昨年10月の緒形拳さんの悲報の際、TV局はこぞって追悼番組を放送・・・
その中でひとつだけHDDに残っていた「NHKアーカイブス」の映像に、緒形さんが演じるひとり芝居『白野~シラノ~』が録画されていたのを思い出して見てみました。
2007年11月 緒形拳ひとり芝居『白野~シラノ~』 最終場
舞台には椅子が二つ。
夫・来栖なきあと、仏門に下った千種を訪ねる白野弁十郎。
千種の懐にいつもある、来栖の最後の手紙を見せてほしいという白野。
最初はその手紙を読んでいたはずの白野がいつしか目をつぶり、諳んじるように手紙の言葉をなぞらえていく・・・
「我はただ君を想うのみ・・・我はただ君を想うのみ・・・」
それは徐々に熱を帯び、心の底から絞り出すように・・・
そこには、白野の紛れもない14年間の“想い”が・・・
もはや陽は落ち、手紙の文字は読めないはずなのに・・・と、はじめてその手紙が愛しい夫・来栖ではなく、白野が書いたものだと気づく千種。
そして、あの愛の言葉の数々は白野の言葉であり、自分を愛してくれていたのは白野なのだと悟る千種。
白野は「ちがう、私は断じてあなたに恋はしません!!」と否定します。
千種の言葉に狼狽し取り乱し「ちがう、ちがう!!」と頭を振る白野。
それこそは千種を愛している胸の内の深さを表しているようで・・・
それでも・・・千種の存在こそが自分に安らぎを与えてくれたと感謝して、来栖のことを思い出す片手間に自分を思い出してほしい、と・・・
やがてゆっくりと“死”が白野を捉え、自分だけに見える死神に必死で抗う白野。
そして死の向こうに見えるたくさんの敵と応戦し、息絶える白野。
緒形さんは実に、この舞台で5役を演じたそうです。
この最終場では、白野と千種の2役ですが、すっと口調が柔らかくなると同時にそこには、黒墨の衣をまとった千種が座っているような錯覚に囚われました。
決して大声を出すわけでもなく、穏やかに、淡々と語る口調は、一見軽やかで最初は白野の想いの深さは感じられません。
なのに・・・その静かな語り口から繰り出される白野の真実の姿から、目が離せなくなりました。
手紙の文字はおそらく緒形さんの直筆でしょう。
手紙を読みながら、いつしか千種に自分の想いを語る白野の、そのあまりに情熱的な言葉と表情は、まるで恋に上気する若々しい青年のようで・・・はからずしも胸がドキドキしました。
ひょうきんでお茶目で人当たりのいい白野が、千種に見抜かれて狼狽する様は、切なく痛々しく、自分の死期さえも新聞のニュースに読み替えるのは、白野らしいと・・・
新国劇がどんなものかよく知らないけれど、最後のセリフ「それは・・・男の心意気だっ!!」は、それまでの軽やかさを吹き飛ばす迫力と重みと威厳に満ちていて、人の言葉の持つ力が胸にずんと響き・・・
低いチェロの調べが流れ、がっくりとうなだれた白野に、落ち葉がはらり、はらり、と舞い降りてきます。
その壮絶な生き様と、静かな死に・・・自然と涙がひと筋・・・流れ落ちたのは言うまでもありません。
舞台『白野~シラノ~』最終場・・・緒形さんの、生命を注ぎ込むような・・・渾身の25分間でした。
その中でひとつだけHDDに残っていた「NHKアーカイブス」の映像に、緒形さんが演じるひとり芝居『白野~シラノ~』が録画されていたのを思い出して見てみました。
2007年11月 緒形拳ひとり芝居『白野~シラノ~』 最終場
舞台には椅子が二つ。
夫・来栖なきあと、仏門に下った千種を訪ねる白野弁十郎。
千種の懐にいつもある、来栖の最後の手紙を見せてほしいという白野。
最初はその手紙を読んでいたはずの白野がいつしか目をつぶり、諳んじるように手紙の言葉をなぞらえていく・・・
「我はただ君を想うのみ・・・我はただ君を想うのみ・・・」
それは徐々に熱を帯び、心の底から絞り出すように・・・
そこには、白野の紛れもない14年間の“想い”が・・・
もはや陽は落ち、手紙の文字は読めないはずなのに・・・と、はじめてその手紙が愛しい夫・来栖ではなく、白野が書いたものだと気づく千種。
そして、あの愛の言葉の数々は白野の言葉であり、自分を愛してくれていたのは白野なのだと悟る千種。
白野は「ちがう、私は断じてあなたに恋はしません!!」と否定します。
千種の言葉に狼狽し取り乱し「ちがう、ちがう!!」と頭を振る白野。
それこそは千種を愛している胸の内の深さを表しているようで・・・
それでも・・・千種の存在こそが自分に安らぎを与えてくれたと感謝して、来栖のことを思い出す片手間に自分を思い出してほしい、と・・・
やがてゆっくりと“死”が白野を捉え、自分だけに見える死神に必死で抗う白野。
そして死の向こうに見えるたくさんの敵と応戦し、息絶える白野。
緒形さんは実に、この舞台で5役を演じたそうです。
この最終場では、白野と千種の2役ですが、すっと口調が柔らかくなると同時にそこには、黒墨の衣をまとった千種が座っているような錯覚に囚われました。
決して大声を出すわけでもなく、穏やかに、淡々と語る口調は、一見軽やかで最初は白野の想いの深さは感じられません。
なのに・・・その静かな語り口から繰り出される白野の真実の姿から、目が離せなくなりました。
手紙の文字はおそらく緒形さんの直筆でしょう。
手紙を読みながら、いつしか千種に自分の想いを語る白野の、そのあまりに情熱的な言葉と表情は、まるで恋に上気する若々しい青年のようで・・・はからずしも胸がドキドキしました。
ひょうきんでお茶目で人当たりのいい白野が、千種に見抜かれて狼狽する様は、切なく痛々しく、自分の死期さえも新聞のニュースに読み替えるのは、白野らしいと・・・
新国劇がどんなものかよく知らないけれど、最後のセリフ「それは・・・男の心意気だっ!!」は、それまでの軽やかさを吹き飛ばす迫力と重みと威厳に満ちていて、人の言葉の持つ力が胸にずんと響き・・・
低いチェロの調べが流れ、がっくりとうなだれた白野に、落ち葉がはらり、はらり、と舞い降りてきます。
その壮絶な生き様と、静かな死に・・・自然と涙がひと筋・・・流れ落ちたのは言うまでもありません。
舞台『白野~シラノ~』最終場・・・緒形さんの、生命を注ぎ込むような・・・渾身の25分間でした。