数日前、我が家の財務大臣閣下より娘が借りてきたDVDをレンタル屋へ返却してこいとのご命令があり、素直な?私は直ぐにレンタル屋へ行ったのでありまする。
最近はテレビの有料チャンネルの映画の放送ばかり見ていたので、DVDのレンタル屋は久し振りでござった。
娘の借りたDVDを、とっとと返却したあと、ショップの棚に並んでいるDVDを見て行く。
そこで1本のDVDを見つけて直ぐに借りて帰る。この映画のことを知っていたが、まだ見ていなかった。
映画「カルテット! 人生のオペラハウス」
2012年制作のイギリス映画。
久し振りにいい映画を見た。見終えたあと、胸が一杯になる。
この題名の「カルテット」は楽器演奏の四重奏を指すのではない。オペラの四重唱を指している。
ヴェルディ作曲の歌劇「リゴレット」第3幕より、「リゴレットの四重唱」として名高い、マントーヴァ公爵、マッダレーナ、リゴレット、ジルダによる四重唱「いつかお前に会ったような気がする~色っぽい娘さんよ」が、上手に使われいて、オペラ好きの私には堪えられなかった。
イギリスの田園風景の中に建つ引退した音楽家たちが余生を暮らす音楽の館「ビーチャム・ハウス」
その音楽の館も経営難。そこに暮らす老人達がホーム存続の為にコンサートを企画する。
そのコンサートのトリを務めるのは、かつてのカルテット(四重唱)仲間の4人だが、この4人には、複雑な人間関係、思いが・・・。
この映画の原作の舞台はイタリアとのことだが、イギリスを舞台に移したのは良かった。
以前、イタリア映画「トスカの接吻」と言う映画をビデオを見たことがありますが、このイタリア映画を原案にしているらしい。
ウィットに富んだ会話、ユーモア、そして人生の皮肉。
残された人生を、どう過ごしていくのか?どう見つめていくのか?そんな思いを抱かすにはイギリスの美しい田園風景がピッタリである。
この良さ。若い方には分かるまい。私も、今の年齢だから強く感じるものがあるのに違いない。
主役の4人はマギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズのイギリスを代表する俳優たち。
この4人の名優たちの演技の絡みも一番の見もの。
そして、その他の「ビーチャム・ハウス」の住人たちを演じているのは、歌劇場やオーケストラなどで活躍した本物の音楽家ばかり。だから作り物感は全くなく本当に自然である。演奏も吹き替えなしの、自分自身の演奏でしょう。
その中にはバイロイトなど世界の一流歌劇場で活躍したソプラノのギネス・ジョーンズが、かつての偉大なオペラ歌手として演じているのもオペラ好きには、たいへんなお楽しみである。
そのギネス・ジョーンズがコンサートでプッチーニの歌劇「トスカ」から「歌に生き、恋に生き」を歌っている。
映画「トスカの接吻」へのオマージュかな?もう少し、たっぷりと聴きたかったなあ。
また「ビーチャム・ハウス」の名前。
往年のイギリスの名指揮者トーマス・ビーチャムがら命名されたのだろうか?
どこまでも、私をくすぐる映画である。
そして監督はアメリカを代表する俳優ダスティン・ホフマン。
何と彼の初監督作品。
「卒業」「真夜中のカーボーイ」「クレイマー、クレイマー」といった映画でアメリカそのものを演じた俳優。
そのダスティン・ホフマンの監督第1作はイギリス映画。
イギリスの風景。イギリスの俳優たち。
そこにはアメリカの臭い、ハリウッドの肌触りを全く感じさせるものはない。
せっかくホフマンが監督するのだから、どうしてもチョイ役でもいいから顔を出して欲しいと思ってしまうでしょう。
しかしここがホフマンの賢さでしょう。もし画面に自分が登場したら、それまでのイギリスの田園風景の雰囲気の流れが、そこで断たれてしまうことを分かっているのでしょう。
たまにはDVDのレンタル屋へ行くのも私にとって大切かな?
そんな思いにさせた映画でした。