「いや! お邪魔しました。また何ぞありましたら、ここへお電話を…」
口橋は、ここには電話はないわな…と庵の辺りに生い繁った樹々を見回し、自分の名刺を一枚、老婆の前へ差し出した。^^
「へえ…」
老婆は珍しい物でも見るかのように、差し出された名刺に目を凝らしながら手にした。
「では…」「…」
老婆に一礼すると、樹々が繁る地点から二人は元来た方向へ歩き始めた。脚の下は蔦(つた)や蔓(つる)、雑草などが至る所に生え、二人の通行を妨げた。しかし、幸いにも2m間隔で名刺を破って括った目印が役立ち、二人は自由乗降バスのパーキングエリアまで戻ることが出来た。
「もう、来たくないですね、ここへは…」
鴫田が苦虫を噛み潰したような顔で口橋に告げた。
「ああ…」
口橋も、つい本音が出た。
二人が警察署へ戻ると、予想もしていなかった事態が起こっていた。署内の合同捜査本部の前はバタバタと慌ただしく動く警官や刑事達の姿があった。
「どうしたんです? 手羽崎さん…」
口橋は黙って座る手羽崎管理官に小声で訊ねた。
「…ああ、口橋さん。どうでした、婆さんの方は?」
「ええ、一応、出会いは出来ました。それにしても、この騒ぎは?」
「地下室の霊安室に安置した五体のミイラが忽然と消えたんですよ…」
「本当ですかっ!?」「ええっ!!?」
口橋も鴫田も我が耳を疑った。マジックじゃあるまいし、消える訳がない訳だ。^^