ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

NECが新卒に年収1000万円

2019-07-12 09:13:36 | 経済

最近、NECが新卒の研究者に年収1000万円の給与を与えると発表して話題となった。私の知るNECはこのような大胆な人事は行わない会社だった。特に人事は保守的だと思っていたのだが、体質が変わってきたのかと思う。

新卒の年収1000万円というのは大きな話題となるが、実際に企業にとってのコストはごくわずかだろう。人数は数人だし、業績が上がらなければ減収もあり得る、というような条件だろうから、1億円以下のコストで大きな宣伝効果があった。気になるのは「研究職」という点である。最近のNECの研究所がどのような運用をされているのかは知らないが、もっと実務に近い、実際に顧客向けのシステムを開発するような部署でないと優秀な人材が生きないのではないかと私は考えている。日本の大学の延長上のような仕事をさせるならたとえ優秀な人材でも事業に生かすのは難しいのではないかと思っている。むしろ、海外人材(海外の留学生、あるいは日本の留学生の帰国組)を狙ったほうが良いのではないかと思っている。

難しいのはこのような人材を採用した場合の社内での扱いである。上司よりも高給の新卒などが出てくる可能性があり、そういった人材を使いこなせる体制ができているのかどうか、私はこの点に関してはおそらく慎重に検討して「できる」という感触を持っているのだと想像している。研究所ならば問題は無いと思う。

最近、NECの株価は堅調で1年前は3000円弱だったのが現在は4300円を超えている。私は米国のHuaweiに対する締め付けで、日本の通信事業者がNECの通信設備を買わざるを得なくなる、というのが主な理由だと思っていたが、それだけではなく社内改革が進んできたのかもしれない。優秀なソフトウェア人材はこれからの企業の核となる。これまでの日本企業でソフトウェア開発者は、残業が多く、昇進は遅いということで、大学でも情報工学科などは人気がなく偏差値が下がってきていたが、これで偏差値が上がってくるtことを期待している。

本当の課題はソフトウェアの開発体制を見直して、優秀なプログラマーが早く昇進していける体制を作ることである。この点はNECにはまだできていないだろうと想像しているが、今回の発表で少なくとも経営層にはその意思があるだろうと推測できる。今後数年間で経営層の本気度が分かってくるだろうと思っている。

 


AIの将来像をどうみるか

2019-06-13 15:23:20 | 経済

ここ数年、ディープラーニングが確立してからAIの事業化は着実に進行しており、様々な人が「AIで社会はどう変わる」に関して書いているが、私にとっては今一つピッタリした将来像が出ていないと思うのでここで書いてみたい。

・AIはもはやハイプではない
GartnerのハイプサイクルによるとAIはまだハイプサイクルの上のほうに位置づけられているが、私は既に実用段階に入っており、これから幻滅期に入ることは無いと考えている。もちろん導入に失敗する企業も多数出るだろうが、成功する企業も多数出るので、導入は加速していくと思う。その根拠はDeep Learningによって学習できる内容が格段に広がったからである。

・AIによって雇用が減る職種は大部分だがなくなる職種はごくわずか
2014年、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文が「AIによって約半分の職業が無くなる」と大きな話題となっているが、この論文は「雇用が大幅に奪われる」と言っており、奪われやすい職種を特定しているが、私は「職業が無くなる」とは言っていないと理解している。非常に多くの職種でAIにより業務効率があがる、つまり少ない人数でこなせるようになるので雇用が減るだろうがゼロになることは稀だろうと思う。過去にもバスの車掌や電話交換手などは無くなったが、このように消える職業は稀だと思う。逆にAIによって雇用削減の影響を受けない職種もまれだと思う。

・「単純作業はAIで置き換えられ、創造的作業はAIで置き換えられない」というのは違う
良く言われるのは単純作業は無くなるが、創造的業務は大丈夫、という話であるが、これはAIではなく機械化の影響だと私は考えている。例えばチラシをポストに入れて歩くような作業は、AIの影響はを受けることは殆ど無いと思う。チラシそのものが無くなってしまうということはあるかと思うが。
創造的作業はAIの影響を受けないというのも違うと思っている。例えば研究職は創造的職種と見られているが、全ての研究者がいつもアイデアを考えているわけではない。データを整理して傾向を読み取ろうとする作業などはかなりに割合を占めており、こういった点でAIは大いに役に立つ。結果として一人の優秀な研究者がより多くの成果を出せることになり、優秀ではない研究者は職を失う可能性がある。こういった傾向は弁護士、公認会計士、といった業種でも大いにあると思われる。

・どういう職種が大きな影響を受けるかは供給側の立場で見ると分かりやすい
Deep Learningは非常に広い分野で応用可能で、その基本アルゴリズムは分野が変わっても変わらない。具体的な手法は異なるのだが、AIの専門企業などは幅広い分野を狙うことができる。このような場合、どの分野を狙うかと言えば当然事業化しやすい分野を狙う。企業化の際にまず考えるのはメリットが明確になることである。そしてメリットはコンピュータで社員の作業量を削減することである。頭脳作業であれば現在はかなり難しいと思われる作業でも、AIで大幅に作業量を軽減することができる。逆に物理的作業は機械が必要なので人とのコスト競争になる。私は一見複雑で難しいと思われており、職員の給与も高い頭脳作業が最初のターゲットになると考えている。例えば弁護士である。法廷で実際に弁論を戦わすのをコンピュータで置き換えるのは相当期間考えられないが、弁論内容を考えて過去の事例を引くなどはコンピュータ化できる。結果として優秀な弁護士が今の2倍、3倍の裁判を扱うことができるようになり、弁護士の数はかなり減るだろう。

・AIで置き換えられない頭脳作業は扱う情報の幅が広いもの
AIは作業の複雑さに対する対応力では既に人間を超えている。AIができないのはどこまでの情報を与えれば十分かの判断が難しいような分野である。政治的判断などがその最たるものだろう。私は今から20年後くらいには異なる分野のデータを連携させて、より複雑な作業をできるようなAIが実用化されていくだろうと思っている。そのさらに先にシンギュラリティがあるのだろうが、その世界は2045年ではまだ来ないと思っている。


日本のITの将来への取り組み方を考える

2019-04-25 10:15:11 | 経済

みずほ銀行に次いで三菱UFJがITシステムの減損を発表した。こちらはニコスカードのシステムだそうである。私はこの背景には日本企業のIT技術のレベルの低さがあると思っている。

現在のITシステムの大規模なものはクラウドベースで大規模なデータセンターを作って構築するのが常識である。データセンターでは大量のサーバを並列に走らせて、どのサーバでどのような処理をするかをダイナミックに変更する仮想化技術が導入されている。このような大規模データセンターの構築技術で日本はかなり出遅れている。NTTデータなどもデータセンターを持っているのだが、規模はAmazonやGoogleの1/10以下、ひょっとすると1/100程度ではないかと思っている。これだけ規模が違ってくると開発力、運用力ともにかなりの差が付く。更に開発手法も問題で日本企業は仕様がどんどん変化するアジャイル開発の導入が遅れており、仕様を固めてから何年も後にシステムが稼働するような開発しかできない。

その一方で、銀行システムのような国の根幹をなすようなシステムをAWSのような外資系の企業の商用システムに任せて良いものか、という疑問もある。現在は中国企業のセキュリティ問題が言われているが、米国企業なら良いだろうか、というのは疑問は残る。

このような場合、多くの人が言うのは国策プロジェクトで市場を作り、日本企業の技術を育成するという手法である。しかし、私には国策で市場を作りAll Japanで開発したとしてもコストを含めた技術力で追いつけるとは思えない。最近、国策企業として設立されたジャパンディスプレイが中国企業の傘下に入ったが、このような結末になる可能性が高いと思う。

国の根幹だから競争力が低くても国内で賄うという考え方はある。その場合、国民は割高でパフォーマンスの悪いシステムを我慢しなくてはならず、全体として他の産業の競争力の足を引っ張ることになるだろう。米国や中国のような大国は国内市場も大きいので自国主義を貫くことができる。北欧のような小国では自前主義はあきらめているだろう。日本はどうするべきだろうか?

私は自前主義は無理で、海外の技術を入れるべきだと思う。米国政府がやったように入札条件に国土保全の考え方を入れたうえで、世界の技術を取り込むべきだと思う。その中で日本企業にある程度有利になるような条件を入れて、技術力が世界のトップに迫っているような企業には市場を分け与えるというあたりが妥当だと思う。

21世紀に入って日本企業のIT技術の世界トップとの差は開いてきており地盤沈下が続いている。10年後はさらに開いているだろう。巻き返しの手を今売ったとしても底を打つのは10年後で、手を打たなければ20年後には日本企業の技術力はさらに下がり、IT分野ではニッチを狙う中小企業しか残らなくなると思っている。現状で適切な手が打たれているとは私は認識しておらず、20年後が底になる可能性は高いと思っている。


5G移動通信の報道に見るハイプカーブの動き

2019-04-13 18:17:22 | 経済

日本政府が5G移動通信の免許をオペレータ各社に与えたと大々的に報じられている。このニュース自体は大きなことなので報道が大きくてもよいのだが、中身でいまだに「従来の10-100倍の伝送速度」などと言っているので、「いったん広まったハイプはなかなか収まらないものだ」と改めて感じる。

そもそも、「従来の10-100倍の伝送速度」は「できればよいな」という希望であって、現実の技術者で需要があるとも、実際に実現しようとも思っている人はほとんどいないはずである。それが電波免許を出す政府が世界各国集まる場で『「従来の10-100倍の伝送速度を実現」したら電波を割り当てる』と決めたので、技術者が集まって「こうすればできる」という答えを示したのが現在の5G である。理論的にできることを示せばよいので非現実的な実現方法でも構わない。実際のところ現在の5Gの方式は「10倍の周波数を割り当ててくれたら速度は10倍にできる」という当たり前のことに多少色を付けた程度である。

現実にはユーザから見ると新しい周波数帯が割り当てられたので混雑がない、ということ以外は殆どわからない程度の進歩になるだろうと思う。私はだから「5Gには意味がない」などというつもりはなく、電波を移動通信に割り当てるのは大いに意味のあることだと思っているが、それは「伝送速度を10-100倍にするためではない」ということを言いたいだけである。技術的にも意味はあるのだがそれは専門家でないとわからないような細かい意味である。

今回の割り当てでドコモとKDDIは3-4GHz帯にそれぞれ200MHzを貰い、ソフトバンクと楽天は100MHzを貰った。これは通信オペレータにとって大変大きなことである。今まではデモサービスを見せるなど大変な働きかけをして、割り当てられる周波数はせいぜい40MHzという程度だったので、一気に大量の周波数を貰ったことになる。このほかに28GHz帯に各社100MHzずつもらっているが、この周波数帯は使いにくいので価値は3-4GHz帯の1/10以下だろう。

2020年から各社サービスを始めると言っているが、実質的なサービス内容は4Gサービスになると私は思っている。政府に約束したので10%程度は5Gに割り当てる、あたりが現実的なところだろう。この周波数帯を使うとユーザは「速い」と感じる。しかしそれは技術が違うからではなく、新しい周波数帯で混雑していないだけの理由である。

今、5Gはハイプカーブの頂点に近いあたりにいると思う。今年の1月から3月にかけて世界的な展示会で様々な5Gの展示が行われ、そこで「これは大事」と感じられるような4Gとの違いを示すようなものはなかった。それでメディアはトーンダウンするかと思っていたのだが今のところトーンダウンの兆候は見られず、いまだに頂点付近に留まっている印象である。一度作ってしまったイメージはなかなか変わらないものだ、と改めて思う。このまま「期待外れ」という論調は出ずに5Gは立ち上がるのか、来年の今頃は「期待外れ」ということになるのかは分からないが、実態は「4Gに新しい周波数が割り当てられた」のと変わらないことになるのは間違いないと思う。


凋落が止まらない日本の大手IT企業

2019-02-21 09:09:10 | 経済

富士通がまた大幅人員整理を行った。現在、AIが至る所に導入されてきておりIT業界は好景気、IT人材は引っ張りだこ、と言われる環境の中で日本の大手IT企業は凋落が止まらない。これは技術及びビジネスモデルの転換が遅れているからだと私は考えている。この状況を歴史とともに振り返ってみよう。

1960年から1980年頃まではコンピュータが導入され、高機能化していった時代でIBMのSystem 360に対抗して富士通はFacom、NECはACOSという自社マシンで対抗していた。この頃が日本のコンピュータ産業が最も勢いがあった時期である。

1980年頃から大型コンピュータからミニコン、パソコンとコンピュータのダウンサイジングが起こり、コンピュータの価格は全体として大幅に低下していった。大型マシンを事業にしていた企業は事業を見直し、自社のハードウェアを販売するだけでなく他社の機器も買い集めてシステム構築を事業とするソルーション事業に舵を切った。このソルーション転換を最初に打ち出したのがIBMで、1969年には自社製品に閉じないUnbundlingを打ち出しているが、本格的にソルーション事業に乗り出したのは1993年にLouis GerstnerがCEOになってからである。Gerstnerは当時ハードウェア機器の売り上げが下がって悪化していたIBMの事業をソルーション事業で大きく立て直した。

日本企業がソルーション事業に大きく舵を切ったのは2000年代に入ってからである。この時期にはIBMは単なるシステム構築を行うソルーション事業はクラウドの普及などにより苦しくなると見極めて、Gerstnerの次のCEOであるPalmisanoがコンサルティングを重視する方向に舵を切っている。もちろんIT技術をベースとしたコンサルティングである。

日本企業は2010年代に入ってコンサルティングを重視するようになってきた。しかし、コンサルティングはIT技術だけでなく各種業界にそれぞれ深い知識が必要でいまだにコンサルティング企業としては不十分である印象である。

2011年からIBMのCEOはRomettiに代わり人工知能Watsonを重視するようになった。このようにIBMは常に時代の先を読み、その読みは当たっていたにもかかわらず、2010年以降のIBMは減収減益を続けている。それはIBMの事業規模が大きく、顧客企業とは複数年契約をしているためにビジネスモデルの転換はゆっくりである一方、世の中の変化は予想よりも早く進んでいるからだと私は認識している。

先行しているIBMですら業績が悪化しているのだから、数年遅れでIBMの後を追っている日本の大手IT企業はさらに業績が悪化するのは当然と言える。

最近の流れではユーザ企業がクラウドを利用することにより、ソルーションにおけるハードウェアの売り上げは激減している一方、AmazonのAWSなどに利用料を払わなければならず、ソルーション事業は、顧客向けのソフトウェアのカスタマイズ留まるようになってきている。更にソフトウェアもオープンソースのソフトを改変して使えるようになってきており、ソフトウェア開発費用も抑えられるようになってきている。

更に、ユーザ企業にとってAIを使ったビッグデータ分析などは事業と直結するノウハウにつながるために、情報流出を警戒して顧客が自社で開発するのが米国などでの大きな流れである。クラウドもオープンソースソフトもユーザが増えるにつれて使いやすくなってきており、少人数での開発が可能になってきており、ソルーション事業自体が大きく縮小する傾向の中で、IBMですらまだ次の方向性を見出していない印象である。

日本のIT企業ではまだソルーション部門が大きなウェイトを持っていると思うが、組織形態の見直しなどを行ってコスト構造を大きく見直さない限り生き残れないのではないかと思う。

 


日本のIT投資不足をどう捉えるか?

2018-10-17 10:29:30 | 経済

日曜日の日経新聞の1面トップに「日本はIT投資が不足している」という記事があった。情報通信白書を引用して、「21世紀に入ってアメリカではIT投資がどんどん増加しているのに、日本ではほとんど伸びていない。これからはAIなどでIT技術の使いこなしが鍵となるので、もっとIT投資を増やすべきだ」という趣旨だった。情報通信白書も同じような趣旨で書かれている。一見、もっともな意見のようだが、私は違和感を感じた。

私に言わせると、日本の課題は「IT投資が不足している」ことではなく、「IT技術の利用が不足している」ことであり、その問題はIT投資を増やすことで解決するかどうか、疑問に感じている。日本のIT投資は伸びていないことは事実である。それは、経営者が尻込みしているからではなく、過去のIT投資がコストの割に十分な成果を生んでいなかったからだと私は認識している。なぜそうなるかというと、日本のIT技術が低いからである。殆どの企業は自社ITシステムを作るときに社内にIT部門を作り、そこで要求条件を整理して、ソルーション企業に発注する。この社内のIT部門、日本のソルーション企業共に、先進国の中ではかなり技術力が低いと私は思っている。結果として高い開発コストをかけて、使いにくいシステムが出来上がる。修正を要求すればまた高い費用を請求される。

発注側の企業からすれば、日本のソルーション企業のレベルが低いならば外資系のしっかりした企業に発注すればよい。しかし、外資系の企業は要求を全て受けてはくれず、発注後の仕様変更に関してもなかなか受け入れてくれない。それで使いやすい日本の企業に発注する。そして、途中で思いついた色々な変更を依頼し、受けてもらう。結果として当面の要求は満たしているが、中のプログラムがぐちゃぐちゃになっていて、完成後の変更は殆どできないようなものが出来上がる、というのが日本のITシステムの問題だと私は思っている。

私と同様に感じている人は多いはずである。私の見方では問題はIT投資を増やしても解決しない。ITシステムの開発手法、発注者と受注者の関係や契約の進め方などに入り込んでいる「日本的慣行」にメスを入れないと解決しないと思っている。しかし、情報通信白書をはじめとする公式の文書でこのような指摘は見たことが無い。日経新聞は実態を踏まえているはずだが、冒頭で紹介した記事からはこのような雰囲気は感じられない。それはプロである発注側のIT技術者、受注側のソルーション提供企業のどちらにも都合が悪いので情報を出さないからである。発注側の経営者は漠然と「IT投資はコストパフォーマンスが悪い」と感じているが、その内容を分析できるほど詳しくない、というのが実態だろう。

10年ほど前、インド企業のソフトウェア開発力が高いと注目を集めていた。しかし、その後インド企業がソフトウェアの分野でトップに躍り出たということはなく、むしろ停滞感が漂っている。これはこの10年ほどの間にソフトウェアの開発手法が変化してきたからだと思う。日本企業はソフトウェア開発について、発注側も含め、抜本的に見直す必要があると思っている。


トヨタ、日産、本田の自動運転がらみの提携について

2018-10-07 18:25:05 | 経済

最近、日本の自動車大手企業が相次いで自動運転関連の提携を発表した。

このうち最も大きく報じられたのはトヨタとソフトバンクの提携である。これは今年1月にトヨタが発表した新しい車の利用形態e-Paletteを実用化することが狙いだといえる。これからは自動車はユーザが所有する自家用車は減ってきて、商用車が便利に使えるようになる。その商用車市場を開拓しようという狙いだと私は理解している。

日産はGoogleのAndroid Autoに踏み込む提携を発表した。Android AutoはスマートフォンのOSであるAndroidを車用に改造したものでカーナビその他のサービスを提供するシステムは既に商用化されており、日産でも搭載車をすでに発売しているので、今回発表したということは、それよりも踏み込んで自動運転につながる部分で日産の要望を聞いてもらおうということだと理解している。

本田は自動運転に関してGMと組んでライドシェアの車を開発するというからトヨタとコンセプトと近い物だろうと想像している。

これらのうち最も筋が良いと思うのは日産である。Googleが自動運転で最先端の企業である、ということがそう思う大きな理由の一つであるが、それよりも重要な筋の良さは、現在の車から自然に移行していく意向シナリオが立てやすいからである。トヨタと日産は法律など大きな変更が必要とな、実用化のに通しが立ちにくい。最も筋が悪いと思うのはトヨタで、ソフトバンクが相手では特に重要な技術を入手することもできずに、ビジネスモデルのアイデアをもらえる程度に終わるだろうと感じるし、世界展開もできそうには思えない、というのが第1感である。GMはアメリカの企業なので法規制の問題などがクリアされやすいが、自動車産業に与えるインパクトはわずかだろうと感じる。

日産の場合はカーナビがより便利になるとか、渋滞情報が得やすくなるというところから次第に自動運転につながっていくと思う。

自動車業界ではもう一つの大きな流れとして、駆動部のガソリンエンジンから電気自動車へという流れがある。2-3年前はTeslaの大躍進や各国政府の電気自動車政策の発表があって自動車の電動化が大きな話題になっていた。私はこれはハイブリッド車でトヨタがあまりに強すぎるので危機感を覚えた各国政府が一気に電気自動車に舵を切ったと思っている。トヨタは電気自動車に出遅れているといわれていたが、調べてみるとこの面での打ち手は見事なもので、駆動部分がどう変化してもトヨタの地位は安泰だろうと思っている。しかし、自動運転のようなソフトウェアに関してはセンスが良いとは思えない。

もし、豊田社長が言い出したE-Paletteに社内の誰も「センスが悪い」と言い出せないのだとしたら、トヨタにとって大きな危機になると思う。


日本の自動運転タクシーの狙いは何だろう?

2018-08-27 12:44:51 | 経済

東京で、ごく一部のルートであるが、自動運転タクシーの実証実験が始まった。タクシー大手の日の丸交通が、自動運転の開発ベンチャーと組んで大手町と六本木ヒルズの間を自動運転タクシーで運転するという話である。私が驚いたのは、料金を取るという点である。実験なのでてっきり無料だろうと思っていたのだが、料金を取るということは事故を起こした場合の責任分解などもある程度用意ができているのだろうか。公道を自動運転のタクシーが走るのは世界初とのことである。

自動運転の分野では日本はかなり出遅れていると言われている。アメリカではGoogleが自動運転車を既に100万Kmを優に越えるくらい走らせていて、小さな問題を起こしそれをデータとして取り込んでアルゴリズムの改良を繰り返している。しかし、いまだに有料サービスは認可されていない。これに対して、今回の日本の実験サービスにはどんな意味があるのだろうか? 私には「日本もやっている」という印象付けの目的しか感じない。これでそれほどデータ取得に役立つとも思えず、出遅れている技術を回復できるのだろうか、と疑問に思う。

道路事情は国によって異なるので、アメリカで自動運転が認可されたからと言って、日本でも同じ条件で認可できるものではない。日本の事情を考慮した認可条件があるべきだろう。このようなスタンドプレーを見ると、むしろ実態の検討が遅れているのではないかという危惧をもってしまう。トヨタが自動運転の制御技術を外販する発表をしたように、メーカーは世界で事業を行っているので出遅れてはいても着実に手を打っている印象だが、政府系が焦って、目立つ発表をしている気がして、気になるところである。


米国のZTE制裁でQualcommが苦しむ

2018-05-25 11:18:28 | 経済

米国政府は中国の通信機器企業ZTEに対して制裁を課した。イランに不当機機器を販売したという理由だが、ぞれで罰金を払えとか取締役を入れ替えろとか言うのは言いがかりに聞こえる。

以前から米国政府は中国企業の通信機器はセキュリティが心配ということで買っていなかったので取引は多くないのだが、今回の制裁はアメリカ企業との取引をすべて停止なので、ZTEが買っている部品、具体的にはQualcommのチップセットを購入できなくなり、端末が作れなくなるのが大きい。Qualcommのチップを使わない端末を作るには少なくとも1年はかかるのでZTEは苦境に陥っている。トランプ政権は「これは効いている」と考えて居丈高に「罰金を払え、取締役を変えろ」と言っているが、結果として起こることはQualcommの倒産だと私は考えている。

もちろん、ZTE自身も大変な苦境であるが、国営企業なので、人員の再配置もできるし、サポートも可能で何とか乗り切るだろうと思う。同時に、Qualcommのチップセットを使わない機器の開発に全力を挙げるだろう。これは制裁が解除されても元には戻らない。ZTEに限らず、全中国のスマートフォンメーカがQualcomm外しに動くだろう。現在中国企業は個々の企業のシェアはそれほど大きくないが全体では世界の4割程度になっている。Qualcommのチップセットは大きくシェアを落とすだろう。

現在はそれでなくともQualcommの事業は先行き苦しくなってきている。絶対的強みを持っていたCDMA技術からLTE方式に世界的に移行が進んでいるからである。Qualcommに買収の話が出たのもこのような状況を反映している。現状では、代替のチップセットはIntel(アメリカ)、Mediatek(台湾)、Spreadtrum(中国)くらいだと思うが、実は中国の最大の通信機器企業であるHuaweiはHisiliconという自社の半導体企業を持っていて、HuaweiではQualcommとHisiliconの両方を使っている。

おそらく中国政府はHisiliconにチップセットの外販を促すだろうしHuaweiも市場が確実に見込めるだろうから外販すると思う。中国企業はIntelからも買わないだろうから、Mediatek、Hisilicon、Spreadtrumが販売を伸ばすだろう。Hisiliconは技術力も高く、Qualcommにと取って代わる企業になる可能性もある。

現在、中国ではGSM、WCDMA、TDS-CDMA、LTEの方式が動いているが、GSMとLTEだけ動けばおそらく中国全土で使えるだろう。そしてこれらの技術にはQualcommのノウハウはそれほど含まれていない。この流れは世界的に広がっていくだろう。

Qualcommに業績は今年の末あたりから受注が減りはじめ、来年は売り上げも大きく減っていくだろう。Qualcommは5Gのチップセット開発ではリードしているが、とてもこれらの減少を補うことができずにどんどん業績が悪化していくと思う。これはある程度業界に詳しい人なら誰でも考えることだろう。

トランプ政権はQualcommの買収を阻止しておいて、一方でQualcommが立ち行かなくなるような政策を行っている。このあたりが業界の流れを理解せずに目先の支持率だけを狙って動いている弱点だと思っている。

もう一つ、トランプ政権は自動車に関税をかけると言い出した。これは日本企業にも大きな影響が出る。日本政府として何か動くべきだと思う。鉄鋼とアルミに関してはヨーロッパは強く反発したのに、日本政府は「やめてくれ」とコメントを発表したにとどまったが、売上額が小さいのでまだ理解できる、しかし、今回もそれにとどまるなら安倍政権は「日米同盟を基軸とする」では無くて「単なる米国追従政策だ」とみなされても仕方がないだろう。


米中の貿易戦争をアメリカ人は支持している

2018-04-08 13:57:32 | 経済

3月下旬からトランプ大統領が仕掛けて米中貿易戦争の様相を示している。最初は鉄鋼とアルミに関税をかけるという話で、これは中国だけでなく世界中が対象となっていた。欧州は対抗措置を発表して反発し、適用除外となったが、日本はそのまま関税対象となっている。この関税は既に実施されている。さらにアメリカは中国が知的財産を侵害しているとして「1300項目の関税5000億ドル相当を検討する」と発表した。実施はまだ先である。これに対して中国は鉄鋼とアルミに対する対抗関税を発表し既に嫉視している。更に1300項目に対する対抗措置として106項目の関税(金額としては同額)を発表している。トランプ大統領はこれを受けて中国に対して「さらに1000億ドルの関税上積みを検討する」と発表しており、中国も対抗措置を発表している。第3ラウンドまで入ってきたのでこのままエスカレートして貿易戦争に突入するリスクがある、と株価は大幅に下がっている。

日本では識者が貿易戦争は「アメリカのためにもならない」と言っている意見が多く報じられているし、アメリカ国内でも、特に経済界はこの措置に反対であると報じられている。私自身もこれはアメリカのためにはならないし、中国と貿易戦争をしたら負けるのはアメリカだと思っている。その理由はアメリカよりも中国のほうがはるかに政府の権限が強く、様々な手を打てるとことである。

本当にアメリカ全体が反対なのかどうかは疑問だと思っている。こういう問題は利益を得る人と損失を被る人が居るので、当然賛成者と反対者の意見が分かれる。日本ではそのうち反対者の意見ばかりが報道されている印象である。これはカエサルの言葉にある「人は見たいものしか見ようとしない」という現象の表れで、日本のメディアのレベルの低さを示しているのではないだろうか。実際、トランプ大統領の支持率は3月下旬から下がるというより上がり気味だという。トランプ氏はアメリカのためを思うよりも支持率を上げるためにやっているのだから、支持率が上がるならもっと激しくやるだろう。実際に中国の反撃を受けて景気が悪化して初めて、反対の声が強くなるのだろうと思っている。それまでの間(おそらく半年ほど)にどこまでエスカレートするかが問題である。

日本政府にしても日本の経済界にしても「貿易戦争はアメリカのためにならない」というのは良いが、実際にトランプ大統領が日本の意見を聞くと思ってはいないだろう。その場合にアメリカが日本にとっては好ましくない行動に出る可能性は高く、その際どういう行動をとるのが良いかはよく考えておく必要があるだろう。日本もヨーロッパのように関税の対抗措置を行なえば、「日本はアメリカには逆らわない」と思っていたアメリカの政府関係者も驚くかもしれない。結果としてアメリカが矛を収めるのが早まるかもしれない。それが日本にとって良いやり方かどうかは自信は無いが、少なくとも「人は見たいものしか見ようとしない」という態度からは脱却してありのままの現実を見つめて対応策を練るべきだと思っている。