内科診断学では鑑別診断が重用視される。例えば上腹部痛と言えばどんな疾患が考えられどのように鑑別するかなどは、しばしば口頭試問で出たものだ。得たり賢しと十個は鑑別疾患が挙がらないと教授の口がひん曲がったものだ。
この鑑別が難しい世の中になった。真っ当か真っ当でないかは自然にわかるあるいは本人が自覚するのが健康な社会だと思うが、僅かな落ち度を捉え騒ぎ立てると弱いだけで正しいように響いてしまう。
医院の勝手口にペットボトルがまとめて捨ててある。掃除で気付いた事務員が「先生、置きましたか」。「まさか」。「誰でしょう、ゴミ捨て場じゃないのに」。と憤慨しても結局、当院の塵として有料(医院のゴミ捨ては有料)で出すことになる。
夜間急病当番に、下肢が浮腫んで息切れがして歩けないと老婆が運び込まれた。病気なんかしたことないのに一週間前に転んでから調子悪かったみたいなんですと娘と思しき付き添い。夜間救急は発熱腹痛などを対象とした急病に対応する施設なので、重症患者さんには対応できない。「どうして、もっと早く昼間に病院へ連れて行かないんですか」。と言ったのが不適当だったようで、「同居と言ったって二所帯のようなもんです。昼間は居ないから、さっき気が付いたんです」。と怒気を含んだ口調になる。どうも不利を察知したか患者さんが「助けてくれー」。と大声を出し始める。「こんな状態では連れて帰れませんから」。と眉毛が釣り上がり切り口上が出る。思わず看護師と顔を見合わせる。「分かりました、今から病院に紹介状を書くのでお待ち下さい」。と家族に成り代わり、夜間お忙しいところ申し訳ありませんがとしたためる。
命は平等と反駁できないスローガンを掲げる病院群があったなあ。こうした方法で貴重なベットが埋まり、若い有為な救急患者が満床で追い返されるようなことがあってはなどとは口が裂けても言ってはいけないのだろうか。
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最近、クレイマー対策や苦情処理について発言をしている、関根眞一さんの本を思い出しました。
西武百貨店のお客様相談室に長年勤務されていた方で、歯医者の苦情アドバイスもしておられます。
医者の本来業務から大きく外れていますが、非常識な反応を示す患者サマ対応の技術も必要、ということでしょうか。
医者は強い立場のことが多く黙っていない習慣が身につきやすいので、相手の非を注意しがちです。それで反省するような患者さんはこんな挙に出ないわけで「なぜ昼間に」。などは禁句でした。ベテラン看護師は決してそんなことは面と向かって言いません。患者さんがお帰りになったあとは別ですが。
注意すれば相手の怒りを買い、かえってこじれて碌なことはないのです。
個々の対応では角が立ちますので、社会の中にそういうことはよくないという風潮が醸成されるのが一番と思いますが。これは本気でやっても何十年も掛かるでしょう。
政治家は悪い手本しか示しませんし。