水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (100)最後に…

2019年06月18日 00時00分00秒 | #小説

 どういう訳か、人は格好をつけたがる。世間や人前での体裁(ていさい)を気にするからだ。別に人がどう思おうといい訳だが、それでも人は体裁を気にして、自分の意思を抑(おさ)えようとする。例(たと)えば、多くの人前で演説(えんぜつ)をしているときなど、演説を終える前に、最後に…と、格好いい言葉を決め台詞(ぜりふ)にして語ったあと、格好よく壇上から消えるのである。別に、最後に…と言う必要はなく、始めに…と最初に言ってもいい訳だ。^^
 とある選挙戦がたけなわの頃のお話である。草虫(くさむし)候補は今回を最後にしようと出馬した候補者だった。その草虫候補が演説を行っている。
「皆さまのお蔭(かげ)をもちまして、10期の当選を果たさせていただきましたっ! 厚く御礼(おんれい)を申し上げる次第でございますっ! そんな私ではございますが、今回を最後のご奉公にさせていただきたく、かく出馬をさせていただいた訳でございますっ! 何卒(なにとぞ)、皆様方の最後のご支援を賜(たまわ)りますよう、高段からではございますが、重ねてお願いを申し上げる次第でございますっ!!」
『おっ、いいぞっ! がんばれっ!!』
 多くの人込みの中には、そんな声援の声もチラホラ聞こえた。
 選挙戦が終わり、草虫候補は見事、11期目の当選を果たした。ところが、草虫候補は、この選挙を最後に…とは、ちっとも思ってはいなかった。12、13、いや、死ぬまで出続けてやるぞっ! と熱く思いを変化させていたのである。
 このように、人の心は最後に…と思いながら、それでも最後にならないのだから油断がならない。^^

                                  


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