日々(ひび)、暮らしていると、アレやコレやと欲しいもの、自分の思いどおりにやりたいことなどが膨(ふく)らんでいく。しかし、世の中はそう甘くはなく、それらの夢を打ち砕(くだ)いてしまう。人々は打ち砕かれては心を萎(しぼ)ませ、明るさや純心(ピュア)さ、積極性などを、その都度(つど)、失(な)くすことになる。だが、屈(くっ)していては、一日も生きていけない。そこで考えたのが、それでも、まあ…と思う心である。この心は、自分以下の人々のことを思うことによって、自分が置かれている状況を、恵まれている…と納得させる慰(なぐさ)めの心である。この心がないと、人は自暴自棄(じぼうじき)に陥(おちい)ったり、狂(くる)ったり、場合によっては自殺をし、惨(むご)い事態を引き起こしてしまう。その意味から、それでも、まあ…と一歩下がる心は、暮らしの中で不可欠なのである。
とある飲み屋で、顔馴染(かおなじ)みの常連(じょうれん)二人がチビリチビリと杯(さかずき)の酒を飲みながら話をしている。
「いやぁ~参ったよ。いつもと同じだと思って買ったらさぁ~、『お客さんっ! もう¥30足りませんっ!』って、こうだよっ!! やっちゃ、いられないっ!」
「なるほどっ! 値上がったんですなっ!?」
「そうそう! 生憎(あいにく)、持ち合わせがないっ。そこで、俺は言ったねぇ~~!」
「なんて!?」
「決まってるだろっ! 次からにして、今回は・・だよぉ~!」
「でっ!?」
「ダメですっ! と、こうだよっ!? やっちゃ、いられないっ!」
よく、やっちゃいられない人だなっ! …と、カウンター前に立つ店の親父(おやじ)は聞いていたが、そうとも言えず、思うに留(とど)めた。
「そうでしたかっ!」
「ああっ! とはいえ、ダメと言われりゃ仕方がないっ! それでも、まあ…と思い直してさっ! 少し量を減らして買って帰ったよ。ははは…」
「それでも、まあ…ですか?」
「ああ、それでも、まあ…だっ!」
「ですね…」
二人は顔を見合わせて意味深(いみしん)に頷(うなず)くと、押し黙ってチビリチビリとまた飲み始めた。店の親父は、ツケのたまりを払ってくれるよう言おうとしたが、それでも、まあ…いい話を聞いたからと、思うに留めた。
それでも、まあ…の心は、この世に欠かせない。^^
完