水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-60- 完璧(かんぺき)

2018年07月14日 00時00分00秒 | #小説

 暮らしの中で完璧(かんぺき)を求めるのは至難(しなん)の業(わざ)である。人の世は完璧でない、どこかファジー[あいまい]な部分があって初めて成立するといったところがあるのだ。要するに白でもなく黒でもない、適度な灰色なのである。むろん、黒過ぎれば警察沙汰(けいさつざた)になるし、白過ぎれば、社会生活に馴染(なじ)めず、生き辛(づら)い。
 霜川は朝からDIY[DO IT YOURSELFの略で自分でやる・・意となり、日曜大工を意味することが多い]で垣根のペンキを塗り始めたのだが、最初の目論見を外(はず)し、3分の1ほど残したところで昼のチャイムを聞いた。当初の予定より手間取ったことになる。
「チェッ! 昼かっ!!」
 霜川は思わず愚痴(ぐち)っていた。だが、現実はどうしようもなく、変えることは出来ない。完璧を追求する霜川には耐(た)えられなかった。
「よしっ!!」
 開口(かいこう)一番、下川は作業を継続することにした。空腹はカップ麺で手早く済ませ、作業を急いだ。そして、昼の3時を回った頃、ようやく作業は終結し、完璧に垣根は塗り終えられた。…いや、やに見えた。それは迂闊(うかつ)にも、霜川が色を塗り間違えていたからである。霜川の予定では白ペンキで塗るはずだった。それが、朝陽の関係からか、霜川の早とちりからか・・は定かでないが、塗った色はアイポリーだったのである。アイボリーは白に少し黄味(きみ)の混ざった色合いで、間違えやすいのは否(いな)めない。
「チェッ! 色違いかっ!!」
 霜川は思わず愚痴(ぐち)っていた。だが、現実はどうしようもなく、変えることは出来ない。完璧を追求する霜川には耐(た)えられなかった。
「よしっ!!」
 開口(かいこう)一番、下川は作業を継続することにした。
 作業が終結に近づいたのは夕暮れだった。ほんの数時間のつもりで始めた作業が、完璧に一日を費(ついや)してしまったのである。それでもまあ、霜川としては完璧に作業を終結出来そうで満足だった。ところがっ! である。今度は、あと少しのところで白ペンキが足らなくなった。霜川はDIY専門店へ買いに急いだ。生憎(あいにく)、DIY専門店は棚卸(たなおろ)しで臨時休業していた。
「チェッ! 臨時休業かっ!!」
 霜川は思わず愚痴(ぐち)っていた。
 完璧を極(きわ)めるのは、やはり至難の業のようだ。^^

                                 


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