駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

好守備も必要

2010年08月25日 | 診療
 内科系の町医者は半径2kmに三分の二の患者さんが居る。勿論、10km先から物好きと言っては失礼だが、医者が気に入ったか受付が気に入ったか看護師が気に入ったか遠路はるばる来られる方も少しは居られる。
 ご近所だと待合室で顔見知りに会うことが結構ある。話に花が咲いてひとしきり話し込んで行かれる中高年女性も多いのだが、注意しなければいけないのは「あんた、何処が悪い」。という詮索だ。笑って誤魔化すのが一番だが、食い下がるしつこい人には「ちょっと、血圧で」。とぼんやり答えるのが賢い。その辺は負けず劣らすのおばさん達なので心得ている。大声なのでしばしば私にも聞こえるのだ。
 図々しいおばさんは診察室に入るなり声を潜めて「あの人、何処が悪い」。と聞いたりする。「ええ、ちょっと」。と誤魔化すこともあるし、まともに「そういうことは教えられないことになっているんですよ」。と答えることもある。多少硬い言い方でも、こうしたおばさんには角が立たない。何たって神経が太い。
 気を付けなければいけないのは名人芸だ。高熱が出たと呼ばれ往診に行ったはいいが、路地裏で駐車スペースがなく困っていると、どこから現れたかおばさんがこっちと誘導してくれる。「ありがとうございました」。と車を降りてお礼を言う擦れ違いざま、患家に顔を微かに傾げ「悪いの」。と聞く。うっかり答えてしまいそうになるが、こちらもベテラン「あーどうも」。と誤魔化して通り過ぎる。
 
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