この数年わずかだが電車が混むようになり最初から座れることは減った。私は自分では七十過ぎには見えないと勝手に思っているのだが、今朝電車が最初の駅に近づいたら、腰の辺りをトントンと叩く人が居た。振り返ると八十前後の老婦人で、次の駅で降りるから私に座れと合図をしてくれたのだ。どうもと会釈をして座らせて貰ったのだが、ラッキーと思いながまさか同年輩と思われたのではないだろうなとちょっと複雑な気もした。
診察をしていると時々雑念が浮かぶ。患者さんの中には平熱が低いと主張される方が時々居られる。ほとんどが女性だ。つまり六度五分でも熱があるというわけで、いつもは五度三分しかないから、私としては熱っぽくて大変とおっしゃりたいのだ。そこで一言、爬虫類みたいですねとか蛇や蛙みたいだねと言いたくなるのだが、一度も口に出したことはない。猫が低体温なら、猫みたいですねと言えるのだが残念。猫みたいと言われて怒る女性はまずいないだろう。そうなのよと、全然ペルシャ猫に似ていない女性に、調子に乗られても困るが。
残念ながら低体温を主張される女性には、爬虫類と言われて平気そうな人は居ない。女性は外見に敏感な人が多いから、滅多なことは言えない。それくらいのことは長く生きてきたから承知している。と言いながら何度か失敗している。親子で掛かられている若い女性についうっかり「お父さんに似ていらっしゃいますね」と言ってしまい。「私、あんな人に似ていませんと」。と睨まれたことがある。以降、ちょとトドに似た父親は受診されるが、お嬢さんは受診されなくなった。否、愛嬌のある可愛いトドですよとフォロウしても駄目に決まっている。もう二十年以上前のことで、以後診察室では口は慎んでいる。尤も中には自ら今年の夏はトドになった気分などとおっしゃる女性も居られるので、相手を見て軽口を叩くこともある。
病気というわけではありませんが、経験の少ない医師に説明する時難渋することがあるようです。