駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

セールスの難しさ

2010年07月03日 | 世の中
 医院には薬や検査機器のセールスの人が頻回に訪れる。どういう訳か薬品メーカーのセールスにはMR(メディカルレプレゼンタティブ、薬品情報提供者)などという名称が付いているが、主業務は売り込みにある。
 最も頻回に訪れるのは薬の卸問屋である。彼等の中には薬品メーカーのMRよりも露骨に売り込む人達がいる。顔を合わせればAとかBとかいう薬を買ってくれ、今度Cという新薬がどこそこから出た、ついてはそれを当社から購入してくれと、毎回頼まれる。正直うるさい。
 勿論、全てのセールスが買ってくれと騒ぎ立てるわけではなく、いろいろな会話の後にさりげなくこういう良い薬がありますと言い置いて行くような感じの良い人達もいる。
 で、結局どうなるかというと、顔を見れば買ってくれとしか言わない処からは意外に買わない。否、当然買わないと云った方が正確か。薬の卸問屋はまったく同じ薬を売っているわけで、そこにある差は卸価格とプラスアルファのサービスなのだ。価格が同じ乃至微差であれば、判断に影響するのは金品でないサービスの力なのだ。極端に言えば話が楽しいというのもサービスなのだ。あれT社が来たらしい、又買ってくれかだなと思われるようでは、駄目なのだ。挙げ句の果ては、何でS社ばかりですか、次は当社からと不満そうに云われれば、顔では「そうだね」。と微笑みながら、心では「そうかね」。と思ってしまう。
 実は種を明かせば、医院に取って有り難いのは医療を取り巻くあらゆる情報なのだ。もっと幅広く医療に関係ない売れ筋の電機製品や面白いテレビ番組の話でも良いのだ。個人医は割と狭い世界に住んでいて、なかなか本音の情報や世間の人達の興味ある情報は入りにくい。それに患者さんの失礼ながら愚痴のような訴えばかり聞いていると疲れるので、合間にはのんびり楽しい話が嬉しい。
 いつT社のK君が自分に足りないものに気付くか見ているのだが、一向に改善しない。そうしたセールスが他の医院では通用しているのだろうか。あるいは他の医院でも通用せず成績が悪いので余計に強く買ってくれと売り込むのかもしれない。
 人様々で、私の感覚が一般的なものかどうかは分からないが、同種同等の商品を他社に先んじて売るのは容易なことではなさそうだ。

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