水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-73- 都会化

2018年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 どこに住んでいようと、文明の波はヒタヒタと音を立ててやってくる。文明が進むと私たちの暮らしは少しずつ都会化していく。それは一挙(いっきょ)に・・ということはないが、いろいろと理屈(りくつ)、時には屁(へ)理屈を捏(こ)ねて変化を重ねる。暮らしの中で日々、都会化は忍び寄ってくるのだ。あるときは日常生活で使われるほんの小さな物、またあるときは、景観といった大きな物・・と、変化の様相は様々(さまざま)だ。
 とある公園の道で、散歩中の犬を連れた二人の老人が立ち止まり、話し合っている。長話(ながばなし)に犬も、いい迷惑顔だ。しきりにリールを引っ張って先を促(うなが)すが、老人二人は、まったく動じる気配(けはい)がない。
「ほう! それがスマホとかいう電話ですかっ! 便利になりましたなっ! 私は昔人間でして、今の時代のことはサッパリで…」
「ははは…私もそんな新しい人間じゃないんですがね。なんとか言うんでしょ? そういうの…」
「…アナログ人間ですか?」
「そう、それっ! 前の携帯を孫にダサいっ! とか言われましてねっ! それで仕方なく、家族づきあいのため、買い換えた・・というようなことで…」
「ははは…家族づきあいも大変ですなぁ~!」
「ええええ、そらもう…。老人生活も侘(わび)しくなりましたよっ、ははは…」
「文明進歩は見えない力で押し寄せています」
「都会化ですなっ! 抗(あらが)えませんっ!」
「まことにっ!」
 そのとき、スマホに換えた老人の携帯が鳴った。ところが、使い方が分らない老人は弄(いじ)くりながら右往左往し出した。連れられた犬が、ダサいご主人だっ! とばかりに老人を見る。
「ははは…切りました。やれやれです」
 呼び出し音が途切れ、老人は人心地ついたのか、安堵(あんど)の溜息(ためいき)を一つ吐(つ)いた。
「ははは…都会化は、侮(あなど)れませんなっ!」
「ははは…まことにっ!」
 二人の老人は軽くお辞儀をすると、ようやく左右に別れ、歩き出した。ようやく歩けるようになった二匹の犬は、老人は侮れない…と思った。

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする