ザータリ難民キャンプ」
この地域はもはやヨルダン国内において6番目に大きな町になるそうです。

しかも、8割以上のシリア難民は、キャンプから出て、普通のヨルダン人が暮らす街に住んでいます。
キャンプでは基本的に商売ができないため、現金収入を得られず、配給を待つだけの生活に嫌気がさして出て行く人もいるようです。

また難民登録するための現金がなく、キャンプに入れない人もおり、そのような人たちは空家や倉庫、学校の施設などで暮らしています。【IRORIO http://irorio.jp/daikohkai/20150131/201041/】)

【「難民や移民が社会に好ましい貢献をしていると認め、人権を擁護し、寛容さと多様性を促進するという欧州の価値観を敬うことが大切だ」】
今年1年を振り返り、多くの国際的な話題のなかで個人的に一番大きな問題に思われるは、欧州を揺るがしている難民問題です。

利害をむき出しにした各国の対立は欧州統合の理念に疑問をなげかけ、欧州各国においては反移民のポピュリズムが大きなうねりとなって台頭しつつあります。

国際的には、難民発生の大きな原因ともなっているシリア問題の解決の必要性が改めて認識されました。

更に言えば、人はどこまで寛容でありえるのか、しょせん難民支援というのは皮相な建前にすぎないのか、国境に隔てられた国家という枠組みはそれほど自明のものなのか・・・といった疑問を問いかける問題でもあります。

国内で「格差」が問題となるように、難民・移民の問題は、経済難民も含めて国際的「格差」から生じる必然の問題であり、そうした格差を正当化する国家という枠組みの問題であるように思えます。

****欧州への難民100万人超す 3600人以上死亡・不明****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国際移住機関(IOM)はこのほど、シリアなどから欧州に入った難民らが今年だけで100万人を超えた、と共同発表した。

海上で3600人以上が死亡・行方不明になったとみられている。

発表によると、海を渡った難民らが約97万人、トルコから陸路で入ったのが約3万4千人だった。海を渡った人のうち、80万人以上がトルコからエーゲ海を渡ってギリシャに入った。約15万人は北アフリカからイタリアなどに入った。

海を渡った人の半数が、内戦が続くシリアからだった。また20%がアフガニスタン、7%がイラクからだったという。

グテレス難民高等弁務官は、「難民や移民が社会に好ましい貢献をしていると認め、人権を擁護し、寛容さと多様性を促進するという欧州の価値観を敬うことが大切だ」と訴える声明を出した。【12月30日 朝日】
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遭難・凍死の危険にも「構わない」】
海が荒れる冬になって難民流入は減少してはいますが、多くの人々が渡航の機会をうかがっている事態に変わりはありません。

また、よく言われるように、欧州に渡航できるのは資金的に恵まれた人々で、その背後には更に多くの欧州に行くこともかなわぬ人々が存在します。

****欧州行きの希望消えず=厳冬迎えたシリア難民―トルコ****
2011年にシリア内戦が始まってから5回目の冬を迎えた。今年は欧州に難民が押し寄せる「難民危機」が問題となったが、冬の天候の悪化で、主要経由地であるトルコからギリシャの島々への難民流入は減少。
しかし、いまだ多くの難民が欧州行きを望み、渡航の機会をうかがっている。

トルコ南部スルチにある同国最大のシリア難民キャンプ。ここには、国境を挟んで約10キロの距離にあるシリア北部のクルド人の町アインアルアラブ(クルド名コバニ)などから逃げてきた約2万6000人が暮らす。衣服や冷蔵庫などの生活必需品は支給され、警察官らが厳重に警備している。

「ここでの生活は地獄のようだ」。主婦スザン・ハジさん(29)は、絶望した様子で語った。手持ちの資金はなく、生活を支えているのはトルコ政府が各難民に月々支給する85トルコリラ(約3500円)だけ。「キャンプでの生活は安全というだけで、子供たちも飽き飽きしている」

3人の息子らとこのキャンプに入ったのは約7カ月前。夫(47)は同時期にトルコからドイツに逃れ、現地の難民キャンプで暮らす。「どんなに危険でも私も夫のいるドイツに行きたい。しかし、お金がない上、持病を抱えているため、方法が見つからない」と嘆く。長男イブラヒム君(8)に将来の夢を聞いても、「ドイツでお父さんと暮らすこと」の一点張りだ。

トルコ国内のシリア難民の数は200万人以上に上る。トルコ紙によれば、国内に25カ所あるキャンプに身を寄せているシリア難民は25万〜30万人で、大半は都市部で暮らす。最大都市イスタンブールでは100万人近くのシリア難民がいるといわれる。

イスタンブールに住むシリア北東部ハサカ出身の無職ハマド・アルウクラさん(55)は、欧州行きの資金調達に奔走する1人だ。「トルコと欧州を比べれば、欧州の方が支援は手厚い」と語る。長男(26)と次男(25)は既に密航業者を使ってそれぞれオランダとドイツに渡った。

アルウクラさんがイスタンブールに来たのは2013年9月。シリア軍から離反した長男が同軍兵士に撃たれ、手術が必要だったためだ。その半年後、妻や娘らも呼び寄せた。一緒に暮らす子供3人が働いているが、生活は苦しい。

冬は地中海の波が高くなる上、凍死の可能性も増し、移動は危険を伴う。シリア人の友人が忠告しても、アルウクラさんは覚悟したように「構わない」と首を横に振った。【12月30日 時事】 
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悪条件をおして渡航しようとすれば事故も多発します。

****<難民>エーゲ海上で密航船悲劇 18日は子ども15人犠牲****
中東やアフリカなどから欧州を目指す難民の子どもが渡航途中のエーゲ海上で死亡するケースが相次いでいる。今月18日には、トルコ沖でギリシャに向かう密航船の海難事故が続発し、少なくとも計15人の子どもが犠牲になった。

トルコ・メディアによると、同国西部ボドルムの沖約3.5キロの海上で18日、シリア、イラクの難民ら32人を乗せた木造船が転覆。14人がトルコ沿岸警備隊に救助されたが、子ども10人を含む少なくとも18人が死亡した。18日の別の海難事故2件では計5人の子どもが犠牲になったという。

今月8日にトルコ西部チェシュメ沖で新生児を含む子ども7人が死亡したのをはじめ、9日にはギリシャ東部ファルマコニシ島沖で子ども5人が死亡。16日にはトルコの海岸に2〜6歳の子ども6人の遺体が漂着しているのが見つかるなど、今月に入って子どもの死亡が多発している。

国際移住機関(IOM)によると、トルコからギリシャに渡る密航ルートでは今年1月から今月16日までに約80万2000人の難民・移民が欧州に上陸したが、706人が渡航途中に死亡した。国連児童基金(ユニセフ)によると、同ルートでの今月2日までの子どもの犠牲者は少なくとも185人。【12月20日 毎日】
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厳しさを増す受け入れ側の姿勢
受け入れ側の欧州は、加盟国間での難民申請者受け入れ分担とともに、流入抑制に向けた対応を強化しています。

****移民ショック】EU首脳会議、移民抑制強化の総括採択****
欧州連合(EU)は17日、ブリュッセルで開催した首脳会議で、中東や北アフリカの難民・移民流入問題を協議し、これまで流入抑制に向けて決定した措置について「実行が不十分」として、EUの機関や加盟国に対して取り組みを加速するよう求める総括文書を採択した。

総括文書は「早急な対処が必要な欠陥点」としてEU域内に入った移民らの登録拠点の整備、加盟国間での難民申請者受け入れ分担策、難民認定されない移民らの送還などを挙げた。

登録拠点は移民らの身元確認や指紋登録を行う施設で、EUはギリシャとイタリアに計11カ所を設置する計画だが、設置数は両国で1カ所ずつにとどまっている。両国での難民申請者計16万人を今後2年間で加盟国に割り当てるEUの計画は、これまで約200人しか実行されていない。

一方、EU域外との国境警備強化のため、EU独自の「欧州国境沿岸警備隊」を創設する欧州委員会の提案については今後検討を進めるとして、首脳会議での結論を持ち越した。【12月18日 産経】
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押し寄せる難民・移民に対し、チェコ大統領は「組織的な侵略」との認識を示し、若い男性の難民は国に戻ってISと闘うべきとも。

****難民流入は「組織的侵略」、若い男性はISと戦闘を チェコ大統領****
チェコのミロシュ・ゼマン大統領は26日、中東シリアやイラクから大勢の難民が欧州に押し寄せている現在の状況は「組織的な侵略」であるとの認識を示し、若い男性は国を逃れる代わりに「武器を取って」イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うべきだと付け加えた。

ゼマン大統領はクリスマスに合わせて発表した国民向けのメッセージで、「われわれが直面しているのは難民の自然な流入ではなく、組織的な侵略だと深く確信している」と述べた。

その上で、高齢者や病人、子どもの難民には同情できるとする一方、若い男性の難民は国に戻ってISと闘うべきであり、同情しかねるとの個人的見解を表明。「不法移民の大多数は健康で若い独身男性だ。こうした男性たちがなぜ国の自由のために武器を取ってISと戦わないのか、疑問に思う」と語った。
 
また、戦争で荒廃した国々からの避難は、ISが勢力を強めるのをかえって助けることになると付け加えた。

第2次世界大戦後としては欧州で最大とされる難民危機について、ゼマン大統領が物議をかもす姿勢を表明したのはこれが初めてではない。先月には首都プラハ市内で行われた反イスラム集会に、極右政治家らや議会会派とともに出席した。【12月27日 AFP】
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ISの暴力に対し、どのように個人が戦えばいいのか?あまりに無情な言い様に思えます。

これまでは難民らの受入に積極的な姿勢を見せていたドイツ・メルケル首相も、国内の混乱や政権内部からも噴出する批判に抗しきれず、「人々の懸念も考慮しなければならない。だからこそ、やってくる難民の数を大きく減らしたい」と述べ、ドイツに入国する難民を少なくしていく方針を示しています。【12月14日 読売より】

****難民100万人入国の独が方針転換、審査厳格化****
ドイツ政府は、大量に流入する難民の迅速な受け入れのために簡略化していた難民申請手続きを見直し、必要に応じて申請者と面接を行うことを決めた。

偽造旅券で難民に紛れて過激派が入国するのを阻止するため、手続きを厳格化したもの。難民として入国した人が多数行方不明になっていることも判明し、政府は警戒を強めている。

ドイツはこれまで、難民申請手続きは書類で済ませていたが、内務省の広報担当者は今月21日、独メディアに対し、審査厳格化について「すぐに行う」と方針転換を認めた。面談で、旅券や申請書類に記載された内容の矛盾や疑問点を申請者本人に問いただし、不審者を見つけ出す狙いがある。

ドイツには、今年だけで約100万人が入国した。申請手続きは滞り、一時的な収容施設が不足するなど様々な問題が噴出。このため、提出書類だけで滞在の可否を判断していた。【12月28日 読売】
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難民流入を防ぐ沿岸警備という点では、トルコ側の対応が一番影響がありそうです。

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トルコ沿岸警備隊が十一月下旬にギリシヤの島々との間の海域で訓練を行ったところ、訓練期間中は欧州側に流人する難民の数が激減した。

それまで一日当たり約五千人近くが欧州側に渡っていたが、期間中は百人程度だったという。

トルコが身を入れて海上警備を行えば密航を取り締まれることが証明され、これまでまともな警備をしていないことが露呈した。【選択 1月号】
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ただ、国境・沿岸警備で人の流れをとどめたとしても、基本的には「ベルリンの壁」などで人々を封じ込めた冷戦体制の東側諸国や、脱北者を取り締まる北朝鮮と同じはなしであり、なぜ人々が移動しようとするのかという問題の本質は解決しません。

また、留め置かれた難民らの生活苦も前出【12月30日 時事】にあるところです。

難民で「成長」するヨルダン?】
難民を抱え込む形になるトルコの負担も大きく、トルコはそのことをアピールすることで、EU加盟問題などを動かそうともしています。

もっとも、トルコと並ぶ難民受け入れ国であるヨルダンなどは、パレスチナ難民などを受け入れることで「成長」してきたとの見方もあるようです。

ヨルダンは人口900万人ほどのうち、250万人はシリアやイラクなどからの非ヨルダン人であり、シリアからの移住者は以前からの人々も汲めて130~150万人に及ぶそうです。

そうした状況にあってヨルダンはここ数年2%台の成長を維持し、社会もそれなりに安定を維持しています。

ヨルダンが膨大な難民・移民を受け入れながら社会を維持できるのは、「アラビアのロレンス」にも登場するヨルダン王家自体が難民生活を余儀なくされた後に「ヨルダン」建国に至った歴史的経緯、ヨルダン国籍者の約7割がパレスチナ難民であり、難民に国籍を付与して国力増進の原動力にするという施策が従来から取られてきたこと、更に、難民支援の国際機関がヨルダンにもたらす資金が相当な金額になることなどが指摘されています。

シリア難民に関しても、ネガティブに捉えるのではなく、キャンプに事業所を誘致して長期定住させ、良質な労働力として活用していく施策がとられているそうです。【選択 1月号より】

しかし、ヨルダンにおける難民の扱いについては、まったく異なるリポートもあります。

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ヨルダン政府はシリア人がヨルダンで自ら職を得て、継続的に生活を営んでいくことを望んでおらず、シリア人がヨルダンで働くことは基本的には禁止されています。
理由は簡単。ヨルダン人の職を奪ってほしくないですし、できるだけ早く帰って欲しいからです。 それでもなんとか働いているシリア人もいますが、政府に見つかると捕まって刑務所にしばらく入れられてしまうこともあります。シリア難民にとっては、職を得て働くことすら命がけなのです。【http://www.co-media.jp/article/14875】
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上記リポートは、シリア人への偏見や経済的・制度的理由で、シリア難民の子供の多くは学校にも通えない状況にあるとも指摘しています。

実情はわかりませんが、頼みの綱である国際援助団体からの支援も、紛争の長期化に伴って縮小している傾向にあることから、難民の生活が今後一層厳しくなることが懸念されます。
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