駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

ご要望ではありますが

2013年04月28日 | 診療

                    

 二十代の元気そうな男性、数日前から咳と痰がでると受診。熱はなく鼻水が少し出て、ちょっと喉がむず痒いという。診察しても僅かに咽頭が発赤している程度でさしたる異常所見はない。なんでこの程度で医者に掛かるのかなと思いながら生活指導をして、鎮咳去痰剤を処方した。暫くして受付から電話、

 「今の患者さん抗生物質が欲しいと言ってます」。

 「必要ないから、出した薬で様子を見るように言って」。納得したか他の医院に回ったかよくわからない。

 なるほど抗生物質が欲しくて医者を受診したんだ。私も二十年前までは咽喉頭炎(所謂感冒)の八割に抗生物質を投与していたが、数年で世間に先駆けて感冒への抗生物質投与は止めた。今では所謂風邪症状で抗生物質を投与するのは僅か一割程度だ。高齢で自立度の低い人、コントロールの良くない糖尿病や進行した腎不全などの合併症のある人、熱が二日以上続いている場合などは、今でも感冒と思われても抗生剤を出すことが多い。喩え高熱があっても元気で解熱傾向があり、細菌感染を疑わせる所見がなければ抗生物質は投与しない。こうした大転換をしてもう十五年以上になるが、感冒の治りが悪くなったかというと、全然そんなことはない。元々必要ないのに使っていたわけだ。今では過半数の医師が感冒症状に抗生物質を出さなくなったと思う。

 しかし未だ根強く感冒に抗生物質を出す一群の医師が居る。なかなか風邪が治らないと他院から回ってきた患者さんの飲んでいる薬を見ると鎮痛剤、鎮咳去痰剤、抗菌剤、胃粘膜保護、気管支拡張調布剤が出ている。これ以上の薬はなく、私の出る幕はない。仕方が無いので、これとこれを止めてお茶を多めに飲んでごらん・・・と指導する。咳は直ぐにはとまりませんよと言い含めるのを忘れない。そうすると不思議なことに良くなって行くことが多い。別に私の手柄ではなく日薬が効いたのだ。

 虎は兎を捕らえるにも全力を出す、つまり軽い仕事だからといって流してはならないと諭されているが、やはり雉を撃つのに大砲はおかしい。感冒に肺炎や喘息と同じ治療はやり過ぎだ。肺炎の予防だとか咳喘息を見越してとか言われても、それは通らない。患者の訴えに追随してしまう、遺漏ない治療をしていたと防衛的になる気持ちは分からないでもないが、伝家の宝刀はいつも抜いていると刃が毀れてしまう。やたらと投与して大切な抗生物質に耐性菌を誘導しないで頂きたい。医師は感冒と見極めるのに全力を尽くすべきであって、感冒に持ち駒を全部使ってしまうのは勘違い、そして無駄で傍迷惑。

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2 コメント

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Unknown (ryuji_s1)
2013-04-28 11:47:13
arz2beeさん

抗生物質はいざの時に効く様に
普段はあまり使わない方がいいようですね
素適な治療
有り難うございます
返信する
そうです (arz2bee)
2013-04-28 12:25:43
 たぶん、どんな料理でも高額ワインを出して、やたらとフォアグラとトリフを使うのに似ていると思います。
返信する

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