孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  東部州議会選挙で極右政党AfD勝利 続く経済苦境 VW社、国内工場閉鎖検討

2024-09-04 23:12:12 | 欧州情勢

(テューリンゲン州議会選に向けたAfDの選挙集会(8月31日)画像の人物はビョルン・ヘッケAfD党首。
ヘッケ氏はナチス時代のレトリックを使い、極端な民族主義・極右的見解で物議を醸してきた。ベルリンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥ずべき記念碑」と呼び、ナチスの過去を「180度逆転」させるよう提唱した。

ヘッケ氏はナチスの準軍事組織ナチスSA(突撃隊)のスローガン「ドイツのためにすべてを」を使用したとして何度も有罪判決を受け、罰金を科せられている。ドイツの裁判所はヘッケ氏を「ファシスト」と呼んでも名誉毀損に当たらないとの判決を下している。)【9月3日 Newsweek】)

【難民申請者によるテロ事件で、難民への反発が高まる】
8月23日夜、ドイツ西部ゾーリンゲンのフェスティバルで、3人が死亡、8人が負傷する刺傷事件が起きました。
過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出しています。

****ドイツ3人殺害 「イスラム国」が犯行声明 計画知りながらも通報しなかった疑いで15歳少年逮捕****
ドイツ西部で23日、祭りの最中に男が来場者らを刃物で襲い3人が殺害された事件で、過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出しました。また、警察は事件の計画を知りながら通報しなかった疑いで、15歳の少年を逮捕しました。

ドイツ西部のゾーリンゲン市で23日夜、市の創立650周年を祝う祭りの最中に、男が刃物で来場者らを次々と襲い、3人が死亡、8人が重軽傷を負いました。

ロイター通信によりますと24日、過激派組織「イスラム国」が「パレスチナやほかの地のイスラム教徒のための報復だ」とする犯行声明を出したということです。

また、ドイツメディアは警察が24日、事件の計画を知りながら警察に通報しなかった疑いで、中央アジア・キルギス出身の15歳の少年を難民保護施設で逮捕したと伝えています。

逃走中の実行犯の男は襲撃の際、アラビア語で「神は偉大なり」を意味する「アラー・アクバル」と叫んでいたということです。

警察は実行犯は1人とみていて、無差別のテロ事件として捜査しています。【8月25日 ANNニュース】
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犯人は22年にシリアから入国して難民申請していた男性でしたが、この事件によってドイツ社会で難民への反発が高まっているとのこと。

****独刃物襲撃、拘束のシリア人逮捕 22年に難民入国、社会反発****
ドイツ西部ゾーリンゲンで3人が刃物で殺害された襲撃事件で、検察は25日、殺人やテロ組織に参加したなどの容疑で警察が拘束していたシリア人の男(26)を逮捕した。報道によると、男は2022年末に入国して難民申請をしていた。ドイツ社会で難民への反発が高まっている。

検察は男について過激派組織「イスラム国」(IS)の一員の疑いがあるとし「異教徒をできるだけ多く殺害しようと、首や上半身を繰り返し刺した」と指摘した。ISは24日に犯行声明を出しており、関連を調べる。

事件後、難民政策への批判が噴出し、最大野党キリスト教民主同盟のメルツ党首は難民を巡る対応の厳格化を主張した。【8月26日 共同】
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メルケル前首相時代から難民受入れに寛容な政策をとってきたドイツですが、こうした難民に反発する世論の空気に反応してショルツ首相は在留資格のない難民の強制送還を強化する方針を示しています。

****ドイツ刃物襲撃事件、首相が強制送還の強化表明****
ドイツのショルツ首相は26日、週末に3人が刺殺された西部ゾーリンゲンを訪れ、在留資格のない難民の強制送還を強化する方針を示した。(中略)

ショルツ氏は「ドイツに留まることができない人々を確実に国外に退去させるため、できる限りのことをしなければならない」と発言。難民申請は最初に到着した国で行うとする欧州連合(EU)の「ダブリン規則」に言及した。

ドイツのメディアによると、当局は昨年、今回の事件の容疑者である26歳のシリア人の男をブルガリアに強制送還しようとしたが、男が難民収容施設にいなかったため、送還できなかった。【8月26日 ロイター】
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【反移民感情の受け皿となっている極右政党AfDが東部州の議会選挙で躍進】
特に旧東ドイツでは旧西ドイツ地域との経済格差が今もなお残っており、旧東ドイツ地域住民の不満を、移民流入が高い失業率や労働賃金の引き下げ、更には治安悪化を招いているとして「反移民」という形で吸い上げ、支持を広げてきたのが極右政党AfD「ドイツのための選択肢」です。

そのドイツ東部のテューリンゲン州とザクセン州で9月1日、州議会選が実施されましたが、予想されていたように極右政党AfD「ドイツのための選択肢」が躍進し、テューリンゲン州では第1党となっています。

*****反移民のAfDが第1党になったドイツ東部州議選 欧州での右派伸長、改めて鮮明に****
ドイツ東部2州で1日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、テューリンゲン州で移民排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第1党となった。同党が2013年の結党以来、州議会で第1党となるのは初めて。ザクセン州でも第1党に肉薄した。

選挙は来年9月の総選挙の前哨戦とみられており、惨敗したショルツ首相の中道左派、社会民主党(SPD)など連立与党3党は警戒を強めている。欧州での極右・右派の伸長が改めて鮮明となった。

独メディアが報じた暫定集計によると、テューリンゲン州でAfDは32・8%を得票し、前回選挙から9・4ポイント増。2位は国政最大野党の中道右派、キリスト教民主同盟(CDU)で23・6%。SPDは6・1%にとどまった。

ザクセン州ではCDUが得票率31・9%で首位を維持したが、2位のAfDは30・6%と僅差だった。

両州とも単独過半数に達する党はなく、今後は連立交渉が焦点。テューリンゲン州でAfDによる政権が発足する可能性は低いとみられている。

AfDは移民・難民の受け入れ反対を主張し、欧州連合(EU)にも批判的。ウクライナ侵略を続けるロシアへの制裁にも反対している。独当局は特にテューリンゲン州の党支部長、ヘッケ氏についてナチス・ドイツに近い思想を持つ「極右過激派」とみて警戒している。

テューリンゲン、ザクセン両州は1990年のドイツ統一以前の旧東ドイツに位置する。旧西ドイツ地域との経済格差はなお残り、AfDは近年、旧東ドイツ地域で住民の不満を吸い上げ、支持を広げてきた。22日には旧東独のブランデンブルク州で議会選があり、AfDは州議会第1党のSPDをしのぐ勢いを見せている。

欧州では6月のEU欧州議会選で極右・右派勢力が伸長。同月末のフランス下院選第1回投票では極右政党の国民連合が得票率で首位となった。【9月2日 産経】
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今回選挙はAfDがもともと強い地域での選挙であり、また、ナチスのイメージを彷彿とさせるAfDとの連立を他党は否定していますので、AfDは第1党になっても州政権の獲得はないと予想されていますが、それでも国政全体への影響は大きなものがあります。

****独首相、与党惨敗「苦い」 右派躍進、連立崩壊説も****
ドイツのショルツ首相は2日、ドイツ東部2州の1日の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が第1党などに躍進し、国政与党が大敗したことを「苦い結果だ」と述べた。来年9月の総選挙を前に、連立政権の崩壊もささやかれている。

ショルツ首相はフェイスブックへの投稿で、2州では「極右団体」に認定されるAfDの躍進に「慣れてはいけない。経済を弱体化し、社会を分断する」と警鐘を鳴らし、支持拡大の阻止に取り組む考えを強調した。

地元メディアは与党の敗因を「寛容な移民政策やウクライナ支援の継続、環境保護政策への偏重にノーを突き付けた」と分析。【9月3日 共同】
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寛容な移民政策やウクライナ支援の継続、環境保護政策・・・連立与党が掲げてきたものであり、AfDが否定しているものです。

【欧州各国でも同様の右傾化】
反移民の世論、その受け皿としての極右政党の台頭はドイツだけでなく、欧州に共通する現象となっています。

****反移民、欧州で強まる右傾化 独仏英、結束に影****
ドイツ東部の2州の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。欧州では、欧州議会選で欧州連合(EU)に批判的な極右や右派が議席を増やし、フランスや英国では極右や右派ポピュリスト政党が台頭するなど右傾化が強まる。特に欧州をけん引する大国に顕著な動きで、結束の弱体化が懸念される。
 
ドイツやフランス、英国で躍進した右派や極右政党は反移民を掲げる。移民流入が高い失業率や労働賃金の引き下げなどを招いたとする声も少なくなく、不満の受け皿となって支持を拡大した。

6〜7月のフランス国民議会総選挙では、反移民、反EUを掲げる極右「国民連合(RN)」が第3勢力にとどまったものの党史上最多の議席を獲得。

7月の英下院総選挙では、反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が二大政党に次ぐ得票率で初めて議席を獲得し、存在感を示した。

6月の欧州議会選でドイツやフランスの与党が大敗を喫する中、イタリアのメローニ首相率いる右派政党は伸長した。【9月2日 共同】
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欧州における右傾化はここ数年ずっと言われていることで、極右勢力はときに拡大したり、ときには思ったほど結果をだせず・・・といったことを繰り返しています。それは極右勢力への抵抗感もまた強いことを示してもいますが、そうしたことを繰り返しながら徐々に右傾化の裾野が広がっているようにも思えます。

【経済的にも苦境が続くドイツ 基幹産業自動車の中核メーカーVWが国内工場閉鎖を検討】
経済面で見ると、ドイツ連邦統計局が1月15日に発表した2023年のGDP統計の速報値によれば、ドイツと日本の経済規模(米ドル建て名目GDP)が2023年に逆転したとされています。

しかし、これはドイツ経済が好調なためではなく、ドイツの高インフレと円安ユーロ高によるもので、実質的な経済力を示す購買力平価で測ったGDPでは、引き続き日本が上位にあります。 

現実のところドイツ経済を取り巻く環境は厳しく、23年のマイナス成長に続き、2024年もドイツ経済の不調が続いています。

ドイツ経済の基幹産業と言えば自動車産業ということになりますが、欧州各国は安価な中国製EVの拡大に不安を感じています。EUは中国製EVに対し高関税をかけることを検討していますが、そうしたなかで中国依存が高いドイツ産業界は中国の報復を恐れ、中国製EV高関税に反対しています。

****脱炭素に踊らされたドイツの「悲惨すぎる末路」…国際競争力が地に落ち、産業の空洞化も深刻、過度な中国依存が裏目に****
(中略)
EUが温暖化防止のためとして、ガソリン車とディーゼル車の駆逐を宣言してから、すでに久しい。EU各国はEV車の普及に注力し、購入の際の補助金など、さまざまな政策を実施してきた。それどころか今では、35年からはガソリン車とディーゼル車の販売を禁止するという、まさに自由市場経済に逆らった荒技まで打ち出している。

しかし、EUがどんな飴と鞭を使ってもEV車は売れない。特にEU製のEVは高くて売れない。今ではたいていの政府で、補助金も尽きてしまった。だから、どうしても買わなければならないなら、当然、中国の安価なEV車が選ばれる。

そこで困ったEUが思いついた次の対策は、自分たちがもっと競争力のあるEV車を作ろうということではなく、中国のEV車へ関税をかけること。中国のEV車が安価であるのは中国政府からの不当な補助金のおかげであるから、制裁すべきという理屈だ。

景気が落ち込んでいるドイツの主原因
ただ、これまで中国市場の閉鎖性に抗議し、自由貿易を謳ってきたのはEUだった。しかもEV車の優遇策は中国に限らず、EU各国も同じだ。それでもEUは7月より、BYDに17.4%、Geely(吉利汽車)に20%、SAIC(上海汽車)に38.1%の関税を掛け始めた。

ちなみに、中国のEV車のせいで特に困っていたのが、ドイツのメーカー。ところが、中国EV車への課税に一番強く反対したのが、ドイツ政府だった。

なぜなら、もし、中国が怒って報復関税を掛けてくれば、中国市場に一番大きく依存しているドイツの自動車メーカーが最大の犠牲者となるからだ。

Statistaの今年の統計によると、20年、ドイツ製の乗用車の39.4%が中国向けだった(メーカー別では、フォルクスワーゲンが43%、ベンツが32%、BMWが33%)。この割合が昨年は34.3%にまで減少し、多くのメーカーが生産縮小を余儀なくされている。

これ以上縮小すれば、死活問題だ。つまり、今や、中国EV車への関税があってもなくても困っているのが、ドイツのメーカーと言える。

ドイツはすでに景気が落ち込んでいる。主原因は高すぎるエネルギー価格と、高すぎる税金と、肥大した官僚主義。膨大な書類の処理に時間を取られ、高い電気で高い製品を作って高い税金を払えば、当然、国際競争力は地に落ちる。

だから現在、誰もドイツに投資したがらず、それどころかエネルギー多消費企業が次々とドイツを後にし、産業の空洞化が深刻な問題だ。以前は、たとえ製造工程を外国に出しても、企業の頭脳である研究・開発部門は国内に残すと言われたが、今ではそれさえ外国に移している。

では、企業はどこへ行っているのか? 昨年はドイツ企業の中国への直接投資が、初めて1000億ユーロを超えた。これは、ドイツが国外で行っている直接投資の7.2%を占めるという。一部の政治家や評論家が、いくら中国の政治的リスクや人権問題を訴えても、ドイツ企業は今も中国市場を巨大なチャンスと見ているのだ。

ドイツにとって「脱中国」は夢のまた夢
たとえば世界一の化学コンツェルンであるBASFは100億ユーロを投資し、その生産拠点の多くをドイツから中国の湛江市に移した。これは、過去にドイツ企業が中国で行ったうち、最大の投資だという。また、70年代から中国に進出し、中国における西側老舗といえるフォルクスワーゲン社は、ドイツで計画していたEV車の製造を取りやめ、安徽省に25億ユーロで新工場を建設した。

要するに、ドイツにとっては脱中国など夢の夢。さらに言うなら中国には、レアメタルはもちろん、太陽光パネル、医薬品、ノートブック、また、自転車のフレームも、ベビーカーも、とにかくありとあらゆる物を売ってもらう必要もある。(後略)【8月10日 川口マーン恵美氏 現代ビジネス】
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「脱炭素に踊らせた」云々は保守派川口氏の見解です。

ドイツで計画していたEV車の製造を取りやめ、安徽省に25億ユーロで新工場を建設したフォルクスワーゲン社が、ドイツ国内の工場2カ所の閉鎖を検討していることが明らかになりました。実施されれば、国内初の閉鎖となります。

****フォルクスワーゲンがドイツ国内工場2カ所の閉鎖検討 EV車で厳しい開発競争に****
ドイツの大手自動車メーカー「フォルクスワーゲン」がドイツ国内の工場2カ所の閉鎖を検討していることが明らかになりました。実施されれば、国内初の閉鎖となります。

フォルクスワーゲンは2日、声明を発表し「情勢は非常に緊迫しており、単純なコストカットでは乗り越えられない」と厳しい経営状態を明らかにしました。

ロイター通信によりますと、ドイツ国内の車両工場と部品工場の2カ所の閉鎖を検討しているということです。

世界屈指の販売台数を誇るフォルクスワーゲンですが、近年は電気自動車開発などでより安価な中国勢との開発競争にさらされていて、経営合理化を目指し、2026年までに日本円でおよそ1兆6000億円のコスト削減を行うと発表していました。

今週中にも労働者側と話し合いの場がもたれる予定ですが、すでに労働組合が対決姿勢を示していて、波乱が予想されます。【9月3日 テレ朝news)】
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ドイツ国内で中国産EVに押されているというより、43%が中国向けというVWにあって、中国市場での不振が大きいとも想像されます。

これに関連し、米CNNは「VWの中国での業績不振は、中国の電気自動車(EV)メーカー、特に比亜迪(BYD)に負けていることによるもので、BYDは欧州におけるVWの事業にも脅威を与えている」と報じています。

【「脱原発」の一方で、高い電気代】
自動車を含めドイツ経済にとって足かせとなているのが高い電気・エネルギー価格。
緑の党を含め連立政権は「脱原発」を推進しています。

****国外逃避が止まらない…!「電気代が異常に高い」ドイツがいま陥っている「産業の空洞化」と「雇用の喪失」****
(中略)
脱原発は「歴史的業績」?
いずれにせよ、これ(原発の冷却塔破壊による不可逆的脱原発)により、ドイツはもはや電気の高騰と逼迫から抜け出せない。

元々、ドイツのエネルギー政策とは、メルケル時代より一貫して、1)原発を止め、2)CO2削減のために石炭火力も止め、3)再エネ100%に移行していく。そして、その繋ぎとして、4)安いロシアガスを使うという計画だった。 

ところが、(ウクライナ)戦争のせいで、その頼みの綱のロシアガスが、突然、途絶えてしまった。もっともガスを止めたのはロシアではなく、ドイツがロシアに「経済制裁」を掛けるとして輸入を減らしていったからだ。 

すると、まもなく誰かが、ロシアからドイツへ直結している海底パイプラインを爆破してくれた。

だから今のドイツは、原発と石炭火力だけでなく、ガスも足りなくなった。確実に増えているのは再エネだけだが、気まぐれな再エネは、いくら増えても電力の安定には繋がらなかった。(後略)【8月23日 川口マーン恵美氏 現代ビジネス】
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