孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  強まるタリバンの攻勢 充分に機能しない政府・軍

2015-12-23 22:49:57 | アフガン・パキスタン

(【https://www.youtube.com/watch?v=gObr2xuok0k】)

タリバン内部の抗争 マンスール師の生存も不明
アフガニスタンのイスラム原理主義武装組織タリバンは、最高指導者オマル師の死を公表したのち、これまで和平交渉にも関与してきたといわれるナンバー2のマンスール師が後継者となりましたが、当初から強硬派を中心に組織内部で同師に反撥する勢力があり、内部分裂の可能性も言及されていました。

その後、オマル師の家族の支持も取り付け、一応マンスール師が組織内を掌握したかのようにも見えていましたが、幹部会合で銃撃戦が起き、幹部5人が死亡し、最高指導者のマンスール師も重傷を負ったとの情報が、今月2日にアフガニスタン政府から公表されました。

かつての東映ヤクザ映画「仁義なき戦い」シリーズを連想させるような情報ですが、タリバン側はこの情報を否定し、マンスール師のものとされる「そのようなことは決して起きていない。敵の宣伝行為だ」との音声メッセージを公表しています。

しかし、このメッセージの信憑性を疑う声がタリバン内部からも上がっています。

幹部会における銃撃戦の有無、マンスール師の生存については・・・よくわかりません。

****タリバン幹部、最高指導者マンスール師生存に疑問符****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンの複数の幹部は6日、最高指導者アクタル・マンスール師が生存している証拠として公開された音声メッセージの信ぴょう性に疑問を呈した。元最高指導者オマル師の死を隠ぺいしていた指導部に対する不信感があらわになっている。

4日にパキスタンで起こった銃撃戦でマンスール師が死亡したと、多くの情報筋や武装勢力周辺が伝えたことを受け、タリバンは5日夜、同師のものとする16分間の音声メッセージを公開した。

しかし、タリバン創始者で初代指導者であるオマル師の死を2年にわたって隠していた指導部に対し不信感をもっている幹部らは、マンスール師の消息に関しても依然、疑いを抱いている。

南部ヘルマンド州を拠点とするマウラウィ・ハニフィ司令官はAFPに対し「私は(公開された)音声を聞いたが、偽物のようだ」と語った。「マンスール師の声をまねたものだと思う。マンスール師自身が2年の間、私たちをだましていたのに、どうして今、これを信じることができるだろう」

もう一人のタリバン幹部は、新しい指導者を選んで「この突然のショック」から組織が抜け出るために、タリバンは時間稼ぎをしていると指摘し「もっと証拠が必要だ」と結論づけた。また別のタリバン幹部2人も同様の疑念を表明し、マンスール氏は負傷によって4日に死亡したと主張した。【12月7日 AFP】
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真相はわかりませんが、メッセージの信憑性を疑う声がタリバン内部から出るということは、組織内に深刻な対立があることは間違いないでしょう。

治安情勢は今年になって悪化
問題は、そうした組織混乱がタリバンの活動にどう影響するかという点ですが、最近のアフガニスタン情勢を見ると、組織混乱にもかかわらず、あるいは、内部対立があるために(強硬姿勢を示すことで内部支持獲得を目指すとか、強硬派への指導部コントロールが効かなくなっているとか・・・)、タリバンの攻勢が強まっています。

****タリバンの空港襲撃、27時間後に終結 少なくとも50人死亡****
アフガニスタン国防省の10日の発表によると、南部カンダハルの空港が旧支配勢力タリバンに襲撃された事件は9日夜、空港施設に立てこもって抵抗を続けていた武装集団の最後の1人を軍が殺害し、発生から27時間後に終結した。死者は少なくとも50人に上るという。

事件は8日、11人からなる武装集団が厳重な警備をかいくぐり、北大西洋条約機構(NATO)軍とアフガン軍の共同基地としても使用されている空港施設に侵入。民間人を人質に取り、アフガン軍との間で銃撃戦となった。

武装集団の複数のメンバーが民間人の中で自爆。国防省は声明で「兵士10人、警官2人、民間人38人の計50人の罪のない国民がこの襲撃で死亡した」と発表した。死者には女性や子どもも含まれている。また、少なくとも37人が負傷したという。【12月11日 AFP】
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****アフガン首都のタリバン襲撃、スペイン人含む警官6人死亡****
アフガニスタンの首都カブールの大使館地区にあるスペイン大使館近くで11日夜から12日未明にかけて起きた旧支配勢力タリバンによる襲撃事件の死者は、アフガニスタン人警官4人、スペイン人警官2人の計6人となった。(中略)

11日夕方、警備の厳重な同地区で複数回の爆発と銃撃戦が起きた。この数時間前に、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領は、タリバンとの和平交渉が数週間以内に再開するとの見方を示したばかりだった。(後略)【12月12日 AFP】
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和平交渉再開が示された直後の襲撃ということで、和平交渉に反対する勢力による妨害行為とも見られます。

21日には、首都カブール近郊のバグラム空軍基地付近で自爆テロによって米兵6人が死亡、今年起きた米兵への攻撃の中では最悪の事態となりました。

****<アフガニスタン>タリバン自爆テロで巡回中の米兵6人死亡****
アフガニスタンの首都カブール北方のバグラム空軍基地近くで21日、旧支配勢力タリバンによる自爆テロがあった。

米国防総省によると、兵士らが基地の外を巡回していたところ、爆弾を積んだ車両が自爆攻撃をしかけ、米兵6人が死亡し、米兵2人と契約業者の計3人が負傷したという。

米軍は現在約9800人をアフガンに駐留させ、アフガン軍の訓練や作戦指導などを行っている。当初は2016年末までに米大使館警備要員約1000人を除いて撤退させる方針だったが、治安悪化に伴い、16年までは現在の9800人規模を駐留させ、16年末か17年初めに5500人規模に削減して継続駐留させる方針に転換した。

アフガンには、カーター米国防長官が18日に電撃訪問したばかりだった。【12月22日 毎日】
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和平交渉どころか、アメリカの撤退計画にも暗い影がさしています。

“米国防総省の発表によれば、アフガンの治安情勢は今年になって悪化しており、11月15日までのアフガン治安部隊の犠牲者は前年同期比で27%増えた。治安部隊の能力は「むらがあり、寄せ集めだ」という。”【12月22日 産経】

かつて米英軍が激戦を展開したサンギン地区もタリバンが制圧
こうしたテロ活動だけでなく、タリバンの軍事攻勢も強まっています。

“タリバンは最近になって急速に支配地域を拡大している。37地域を支配下に置き、うち15地域はこの2か月で獲得した。”【12月29日号 Newsweek日本版】

そうした攻勢のひとつが南部ヘルマンド州サンギン地区の攻防です。

****<アフガニスタン>州副知事、フェイスブックで救援要請****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の副知事が20日、治安部隊による救援をガニ大統領に求める内容をフェイスブックに投稿した。AP通信などが報じた。

同州では旧支配勢力タリバンとみられる武装勢力との間で激しい戦闘が続き、この2日間で治安部隊90人以上が死亡したといい、副知事は「いま政府が行動を起こさなければヘルマンド州を失うだろう」と訴えた。

報道によると、副知事はガニ大統領に宛てて「フェイスブックは適切な場ではないが、私の声が届かないので、他にどうすべきか分からなかった」としたうえで、「ヘルマンド州を助けてほしい。安全だというウソつきの言葉には耳を貸さないで」などと書き込んだ。副知事はAP通信に対し「これ以上黙っていられない」と話したという。

タリバンは今秋、北部の主要都市クンドゥズを一時制圧するなど攻勢を強めており、各地で治安が悪化している。【12月21日 毎日】
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タリバンの攻勢にさらされていることはもちろん問題ですが、副知事が「私の声が届かないので・・・、安全だというウソつきの言葉には耳を貸さないで」と大統領に訴えるという事態は、アフガニスタン政府内の機能不全を示しており、もっと大問題です。

“アフガン国防省は21日に部隊を増派、英軍も支援のため人員を現地に派遣した”【12月22日 産経】とのことですが、結局、南部ヘルマンド州のサンギン地区はタリバンが制圧したと報じられています。

****タリバーン、アフガン南部の要衝をほぼ制圧****
アフガニスタン南部ヘルマンド州のサンギン地区が22日までに、反政府武装勢力タリバーンにほぼ制圧された。同地区では数日前から戦闘が激化していた。

サンギン地区の警察責任者によると、タリバーンはすでに、同責任者宅とアフガン軍拠点の2カ所を除く全域を占拠した。

アフガンでは昨年12月、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)が任務を終了し、治安権限を政府に移譲した。それまでの数年間、サンギン地区では米英軍とタリバーンが激戦を展開していた。

同地区はヘルマンド州の州都ラシュカルガーと州北部をつなぐ戦略的要衝。タリバーンはここを掌握すれば、北方への物資補給ルートを確保することになる。

警察責任者によると、サンギン地区での戦闘は1カ月以上続いていたが、戦況はこの3日間、最悪の状態に陥っていた。警察では多数の死者が出て、弾薬も底をつきかけているという。

ヘルマンド州の副知事は先週末、同州がタリバーンに制圧される恐れがあるとして、ガニ大統領に救援を求める異例の公開書簡をフェイスブックに投稿していた。

知事はこの中でサンギン地区に言及。中心部の市場や政府機関がタリバーンの猛攻にさらされ、ゲレシュク地区と合わせてアフガン治安部隊員90人が死亡したと訴えていた。【12月22日 CNN】
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この地域は“それまでの数年間、サンギン地区では米英軍とタリバーンが激戦を展開していた”ということで、TVのBBC放送では、何のための戦闘だったのか、何のために流した英兵の血だったのか・・・というイギリスの思いも感じられました。

なぜ、いつまでもタリバンが勢力を維持できるのか?】
タリバンがここにきて攻勢を強められるのは、同勢力がこれまでパキスタン側に撤退しただけであったこと、そのパキスタン側で物資・人員を補給して攻勢に出ていることが推測されます。

以前からパキスタンの軍部、特に情報機関ISIがタリバンを支援していると言われていますが、その点を明確に否定する形に持っていかない限り、アメリカやイギリスが撤退計画を見直そうが効果はなく、アフガニスタン政府の命運も危ういものに思われます。

ベトナム戦争時に北ベトナム・ベトコンを支援したソ連・中国はアメリカにとって影響の及ばない敵対国でしたが、パキスタンは“一応”アメリカの同盟国です。こうした状況が放置されているのは不思議なところです。

内部対立を抱えて和平交渉に踏み出せないタリバン、相変わらず機能不全のアフガニスタン政府・治安部隊、早くアフガニスタンから手を引きたいアメリカ・・・2016年のアフガニスタン情勢はあまり明るくなさそうです。
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