水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-51- 骨が折れる

2018年07月05日 00時00分00秒 | #小説

 日本語には上手(うま)い言い回しがある。骨が折れる・・という言い回しもその一つだ。本当に骨が折れた訳でもないのに、そう言い回して苦しい状況を説明しようとする場合の言葉である。
 梅雨(つゆ)どきの、とある繁華街である。湿川(しめかわ)とその友人、乾山(かわやま)が鬱陶(うっとう)しく降りしきる雨空(あまぞら)を見上げながら、歩道を歩いている。
「ほんとに、よく降るなぁ~」
「いや、そうでもないんじゃないか。毎年、こんなもんだよ」
「そうかぁ~?」
「ああ…」
「こう降ると、外回りの営業が大変だっ」
「ああ、まあそうだな。骨が折れる訳だ…」
「ああ、この傘(かさ)、今年で三本目だ。嫌(いや)になるよっ!」
「そんなに?」
「ああ…。折り畳(たた)む機会が多いからさ」
「ははは…骨が折れて、骨が折れる訳だ」
「上手いっ!」
「骨が折れりゃ、接(つ)げばいいだろっ?」
「骨折じゃあるまいし…」
「俺達だって、折れりゃプレート入れたりするじゃないかっ!」
「まあ、それはそうだが…」
「やってみる価値はあるぜっ! 買い替えでポイ捨てるだけじゃ、どうも戴(いただ)けない。だろっ?」
「ああ、まあ…。どの道、骨が折れるかっ!」
 二人は大笑いした。
 次の日、梅雨は上がった。

                                 


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