水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <21>

2024年07月09日 00時00分00秒 | #小説

 青梅街道に入る手前のコンビニで食料や飲料を買い入れた二人は、後顧の憂いを失くし、ユッタリした気分で先を急いだ。なんといっても一度、行った経験がモノを言う。
「そろそろ、自由乗降バスのパーキングエリアですね…」
「ああ…」
 峰谷橋を越えた地点まで来たところで、口橋は車を減速させた。
「ああ、アソコでしたね…」
 峰谷橋を渡った左斜め前方にのパーキングエリアが見えた。覆面パトは道路を外れ、パーキングエリアへ静かに駐車した。
「やれやれ、これからが厄介だ…」
「そう言うな…」
 口橋は鴫田を窘(たしな)めた。
「はいっ! 刑事でしたよね…」
「そういうこった!」
 二人は以前のように繁茂する樹々や蔦、蔓を掻き分け、老婆の庵(いおり)を目指して進んでいった。土地勘は体験がモノを言う。一度ながらも実際に足を運んでいるから、所要時間も曖昧ながらも予測できた。2m間隔で名刺を破って括った目印を残しておいたのが役立ち、二人は難なく老婆の庵へと近づいていった。十五分ばかり山道を登ると、貧相な鳥居のような古木の門が前方に見えた。
「…口さん、見えましたね」
「そうだな…」
 門を潜り、二人は庵の前まで近づいた。仄(ほの)かな灯りが庵の中からした。
「あのう…誰か、おられますかっ!? この前、寄せて戴いた警察の者ですが…」
 口橋は以前と同じように、大きめの声を庵の前でかけた。


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