水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-65- 慎(つつし)む

2018年07月19日 00時00分00秒 | #小説

 日々、暮らしていると、どうしても欲が出てくるものだ。アレも欲しい…コレも欲しい…いや、ソレも…いやいや、コチラも、いやいやいや、ソチラも・・となる。こうした心を慎(つつし)むには、やはり自分自身に自戒の念が必要となる。巷(ちまた)では、人々を誘惑しようとする魔物が、虎視眈々(こしたんたん)と機会を窺(うかが)っているのだ。
 とある高級洋服店である。一人の客が、アチラ…いや、コチラ…と注文を決められず、迷っていた。
[1]「誠に申し訳ございません。そろそろ閉店の時間でございますので…」
 早く決めろよっ! という気分を、店の店員は遠回しに言った。
「ああ、悪い悪い。君なら、どちらがいいと思う?」
[2]「ははは…どちらも、よくお似合いで…。お決めになるのはお客さま次第でございます」
 どっぢでも、いいだろうがっ! 全然、似合ってねぇ~よっ、どっちもっ! という気分を、店の店員は、また遠回しに言った。
「そうかねぇ? いや、実は少し欲が出てきてねっ! 値段は高いが、この二つよりアチラの方がよかぁ~ないかい?」
[3]「はあ、確かに…。ですが、そろそろ…」
 いい加減、慎むのがアンタの相場だっ! 早く買って、とっとと帰ってくれっ!! という気分を、店の店員は、またまた遠回しに言った。[1]~[3]とも、店員としての慎む言い方だったが、[1]→[3]と進むにつれ、トーンだけは幾らか高く、大きくなっていた。
 真(しん)に慎む心は、その人の声に表(あらわ)れるようだ。^^

                                 


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