文明が進み、世の中が科学一辺倒となった今の時代、なぜか童謡(どうよう)が心を擽(くすぐ)るのは何故(なぜ)だろうか。それは、長閑(のどか)でゆったりとした時の流れがあったよきあの頃を、想い出すからではないのだろうか。
二人の老人が閑静(かんせい)に流れる川の土手道を歩いている。
「あの頃はようございましたな、曽根崎さん」
「ええええ…あの頃はようございました。今の候(こう)ですと♪蛍の宿♪ですかな?」
「そうそう…♪ほぉ~たるぅ~のぉやどはぁ~ かわばたぁ~やなぎぃ~♪でしたか」
「はい、そうでしたな…」
聴くに堪(た)えない音痴な声で歌い出した峯尾(みねお)を、歌うなっ! とも言えず、曽根崎は我慢して思うに留(とど)めた。
「曽根崎さんも一曲、いかがですかな?」
「はあ…。ではっ! ♪なのはぁ~なぁ ばたけぇにぃ~ いぃりぃひぃうすれぇ~~♪」
歌い出した曽根崎の自分以上に音痴な声に、峯尾は上には上がいるものだ…と思いながら、我慢して聴いた。
しかし、童謡はいいものである。^^
完