私は小なりと雖も、七人の従業員を抱える事業主で、四月には昇給が待っている。驚くべき?ことに開業以来、毎年賃上げをしてきた。この十年、収益は全くの横ばいで、昇給の為に医院の年間黒字は少しずつ減ってきている。このまま行けばあと数年で赤字に転落する。その時は私の給与を減らすか備蓄を取り崩すしかない。
熱心に勉強し診療に取り組む同業者もこと経営に関する話になれば辛く厳しい言葉が飛び出してくる。しかしながら、どうも世間には儲けすぎているのだからそれでいいのだという空気が流れており、開業医の懐具合に全く同情は感じられない。昔ほどではないが今も週刊誌レベルのマスコミは算術医という通り一遍の見方から抜けきれず、そうした空気を助長している。この辺りの話は微妙で誰がどの業種が潤っているかはオープンに語られることはない。それこそ秘密保護法が腕を振るいかねない領域である。
正直に手の内を明かせば、診療代金の元手の主な物は設備投資と賃金で材料費の割合は低い。そのために損益分岐点を超えると収益が増えやすい構造になっているとは言える。つまり一定数以上の患者さんが受診して下されば収入は急増するということだ。但し、喩え百円の収益でも全て実働が伴い、年次昇給はなく年と共に仕事はきつくなる。
どうも回り道が長くなったが、アベノミクスで景気がよくなったから給与を挙げろと言われても、冗談はほどほどにしてくれということだ。トヨタの給与は簡単に上げられるかも知れないが、収益が上がらない零細企業は身を切ることになる。アベノミクスの正体は強者を強くし弱者を弱くするもののように見える、否、安倍首相はと言った方が良いかも知れない。勿論、安倍氏は優れた戦略家であるから、そうした実態はおくびにも出さない。本当は恵まれていないフォロウワーには好景気の香りを送っているようだ。