十数年前と違い、今ではインフルエンザの診断は九割方、迅速検査キットに依っている。勿論、インフルエンザの検査が陰性でも臨床的にインフルエンザだと診断することはあるが、うんと少なくなってきている。
昨日の午後、二三日前から6度8分くらいの微熱があり、少し鼻がぐずつくと三十代後半の男性が受診した。一寸風邪っぽいというだけで他に咽頭痛、咳痰、関節痛もなく、特にだるくもないと言う。以前なら軽い風邪と葛根湯などを処方して返したと思う。患者さん自身も受診するほどのこともないと思ったのですが、同僚にインフルエンザの人が居るので調べて欲しくて来たと言われる。希望されるなら、違うと思いますが調べましょうと検査してみた。三分もしないうちに看護師が出ましたとAにくっきり線が出てきた検査板を持ってきた。あれあれ、違うと思ったのですがA型のインフルエンザでしたと説明する羽目になった。
発症して二三日経っているし、判定の線も色濃く出ているので初期でこれから高熱が出るというわけでもなさそうだ。ワクチンを打ってあるかと聞いたところ打っていないという。どうも何十人か何百人に一人くらい、症状が軽くてインフルエンザと気が付かないインフルエンザ症例が居るようだ。こういう患者さんが、ちょっと風邪っぽいなあと思っても、問題なく動けるのでそのまま仕事をして周りにウイルスをまき散らしている可能性がありそうだ。所謂保菌者とは違うが似たような状況を作り出しているに相違ない。本人に自覚が乏しく医者も見逃しそうなのが厄介なところだ。
穏やかで言葉少なくても能力があれば、いぶし銀と高く評価されようが、静かで大人しいがミスを多発する人材はどうも大歓迎とは行かないようだ。
診たてが良いというのは、我々の世界では大変な褒め言葉です。