孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  人質6人の遺体発見で強まる停戦・人質解放に向けた国内外の圧力

2024-09-07 23:48:21 | パレスチナ

(イスラエル最大の労組「労働総同盟(ヒスタドルート)」が2日、ゼネストを開始した。人質殺害に反発し停戦合意を求めるデモ、テルアビブで1日撮影。【9月2日 ロイター】)

【人質6人の遺体発見でイスラエル国内の怒りの矛先は・・・】
パレスチナ・ガザ地区で人質6人の遺体が発見されたとのニュースを見たとき、正直なところ、この件がガザ情勢に大きく影響してくるとは思いませんでした。

****ガザで人質6人の遺体発見 イスラエル軍****
イスラエル軍は1日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)で人質6人の遺体を発見したと発表した。

軍の声明によると、遺体は8月31日に南部ラファ(Rafah)の地下トンネルで見つかり、収容された。イスラエルに搬送され、身元が正式に確認された。

6人のうち1人は、イスラエル系米国人のハーシュ・ゴールドバーグポリンさんだった。
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は、人質の死亡に「打ちのめされ、憤っている」と述べた。

昨年10月7日のイスラム組織ハマス(Hamas)によるイスラエル南部への越境攻撃では、251人が人質となった。約100人が依然拘束されており、イスラエル軍はそのうち数十人が死亡したとみている。【9月1日 AFP】
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人質遺体発見は、その死亡がハマスによるものか、イスラエル軍の空爆によるものか判然としないものを含めて、これまでもときどき報じられていますので、ハマスによる米国人を含む6人の人質殺害ということで、イスラエル・ネタニヤフ政権は国内世論のハマスへの怒りを背景にガザ攻撃を強化するのだろう・・・イスラエルを支援するアメリカの動きも強まるのだろうな・・・ぐらいに漠然と思っていました。

しかし、イスラエル国内の批判の矛先はハマスよりむしろ人質救出よりハマス壊滅を優先するネタニヤフ首相に向けられました。

****イスラエルで30万人規模のデモ 人質6遺体発見で政府に抗議****
パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、イスラエル国内で1日、イスラム組織ハマスとの停戦合意や拉致された人質の解放を求める大規模デモがあった。8月31日にガザで人質6人が遺体で見つかり、イスラエル国内ではネタニヤフ首相の停戦交渉の進め方に不満が高まっている。

地元メディアによるとデモには約30万人が参加。イスラエル最大の労働組合のトップは2日、ストライキを呼びかけ、反発は大きなうねりとなっている。

「戦争をやめろ」「(救えなかった)私たちを許してほしい」。1日、商都テルアビブの中心部には約30万人が集まり、人質の早期解放を求めた。

夫が人質で、自身もハマスに一時拘束されたアビバ・シーゲルさん(63)は「ネタニヤフ氏が人質を見殺しにした」。ITエンジニアのオル・セラさん(46)は「最も大切なのは人質の生還だ。ネタニヤフ氏は選挙で負けることを恐れて戦争を続けている」と非難した。

今回、遺体で見つかったのは、20〜40代の男女6人。イスラエル軍が発見する直前に殺害されたとみられる。イスラエル紙ハーレツによると、6人のうち3人は、今回、停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった。

反発の背景にはネタニヤフ政権が8月29日の閣議で、ガザとエジプトとの境界地帯に軍の駐留継続を決めたことがある。武器の密輸を防ぐ目的とされたが、ハマスは猛反発し、停戦交渉が停滞する原因になってきた。

一方、ガラント国防相は「人質の命を犠牲にしてまで、駐留を優先させることは道義的に恥ずべきことだ」として、政権内で唯一決定に反対。人質の遺体発見後には「今すぐ、境界地帯の駐留の決定を撤回すべきだ」とX(ツイッター)に投稿した。

これに対して、ネタニヤフ氏は「ハマスは交渉成立を望んでいない。ハマスを追いかけ、決着をつける」との声明を出し、ハマスの「壊滅」を優先させることを強調した。

国民の間ではハマスとの戦闘より、人質交渉を優先すべきだという声が多数派になっている。地元民放が7月上旬に公表した世論調査では、ガザでの紛争において「最も重要なことは何か」との問いに対して、67%が人質の解放と答え、戦闘の継続は26%にとどまった。

ただ今回の遺体発見前まで、ネタニヤフ氏の支持率は回復傾向にあった。イスラエル紙マーリブが8月9日に公表した世論調査では、政敵のガンツ前国防相とネタニヤフ氏の「どちらが首相に適任か」との問いに、ネタニヤフ氏が42%、ガンツ氏が40%で、昨年10月の戦闘開始後、初めてガンツ氏を上回った。

30日公表の調査では再びガンツ氏が上回ったものの、ハマスの最高指導者がイランで暗殺され、イランが報復を宣言する中、安全保障上の緊張が追い風になった可能性がある。【9月2日 毎日】
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停戦が成立すれば第1段階で解放される予定だった人質が、停戦交渉の停滞のために殺害される結果となったことが、ネタニヤフ首相の停戦交渉に消極的な対応への批判として高まったようです。

デモには約30万人が参加・・・イスラエルの人口は955万人程度ですので、そのことを考えると相当規模のデモです。
一時はゼネスト状態に。

****イスラエルでゼネスト開始、交通網・港湾など混乱 経営者も支持****
イスラエル最大の労組「労働総同盟(ヒスタドルート)」が2日、ゼネストを開始した。

パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されていた人質6人が遺体で見つかったことを受けて、ネタニヤフ首相に人質解放に向けた合意を結ぶよう圧力をかけることが狙い。1日にゼネストの実施を呼びかけていた。

スモトリッチ財務相はゼネストを許可しないよう労働裁判所に求めており、現地時間午前に審理が始まる予定だが、すでにさまざまな産業でストの影響が出ており、製造・ハイテク業界など多くの経営者団体もゼネストを支持している。

空輸ハブであるベングリオン空港が一部のサービスを中止しているほか、多くの地域でバスや路面電車の運行が停止・縮小されている。主要商業港のハイファ港でも労働者がストを実施。病院も業務を縮小し、銀行の業務は停止されている。

多くの民間企業は営業しているものの、経営者は従業員がストに参加することを認めており、さまざまなサービスで混乱が生じている。【9月2日 ロイター】
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ストの方は、裁判所の違法判断ですぐに中止されましたが、国を揺さぶる大きなうねりとなりました。

ネタニヤフ首相の政敵でもあるガンツ前国防相は、ネタニヤフ首相のガザ・エジプト境界地帯(フィラデルフィ回廊)への軍駐留に固執する姿勢を批判。

****ガザ境界の軍駐留必要なし、停戦交渉反対理由にならず=ガンツ前国防相****
イスラエル戦時内閣を6月に離脱したガンツ前国防相は3日、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で最大の争点となっているガザ・エジプト境界地帯(フィラデルフィ回廊)への軍駐留について、駐留継続の必要はなく、人質解放に向けた停戦合意の反対理由にすべきでないとの考えを示した。

ネタニヤフ首相は2日の会見で、フィラデルフィ回廊への軍駐留は不可欠だとの見解を改めて強調している。

しかしガンツ氏は、イスラエルにとって一番の脅威はフィラデルフィ回廊ではなくイランだと指摘。回廊はイスラム組織ハマスやその他のパレスチナ武装勢力がガザに武器を密輸するのを防ぐ上で確かに重要だが、軍駐留によって完全に止めることはできないと付け加えた。

またネタニヤフ氏がいったん回廊から撤退すれば、国際的な圧力で再駐留が難しくなると訴えたことについても「必要ならばフィラデルフィ回廊に戻ることはできる」と反論した。

その上でガンツ氏は、ネタニヤフ氏が国際的な圧力に耐えて再駐留に動けるほどの強さがないのであれば、野に下ってもらわなければならないと述べ、総選挙の実施を求めた。

ガザ停戦交渉を巡るネタニヤフ氏の姿勢には、米国などから不満が強まっている。

ガンツ氏は「この話はフィラデルフィ回廊ではなく、本当の戦略的判断が欠如しているということだ」と語り、ネタニヤフ氏の対応を批判した。【9月4日 ロイター】
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【バイデン米大統領はネタニヤフ首相に不満表明 英も武器輸出を一部停止】
国際的にも、イスラエルの後ろ盾となっているアメリカ・バイデン大統領がネタニヤフ首相の交渉への姿勢に不満を明らかにしており、ネタニヤフ首相との溝が深くなっています。

****バイデン氏「イスラエルの取り組み不十分」、ネタニヤフ氏は反発****
バイデン米大統領は2日、パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに拘束されている人質の解放に向けた合意の最終案をまもなく提示すると述べた。同時に、イスラエルのネタニヤフ首相は合意確保に向け十分に取り組んでいないとの考えを示した。

バイデン氏は、ネタニヤフ首相は人質解放に向けに十分な努力をしているかとの記者団の質問に対し、「ノー」と回答。ただ、詳細については語らなかった。

また、イスラエルとハマスの双方に最終的な合意案を提示するかとの質問に対し、まもなく提示すると答えた。

交渉が成功するかどうかとの質問に対しては「希望が尽きることはない」とした。

イスラエル軍は1日、ガザ最南部ラファの地下トンネルで人質6人の遺体を収容したと発表。発見される直前に殺害されたという。人質のうち1人は米国人男性だった。

ホワイトハウスによると、バイデン大統領とハリス副大統領は米国の人質交渉チームとも会談。その中で大統領は人質殺害に対する「衝撃と憤り」を表明し、残りの人質解放に向けた次のステップについて話し合ったという。

一方、ネタニヤフ首相は、圧力をかけるべきはイスラエルではなくハマスだと反発。記者会見で、「今、われわれは真剣さを見せろと要求されているのか、譲歩を要求されているのか。これはハマスにどんなメッセージを送っているのか。もっと人質を殺せと言っているのだ」と反発した。

また、バイデン氏を始め真剣に和平実現に取り組む人物がイスラエルにさらなる譲歩を求めるとは考えておらず、むしろそうする必要があるのはハマスだと述べた。

イスラエルの関係筋も、バイデン氏が人質交渉を巡りハマスのヤヒヤ・シンワル指導者ではなくネタニヤフ氏に圧力をかけたことは「留意すべき」と語った。

バイデン氏が、ネタニヤフ氏の対応が不十分と発言したことも、ハマスが人質6人を殺害した直後に出されたというタイミングからみて危険な見解だとした。

こうしたイスラエルのコメントに対し、米国当局者は、バイデン大統領は人質死亡についてハマスに責任があると明言していると反論。「行方不明の人質の解放を急ぐよう、イスラエル政府に求めている」と述べた。【9月3日 ロイター】
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アメリカと並んでイスラエルに武器支援を行っているイギリスも武器輸出の許可を一部停止すると発表。イスラエル支持の外交姿勢に変化が出ているとも見られています。

****英、イスラエルへの武器輸出を一部停止 外交シフト示唆****
英国は2日、イスラエルに対する武器輸出の許可を一部停止すると発表した。固い絆で結ばれた西側同盟国でさえ、イスラエルから自国防衛に必要な武器を奪うことなく、パレスチナ自治区ガザの戦争終結に向けて圧力をかける方法を模索している様子を示している。

英政府は、イスラエルへの約350件の武器輸出許可のうち、30件を禁止すると発表した。F16戦闘機やドローン(無人機)の部品も含まれている。一部の武器が国際人道法に違反して使用される「明確なリスク」があると説明した。

ただ、英国からイスラエルへの武器輸出は比較的少なく、今回の停止措置は概して象徴的なものだ。

だがアナリストらは、イスラエルにとって後方支援や軍事支援よりも重要な、英国の外交的な後ろ盾の変化を示すものだと指摘する。また、他の同盟国も追随する外交的な余地をもたらし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって頭痛の種となる可能性がある。【9月4日 WSJ】
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【強気姿勢は変えないネタニヤフ首相だが、停戦・人質解放を求める内外の声は強まる】
こうした国内外の圧力の中でもそれに屈しないのが強気ネタニヤフ首相の真骨頂・・・・というか、屈して停戦となれば、国内的には総選挙要求が強まり、総選挙となれば自身の政治生命が終わるため、どうしても後に引けないとも言えますが。

人質6人の遺体が見つかったことを謝罪しつつも、ハマスとの停戦交渉での「譲歩」を拒否する姿勢を重ねて強調しています。

****イスラエル軍の駐留を主張…ネタニヤフ首相「圧力に屈しない」****
イスラエルのネタニヤフ首相は「圧力には屈しない」として、エジプトとパレスチナ自治区ガザ地区の国境沿いにイスラエル軍を駐留させ続けることをあらためて主張しました。

エジプトとガザ地区の境界は「フィラデルフィア回廊」と呼ばれ、戦略上、重要であることからイスラム組織ハマスとの主な対立点となっています。

人質解放と停戦をめざす交渉は、イスラエル側が「フィラデルフィア回廊」への駐留継続を要求したことで再び停滞しています。

ネタニヤフ首相は2日、「圧力には屈しない」として「フィラデルフィア回廊」にイスラエル軍を駐留させ続けることをあらためて主張しました。

イスラエルでは6人の人質が遺体で見つかったことを受け、大規模な抗議デモがおこなわれていて、即時停戦を求める声が強まっています。こうした中、アメリカのバイデン大統領は人質解放をめぐり、ネタニヤフ首相の努力が不十分だとの認識を示しました。

──ネタニヤフ首相は(人質解放) 問題についてもっとやるべき?十分に行動している?
アメリカ バイデン大統領「ノー」

また、今週中に人質解放に向けた合意案をイスラエルとハマス双方に提示するかと問われ、「非常に近づいている」と述べました。【9月3日 日テレNEWS】
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強気姿勢を続けるネタニヤフ首相ですが、アメリカ・バイデン政権の停戦交渉に向けた切迫感は強まっています。

****ガザ停戦に向けた米国の仲介、人質殺害で切迫感強まる****
米国系イスラエル人など人質6人が処刑されたことを受け停戦合意の実現が急がれる

パレスチナ自治区ガザで人質となっていた米国系イスラエル人が殺害されたことを受け、米政府は、イスラエルとイスラム組織ハマスとの停戦合意に向けた新たな案を早急に取りまとめる必要に迫られている。

だが政府当局者らは、ハマスが拘束している人質には7人の米国市民も含まれていることから、新たな案が最終案とはならない可能性もあると認めている。

ハマスはカリフォルニア生まれのハーシュ・ゴールドバーグポリン氏(23)を含む6人の人質を処刑した。これによりジョー・バイデン米大統領やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相には、停戦とハマスによる人質解放実現に向けた圧力がさらに高まった。人質の殺害は、米政府が週内にも各当事者に示す予定だった合意案の文章を巡り、中東の仲介国と調整を続けている中で起きた。

米当局者らは、数週間にわたる交渉で最終枠組みに少し近づいたとし、新たな案は、8月に示された「橋渡し案」より踏み込んだ内容になると述べた。

新たな案は、ハマスに拘束されている人質とイスラエルで収監されているパレスチナ人囚人の交換を具体的にどう行うか、ガザとエジプトの境界地帯「フィラデルフィ回廊」でいつまでイスラエル軍の駐留が認められるか、などの詳細が含まれる見込み。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は3日、新たな合意案は、戦闘を停止して「残りの人質の解放を確実にする」ものであり、「ガザ住民に対して大規模な支援が直ちに届けられる」ことにつながる内容だと記者団に述べた。

またカービー氏によれば、バイデン氏も2日、交渉状況についてブリーフィングを受けるためシチュエーションルーム(危機管理室)入りするなど、今回の動きに個人としてもかなり力を入れている。
カービー氏は「週末の殺害を受け、この件を終結させるために必要な切迫感はさらに強くなった」とも述べた。【9月4日 WSJ】
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なお、イスラエル国内では人質解放のためには「フィラデルフィ回廊」駐留を諦めなければならないとする声が反対派より多い状況になっています。

****ガザ境界駐留、半数否定的 人質解放を重視、世論調査*****
イスラエル紙マーリブは6日、世論調査の結果を公表し、パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で最大の争点となっているガザ・エジプト境界でのイスラエル軍駐留に関し「人質解放のために諦めなければならない」と回答した人が48%に上った。

ネタニヤフ首相は安全保障上の理由から駐留継続を主張しているが、人質解放を重視する国民との間で認識の差があることが明らかになった。

マーリブ紙は4〜5日、約500人を対象に調査を実施。「人質が解放されなくても駐留を諦めてはならない」との回答は37%、「分からない」が15%だった。【9月7日 共同】
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