孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ASEAN共同体」発足 期待と現状  英国人男女殺害事件でのタイとミャンマーの対立 

2015-12-31 22:02:16 | 東南アジア

【12月28日 毎日】

中国、インドに次ぐ人口規模の「共同体」】
その意義・重要性について、もうひとつピンとこないところがありますが、6億人の単一市場や共生社会を掲げる「ASEAN共同体」が今日発足したそうです。

****ASEAN共同体】6億人の巨大市場誕生 人の移動や安保で溝も****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟10カ国は31日、6億人の単一市場や共生社会を掲げる「ASEAN共同体」を発足させた。共同体の総人口は欧州連合(EU)を上回り、国家に例えると中国、インドに次ぐ規模となる。

「経済」「政治・安全保障」「社会・文化」の3本柱で構成されるが、中核を担うのがASEAN経済共同体(AEC)だ。

発足により人やモノの動きの活発化が期待される。道路や鉄道などインフラ網の整備も進み、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーを結ぶ「東西回廊」や、中国からタイにつながる「南北回廊」の道路整備も加速している。

ただ、共同体発足後も国をまたぐ移動には旅券が必要で、一部の熟練労働者に限って移動の自由化を進める方針だが、時期を含めて詳細は未定のまま。また、2018年までに域内関税を全廃する方針だ。

シンガポール外務省は、AEC発足で国民向けビデオをネットで公開。域内総生産(GDP)は15年の2兆4千億ドル(約290兆円)から20年には4兆ドルに拡大し、「シンガポールはASEANのニューヨークになる」と期待を示した。【12月31日 産経】
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【「実態は経済連携の強化に近い」】
「共同体」というと欧州のEUと比較してしまいますが、現段階で現実的な意味を持つのは「経済」「政治・安全保障」「社会・文化」の3本柱のうち「経済」のみで、それも“市場統合で先行する欧州連合(EU)のように通貨を統合することはしない。域外国に対する関税も各国の判断にゆだねられる。日系金融機関の幹部は「経済共同体というよりも、実態は経済連携の強化に近い」と話す。”【12月2日 朝日】というのが実態です。

****ASEAN経済共同体 きょう発足****
ASEAN=東南アジア諸国連合に加盟する10か国による経済共同体がきょう発足し、関税の撤廃など貿易の自由化が進むことで域内の経済成長が加速することに期待が高まっています。(中略)

タイの首都バンコクでは、30日夜、政府機関による記念行事が開かれました。
経済共同体では域内の関税を撤廃するほか、小売や観光などサービス産業の自由化、さらに医師や建築士といった特殊技能を持つ人材の移動の自由化などを進めることにしており、経済成長が加速することに期待が高まっています。

ただ最も発展するシンガポールとミャンマーとの間の1人当たりのGDP=国内総生産には、およそ60倍の開きがあり、経済格差の縮小が市場統合の課題になっています。また、各国には自国の産業を保護するため外国企業に対する規制などが残されていることから、今後、こうした規制の緩和などが議論される見通しです。

ジェトロ=日本貿易振興機構、バンコク事務所の伊藤博敏さんは、日系企業の対応について「AEC(共同体)のもとで貿易の手続きの改善や規制緩和が進むという認識を持って、それをいかに効率的に活用するかが重要になる」と話しています。【12月31日 NHK】
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もちろんこれから徐々に統合の実質的な部分を進めていく・・・ということでしょうが、民主主義・キリスト教という共通部分が大きい欧州と異なり、上記の経済格差だけでなく、政治体制についても社会主義国、王制の国などを含み、宗教的にも仏教・イスラム教・キリスト教と多彩であり、かなり異質な国々の集合体です。

そもそも、欧州の場合は、フランス・ドイツを中心に、欧州全土を戦場とした過去の過ちを繰り返さない・・・という「不戦の近い」という理念が根底にあっての「共同体」ですが、ASEANの場合はそうした理念は希薄に思われます。

現実的な政治課題としても、EUの場合、ロシアという大きな存在に結束して対応するという側面がありますが(足並が必ずしもそろっている訳でもありませんが)、ASEANの場合、“大きな存在”中国への対応は、親中国的なラオス・カンボジアから南シナ海問題で争うフィリピンまで、国によって相当に大きな開きがあり、具体的行動に出られないといったことがいつも指摘されます。

それでも統合を目指すのは、中国やインドという新興大国に挟まれ、地域が埋没しかねないとの危機感があるためとも指摘されています。

逆に言えば、これだけ多種多様・異質な国々が「共同体」に近い緊密な関係をつくりあげることができるなら、それはそれで有意義・画期的なことかとも思われます。

当然ながら、6億人が暮らす域内で関税がほぼなくなり、貿易促進につながるため、日本企業の関心も高いものがあります。

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経済規模は加盟10カ国の合計で2兆5700億ドル(約308兆円)。日本の半分の規模だ。市場統合が実現すれば、域外から見て投資先として魅力は高まる。1997年のアジア通貨危機による成長の鈍化をきっかけに構想が浮上した。

各国が先行して取り組んできたのが域内関税の撤廃だ。タイ、インドネシアなど6カ国は2010年にほぼ撤廃。ベトナムやカンボジアなど残る4カ国は18年までに撤廃をする計画だ。

関税がなくなれば、特に製造業に恩恵をもたらす。例えば、日系企業も多く進出する自動車産業では、人手がかかる工程をタイから人件費の安いカンボジアやラオスなどの周辺国に移すなど、コストを減らす分業態勢をとりやすくなる。

物流業界もこうした動きに呼応する。日本通運ベトナムは13年、同じトレーラーがコンテナを積み替えることなく、カンボジアとベトナム間の国境を通過できる許可(ダブルライセンス)を両国政府から取得した。通関業務の手続きもスムーズにしようとする各国の取り組みの一つだ。

だが、課題は多い。
日系企業の関心が高い金融や小売りなど128のサービス分野の規制緩和では、域内の企業が別の域内国で子会社をつくったり、企業を買収したりする場合、70%以上の出資比率を認めるという目標は決めた。だが、どの分野から緩和していくかなどで各国間の調整が滞っている。(後略)【12月2日 朝日】
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いずれにしても、今後に展開に注目・期待・・・といったところです。

【「(タイは)立場の弱いミャンマー人労働者に罪を押しつけた」】
従来から対立が絶えなかったタイとカンボジアが関係改善に動いているという話題は、12月20日「カンボジア 最近の話題から(タイとの関係強化 野党党首への逮捕状 カネがすべての社会)」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151220)でも取り上げました。

逆に、「共同体」内で最近起きている不協和音のひとつ。
タイでの外国人観光客殺害事件の犯人としてミャンマー人労働者に対して死刑判決が出されたことをめぐる、共に軍部が大きな力を有しているタイとミャンマーの対立です。

****英国人男女の殺害でミャンマー移民2人に死刑判決、タイ裁判所****
タイ南部のリゾート地タオ島(Koh Tao)で昨年9月に英国人旅行者の男女が殺害された事件で、タイの裁判所は24日、殺人罪などで起訴されたミャンマー人移民労働者2人に死刑判決を言い渡した。

人気観光地としてのタイのイメージを損なったこの事件では、同国の司法制度に対する疑問の声も上がっている。

ミャンマー人の被告2人は、デービッド・ミラーさん(当時24歳)の殺害と、ハンナ・ウィザーリッジさん(同23歳)に対する性的暴行と殺害の罪で、有罪と判断された。

人気ダイビングスポットとして知られるタオ島の浜辺で見つかった被害者2人の遺体は、いずれも暴行を受けた形跡があった。

サムイ島の裁判所で行われた裁判で、判事は判決について「目撃者証言と被告2人のDNA鑑定」から導かれたと説明。ウィザーリッジさんの遺体から両被告の関与を示す法医学的な証拠が見つかったことに言及した。

両被告はミラーさん、ウィザーリッジさんの殺害をいずれも否認していた。

両被告は昨年10月2日に逮捕されたが、これに先立ちタイでは、国民にショックを与えた同事件の真相解明を求める当局への圧力が高まっていた。

検察側は法廷で揺るぎない証拠があると主張したが、弁護側は、警察の捜査に不手際があったと非難。移民労働者である被告2人がスケープゴートに仕立て上げられたと訴えていた。

人権団体は、司法制度が富や権力になびきやすいタイで、ミャンマーなど近隣諸国から来て低賃金で働く移民労働者に犯罪の責任を押し付ける傾向がみられると指摘。今回の事件もその1つだと批判している。【12月24日 AFP】
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ミャンマー側にはタイの捜査への不信感があり、ミャンマーの最大都市ヤンゴンにあるタイ大使館の前などでは「立場の弱いミャンマー人労働者に罪を押しつけた」などと、2人の無実を訴える抗議デモが連日行われています。

また、ミャンマー軍の最高司令官も判決の見直しを求める異例の手紙をタイ政府高官に送りました。【12月28日 NHKより】

****タイ、英国人旅行者殺人事件でミャンマー人に死刑判決 「拷問で自白を強要された」と無罪主張 両国の亀裂深まる****
タイで昨年起きた英国人旅行者殺害事件で、ミャンマー人の男2人に死刑判決が出たことに抗議するデモが、ミャンマーで過熱している。

ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍総司令官は判決の見直しを要請したが、タイのプラユット首相が不快感を示すなど、民主化が進むミャンマーと、軍政が長期化するタイの両国関係の亀裂を深める事態にも発展している。

事件は昨年9月、タイ南部のリゾート地タオ島で発生。20代の英国人男女の遺体が見つかり、近くの飲食店従業員だったミャンマー人2人が殺人や暴行容疑で逮捕された。

タイ警察は、残された体液のDNA型が一致したなどとしているが、2人は「拷問で自白を強要された」などと無罪を主張している。

捜査では現状保存ミスなどの捜査の不手際が発覚し、人権団体も再捜査を要請。AP通信は、タイ当局が軍事クーデターによる海外旅行客離れの悪化を懸念し、「警察があわてて解決を急いだ」とも指摘する。

こうしたなか、タイの裁判所は24日、2人に死刑判決を言い渡したことに、ミャンマー国内で不満が噴出。同日夜から、ミャンマーの最大都市ヤンゴンのタイ大使館前では数百人のデモが発生、大使館は領事業務中止に追い込まれた。

抗議デモはタイ国境沿いなど各地にも広がり、タイ政府はミャンマー側に取り締まりを要請したが、デモは29日も続いた。

さらに、タイ軍政と関係が深いミン・アウン・フライン氏は26日、タイの閣僚へ再捜査を要請したが、これに対してプラユット氏は28日、記者団に不快感を示し、今回の事件の“特別扱い”を否定した。

タイは長年、国境を接するミャンマーから亡命者や出稼ぎ労働者を受け入れてきた。ただ、ミャンマー人には「立場の弱さにつけ込まれ差別を受けている」との意識が根強い。

急進派仏教団体マバタの幹部は「正義のためにタイと戦おう」と市民に呼びかけるなど、民族主義的なデモが先鋭化する懸念もある。【12月30日 産経】
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事件の真相はわかりません。

ただ、タイもミャンマーも、犯人でっちあげ(あるいは自白の強要)ぐらいはやりそうなところがお互いにあるだけに、相手への不信感も・・・といったところでしょうか。
「共同体」への道のりは、長く険しいものがありそうです。
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