ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

社長の年収は2000万円以下で良い?

2015-03-12 14:02:56 | 社会

日経ビジネスの最新号に城南信用金庫理事長の吉原さんと言う人が「大企業の社長で1億円以上もらっている人が結構いるが、多すぎる、上限2000万円くらいで良い」と書いている。面白い議論だと思う。この人のロジックは以下のようである。

社長と言うのは私心があってはだめで無私の心で会社のために仕事をすべきである。なまじ給与が多いとそれが雑念を生み判断を誤る。給与は安くても権力は大きく会社を動かせる、その情熱で仕事に取り組むべきである。そのために自分自身も理事長になって給与を下げ、支店長より低いレベルにしたそうである。それで帰って自由になったと感じた、と書いている。

なるほど、と思った。こういう考え方も確かにあるだろうと言う気がする。しかしよく考えるといくつかの気になる点がある。まず、この発想は「年寄りの発想」ではないか?と言う気がする。平社員から課長、部長、執行役員を経験して社長になったときには執行役員よりもむしろ低い給与で会社のため、社会貢献的な意識を強く持って仕事をする。これは60歳を過ぎてそういう立場になり、子供も大きくなっていて蓄えもある人ならありそうな発想である。しかし、子供が高校生くらいでこれから家を買おうと言う人では受け入れることができない条件ではないだろうか。

また、グローバル企業で世界中から社員が集まっている時にこの発想がどの程度受け入れられるだろうか、と言うのも疑問に感じる。しかし、伝統的な日本企業で、60歳以下で社長になることはまずないような会社なら、無理にプロの社長を外部から引っ張ってくるような改革を行うのではなく、この人の言うような日本的価値観を残した体制と言うのもあるのではないかと感じる。その体制で継続的にやって行けるかどうかは分からないが、現在の年功序列的日本企業が次に進むステップとしてはあり得る話だろ思う。日本の金融業界ではあっても良い話かな、と言う気がする。

丁度同じ号の最後のページの「賢人の警鐘」で富士フィルムを立て直した古森氏が「伸びる人材は自分のことでは無く会社のことを第1に考える人」と言うことを書いている。日本社会にある共通的なスピリッツを感じた。



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5 コメント

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社長の評価 (世田谷の一隅)
2015-03-13 15:28:40
古森さんの考えも城南信用金庫の社長も、ウィトラさんの期待も、結局、「社長の評価」はどのような尺度で、誰が、いつの段階で行うのか、その評価結果をどのように報酬に結びつけるのか、関連つけないのかだと思います。

株式会社であれば、株主(総会)が最終承認を与えます。株主にとっての判断基準は、その期間の株価と配当でしょう。将来性への種蒔きというのであれば、それも含めて、誰がどのように評価するのかです。残念ながら、部外者があまりコメントしても効果は薄いです。

成果を分配する方式だから、儲かれば、株価が上昇すればそれをつかみ金みたいに経営者が分け合うわけです。部外者には面白くないかもしれないけど、今の日本社会で、その業績を評価するのは、その会社の顧客であり、また株式市場です。だから、とんでもない報酬のレベルでは日本の株式会社の構造では長続きしないでしょう。
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Unknown (Instant Economist)
2015-03-13 22:29:15
確かに世帯年収が2000万円ではお子さんをハーバードには入れられないかもしれませんね(笑)、ハーバードの学生の平均世帯年収は45万ドルですから。吉原さんの記事の背景には、「日本の企業がダメなのはCEOの報酬が少ないから」などと経産省にチャチャを入れる人がいることがあるのではないかと思います。タワーズワトソンによると、売上高1兆円以上の米企業のCEOは平均して総額11億5000万円、日本企業は1億3000万円で一見、格差が大きい様に見えるのですが、実は業績や株価の動向に影響されない「基本報酬」を抜き出すと米CEOの基本報酬は1億2千万円にとどまり、日本企業は7400万円とそれほど大きな格差はありません。

つまり、アメリカのCEOの高報酬はストックオプションなど個人へのインセンティブがほとんど訳ですが、実はこうした個人インセティブに関する不正が後を断たずSECやFRBが手を焼いているという実態があることは知らない人もいるかもしれません。吉原さんの「社長と言うのは私心があってはだめで無私の心で会社のために仕事をすべきである。なまじ給与が多いとそれが雑念を生み判断を誤る。給与は安くても権力は大きく会社を動かせる、その情熱で仕事に取り組むべきである。」というのは、まさにこうしたCEOへの金銭的インセンティブに警鐘を発するものと捉えることができるかと思います。

かつてアメリカは富の象徴であり、良心の象徴でもあり、アメリカに追いつく事が社会目標足り得ましたが、昨今ではその凋落が見え始め、リーマンショックを起こして世界中に大迷惑をかけた社会構造も、未だ正されていないと言われています。(株)貧困大国アメリカなどと言う人や、利益しか眼中にない企業がアメリカの民主主義を骨抜きにしているという見方も出て来ています。もはや、アメリカに追いつく事が必ずしも正しくない時代に入りつつあるかもしれません。日本的考え方を古いとして否定するのではなく、ウィトラさんの様に逆に優れた考え方として対置し、問題の本質を考えていく事がまさに重要になりつつあります。

余談になりますが、アメリカは市場原理主義への志向が非常に強く、「各企業が利益を追求することによって、社会全体の利益となる望ましい状況が達成される」ことを暗黙の了解する傾向が強いです。しかしこれは、リーマンショックを挙げるまでもなくこれは明らかに間違いです。市場は失敗し、社会コストは税金で賄われます。今後、技術革新が加速する中、企業の社会的責任がより大きくなるでしょう。大きな政府が嫌ならば、CEOは自分の会社だけではなく社会に対する責任も果たす必要があります。人工知能の発達により、今の子供たちが大人になる頃には、今ある職業の半数がなくなると言われていますが、小さな政府の財布では、発生する社会コストを賄いきれないでしょう。私利私欲の為にしか働けないCEOは社会には不要です。
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CEOの報酬 (世田谷の一隅)
2015-03-14 12:47:10
Instant Economistさんもウィトラさんも、大事な点を避けています。私企業の報酬を「誰が、どの様な基準で評価して決定、承認するのか?」。

少なくともルールを明確にしておく必要があります。私はいくらでもいいとは言いませんが、法外な報酬を得ているような企業の製品やサービスは採用しません。それが私にできる「行動」です。株主であれば、株主総会で当人の選任に「No」を入れます。

そのルールが明確で、経営者が業績で実現できている限り、経営者の報酬は市場からも承認されていると考えていいのではないでしょうか? 少なくとも従業員、中間管理職や部外者が、とやかく言う問題ではないと思います。(法律で上限を設定するならともかく)

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ストックオプションについて (Instant Economist)
2015-03-14 16:14:00
世田谷の片隅さん、ご指摘の様に私企業の役員報酬は口の出しにくい部分です。リーマンショック等の不祥事を受けてアメリカ政府は後述のような規制に乗り出していますが、多分に遠慮したものであり、効果の程は疑問視されています。リーマンショックの際、金融機関の経営者たちは自社の経営状況を知っている立場を利用して高値のうちに保有自社株を処分、多くの一般株主は株価下落から身を守ることはできませんでしたが、これらはこうした行為を直接規制するものではありません。またこれらはザル法であり、優秀な弁護士を雇えばいくらでも回避できるとも言われています。
そもそも、ホワイトカラーや役員の付加価値の組織内配分を経済学的に説明するのは極めて難しいと言われています。ご指摘のようにルールを提示させたところで、部外者がそのルールについてとやかく言うのは難しいでしょう。ただCEOの高報酬の風潮がリーマンショックの様に経済全体に悪影響を与える可能性があるならば、むしろ国民はその弊害に対して大いに文句を言い、政府により強い規制を働きかけるべきでしょう。
ストックオプションが経営者と企業、株主との利害を一致させる完璧な制度ではありません。株式価値希薄化につながることを批判するそもそも論もあります。少なくともストックオプションを行う企業が一般株主の利益を本当に考慮しているかは十分吟味されるべきですし、またこうしたインセンティブは成長初期にこそ有効ですが成熟企業では有害でさえある事を考えれば、上場企業は利用するべきではないと考えることもできます。
私が最も懸念しているのは、こうした制度の濫用を通じて企業や人々が利益志向を先鋭化させて行くことです。企業や人々は経済的利益の為だけに存在するわけではありません。経済的利益と社会貢献は車の両輪のようなものでうまくバランスする事が必要でしょう。経済的利益志向が過熱するようなら、累進課税により「冷やす」ことも必要ではないかと思います。累進課税による増収はさして期待できませんが、バランスを調整する手段としては有効でしょう。グローバル資本の租税回避に関してはOECDやG20が対策に動き始めていますが、累進課税についても国際協調を考え始めても良い時期になりつつあるのではないかと思います。

---アメリカの役員報酬に関する規制---
① 有価証券発行会社一般を対象とする役員報酬規制
ドッド・フランク法では、証券取引所法を改正し、役員報酬に対する株主の監視権限を強める規制を導入した。
 役員報酬を是認するか否かについて、年次株主総会等において尐なくとも 3 年に 1度、株主の決議を取らなければならない。ただし、同決議は会社や取締役会に対する拘束力を持つものではない(15 USC 78n-1(a), (c))。
 買収・合併・資産売却等の承認を株主に求める際は、当該買収等に伴う役員報酬取極め(ゴールデンパラシュート)を開示し、是認するか否かについて株主の決議を取らなければならない。ただし同決議は、会社や取締役会に対する拘束力を持つものではない(15 USC 78n-1(b),(c))。
 SEC は以下のことを証券取引所に義務付ける規則を制定する。
 報酬委員会の独立性が確保されていることを株式の上場要件とすること(15USC 78j-3)
 以下を全証券の上場要件とすること(15 USC 78j-4)
(1) 財務諸表において報告される業績に基づいて支給されるインセンティブベースの報酬に係る方針が開示されていること
(2) 不正確な財務諸表に基づいてインセンティブベースの報酬が役員に支払われた場合、財務諸表訂正に先立つ 3 年度分について、過剰に支払った報酬を回収すること
② 金融機関を対象とする役員報酬規制
ドッド・フランク法では、連邦金融監督機関に対し、同法成立後 9 ヶ月以内に、以下の事項について監督対象金融機関に適用される共通レギュレーションないしガイドラインを策定するよう求めている(12 USC 5641)。
(a) インセンティブベースの報酬に係る取決めに関するすべての構造を監督機関に開示すること。
(b) 役員・職員・取締役・大株主に過剰な報酬・手数料・利益を提供したり、当該金融機関に多大な損失をもたらしたりするインセンティブ報酬制度を禁じること。
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現状追認ではない (ウィトラ)
2015-03-14 20:45:03
世田谷の一隅さんの意見は「現状がこうなっているからその範囲では仕方がない」というルールの議論だと思います。吉原さんは自分が社長という立場で「自分の給与の決め方はこうすべきだ」という発言をしています。より正確に言うと自分の会社ではこういう決め方をしてそれでうまくいっている、という体験談を話していると受け取れます。
「株主が認めているからそれでよいじゃないか」というのとは基本的に違います。「自分の会社の社長の給与はこうやって決めている。こういう考え方が良いのじゃないか」という提言をしているわけです。それを「余計なお世話だ。人の会社に口出しするな」というのは一つの立場ですが度量が狭い感じがします。まして第3者が「人の会社に口出しするな」というのはそれこそ余計なお世話だという気がします。強制しているわけではなく、自分の意見を述べているだけですから。
ルールの議論をしているわけではありません。考え方の議論をしているのです。
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